本ブログ「徒然雑草」の主コンテンツに映画レビューがありますが、ブログ内の検索性に難があるので、外部に「映画レビュー・インデックス」を構築することにしました。

で、体裁が大体整ったので、仮オープンすることにしました。

「徒然雑草」映画レビュー・インデックス
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2004年、「シュレック2」が世界中で記録的なヒットを続けている。同作は「ファインディング・ニモ」を抜き、北米アニメ史上第一位の興収を記録、全映画のカテゴリーでも北米興収歴代第三位を記録している。 
しかし、わたしは「シュレック2」の大ヒットの影響を真剣に憂慮している。なぜならわたしは「シュレック2」は大ヒットしてはいけない種類の映画だと考えているからである。
 
 
それでは「シュレック2」の最新の興収を見てみよう。

2004/11/10付 北米歴代興収ベストテン
第一位「タイタニック」$600,779,824
第二位「スター・ウォーズ」$460,935,665
第三位「シュレック2」$436,471,036
第四位「E.T.」$434,949,459
第五位「スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス」$431,065,444
第六位「スパイダーマン」$403,706,375
第七位「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」$377,019,252
第八位「スパイダーマン2」$373,247,668
第九位「パッション」$370,270,943
第十位「ジュラシック・パーク」$356,784,000
 
2004/11/10付 全世界歴代興収ベストテン
第一位「タイタニック」$1,835,300,000
第二位「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」$1,129,219,252
第三位「ハリー・ポッターと賢者の石」$968,600,000
第四位「スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス」$922,379,000
第五位「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」$921,600,000
第六位「ジュラシック・パーク」$919,700,000
第七位「ハリー・ポッターと秘密の部屋」$866,300,000
第八位「ファインディング・ニモ」$865,000,000
第九位「ロード・オブ・ザ・リング」$860,700,000
第十位「シュレック2」$849,571,036
 
 
1.「シュレック2」はオリジナル作品ではない。

先ず考えなければならないのは「シュレック2」という作品は、オリジナル作品ではなく、様々な童話や名画の有名なシークエンスを模倣する事を目的としたパロディ映画である。と言うことである。

勿論、所謂パロディ映画がヒットすること自体は全く問題ではない。寧ろ「シュレック2」のヒットは、従来日陰の存在であったパロディ映画というジャンルに新たな光を当てるという重要な意味を持っている、とも言える。

しかし、だ、モノには限度と言うものがある。
パロディ作品がネタにしているオリジナル作品以上にヒットするのは、いかがなものか、とわたしは思うのだ。

勿論「シュレック」シリーズには、「みにくいシュレック」と言うれっきとした原作絵本があるし、「シュレック」シリーズの基本プロット自体はオリジナルなのだが、「シュレック2」は、そのオリジナルなプロットを描く事より、多くの映画や童話のシーンを模倣する事に力を入れ、それを作品の特徴的コンセプトとしているのだ。

例えば「新サイコ」が「サイコ」や「鳥」以上のヒットを飛ばし、「スペースボール」が「スター・ウォーズ」を打ち負かし、「ホット・ショット」が「トップガン」を抜き、「ローデッド・ウェポン1」が「リーサル・ウェポン」や「ダーティ・ハリー」をぶち抜き、「カジノ・ロワイヤル」が本家「007」シリーズを凌駕しても良いのだろうか。
わたしは嫌だ。

わたしは、今まで日陰の存在で、2本立興行の2本目であったり、場末の劇場で細々と恥しげに公開されていたり、マニアックな映画ファンが人知れずニヤニヤと楽しんでいたパロディ映画が、白日の下堂々と公開され、一般の観客にも圧倒的に支持され、しかも興収第一位を更新し続けるのは、問題ではないか、と考えるのだ。

わたしはオリジナル作品がヒットするのを見たいのだ!

ハリウッドにおいてもリスクがあるオリジナル企画ではなく、二匹目の泥鰌を狙う続編やリメイク企画が頻発している。
ハリウッド・メジャー作品がオリジナル企画ではなく、ヒットし易い安易な企画ばかりになってしまう事をわたしは真剣に憂慮している。

これは日本映画界にも言えるのだ。テレビ番組の延長的な作品が次々とヒットしてしまう事にも憂慮してしまう。
リスキーだろうが、稚拙だろうがなんだろうが、スピリッツ溢れる素晴らしいオリジナル作品をわたしは観たいのだ!
 
 
2.「シュレック2」は私怨を具現化した作品である。

映画とその映画を取り巻く環境は別物である。
出演者がアルコール依存症だろうと犯罪者だろうと、製作者が思想的に偏っていようと、観客が俎上に乗せるのは映画そのものである。背景や環境がどうだろうと、映画の評価は変わってはならない。

しかし「シュレック2」を考える場合、マイケル・アイズナーとジェフリー・カッツェンバーグの関係がムクムクと頭を擡げてくる。

1980年台後半までジリ貧だったディズニー・アニメの凋落を救ったのは誰あろうカッツェンバーグだったのだ。
カッツェンバーグは「リトル・マーメイド(89)」「美女と野獣(91)」「アラジン(92)」「ライオン・キング(94)」と立て続けにヒットを飛ばし、ディズニー・アニメを救い、ディズニーの一時代を築いたのだ。
しかし現ディズニー会長アイズナーにクビにされてしまう。

転んでも只では起きないカッツェンバーグは、各メディアからのオファーを一蹴し、スティーヴン・スピルバーグとデビッド・ゲフィンに声をかけドリームワークスSKG(因みにSKGとは、スピルバーグ、カッツェンバーグ、ゲフィンのイニシャルである)を設立した。ドリームワークスSKGでは、実写部門はスピルバーグ、音楽部門はゲフィン、アニメ部門はカッツェンバーグが指揮を執っているのだ。

以来、ドリームワークスSKGのアニメ部門の責任者カッツェンバーグはディズニー打倒を目指しており、尽く反ディズニー的政策を取っているのだ。
そんなカッツェンバーグの指揮の下、「シュレック2」では、ディズニーをイメージさせるキャラクターをトコトンこけにし迫害しているのだ。

別に作品の裏の目的や製作者の意向が作品の表面に見え隠れするのは構わない。

しかし、だ、子供が楽しみにするような作品の根底に、怨みつらみが見え隠れして良いのだろうか。
そして、そんな作品がヒットして良いのだろうか。
そんな作品を見て子供たちが育って良いのだろうか。
わたしは嫌だ!

わたしは、夢と希望が溢れるディズニーのクラシック作品で子供たちが育って欲しいのだ!
 
 
そんな中、「シュレック2」の北米版DVDが「Mr.インクレディブル」北米公開日にあわせて2004/11/05に、国内版DVDは、Mr.インクレディブル」日本公開直前の2004/11/19にリリースされる。
因みに「シュレック」の北米版DVDは、「モンスターズ・インク」の北米公開日にリリースされた。

ご承知の通り、「Mr.インクレディブル」「モンスターズ・インク」はディズニー配給/ピクサー製作作品である。

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少なくても「シュレック2」が「ファインディング・ニモ」の興収を抜くのはマズイと思うぞ。

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2004/11/04 「Star Wars Episode III Revenge of the Sith(スター・ウォーズ エピソードIII シスの復讐)」の予告編が有料サイトで公開になった。

2004/11/05 「The Incredibles(Mr.インクレディブル)」上映館で「Star Wars Episode III Revenge of the Sith(スター・ウォーズ エピソードIII シスの復讐)」の予告編の上映が始まった。

2004/11/09 「Star Wars Episode III Revenge of the Sith(スター・ウォーズ エピソードIII シスの復讐)」の予告編が一般公開された。

2004/11/20 「ハウルの動く城」上映館で「Star Wars Episode III Revenge of the Sith(スター・ウォーズ エピソードIII シスの復讐)」の予告編の上映が始まる予定。

「ニヤニヤ笑いはやめろ!」
「何ゴロゴロ転がってんだよ!」
「跳ねるんじゃねーよ、ヨーダ!」
「ジャー・ジャーを何とかしろよ!」
「ミーって何だ!ミーって!!」
「狂ったのかジョージ・ルーカス!」
・・・・

なんだかんだ文句を言っても「スター・ウォーズ」に期待しちゃうボクってダメな人間です。

http://www.starwars.com/
2004/10/27 東京六本木
「VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ SCREEN 7」
「第17回東京国際映画祭」コンペティション
「風のファイター(韓国公開バージョン)」を観た。
 
 
本作「風のファイター(韓国公開バージョン)」は、極真空手の創始者、大山倍達を主人公とした韓国の同名ベストセラー劇画を原作とした韓国映画である。
大山倍達を主人公とした劇画と言えば、日本では「空手バカ一代」(梶原一騎原作、つのだじろう画)が有名なのだが、本作は「空手バカ一代」で一切語られていない、「大山倍達は朝鮮人だった」という点を真向から描いている。
因みに、大山倍達のオフィシャル・サイトでも、この点には触れていないし、本作「風のファイター」に関する情報も一切掲載されていない。

尤も「大山倍達は朝鮮人だった」事を描くのは、本作が韓国映画である以上、当然の事なのだが、必然的に本作は朝鮮人チェ・ベダル(大山倍達)が日本格闘界を席巻する様を描いており、大山倍達のことを当り前のように日本人だと思っている多くの日本人にとっては衝撃的な内容を含んだ作品であると言える。
また、物語の構成上必然的に、朝鮮人が日本の武道家たちをこてんぱんにやっつける姿を描いている本作は、韓国の日本に対する国民感情を代弁した作品だと捉える事も出来るし、国際問題にまで発展する危惧を内包した作品である、と解釈する事も可能なのだ。

日本では前述のように、30歳代以上の男性の多くは大山倍達は日本が世界に誇る英雄である、と当然の如く考えており、事実、上映後、監督のヤン・ユノ、キャストの加藤雅也を迎えて行われたティーチ・インでは、30歳代と思われる日本人男性が「大山倍達は日本では、日本人だと思われている点を知った上でこの作品を作ったのか?」という語意の質問を発し、ヤン・ユノの答え方次第によっては、本当に国際問題にもなりかねない空気が開場を包んでいた。
ヤン・ユノは、現在の韓国では「大山倍達は韓国の英雄だ」と言う人がいる反面「大山倍達は祖国を捨てた男だ」と言う人もいる、と答えつつ「大山倍達は両国の英雄であり、両国の架け橋である」的発言をしていた。
 
 
さて前置きが長かったが、本作「風のファイター」について考えてみよう。

キャストは、先ず主演のヤン・ドングン(チェ・ペダル/大山倍達)だが、一本筋が通りながらも謙虚で控え目な熱血青年チェ・ベダルを見事に演じている。朴訥でダサイ青年ペダルと、強くて格好良い青年ペダルが共存する役柄を好演しているのだ。
しかし、韓国の劇画を原作にしていると言っても、そのルックスはどう見ても、つのだじろうが描く「空手バカ一代」のイメージそのものである。何しろ添付した画像とヤン・ドングンのチェ・ペダルはそっくりなのだ。

また、ペダルのライバルで日本空手界の雄加藤を演じる加藤雅也は、非常に良い味を出している。ベダルが仮に「熱い炎」ならば加藤は「冷たい炎」、ペダルが「汚くてダサイ」ならば加藤は「美しく洗練されている」という感じの対比が素晴らしい。

一方ヒロイン平山あやは微妙である。頑張っているのだとは思うが、彼女が演じているはずの1940年頃の芸者さんには、少なくても見えなかった。まるで現代のお嬢さんなのだ。映画と言う魔法が効力を失う瞬間である。因みに、監督も平山あやへの演技指導には苦労したと語っていた。(なだめ、すかし、怒り、おだて・・・・)

期待のアクション・シーンは残念ながら、中途半端な印象を受けた。ペダルはご存知のように、日本中の著名な道場の教えを請う、所謂「道場破り」をするのだが、その「道場破り」シークエンスのアクション・シーンの尺が短く、フルコンタクトの打撃系バトル・シーンが次々と展開されるのを期待するわたしにとっては残念至極なのだ。
勿論後年極真空手となるフルコンタクトの一撃必殺打撃の描写は壮絶で、ある意味リアルと言えばリアルなのだが、アクション好きが求めるものではなかった。という事である。勿論、これは監督の狙いかも知れない・・・・。

また、「空手バカ一代」でおなじみの、山篭りの眉毛剃りや、決闘で人を殺してしまう話、牛殺し等が映像化されているのは好感が持てるし、道場を破りまくるところは前述のようにアクションはともかく、物語としての描き方は上手かった。
更に「道場破り」を行うペダルの謙虚な姿に好感が持てた。所謂「たのも〜!」的高圧的な「道場破り」ではなく、あくまでも「教えを請う」形の「道場破り」なのである。慇懃無礼でもないのだ。

そして、一番の見せ場である加藤とペダルの戦いは、緊張感溢れる良いものに仕上がっていたと思うのだが、やはり演出・編集的に若干ごまかしが入っているような印象も同時に受けた。

加藤の取巻きのの一人沖田(?)とペダルの戦いはアクション指数はともかく、壮絶で本作の一番の見せ場になっている。決闘の後ペダルが訪れる沖田邸でのシークエンスもペダルの人となりを語る上で素晴らしい印象を受けた。ロケ地は合掌造りが残されている合掌集落(岐阜?)フィルム・コミッションがクレジットされていた。

脚本は、加藤とペダルを宿命のライバルととらえ、宿命の対決にいたる過程と、ペダルと芸者(平山あや)や友人たちとの関係を絡めた構成になっており、一部、時代背景を大きなうねりとして描いてはいるのだが、如何せん舞台は日本、本作は韓国映画と言うこともあり、歴史的事件に翻弄される登場人物、といったところまでは描けてなかった。

とは言うものの、時代考証から美術については大変素晴らしく、気になる点が無いと言えば嘘になるが、韓国人が構築した1940年頃の日本の情景には驚かされてしまう。美術は素晴らしい仕事をしている。
また、姫路城等多くの史跡できちんとロケを行っているし、クレジットを見る限りは、いくつかのフィルム・コミッション、多くの極真系道場の協力を得ているようで、その辺の日本映画より、よっぽど日本が描けているのではないかと思う。
ところで、極真道場の協力を得ているという事は、極真サイドとして、大山倍達は朝鮮人だったと認めているのだろうか。謎なのだ。

余談だが山田洋次の「隠し剣 鬼の爪」もいくつかのフィルム・コミッションの協力を得てロケが行われており、上映後のティーチ・インにもフィルム・コミッション関係者が客席におり、映画を誘致するサイドからの質問が出ていた。

さて本作「風のファイター」は、「空手バカ一代」好きには、いろいろな意味で是非観ていただきたい作品であるし、韓国が考える日本の姿を見る上でも十分意義のある作品に仕上がっていると思うのだ。

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余談だが、当日は監督:ヤン・ユノ、キャスト:ヤン・ドングン、加藤雅也を迎えてのティーチ・インの予定だったのだが、来年兵役を控えているヤン・ドングンに対するビザの発給に時間がかかり、ヤン・ドングンの来日が遅れたと言うことであった。

最近、韓国俳優の兵役逃れ問題もクローズ・アップされているが、日本と韓国は地理的には非常に近いが実際は遠い国だと思わされた。日本へは韓国の様々な文化や情報が紹介されているが、兵役予定者に対するビザ発給の問題に接し、われわれの知らない韓国の一面を垣間見たような印象を受けた。

「爆裂都市」

2004年11月7日 映画
2004/11/01 東京九段下「サイエンスホール」で「爆裂都市」の完成披露試写を観た。
舞台挨拶は、しらたひさこ。ゲストは高山善廣。
 
 
香港国際空港で行政長官狙撃事件が勃発。激しい銃撃戦の末、容疑者の女(しらたひさこ)が逮捕されるが逃走の際、頭にキズを負い記憶を失ってしまう。
取調べによりその女はジェイドという名前を持ち「オトウサン」と呼ばれる男(千葉真一)が率いる国際テロ組織の一員ということが判明。香港警察のチョン管理官(サイモン・ヤム)と担当刑事ミン(アレックス・フォン)は、彼女を囮に組織の壊滅を計画する。
しかし、そんな計画をあざ笑うかのように国際テロ組織は先手を打ち、ミンの妻を殺害。さらに息子を人質にしてジェイドを殺すように命令するのだった。息子の命を守るため、警察とテロリストに追われることになったミン。ジェイドを連れて逃避行を続けるなか、香港全土を巻き込んだ恐るべきテロ計画が実行されようとしていた。(ちらしよりほぼ引用)
 
 
監督:サム・レオン
出演:サイモン・ヤム、アレックス・フォカ、千葉真一、しらたひさこ、エドウィン・シュウ、サミュエル・パン、クリスタル・クォック、ラム・シュー
 
 
パブリシティ用のスチール写真等を見ると、「インファナル・アフェア」に続く、おじさん達が大活躍する陰謀渦巻く香港ノワール的ポリス・アクション映画を期待してしまう。
しかし、日本が資本を出しているせいなのか、日本人キャストやスタッフが多いせいなのか、サム・レオンの演出がいけないのか、千葉真一の間が長いのか、映画全体を通して考えると、残念ながら退屈な作品の印象を否めない。何だが日本の2時間ドラマを見ているような気がするのだ。

キャストについては、サイモン・ヤムにしてもアレックス・フォンにしろ、緊迫感溢れる素晴らしい仕事をしているし、格好良い大人を見せてくれているのだが、肝心の千葉真一が登場するシークエンスでは、千葉真一の間が、著しく物語のテンポを落としている。千葉真一の、まるでナレーションのような演技はまずいだろう。と思う訳だ。

また、ヒロインとして抜擢された、しらたひさこについては、アクションにしろ演技にしろ頑張っているのだと思うのだが、日本語のシーンは自分で声を出しているのだが、あとは吹替というステイルには、驚かされた。何しろ「おとうさん」と言うイントネーションが異なっているのだ。
勿論、香港映画は伝統的に吹替が一般的なのだが、その伝統を垣間見たような印象を受けた。

脚本的には、「ブラインド・ホランズン」にしろ「ボーン・アイデンティティー」にしろ、最近良く聞くプロットなのだが、記憶を無くした登場人物が失われた記憶を探りつつ、悪事を暴いたりするものなのだが、本作「爆裂都市」のしらたひさこは、残念ながら都合が良い記憶ばかりを思い出す印象を受け、都合の良い脚本に思えてしまう。

しかし、かつての香港映画に通じるような、シーン毎の脈絡は無いのだが、シーンだけを見るとおもしろい、というスタイルもおもしろいのかも知れないし、千葉真一の間がある演技については、一般映画として考えると問題だと思うが、お笑い的には充分だし、都合の良い脚本も含めて考えると、もしかしたら「映画秘宝」系の楽しみに満ちた作品だと言えるかも知れない。クエンティン・タランティーノの「キル・ビル」あたりを大喜びで観ている観客には、本作「爆裂都市」はオオウケの作品なのかもしれない。

また、千葉真一(おとうさん)が、組織する国際テロ組織の設定も無理が多く、その辺も「映画秘宝」的には突っ込み所が満載で、楽しい映画に仕上がっているのかも知れないのだ。
ついでに、カーチェイスのシークエンスでは、地面にカーチェイスを練習した跡が残っているしね。

本作「爆裂都市」は、全ての観客にオススメ出来る作品ではないが、「映画秘宝」系の人、かつての「香港ノワール」系作品が好きな人には結構オススメの作品だと言えるのだ。

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舞台挨拶は、しらたひさこに高山善廣に、モデルガンのメーカー「東京マルイ」の担当者を含めた銃器談義や銃器の構え方のレクチャー等があり、映画を観る楽しみが増えたような気がした。

現在日本のドラマや映画のほとんどが「東京マルイ」製のモデルガンが使用されている、ということでした。
かつての香港ノワール作品も日本のモデルガンが使用されていたのも有名な話ですね。
先週同様、劇場公開時期に合わせて過去のレビューを紹介する
週刊「映画レビュー・インデックス」(仮称)
を継続してみます。

また先週同様、最新の国内興収ベストテン(国内興行成績)作品のレビュー・インデックスもつけてみることにしました。
更に先週同様、今後継続的するかどうかは未定です。
 
 
2004/10/23公開作品
「シークレット・ウインドウ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040904.html
「ブラインド・ホライズン」
http://diarynote.jp/d/29346/20041102.html
 
2004/10/30公開作品
「隠し剣 鬼の爪」
http://diarynote.jp/d/29346/20041024.html
「ターンレフト ターンライト」
http://diarynote.jp/d/29346/20040829.html
「ソウ」
http://diarynote.jp/d/29346/20041105.html

2004/11/06公開作品
「オールド・ボーイ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040902.html
「TUBE チューブ」
http://diarynote.jp/d/29346/20041104.html
 
 
2004/10/30-31 興収ベストテン
1.「コラテラル」(UIP)
2.「いま、会いにゆきます」(東宝)
3.「隠し剣 鬼の爪」(松竹)
http://diarynote.jp/d/29346/20041024.html
4.「シークレット・ウインドウ」(ソニー)
http://diarynote.jp/d/29346/20040904.html
5.「笑の大学」(東宝)
6.「2046」(ブエナビスタ)
7.「アイ,ロボット」(FOX)
http://diarynote.jp/d/29346/20040906.html
8.「スウィングガールズ」(東宝)
http://diarynote.jp/d/29346/20040805.html
9.「スクービー・ドゥー2 モンスター パニック」(ワーナー)
http://diarynote.jp/d/29346/20041010.html
10.「ソウ」(アスミック・エース)
http://diarynote.jp/d/29346/20041105.html

「ソウ」

2004年11月5日 映画
2004/11/04 東京六本木
「ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズ スクリーン7」で「ソウ」を観た。

目覚めたら老朽化したバスルーム
足首には鋼鉄の鎖
対角線上にもう一人の男
間には自殺死体・・・・
このノコギリは何に使うのか?
(「ソウ」キャッチコピーより引用)
 
 
興味があるなら、今すぐ劇場に走れ!
それが「ソウ」を楽しむ最善の手なのだ!
 
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本作「ソウ」は、2人の若者が20日足らずで撮り上げた、低予算サスペンス映画である。
しかしながら本作は、いくら低予算映画だと言っても、クオリティは一般のハリウッド作品と比較して全くと言って良いほど遜色が無い。
構築された世界観(美術)も素晴らしく、演出(演技)も順当で的確。従来のワン・アイデア、ワン・シチュエーションから生まれた低予算映画とは格段の差を感じる程の素晴らしい作品に仕上がっている。

とは言うものの気になる点が無い訳ではなく、例えば、低予算のせいかどうかはわからないが、屋外のシーンがほとんど無く、室内やセットからカメラが出ないのが気になった。勿論これは、観客の閉塞感を煽る戦略的な手法かも知れないのだが。
あとは早回しの多用が気になった。勿論限られたシークエンスに限定されているのだが、これについてわたしは否定的なスタンスを取らせていただく。

そして、言うまでも無いことなのだが、脚本がよく練られている。その伏線の数々がいろいろな事実を指し示す構成なのだが、それらの伏線も指し示す先の事実も的確で、観ていて楽しい作品に仕上がっている。
また、心憎くも微笑ましいミス・デレクションの数々をも楽しめる作品にも仕上がっているのが嬉しい。
ホラー的、スプラッタ的な描写もそれほど酷いものではないので、是非多くの方に観ていただきたい作品だと思う。

一般的に「CUBE」ミート「SE7EN」と言われているようだが、勿論本作の内容からそう言っているのだと思うし、プロット的には「CUBE」や「SE7EN」のコンセプトを借用してい感は否めないのだが、わたし的には「テープ」あたりも仲間に入れて欲しいような気がした。

また本作の話題性も十分で、「全米中止バージョン」と「全米公開バージョン」という二つのバージョンがある、と言うだけで、ドキドキワクワクしてしまうような観客もたくさんいると思うし、「全米中止バージョン」を観たい!と考える観客も多いだろう。

因みに、この「全米中止バージョン」は、日本国内では「第20回東京国際ファンタスティック映画祭」のオールナイト企画で1回だけ上映されたのも記憶に新しい。
余談だが、わたしは翌日の「Zガンダム」当日券に並ぶ為、「ソウ」を断念した口である。

とにかく、何度も言うようだが本作「ソウ」は、今すぐ劇場に走れ!的な作品である事は間違いない。
「ソウ」に関心があるのなら、出来るだけ早めに観ることを強くオススメするのだ。

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ところで、本作のアイデアを聞いた際、思い出したのは、フレドリック・ブラウンの短編小説「闘技場」である。
関心がある方は是非読んでいただきたいと思う。
(「スポンサーから一言」に収録 創元SF文庫/東京創元社 ISBN: 4488605044)

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ところで、世の中には、結末に何某の「サプライズ」を含んだ映画がある。例えば古くは「サイコ」や「猿の惑星」から「クライング・ゲーム」や「シックス・センス」をはじめとするM・ナイト・シャマランの作品等々、枚挙に遑が無い。

そして、その「サプライズ」に至るひとつのプロットを一般的に「オチ」と呼び、その「オチ」を晒す事をわれわれは象徴的に「ネタバレ」と呼んでいる。

1992年に公開された「クライング・ゲーム」と言うイギリス映画は、一連のM・ナイト・シャマラン作品のように「結末(秘密)を他の人に言わないで下さい」というお願いがあった訳ではないのだが、批評家もレビューにその「秘密」を書かず、全ての観客も口を閉ざし、その「秘密」を語る者はいなかったのである。
そう、批評家を含む全ての観客は「クライング・ゲーム」の「秘密」を自分の「秘密」であるかのように扱ったのである。

世の中には全ての観客に愛される「幸せな映画」もあるのだ。
まだまだ人間も捨てたものではない、と思う瞬間だ。

願わくば「ソウ」もそんな「幸せな映画」の一本になっていただきたい、と思う次第なのだ。
2004/10/15 東京新宿「新宿ミラノ座」

「東京国際ファンタスティック映画祭2004」のオールナイト企画『激突!! 亜細亜颱風 韓流VS.タイ道』で「TUBE チューブ」を観た。
 
舞台挨拶は、ヒロインを演じたベ・ドゥナ。
 
 
韓国金浦国際空港で、政府要人が何者かに襲撃された。ソウル警察チャン刑事(キム・ソックン)も現場に急行、犯行グループのうち1名を確保するが、首謀者を含む犯行グループの逃亡を許してしまう。

犯行グループの首謀者、元国家機密諜報員のギテク(パク・サンミン)は、国家機密諜報機関の解散により政府から追われる存在になってしまう。更には家族を皆殺しにされ、国家に対するただならぬ復讐心に燃えていたのだった。
また、かつて政府要人護衛の任務の際、チャンは恋人をギテクに殺され、チャン自身も左手小指を切断されてしまう、という因縁の関係であった。

そんな中、ギテクが地下鉄駅に現れた、という情報を受けたチャンは、その地下鉄駅に急行する。
その情報をもたらしたのは、地下鉄を縄張りとしてスリを行う少女インギョン(ベ・ドゥナ)だった。彼女は以前チャンからスリとった捜査資料から、チャンがギテクを追っている事を知ったのである。

ギテク、チャン、インギョン等を乗せた地下鉄が動き出した・・・・。
 
 
脚本や演出の細かい齟齬や問題点には目をつぶる。
何故インギョンがヴァイオリンのケースを背負っているのかも気にしない。チャンとインギョンがどういった経緯で知り合ったのかも気にしない。

何しろ本作「TUBE チューブ」は、そんな事はどうでも良くなるような、この秋最高に燃える、娯楽アクション大作の一本なのだから。
何が凄いって、あぁた、アクションもドラマも最高だし、何より燃える男たちの熱いドラマ満載なんだよ!

先ずはオープニング・アクションに度肝を抜かれる。
そのオープニング・アクションは、何と金浦国際空港を本当に閉鎖して行われたものなのだ!

一言で閉鎖と言っても、あぁた、舞台は韓国の空の玄関、金浦国際空港だぞ、その国際空港を完全に閉鎖し、壮絶な銃撃戦を行った上に、正門から車両がドカドカとガラスドアを突き破って平然と突っ込んで来るんだよ。映画は国策だと言い切る韓国だとは言え、いくら何でもあれはやりすぎです。と言うか羨ましすぎ。例えば羽田や成田、関空であんな派手な銃撃戦が出来るか?と言う事なのだ。ボクはそんな韓国映画界が大好きだ!

そして、本作「TUBE チューブ」の最高のドラマを見せてくれるのは、チャン刑事やギテクでもなく、地下鉄統制室室長(ソン・ビョンホ)率いる地下鉄統制官たちなのだ。
自分たちに与えられた地下鉄統制と言う、全ての乗客の安全を守る職務を全うする男たちが最高に格好良いのだ。
特に地下鉄統制室室長(ソン・ビョンホ)は最高だ!

そう、本作「TUBE チューブ」は、爆弾が仕掛けられた地下鉄車両内でのチャン刑事とギテクをはじめとした乗客たちと犯行グループとの行き詰るアクション・ドラマと、乗っ取られた地下鉄を他の車両と事故を起こさず如何にして無事に運行させるか、と言う地下鉄統制室内の静かだが熱いアクション・ドラマが楽しめる構造を持った作品に仕上がっているのだ。

キャストは何と言っても地下鉄統制室室長を演じたソン・ビョンホだ。
ギテク等に乗っ取られ、速度を限界まで上げた地下鉄と、通常ダイヤで運行している地下鉄の全てを無事に運行させる使命感に燃える室長が率いる地下鉄統制室が熱いのだ。ただのサラリーマン達が燃える姿は「プロジェクトX」もビックリなのだ。

一方女スリ師インギョンを演じたベ・ドゥナはとってもキュートなのだ。地下鉄発車のシークエンスまでは、インギョンとチャン刑事(キム・ソックン)のロマンチック・コメディ的な印象すら受けるし、ラスト近辺では悲恋モノになってしまっている。
今後が楽しみな女優さんなのだ。

またギテク(パク・サンミン)とチャン刑事(キム・ソックン)だが、彼等の地下鉄内のバトルは若干常軌を逸している感はあるものの、その点に目をつぶれば二人のバトルは強烈な印象を観客に与えている、と言えるだろうし、チャン刑事のある意味あきらめの悪さが素晴らしい。
また脚本上悪役となるギテクも実は単純な悪人ではなく、政府の犠牲となった被害者であり、悪の権化は他にいるところが、ギテクのキャラクターに深みを与えている。
ただのテロリストではない訳だ。

少なくても本作は、多くの人にオススメ出来る娯楽アクション大作であり、韓国映画の娯楽嗜好を証明するひとつの顕著な例として機能する作品である、と言えるのだ。

=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=**=*=*=*=*=*=*=*=**=*=
舞台挨拶はヒロインのベ・ドゥナ。
韓国の女優さんは綺麗で可愛い方が方が非常に多いのだが、今回のベ・ドゥナも強烈に可愛いのだ。

ところで、例のインギョンのヴァイオリン・ケースについてだが、本編では述べられていないが、インギョンの父親がこさえた多額の借金を娘であるインギョンがスリをして稼いでいると言う設定があり、そのヴァイオリンのケースにスリとったお金を貯めている、と言う事でした。
もしかしたら、父の形見のヴァイオリン・ケースだったかも。
2004/11/02 東京新橋「ヤクルトホール」で「パニッシャー」の試写を観た。

法の目をかいくぐり、裏社会をも支配する資産家ハワード・セイント(ジョン・トラボルタ)。ある夜、溺愛する息子ボビー(ジェームズ・カルピネロ)が、密輸取引現場でFBIによって射殺された。怒り狂うセイントは妻リヴィア(ローラ・ハリング)と共に復讐を誓う。やがて、ボビーを死に至らしめた一人の男が浮かび上がる。
それはFBI潜入捜査官フランク・キャッスル(トム・ジェーン)だった。
今回のミッションを最後に潜入捜査官を引退したキャッスルは、親族を父(ロイ・シャイダー)の住居に集めパーティを楽しんでいた。
そこをセイント一味が襲撃、家族は皆殺しにされてしまう。奇跡的に命を取り留めたキャッスルは、セイントを法律で罰せないと悟り、自らの手で制裁を下す決意を固めるのだった・・・・。
(オフィシャル・サイト/チラシよりほぼ引用)

先ずは、本作「パニッシャー」がマーベル・コミックスを原作とした映画化作品であることを忘れていただきたい。

そう考えた場合、本作は素晴らしく正しい見事な復讐劇という姿をわれわれに見せてくれる。
勿論、わたし的には何点か気になる点はあるものの、本作は最早クラシックの風格を持つ、復讐劇の見本とも言える素晴らしい作品に仕上がっているのだ。
例えば「ジャッカルの日」が暗殺モノの教科書として活用されていると言うならば、本作「パニッシャー」は復讐モノの教科書として活用されるべき作品なのかも知れない。

そして本作「パニッシャー」は何も足さなくても、何も引かなくても復讐劇の王道的傑作に仕上がっているのだ。何しろ復讐劇の王道的なプロットを、復讐劇の文法を見事に利用し、素晴らしくも正しい復讐劇の傑作として映画化されている訳だ。

キャストは何と言ってもロイ・シャイダーだ。
ロイ・シャイダーはフランク・キャッスル(トム・ジェーン)の父親役を演じている。物語上、父親の背景は語られていないが、舞台背景や住居の様子、銃器がディスプレイされているリビング・ルーム等を考えると、どこか海の近くの警察署長を勤めていた人物のような、または麻薬組織を追い詰めていたような、映画的記憶が蘇ってくる。そんなロイ・シャイダーの使い方が素晴らしく正しいのだ。

また、ハワード・セイント(ジョン・トラボルタ)の親友で腹心、ゲイでサディストのクエンティン・グラスを演じたウィル・パットンも素晴らしい。トラボルタの親友でクエンティンと言う名前のサディスティックなゲイの役柄を登場させている点も何とも素晴らしいし、ウィル・パットン自身も強烈な印象を観客に与えている。

また、復讐鬼に化した後のフランク・キャッスル(トム・ジェーン)の隣人を演じたベン・フォスター(デイブ)、ジョン・ピネット(バンポ)、レベッカ・ローミン=ステイモス(ジョアン)のトリオも良かった。ジョアンが登場し、ジョアンとフランクの関係に一抹の不安を感じたが、わたしの心配は杞憂であった。
わかっているじゃないか!ジョナサン・ヘイズリー!!

また全身を筋肉の鎧で包んだ暗殺者ザ・ロシアンを演じたケヴィン・ナッシュも強烈である。そんなザ・ロシアンとフランク・キャッスルのバトルはもしかすると映画史に残る(嘘)バトルではないかと思うのだ。どうだろう、MTVのベスト・バトル賞あたりは取れないだろうか。
ロバート・ショウとショーン・コネリーのバトルにも匹敵する素晴らしいバトルだと思う。

さて、フランク・キャッスルを演じたトム・ジェーン(トーマス・ジェーン)は何と言っても格好良い。寡黙で無言実行なリアルな存在感を持って好演している。拳銃の弾はバシバシ当たるし、ボコボコ殴られるあたりもリアルでよろしいのだ。
その格好良さは、ブルース・キャンベルとかカート・ラッセルとか、メル・ギブソンとかの格好良い時代の格好良さに通ずるのだ。

さて、ハワード・セイントを演じたジョン・トラボルタだが、これまた良い感じである。「パルプ・フィクション」のビンセントが成り上がった後、つまりビンセントの将来のような印象をも受ける役柄なのである。
そんなセイントの親友クエンティン(ウィル・パットン)や、妻リヴィア・セイント(ローラ・ハリング)に対する仕打ちが素晴らしい。
わかっているじゃないか!ジョナサン・ヘイズリー!!

監督のジョナサン・ヘイズリーは本作画監督第一作なのだが、脚本家上がりの監督らしく脚本がツボを押さえて素晴らしく、復讐劇の文法を突っ走る素晴らしいものを感じる。
演出も順当で、アクション・シークエンスも手に汗握る素晴らしい出来である。

おそらく、こんな作品をこんなに褒める人はわたし位ではないかと思うが、本作「パニッシャー」は、本当に正しいアクション復讐劇なのだ。もう本当に復讐劇の王道を突っ走っているのだ。

これがマーベル・コミックス原作でなければ、と、オリジナル作品だったら、と思う次第なのだ。

ちなみにこの秋公開される「マイ・ボディガード」もある意味復讐劇なのだが、爽快感から言うと本作「パニッシャー」の方が数段上である。とは言うものの「マイ・ボディガード」も素晴らしい作品である。2本並べて是非観て欲しいと思うのだ。

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余談だが、本作「パニッシャー」の東京のメイン劇場は「ニュー東宝シネマ」なのである。
わかっているじゃないか!東宝!!
そんな感じのスピリッツ溢れる傑作なのだ!!
2004/10/18 東京九段下「九段会館大ホール」で「ブラインド・ホライズン」の試写を観た。

メキシコ国境近くの砂漠。
ひとりの男(ヴァル・キルマー)が頭を撃たれて倒れているのが発見される。病院に運ばれたその男は意識を取り戻すが、完全に記憶を失っていた。
そこへ、男の婚約者クローイと名乗る女性(ネーヴ・キャンベル)が現われ、彼は国税庁に勤務するフランクだと告げる。

そんな中、かすかな記憶の断片が徐々にフランクの脳裏に甦り、彼はやがてその記憶の断片が、この町を舞台とした大統領暗殺計画の存在を指し示していることに気付いていく。

しかし、こんな小さな町に大統領が立ち寄る計画などなく、町の保安官ジャック(サム・シェパード)はフランクの妄想と一蹴、まるで取り合おうとしなかったのだが・・・・。

監督:マイケル・ハウスマン
出演:ヴァル・キルマー、ネーヴ・キャンベル、サム・シェパード、フェイ・ダナウェイ、ノーブル・ウィリンガム、エイミー・スマート、ギル・ベロウズ、ジャンカルロ・エスポジート、レオ・フィッツパトリック
 
 
本作「ブラインド・ホライズン」は、記憶を失った主人公が、実はなんらかの事件に絡んでいた。と言うロバート・ラドラムの小説「暗殺者」(映画「ボーン・アイデンティティー」)等を代表とする、比較的ありがちなプロットに、アメリカいや世界中にとっての大きな悲劇であり、そして政府の関与と言う大きな疑惑にも満ちているジョン・F・ケネディ大統領の暗殺事件を絡めたサスペンス作品に仕上がっている。

そしてそのサスペンス要素を高めているのは、勿論ヴァル・キルマーが演じる謎の男が、果たして「大統領を暗殺する側」だったのかそれとも「大統領暗殺を阻止する側」だったのか、そして彼は一体どうするのか、という点である。

さらに興味深いのは、ケネディ大統領暗殺事件に符合する様々な事象が、伏線なのか、暗喩なのか、ミス・デレクションなのかわからないまま着々と物語が進む点だろう。これは、実際にダラスで起きた大統領暗殺事件に対する観客の記憶を利用し、逆手に取る巧妙なプロットだと言える。

また映画的記憶と言えばデヴィッド・クローネンバーグの傑作「デッドゾーン」のラストをも髣髴とさせるのではないだろうか。

さてキャストは、何と言ってもサム・シェパードの起用だろう。
「ライト・スタッフ」で演じた実在の空軍パイロット、チャック・イェーガーをも髣髴とさせる、渋くて存在感のある保安官を好演している。抑えた演技ではあるが、下手をするとその存在感だけで、主演のヴァル・キルマーを食ってしまう勢いを感じる。

また往年の大女優フェイ・ダナウェイの起用も、役柄については説明できないが、映画に格を与えることに成功している。

また最近、従来の方向性からの脱却を図り、大人の女優として頭角を現しつつあるネーヴ・キャンベルは、今後のキャリアを考えると前作「バレエ・カンパニー」を含め、ひとつの転機を迎えていると思える。今後に期待の女優さんなのだ。

さて、主演のヴァル・キルマーだが、わたし的には彼の今までのキャリアをみると「個性が無い俳優」のような気がするのだ。しかしそれは逆説的に言うと「個性を無くせる俳優」「役柄に見事に入り込んでしまう俳優」「誰にでもなれる俳優」と言う印象を個人的に受けている。
例えば「ドアーズ」では、ジム・モリソンその人になってしまっているし、「バットマン・フォーエヴァー」では変な言い方だが、マイケル・キートンになってしまっている。
そして彼ヴァル・キルマーは、本作「ブラインド・ホライズン」において「記憶を喪失してしまった男」つまり「中身が無い男」を見事に演じている訳だ。

例えば前述の「ボーン・アイデンティティー」の中で記憶を失った男を演じたマット・デイモンは、「本当は全部知ってるくせに、知らん振りしてるんじゃねえの」という疑念のような印象を受けたのだが、本作のヴァル・キルマーからは「本当に何も知らないんじゃねえの」という印象を多くの観客は受けたのではないだろうか。

ところで、スタッフは監督にしろ脚本にしろ撮影にしろ残念ながら知らない人ばかりである。
強いて言えば脚本の一人ポール・ベンツが「ドアーズ」や「JFK」の編集助手をやっていたところが、本作のコンセプトやプロットを考え上で非常に興味深い。なるほど、と言った感じである。
 
 
結果的には、本作「ブラインド・ホライズン」は、観なければならない作品ではないし、多くの人にオススメできる作品でもない。勿論秀作ではあるが決して傑作ではないし、おそらく客はそんなに入らないだろう。

わたし的には、劇場で年間50本以上の映画を観るような人以外は、わざわざ劇場まで足を運ぶ必要が無い作品なのではないかと思う。
例えるならば、本作「ブラインド・ホライズン」は二本立て興行の二本目の作品で、一本目のキャッチーなビッグ・ネームの作品をたまたま観に行ったら、一本目は大した事無かったけど、二本目は結構面白かったね。という感じの作品なのだと思う。

とは言うものの、例によって毎年どんどん公開されている、その辺の娯楽大作なんかと比較すると、全然面白いんだけどね。
さて、早速ですが2004年の目標の中間発表その10です。

とりあえず目標の再確認を・・・・

目標第一弾 「映画を300本観るぞ!!」(DVD等含む)
目標第二弾 「本を100冊読むぞ!!」
 
 
1.映画

#088 「インファナル・アフェア 無間序曲」ワーナーマイカルシネマズ板橋 2004/10/01
#089 「モーターサイクル・ダイアリーズ」日本ヘラルド映画試写室 2004/10/04
#090 「スクービー・ドゥー2 モンスターパニック」ヤマハホール 2004/10/10
#091 「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス デジタルリマスター版」東京厚生年金会館 2004/10/12
#092 「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス デジタルリマスター版」新宿ミラノ座 2004/10/14
#093 「TUBE -チューブ-」新宿ミラノ座 2004/10/15
#094 「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」新宿ミラノ座 2004/10/15
#095 「ガルーダ」新宿ミラノ座 2004/10/15
#096 「リザレクション」新宿ミラノ座 2004/10/15
#097 「鉄人28号 インターナショナル・ヴァージョン」新宿ミラノ座 2004/10/16
#098 「機動戦士Zガンダム 星を継ぐ者」新宿ミラノ座 2004/10/17
#099 「ブラインド・ホライズン」千代田区公会堂 2004/10/18
#100 「隠し剣 鬼の爪」VTC 六本木シネマズ スクリーン7 2004/10/23
#101 「海猫」VTC 六本木シネマズ スクリーン7 2004/10/24
#102 「ライフ・イズ・コメディ!」VTC 六本木シネマズ スクリーン7 2004/10/24
#103 「カガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」VTC 六本木シネマズ スクリーン6 2004/10/25
#104 「青春愛人事件」VTC 六本木シネマズ スクリーン2 2004/10/27
#105 「風のファイター(韓国公開バージョン)」VTC 六本木シネマズ スクリーン7 2004/10/27
#106 「恋文日和」九段会館大ホール 2004/10/28
 
 
2.DVD、CATV等

#150 「本陣殺人事件」CATV 2004/10/09
#151 「燃えよドラゴン」DVD 2004/10/09
#152 「復活の日」CATV 2004/10/09
#153 「わが愛北海道(短篇)」CATV 2004/10/09
#154 「とられてたまるか!?」CATV 2004/10/09
#155 「獄門島」CATV 2004/10/09
#156 「ぼくんち」HDD 2004/10/10
#157 「タキシード」HDD 2004/10/10
#158 「キル・ビル」DVD 2004/10/11
#159 「テープ」HDD 2004/10/12
#160 「スーパーマン」DVD 2004/10/13
#161 「トレインスポッティング」HDD 2004/10/19
#162 「クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王」HDD 2004/10/20
#163 「クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険」HDD 2004/10/20
#164 「悪魔の手毬唄」CATV 2004/10/26
#165 「X−MEN2」HDD 2004/10/27
#166 「アバウト・シュミット」CATV 2004/10/29
 
  
3.読書

#029 「電子の星/池袋ウエストゲートパークIV」石田衣良著 文藝春秋 2004/10/05
#030 「イニシエーション・ラブ」乾くるみ著 原書房 2004/10/06
#031 「男の作法」池波正太郎著 新潮文庫 2004/10/12
#032 「イニシエーション・ラブ」乾くるみ著 原書房 2004/10/19
#033 「人間の条件(上)」森村誠一著 幻冬舎文庫 2004/10/27
#034 「人間の条件(下)」森村誠一著 幻冬舎文庫 2004/10/30
 
  
映画は、劇場19本(累計106本)、DVD等17本(累計166本)で、計36本(累計272本)。
このままのペースで、年間326本(劇場127本)です。

読書は6冊(累計34冊)で、このままのペースでは、年間41冊です。

映画は余裕が出てきましたが、読書の状況は最悪です。
先が見えてきましたが、頑張ります。

※ 参考 昨年同時期の状況
映画 253本(劇場65本)
読書 48冊
当「徒然雑草」の主要コンテンツに映画レビューがありますが、ここのBLOG自体の検索性が悪く、自分でもいつどの映画についてのレビューを書いたのか定かではありません。

また、わたしは映画を試写等により劇場公開前に観る事が比較的多く、その場合必然的に劇場公開前にレビューを公開してしまう事があるため、レビュー時期と劇場公開時期がずれてしまうことがあります。
そんな場合、現在劇場公開中の作品のレビューを探すのが面倒である、という趣旨のお叱りを受ける事すらあります。

そこで、その作品の劇場公開時期に合わせて過去のレビューを紹介することを目的として、週刊「映画レビュー・インデックス」(仮称)を試験的に作成してみることにしました。

さらに、最新の国内興収ベストテン(国内興行成績)作品のレビュー・インデックスもつけてみることにしました。
今回は初めての試みですので、少しばかり過去に遡った構成となっています。今後継続的に作成していくかどうかは未定です。
 
 
2004/10/01公開
「ヘルボーイ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040922.html

2004/10/02公開作品
「オーバードライヴ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040927.html

2004/10/09公開作品
「デビルマン」
http://diarynote.jp/d/29346/20040905.html
「モーターサイクル・ダイアリーズ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040930.html
「モーターサイクル・ダイアリーズ」その2
http://diarynote.jp/d/29346/20041004.html

2004/10/16公開作品
「スクービー・ドゥー2 モンスター パニック」
http://diarynote.jp/d/29346/20041010.html
 
2004/10/23公開作品
「シークレット・ウインドウ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040904.html
「ブラインド・ホライズン」
http://diarynote.jp/d/29346/20041102.html
 
2004/10/30公開作品
「隠し剣 鬼の爪」
http://diarynote.jp/d/29346/20041024.html
「ターンレフト ターンライト」
http://diarynote.jp/d/29346/20040829.html
「ソウ」
http://diarynote.jp/d/29346/20041105.html
 
 
2004/10/23-24 興収ベストテン
1.「シークレット・ウインドウ(ソニー)」
http://diarynote.jp/d/29346/20040904.html
2.「2046(ブエナビスタ)」
3.「アイ,ロボット(FOX)」
http://diarynote.jp/d/29346/20040906.html
4.「感染/予言(東宝)」
5.「スウィングガールズ(東宝)」
http://diarynote.jp/d/29346/20040805.html
6.「スクービー・ドゥー2 モンスター パニック(ワーナー)」
http://diarynote.jp/d/29346/20041010.html
7.「デビルマン(東映)」
http://diarynote.jp/d/29346/20040905.html
8.「バイオハザード II アポカリプス(SPE)」
http://diarynote.jp/d/29346/20040823.html
9.「エクソシスト ビギニング(ギャガ=ヒューマックス)」
10.「ナイトメア・ビフォア・クリスマス<デジタル・リマスター版>(ブエナビスタ)」
http://diarynote.jp/d/29346/20041012.html
2000年1月頃の話だったと記憶しているが、2000年3月末で「2001年宇宙の旅」のMGM(Metro-Goldwyn-Mayer)における権利が切れ、4月1日からはワーナー・ブラザース映画(Warner Bros.)が同作品の権利を継承する、という情報に接し、多くのスタンリー・キューブリック ファンや「2001年宇宙の旅」ファンが、眠れない夜をおくっていた。

と言うのも、わたし達は「2001年宇宙の旅」冒頭のMGMのクレジット(ロゴ)がどうなるのかを心配していたのである。

※クレジット
わたしは寡聞にして正式な名称は知らないのだが、映画の冒頭に挿入される「配給会社」や「製作会社」のタイトル・カードの事を、ここでは単にクレジットと仮称することにする。 

MGMのクレジットは皆さんご存知のように「オメガ(Ω)の文字のような形のリボン越しにライオンが吼える」ものだが、「2001年宇宙の旅」に挿入されているMGMのクレジットは、「吼えるライオンを極端に図案化したロゴマーク状のもの」なのだ。

※余談だが、MGM作品「トム&ジェリー(短編)」のオープニングで、トム(TOM)が「O」から顔を出してニャーニャー啼いているのは、MGMのクレジットへのセルフ・オマージュである。

その「2001年宇宙の旅」の冒頭に挿入されている、芸術的とも言える、その美しいMGMのロゴマーマが、権利がMGMからワーナーに移ることにより、もしかしたら外されてしまうのではないか、と、わたし達は心配していたのだ。

しかし、わたし達の心配は杞憂に過ぎなかった。

わたしの記憶によると、東京では2000年の秋と大晦日に2度「渋谷パンテオン」でワーナー配給版「2001年宇宙の旅」が企画上映されたが、MGMのロゴマークは健在で、そのバージョンでは、G指定の表記や、前奏、休憩、後奏付きの完全な上映(勿論シネラマではないが)であった。

そして、現在観る事が出来る「2001年宇宙の旅<新世紀特別版>」のプリントには、配給会社ワーナーのクレジットがついたものの、MGMのロゴマークは従来どおり、本編の冒頭に鎮座ましましているのだ。

偉いぞ!ワーナー!!
ぼくらはそんなワーナーが大好きだ!!
 
 
ところで、最近わたしは(旧)角川春樹事務所が制作した、ある角川映画をCATVで観る機会があった。

驚いた事に、その作品の冒頭には配給会社や製作会社のクレジットが一切表示されていなかったのである。
つまり、その作品はいきなり本編から始まっていたのである。

おいおい、手塚治虫の「火の鳥」に似た、角川春樹事務所の「鳳凰」はどこまで飛んで行っちまったんだよ!

案の定わたしは激怒した。

わたしは最近続々とリリースされている角川映画のDVDのクレジットがどうなっているのかは知らない。
しかし、全ての角川映画作品から角川春樹事務所のクレジットが抹消されているのだとしたら、これは大問題である。
 
 
角川春樹が何をしたとか、角川書店の社長を解任されたとか、角川春樹と上手くいっていないとか、そんな事は関係ない。

おまえたちがやっている事は、映画への冒涜であり改竄であり、芸術作品の破壊そのものなのだ。

ちょっと質問コーナーだか、お前たちは、

レオナルド・ダ・ヴィンチが犯罪者だったからといって「モナリザ」を切り刻むことができるのか?

ベートーヴェンが役員を解任させられたからといって『交響曲第五番「運命」』の最初のあのモチーフを割愛することができるのか?

ミケランジェロと上手くいかないからといって「ダビデ像」を破壊することができるのか?
 
おまえたちのやっていることは、そういうことなのだ。
 
  
映画というものは、だ、配給会社や製作会社のクレジットを含めてはじめて映画であり、決して本編だけが映画ではないのだ。

例えば、だ、

20世紀FOXのファンファーレが無い「スター・ウォーズ」など最早「スター・ウォーズ」ではないのだ。
コロムビア映画のクレジットがなければ「チャーリーズ・エンジェル」のジェット機は一体どこを飛べば良いのだ。
「シザーハンズ」の20世紀FOXのクレジットがなかったら、一体オレはどこで泣けば良いんだよ。
 
 
確かに、弱小販売会社から出ている国内版DVDには、配給会社や製作会社のクレジットが削除され本編からスタートしている作品はある。

しかしだ。
日本映画界の一時代を築き、現在の日本映画の基盤を作った角川春樹事務所の功績をなかったことにするとは何事だ!
大人の事情があることはわかるが、それにしてもやっていることが酷すぎる。

先人が成し遂げた偉業をなかった事にするとは、同じ映画人として恥ずかしくないのか?

しかもだ。
東京国際映画祭のゼネラルプロデューサーを務めている人物が、それをやっている企業のトップに就任しているとは、一体どういうことなのだ!

一映画ファンとして、悲しくて悲しくて涙が出ちゃうぜ!

=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
きたないことばをつかってごめんなさい。

もしかしたら「鳳凰」は角川書店のクレジットだったかも知れません。

現在発売中の角川映画のDVDの冒頭の制作会社・配給会社のクレジットの有無の情報等をお教えいただければ幸いです。
 
 
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2004/10/25 東京六本木「VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ SCREEN 6」
「第17回東京国際映画祭」
アジアの風/鳴動フィリピン−最新フィリピン映画フォーカス−
「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」を観た。
 
 
突然変異した蜘蛛を偶然飲み込んでしまったジュニー(ヴォン・ナヴァロ)は、スパイダーマンの能力を持つガガンボーイに変身する。高所とゴキブリが怖く不器用な彼は果敢に善行を積もうとするが、悲惨な結果が伴うため、ヒーローというより厄介者として人から見られていた。

一方、誤って突然変異したゴキブリを口にしたドドイ(ジェイ・マナロ)は、臭くて醜い人間ゴキブリに変身してしまう。イピスマンと名乗り、地元のドンになるという歪んだ夢を実現させようとするドドイの前にその野望を砕こうとするガガンボーイがいた。
(「第17回東京国際映画祭」公式プログラムよりほぼ引用)

監督:エリック・マッティ
出演:ヴォン・ナヴァロ(ジュニー/ガガンボーイ)、ジェン・マナロ(ドドイ/イピスマン)、オーブリー・マイルズ(リアニ)
 
 
特撮はヘボイし、イピスマン(ゴキブリおとこ)の造形は旧「仮面ライダー」の怪人を髣髴とさせる。物語の基本プロットはどう見ても「スパイダーマン」シリーズのそれである。

しかし、これが抜群に面白いのだ。
 
 
物語の方向性とそぐわないのだが、堅いアプローチを試みよう。

1.化学物質に汚染された生物の経口摂取

そもそも化学物質等の汚染が原因で、人間が超能力を得たり、生物が巨大化したり怪人化してしまう作品の例は枚挙に遑がない。例えば「ゴジラ」がそうであったり「悪魔の毒々モンスター」、「ミュータント・タートルズ」あたりもそうだろう。

しかし、本作では、化学物質で汚染された生物を経口摂取し怪人に変身してしまう、という点が興味深い。
従来の作品群では、生物が直接化学物質に汚染し突然変異を起こすケースがほとんどだが、本作では汚染し突然変異してしまった生物を経口摂取し、人体が怪人化してしまうのである。

つまり、従来は化学物質等により人体が直接汚染される事に対する恐怖を暗喩していたのだが、本作は、化学物質等で汚染された食物を摂取することにより、人体が間接的に汚染されてしまう恐怖を暗喩しているのだ。

添加物や環境ホルモン、狂牛病等、現代食生活を危惧するタイムリーでリアリティのある題材だと言えよう。
 
2.ご近所のヒーロー 

また、本作の最大の特徴は、カガンボーイは、極々狭い地域のヒーローとして、言うならばご近所の平和を守るヒーローとして機能している点である。

ガガンボーイの意識には、世界や国を守るという大きな大義はほとんど上らない。
彼の意識には、勿論地域の平和を守る事は考えているのだが、ご近所のマドンナであるリアニ(オーブリー・マイルズ)に好かれたい、既に亡い両親の墓前で自分が元気で頑張っている事を報告したい、という意識に支配されている。

更に、ガガンボーイとイピスマンの確執は、自転車付き屋台でアイスクリーム売りをしていた頃のライバル関係や、ご近所のマドンナであるリアニを巡る三角関係のもつれに端を発しており、この作品は、リアニを取り合うためにクモおとことゴキブリおとこが戦う、という構図を持っているのだ。

3.ヒーローによる破壊工作

また、近所の諸悪を懲らしめる際、近所の塀や家をあまりあるパワーで壊してしまうガガンボーイは、近所の皆さんに怒られ、小言を言われ、ヒーローの癖に厄介者扱いを受けてしまう。
そして彼は、結局は自ら大工仕事をして家や塀を修理してしまう点も目新しい。

従来のヒーローは、怪人を倒した後の後片付けや、破壊した街並みに対する責任を一切放棄しているが、本作は、一般のヒーローを描いた作品が曖昧にしているその辺の問題点も、明確に対処している訳である。
 
4.成功の理由
 
本作「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」の成功の原因は、練りあげられた脚本を真っ当に直球勝負で演出したコメディである。という点だろう。
スタッフにしろキャストにしろ、コメディ作品に対し、真摯な態度で臨んでいる様子がひしひしと感じられる。
観客を楽しませたい、と言う熱い思いが、全てのカットに表われているの訳だ。

5.キャスト

先ず、ヴォン・ナヴァロ(ジュニー/ガガンボーイ)だが、はっきり言って非常に魅力的である。
素直で朴訥、シャイで一途、それでいて一本筋が通ったキャラクターを見事に演じている。何しろ表情が素晴らしい。そしてコミカルな動きや、タメのある動き、そこそこ見れるアクションも相まって素晴らしい印象を受けた。

敵役のジェン・マナロ(ドドイ/イピスマン)は、田舎の不良的な役柄を見事に演じている。
まあステレオタイプと言われればそれまでなのだが、わたしたち観客の期待を裏切らない田舎の不良像を見事に演じている。

ご近所のマドンナで、三角関係の頂点を演じたオーブリー・マイルズ(リアニ)だが、当初はジュニーの気持ちを知ってか知らずか、なんとなく嫌な女に見えたのだが、だんだんと魅力的に見えてくるから不思議である。
素敵でかわいい女優さんである。

ガガンボーイのコスチュームを制作するグロリン洋品店のグロリンを演じた女優(名前わかりません)に強烈な印象を受けた。完全にコメディ・リリーフの役回りで、日本で言うと久本雅美のような感じでした。ルックスから来る印象も久本雅美にそっくりでした。

また、区の長官(?)を演じた俳優(名前わかりません)も言い味を出していた。日本で言うと「トリック」の生瀬勝久のような感じでした。
彼のセリフで「日本にはボルテスVとコンバトラーV、アメリカにはキャプテン・アメリカ、韓国にはF4、そしてフィリピンにはガガンボーイがいる」(詳細は失念)と言うセリフが爆笑を呼んでいた。

6.脚本・演出

冒頭、アイスクリーム屋台のシーンで人間関係と、キャラクターの性格をあっと言う間に観客に理解させる手腕は見事。

続くコミック・ブック風のクレジットにより、クモとゴキブリが化学物質に汚染されてしまうあたりを見せるのが素晴らしい。

非常に細かい演出がされているのが、非常に効果的であり、好感が持てる。

特撮シーンになると、画質が落ちる感が否めないが、ご愛嬌という事で、よしとする。

7.まとめ

全ての観客にオススメできる訳ではありませんが、もし機会があるのなら是非観ていただきたい作品です。
香港、韓国、タイときてこんどはフィリピン映画が面白い。
頑張れ!日本映画なのだ。

=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
本来ならば、本作「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」は「東京国際ファンタスティック映画祭」で公開すべき作品だと思うし、その方がファンにとっては嬉しかったのではないかと思う。
事実「東京ファンタ」の現プログラミング・ディレクター大場渉太は東宝(だったと思うが/もしかしたら東映だったかも)に対し、何度と無く交渉したらしいのだが東宝はうんと言わず、結果的に「東京ファンタ」ではなく「東京国際映画祭」へ出品したらしい。

あと「東京国際映画祭」と言うアジア最大級の映画イベントに、何箇所もフィルムが切れ、ゴミや疵だらけのボロボロのプリントで参加するのは、いろいろ事情があるのだろうか、大きな驚きだった。
小松沢陽一と言う名の男がいる。
「泣きの小松沢」と呼ばれた「東京国際ファンタスティック映画祭」を創設したプロデューサーである。
 
 
1950年 小松沢陽一は岩手県一関市の映画館の息子として生まれる。そんな彼の部屋にある小窓を開けると、そこは夢と希望が生まれる場所、映画館だった訳だ。映画館でかかる映画全てを見尽くした彼は1971年、単身フランスへ渡り、留学先のパリ第7大学で「パリ日本映画クラブ」を主宰する。彼は大学在学中の4年間で、約300本の日本映画をフランスに紹介した。その活動の中、彼はフランス映画人と知り合い、後年の映画祭プロデューサーとしての活動の先鞭を付ける事になる。

その後しばらくの間は、キネマ旬報社の特派員としてフランスで活動。ルネ・クレマン、ジャック・ドゥミ等、多数のフランス映画人と親交を結び、 取材に出かけた「アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭」の魅力に取りつかれ、1985年「東京国際ファンタスティック映画祭」を創設することになる。
その映画祭は、本年記念すべき20周年を迎えた。

1987年には「サンダンス映画祭 in TOKYO」を手がけ、1990年からは「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のプロデューサーに就任する。

また、1995年には韓国の「富川国際ファンタスティック映画祭」の創設にアドバイザーとして協力した。
 
 
「東京国際ファンタスティック映画祭」と言えば、もちろん世界中から新しい映画の流れを日本をはじめとして世界に発信する映画祭であり、若く才能豊かな映像作家を発掘する映画祭であった。

そして、ホラーやスプラッタが市民権を得たのも、香港ノワールや初期のワイヤー・アクション、マサラ・ムービーや韓国映画、そしてタイ映画を日本を通じて世界に紹介したのも「東京ファンタ」なのである。

そして、ピーター・ジャクソンにしろ、ジョージ・A・ロメロにしろダリオ・アルジェントにしろ、ジョン・カーペンターにしろ、ツイ・ハークにしろ、デビッド・クローネンバーグにしろ、ブライアン・デ・パルマにしろ、サム・ライミにしろ、アレハンドロ・ホドロフスキーにしろ、ロイド・カウフマンにしろ、トビー・フーパーにしろ、雨宮慶太にしろ、スチュアート・ゴードンにしろ彼等の新作は今はなき「渋谷パンテオン」の大スクリーンを経て来たのだ。

そして「東京ファンタ」と言えば、二人の愛すべき映画莫迦、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」を立ち上げた故中田鉄治前夕張市長であり、「泣きの小松沢」こと小松沢陽一なのである。
 
 
そんな愛すべき映画莫迦小松沢陽一は「東京ファンタ」のオープニングにしろクロージングにしろ、スピーチの度に感極まって泣く事がいつしか定番になっていた。

そして小松沢が泣くその姿は「東京ファンタ」ファンの中では有名で、オープニングのステージ上に綺羅星のように並ぶ世界中の映画人を前にして行われる「東京ファンタ」プロデューサー小松沢陽一の開会宣言のスピーチが始まるや否や「泣け〜!」と言う野次が客席各方面から飛ぶ訳だ。
 
 
そんな「泣きの小松沢」こと小松沢陽一が涙を見せる理由は明白である。
映画への限りない愛がそうさせるのである。

「東京国際ファンタスティック映画祭」が開催できることに、儲かりもしない映画祭に多くのスポンサーがついてくれたことに、「渋谷パンテオン」が映画祭の会場として借りられたことに、チケットを奪い合うように買ってくれる「東京ファンタ」ファンがいることに、世界中から「東京ファンタ」ファンが会場に駆けつけてくれたことに、ギャラも出ないような映画祭に手弁当で世界中の映画人が駆けつけてくれることに、世界中から素晴らしい作品たちが「東京ファンタ」に出品してもらえることに、そしてそんな素晴らしい作品たちが「渋谷パンテオン」の大スクリーンを跳ね回ることに・・・・。

ぼくらはそんな「泣きの小松沢」の姿を見るのが好きだった。
ひとりの愛すべき映画莫迦の、全ての映画に対する限りない愛が具現化された涙を見るのが好きだった。
ぼくらは彼の涙を通じて、世界中の全ての映画を愛していたのである。
 
 
そして、今年の「東京ファンタ」のステージ上でもかつての「東京ファンタ」を髣髴とさせる瞬間が何度かあった。

例えばそれは、「鉄人28号」の視覚効果を担当した松本肇が語るジョン・カーペンターの「ゴースト・ハンターズ」の思い出であったり、「東京ファンタ」のスクリーンに自作が上映されることを夢見ていたタイの映画監督モントン・アラヤンクンのスピーチであったり、それらのスピーチに触れ、かつての「東京ファンタ」の熱い心が蘇り、思わず絶句してしまう現プログラミング・ディレクター大場渉太であった訳だ。

かつての「東京ファンタ」は熱く、単純で、泣き虫な映画祭だった。
ゲストも観客もスタッフも、スクリーン上で繰り広げられる出来事に、登場人物の一挙手一頭足に反応し、笑い、泣き、そして怒ったのだ。

素晴らしいカットやセリフ、素晴らしい動きや特撮、そして音楽、そんなものがスクリーンに投影されるやいなや、素直に、当たり前のように、笑いが、怒りが、涙が、そして拍手が巻き起こったのである。その瞬間、会場はひとつの生き物であるかのようだった。

現在の「東京ファンタ」では、なんだか拍手をすることが目的のような拍手が巻き起こっている。しかも拍手を受けるクレジットは会場に駆けつけ、舞台挨拶を行った人々だけになのである。

ぼくらは、素直に映画を愛するが故の拍手が発生するのが心地よく、幸せだった訳である。
 
 
2004年、20周年を迎えた「東京国際ファンタスティック映画祭」のステージには「泣きの小松沢」小松沢陽一の姿はなかった。
今年の「東京ファンタ」のクレジットにはこうある。

SPECIAL THANKS 小松沢陽一

と。

「東京ファンタ」を立ち上げ、育てあげてきた小松沢陽一に対して、SPECIAL THANKS とは、なんとも悲しいクレジットである。
 
 
ぼくらが愛した「東京ファンタ」はもうここにはない。
 
 
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
小松沢陽一の主な受賞歴
1989年、ローマ国際映画祭「特別栄誉賞」
1992年、アヴォリアッツ国際映画祭「20周年記念特別功労賞」
1995年、日本映画・テレビプロデューサー協会「エランドール特別賞」

※小松沢陽一がなぜ「東京ファンタ」のプロデューサーを退いたのかは、わたしは寡聞にして知らない。おそらく大人の事情があったのだろうと思うし、もしかしたら政治的な理由があったのかも知れない。その辺の事情についてご存知の方がいらしたら、ご連絡をいただければ幸いです。

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「海猫」

2004年10月25日 映画
 2004/10/24 東京六本木「VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ SCREEN 7」
 「第17回東京国際映画祭」特別招待作品「海猫」を観た。
 舞台挨拶は、監督の森田芳光、出演の伊東美咲、三田佳子。
 
 
 東京の大学に通う野田美輝(ミムラ)は、フィアンセの高山修介(鳥羽潤)から、亡き母、野田薫(伊東美咲)をなじられ、一方的に婚約解消を告げられた。美輝はショックのあまり言葉が出なくなり、故郷の函館の病院に入院する。
 心配する妹の美哉(蒼井優)にも美輝は婚約解消のいきさつを明かさなかったが、見舞いに訪れた祖母の野田タミ(三田佳子)に意を決し筆談で訊ねる。
「お母さんに、何があったの」「本当のことを教えて。お願い」
 美輝の必死の表情に、初めてタミは、20年前、薫の身に起こった出来事について語り始めた。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
 
 
 本作「海猫」は、伊東美咲の第一回主演作品であると共に、既に代表作と言える格を持った作品に仕上がっている。
 不謹慎な発言だが、仮に伊東美咲が亡くなった後、彼女の代表作として確実に名が上がる作品に本作は仕上がっている、と言えよう。

 尤も、昨今の娯楽作品を好む観客にとって、本作の脚本や演出、編集のリズムは、もしかすると退屈なものなのかも知れないし、本来このような作品では、一般的に物語の背景として、時代の大きなうねり(激動の時代背景)が描かれるものなのだが、本作「海猫」はそれを描かず、野田薫というひとりの女性の生涯にスポットを当て、野田タミ、野田薫、野田美輝という三代の野田家の女性たちの生き様を大河ドラマ仕立てではあるが淡々と描いている。

 そして、映画女優伊東美咲を考えた場合、本作「海猫」を第一回主演作品とする上で幸運だったのは、今や話題作を続々と発表する森田芳光がメガホンを取った事、そして脇を固める豪華な俳優陣の存在、そして伊東美咲が演じる野田薫に集中的にフォーカスをあてた脚本、更には北海道函館近辺の方言によるセリフ回しが野田薫の性格とマッチし上手く機能している点などがあげられる。

 また本作の伊東美咲からは、その儚げで刹那的な美貌と、物語の冒頭でもう既に亡くなってしまっている野田薫の生涯を振り返る形式の物語構成のため、かつての名女優夏目雅子の生涯を振り返っているかのような誤った映画的記憶を刺激される作品にも思えた。

 キャストはなんと言っても伊東美咲である。各メディアを通じて話題になっている濡れ場の体当りの演技もさることながら、スタッフとキャスト全てが一丸となって、伊東美咲のために尽くしているのが感じられるし、北海道函館地方のつっけんどんで朴訥、下手をすると棒読み的なセリフ回しが彼女の演技を救っているのかも知れないが、性格的には主体性に乏しい女性を見事に演じきっている。
 特に、佐藤浩市演じる赤木邦一との出会いの後、駐車場で交わす会話のシークエンスの所在無さげな印象が素晴らしい。
 また美輝の出産シーンをはじめとして様々なシークエンスでの微妙な表情は見事である。
 そして薫の生涯をフラッシュ・バックで見せられた日にゃあ、その激動の人生に感涙モノなのだ。

 薫の夫、赤木邦一を演じた佐藤浩市も素晴らしい。
 北海道南茅部町の閉鎖された漁村の中で、地元住民として馴れ合いながら生きていくしか術を持たない単純な男を好演している。

 また邦一の弟で薫に憧れる赤木広次を演じた中村トオルも良い。泥沼にはまり、逃れられなくなっていく姿が美しくも悲しい。広次はキリスト教的背景を持ったキャラクターであり、マリアのメタファー薫を崇拝する役柄を演じている。
 この辺りが、函館を舞台に選んだ所以なのかもしれない。

 因みに、この三人は「LOVERS」の三人と印象が被るかもしれない。

 薫の母タミを演じた三田佳子は物語の語り部として機能し、本作を描く上で必要不可欠な重鎮としての格と安心感を醸し出している。この映画を制作する上で、最も重要なキャラクターのひとりである。この重要なキャラクターを三田佳子が演じる、と言う事は、この映画にとって非常に幸運な出来事だったと思う。

 物語の発端を作る薫の長女美輝を演じたミムラと、その妹美哉を演じた蒼井優は、最近ドラマや映画に出ずっぱりだが、役は小さいながら、印象に残る演技を見せてくれている。

 また薫の姑で、邦一と広次の母赤木みさ子を演じた白石加代子も素晴らしい。優しい姑から怖い姑までを見事に演じ、三田佳子同様、映画に格と安心感を付与している。

 薫の弟野田孝志を演じた深水元基はダメな男を好演しているし、小島聖演じる啓子は過去の映画的記憶を髣髴とさせ男を惑わす女性を好演している。

 このように、本作「海猫」は、所謂演技派の俳優(女優)陣が顔を揃えた演技合戦も楽しめる素敵な作品なのである。

 撮影(石川稔)は、若干カメラがガクガクしている感があるが、叙情的で寒々しい北海道の街並みを見事に切り取っている。またロケーション効果が高く良い仕事をしていると思うのだが、よくわからないカメラの動きが何度かあった。
 特に崖から海を眺めるシーンにおけるカメラの行ったり来たりするドーリー移動の趣旨が良くわからなかった。

 編集の田中愼二は、最近の森田作品は全て担当しており、最近の森田芳光のリズムは彼が作っている訳だ。
 わたし的には濡れ場の見せ方が非常に上手いと思った。いろいろ問題があったのだろうと思うのだが、非常に官能的なカット割がされている。
 またシーン変わりのつなぎのカットによる街並みの見せ方からの導入は、森田芳光の8mm映画や初期の商業映画の雰囲気が出ていたような気がした。

 脚本(筒井ともみ)は、前述のように本来このような大河ドラマ的な作品は、大きな時代のうねりに翻弄される登場人物を描くのが順当なのだが、本作では大きなうねりを描かず、語弊があるが、大河ドラマにしては登場人物の周りだけを描いた小さな物話になっている。
 その小さなドラマを楽しめるかどうかが、観客の評価の分岐点になるのではないかと思う。

 本作「海猫」は、伊東美咲の濡れ場等々で話題の作品であるが、決してそれだけでは無く、俳優陣の重厚なドラマが楽しめる真摯で良心的な作品に仕上がっている。
 娯楽大作を好む観客にはもしかしたら退屈な映画かも知れないが、現代のミューズ伊東美咲を楽しむ以外にも、実りがある作品に仕上がっている。是非観ていただきたい日本映画の一本なのだ。
2004/10/23 東京六本木「VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ SCREEN 7」
 「第17回東京国際映画祭」特別招待作品 オープニング・スクリーニング 「隠し剣 鬼の爪」を観た。

 「東京国際映画祭」のレッド・カーペット、そしてオープニング・セレモニーのあとに行われた舞台挨拶は、山田洋次、永瀬正敏、松たか子、光本幸子、小澤征悦、司会は襟川クロ。
 
 
時は幕末。
 東北の小藩である海坂藩の平侍、片桐宗蔵(永瀬正敏)は、母吟(倍賞千恵子)の生前に奉公に来ていた百姓の娘きえ(松たか子)と、3年ぶりに町で偶然再会する。宗蔵は、伊勢屋という大きな油問屋に嫁いで幸せに暮らしているとばかり思っていたきえの、痩せて寂しげな姿に胸を痛める。

 それから数ヵ月後、きえが病で伏せっていると友人島田左門(吉岡秀隆)に嫁いだ妹志乃(田畑智子)に聞いた宗蔵は伊勢屋に乗り込み、強引にきえを連れ帰る。

 平侍である宗蔵の貧しい暮らしが、回復したきえの笑顔で明るい毎日に戻った時、藩を揺るがす大事件が起きる。海坂藩江戸屋敷で謀反が発覚したのだ。

 首謀者の一人である狭間弥市郎(小澤征悦)と宗蔵は、かつて藩の剣術指南役だった戸田寛斎(田中泯)の門下生だった。戸田はなぜか、一番腕の立つ弥市郎ではなく、宗蔵に秘剣『鬼の爪』を伝授していた。まもなく弥市郎は脱走、宗蔵は家老堀将監(緒形拳)から弥市郎を斬るように命じられるのだが・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:山田洋次
原作:藤沢周平
音楽:冨田勲

出演:永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、田畑智子、高島礼子、光本幸子、田中邦衛、倍賞千恵子、田中泯、小林稔侍、緒形拳
 
 
 本作「隠し剣 鬼の爪」は、米アカデミー賞ノミネート作品「たそがれ清兵衛」に続く、山田洋次監督×藤沢周平原作の第二弾であり、多くの人々にオススメできる素敵な人情時代劇に仕上がっている。
 また本作「隠し剣 鬼の爪」は、ハリウッド製時代劇「ラスト サムライ」に対するアンチテーゼとして機能する、反骨精神溢れる意欲的な作品とも言えるだろう。
 そして本作が「ラスト サムライ」に対するアンチテーゼとして機能していると言うことは、「ラスト サムライ」を手放しで評価する『サムライの遺伝子を持った日本人』(実際のところ、大多数の日本人は農民の遺伝子を持つのだが)に対する批判的精神が根底に見え隠れしているような気がする。

 趣向を削ぐので詳細解説は割愛するが、本作「隠し剣 鬼の爪」は「ラスト サムライ」とは、時には同様の、時には正反対のベクトルを持つ作品なのである。

 この辺りは、狭間弥市郎(小澤征悦)に対する片桐宗蔵(永瀬正敏)の最後のセリフ、松田洋治の役柄、そして戸田寛斎(田中泯)の生き様、家老堀将監(緒形拳)の描き方、そしてなんと言っても片桐宗蔵(永瀬正敏)ときえ(松たか子)の行く末がそれを如実に物語っている。
 勿論、舞台挨拶の中でも、監督である山田洋次が間接的にではあるが、この作品の背景とテーマを語っていた。
 
 さて脚本だが、本作は、従来の山田洋次作品に比較的あるようなのだが、シーン同士の関連性が薄いような印象を受けた。
 それぞれのシーン毎の脚本の完成度は高いものの、映画全体として考えた場合、そのシーンが全体に絡んでこない、と言う印象なのだ。
 これは、本作が藤沢周平の「隠し剣 鬼ノ爪」と「雪明かり」と言う二作品を原作としている点がひとつの原因と考えられる訳なのだが、それにしてもシーン間の脚本の乖離が感じられ、下手をすると提示された伏線らしきものが回収されていない、と言うような印象を与えてしまう感が否めない。

 これは例えば、きえの姑を演じた光本幸子が1シーンのみの登場で、他のシークエンスには全く絡まないような点に顕著だと言える。

 勿論、これは「男はつらいよ」の初代マドンナを演じた光本幸子としてのカメオと捉える事もできる。
 そうした場合、従来のフジテレビ系作品に多く見られる、物語の進行を止め、観客を夢の世界から現実世界に引き戻す力を行使する、不必要なカメオと比較すると、大変素晴らしいカメオに仕上がっている。
 このように、演技派俳優(女優)が物語の中できちんと機能する役柄を演じるカメオは大歓迎なのだ。
 
 しかし、だとしても光本幸子には他のシーンでも物語に絡んで欲しいと思うのだ。
 
 ところで、キャストについては、全てのキャストが与えられた役柄を見事にこなしている。
 これは、衣裳や美術、セットやロケの醸し出す世界観、そして細かいところまで手が届く演出と相まって、非常にリアリティのあるキャラクターの醸成と世界観の創出に成功している。

 どのキャストがどうこう、と言う事ではなく全てのキャストが素晴らしいのである。
 
 本作は「侍と言っても、刀を手入れする時以外は滅多に刀を抜かない」というコンセプトにそっており、一般の痛快時代劇と比較して殺陣がおとなしく、所謂チャンバラファンにとっては満足がいく作品ではないと思う。
 が、その辺にも山田洋次の確固とした考えが色濃く出ているような気がする。

 とにかく、映画に対して真摯に向かった、映画の良心とも言える作品であり、出来る事ならば、多くの観客に観ていただきたい作品だと思う訳だ。

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 舞台挨拶及び上映は、レッド・カーペットの時点で既にスケジュールがおしていたのだが、オープニング・セレモニー中に起きた新潟中越地震のため、エレベータが故障し、司会の襟川クロ等が、40F付近で45分ほどエレベータの閉じ込められ、60分ほど遅れた状況で始まった。

 因みに「VIRSIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ」では大きな揺れが3度ほど感じられた。
 大きな揺れは、角川歴彦映画祭ゼネラルプロデューサーによる開会宣言の際と小泉純一郎内閣総理大臣の祝辞の際に感じられた。
 最初の揺れは、わたしは席を後ろからガンガン思いっきり蹴られているのかと思う位の揺れで、わたしの頭上にぶら下がっていた照明が大いに揺れ、不安と恐怖を醸し出していた。
 驚いたのは、角川歴彦映画祭ゼネラルプロデューサーだが、もしかしたら極度の緊張のせいかも知れないが、全く地震に動じていなかったようである。
 小泉純一郎内閣総理大臣は、本来は「隠し剣 鬼の爪」の鑑賞を予定したいたらしいのだが、オープニング・セレモニー中に足早に開場を後にした。

 舞台挨拶は開催が遅れ、司会の襟川クロが45分ほどエレベータの閉じ込められた直後だったこともあり、極度の緊張のためか司会の不手際があったが、永瀬正敏の地震を、映画祭の開催を地球もこのように喜んでいる、と言うような発言(※)や、小澤征悦等の同時通訳をネタにしたウィットにとんだ舞台挨拶が楽しめた。

※ この時点では、新潟中越地震の情報は皆無であり、仮に情報が発信されていたとしても、会場内でその情報を入手できない情報であったことを申し添えさせていただきます。
 被災地の方々には、つつしんでお見舞いを申し上げます。

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 お祭と言うものは楽しいものである。
 チケットを押さえたり、鑑賞スケジュールをあれこれ考えるだけでも楽しいのだ。

 と言う訳で、本日10月23日(土)より「第17回東京国際映画祭」がはじまった。

 先日、チケット争奪戦のお話をさせていただいたが、今回は今のところの鑑賞予定作品をお知らせしようかな、と思う次第なのだ。
 
 
10月23日(土)
 特別招待作品 オープニング・スクリーニング
 「隠し剣 鬼の爪」

10月24日(日)
 特別招待作品
 「海猫」

特別招待作品
 「ライフ・イズ・コメディ!」

10月25日(月)
 アジアの風
 「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」

10月27日(水)
 アジアの風
 「青春愛人事件」

コンペティション
 「風のファイター」
 
 
 あとはもしかすると、1〜2本位増えるかもしれないが、それにしても来週30日〜31日が旅行なのがとても痛いのだ。
2004/10/15 東京新宿「新宿ミラノ座」
 「東京国際ファンタスティック映画祭2004」のオールナイト企画『激突!! 亜細亜颱風 韓流VS.タイ道』で上映されたタイ映画「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」を観た。

 
 アクション危険度・極限値!もはやノー・ワイヤー&ノー・CGは当たり前!「マッハ!」のアクション監督が、「マッハ!」を超える極限の危険に挑む。

 麻薬密売組織の首領を逮捕したものの、その最中、同僚刑事を失った刑事ダン・チューポン(ディアウ)は、自らを責め意気消沈していた。
 それを見かねたダンの妹は、自分たちと一緒に国境付近の小さな村を訪問しないかと誘いかける。

 それは、タイを代表するムエタイ、サッカー、体操、ラグビー、テコンドー、ボクシング、セパタクローのナショナルチャンピオン達が小さな村々をスポーツ慰問するボランティア活動だった。

 スポーツ用品や、衣類、食料、オモチャ等様々な物資を村人たちに配るスポーツ慰問団。
 しかし突然、村に武装軍団が現れ、多くの村人たちを射殺しつつ、あっと言う間に村を占拠してしまう。
 武装軍団は村全体を人質として、タイ政府に麻薬密売組織首領の解放を要求する。

 武装軍団に捕らえられた刑事とナショナルチャンピオン達は、村の奪還のために立ち上がるが・・・・。
 
 
 本作「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」は、WEBで予告編が公開されるや否や、各方面で話題沸騰の超絶アクション映画である。
 事実、わたしも予告編を見て驚いた口で、「東京国際ファンタスティック映画祭」で本作が上映される事を知り、即効チケットゲットに走った次第である。

  
 本作の制作の背景は「マッハ!」につながり、「マッハ!」の監督だったプラッチャヤー・ピンゲ−オが制作を務め、「マッハ!」のアクション監督だったパンナー・リットグライが監督を務めており、「マッハ!」以上に身体を張ったアクションが連続するアクション映画に仕上がっていた。
 そしてその超絶アクションは「マッハ!」同様、ノー・ワイヤー&ノー・CGが貫かれ、文字通り身体がいくつあっても足りないようなアクション・シークエンスが連続する。

 因みに監督のパンナー・リットグライはタイのブルース・リーと呼ばれる伝説的なアクション・スターで、タイのアクション映画に多くの影響を与えた存在である。

 また本作「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」のコンセプトのひとつになっている、ムエタイ、サッカー、体操、ラグビー、テコンドー、ボクシング、セパタクロー等の実際の選手を起用したアクションは、武装軍団を倒す事を目的としたアクションなのだが、その動きは美しい上にコミカルである、観客を驚嘆させ、感心させられながら最後には熱くなってしまうという楽しいアクションに仕上がっている。

 やはり本物の一流アスリート達を起用した事は、上手く機能しており、そのアクションは、勿論動きが本物だと言う事もあるのだが、その美しいアクションを戦いに転化させるすばらしい演出がついている、と言う事なのである。

 また、それらアスリート達以外でも、例えばセパタクローの選手と絡む片足の籠職人が松葉杖を利用して繰り出す蹴り(オーバーヘッド・キック)や、幼児といっても良いほどのムエタイ少女のトニー・ジャーばりのフルコンタクト・アクション、そしてムエタイ使いの老子様が繰り出すスローモーだが力強い技々はなんとも格好良いのだ。

 またオープニング・アクションに相当するトラック・チェイスでは、本当に死人が出そうなアクションの連続で、更にラスト近辺では土手から突っ込んでくるトラックを文字通り間一髪でかわすシーンをはじめとして、スタントマン冥利に尽きるアクションの連続で、あまりのアクションに素直に歓声や拍手が出てしまうような印象を受ける。

 ついでに本作では、ガン・アクションも楽しめ、特にダンのすぐ背後からの広角レンズを使用した主観ステディカムの長回しのガン・アクションでは、まるで「バーチャ・コップ」や何かのようなアクションと鋭いカメラ・ワークが楽しめる。

 とは言っても、本作に問題が無いのか、と言うとそう言う訳ではなく、爽快で格好良く楽しいアクション映画にしては、人の生き死にが軽く描かれているのが気になった。

 尤も、虚構の物語世界の人の生き死にに、いちいち目くじらをたてるのはどうかと思うむきもあろうかと思うが、例えば武装軍団が村を襲うシークエンスでは、逃げ惑う村人が一方的に銃撃を受けバタバタと倒れていくし、武装軍団がタイ政府と交渉するシークエンスでは、彼等は平気で人質を次々と撃ち殺してしまうのだ。

 おそらく、その辺りの描写に対してモラル的にどう感じるかで、本作の評価も変わってくるのではないかと思う。
 
 
 結論として本作「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」は少なくとも、純粋なアクション映画としては白眉な作品だと言えるだろう。
 しかし物語はコンセプトはともかく、残念ながらな安直な印象は否定できない。
 とは言うものの、物語自体は破綻無くまとまっており、アクションの演出は面白く楽しい。何度も言うが、純粋にアクションを楽しめる素晴らしい作品に仕上がっていると思うのだ。

 本作「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」は個人的には、アクション映画ファンにとっての義務と言っても良い程の必修作品だと言えるのではないだろうか。

☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
 
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
スタッフ
制作:プラッチャヤー・ピンゲ−オ
監督:パンナー・リットグライ

キャスト
ディアウ
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余談だが、監督プラッチャヤー・ピンゲ−オ、アクション監督パンナー・リットグライ、主演トニー・ジャーで制作しているタイ映画「トム・ヤム・クン(原題)」も凄いらしい。

タイからオーストラリアに留学しているトニー・ジャーの妹が、何らかの事件に巻き込まれ失踪してしまい、妹失踪の謎を追って象使いトニー・ジャーがオーストラリアに渡ると言う物語らしい。(2005/10/15追記 妹の失踪ではなく、象の誘拐のため、トニー・ジャーがオーストラリアへ渡る。)

2005/10/15追記
「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」は、「七人のマッハ!」と言うタイトルで、2005年12月に公開される事になりました。

「トム・ヤム・クン!」
http://diarynote.jp/d/29346/20051014.html

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「ガルーダ」

2004年10月21日 映画
2004/10/15 東京新宿「新宿ミラノ座」
 「東京国際ファンタスティック映画祭2004」のオールナイト企画『激突!! 亜細亜颱風 韓流VS.タイ道』で上映されたタイ映画「ガルーダ」を観た。
 舞台挨拶は、監督のモントン・アラヤンクン、プロダクションデザインのヴォラウ・ヌンゴン。
 
 
 バンコクの地下鉄工事現場で謎の化石が発見された。
 タイ政府の依頼で調査に訪れた科学者リーナは、亡き父が追い求めていた伝説の神鳥ガルーダの化石ではないか、と考える。
 リーナはこの歴史的発見の公表を望むが、民衆のガルーダ信仰を揺るがすことを恐れたタイ政府は現場を封鎖、その事実を隠蔽しようとする。

 そんな中、太古の昔に幽閉された一体のガルーダが長く深い眠りから目覚め、人食い獣と化し、タイ軍特殊部隊に襲い掛かってきた。
 リーナ等科学者とタイ軍特殊部隊は急遽団結、「最強の鳥の王」ガルーダに命がけの闘いを挑む! (「東京ファンタ」オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
 
 
 タイ映画界の技術力の高さに驚かされた。

 わたしが「ガルーダ」を観た時点で、観た事があるタイ映画は「マッハ!」と「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」(後日レビュー予定)位であった。

 そんな経験からか、わたしはタイ映画の技術に対して漠然とした先入観を持っていたのだ。
 それは、ジャッキー・チェンやツイ・ハークが描く香港映画に登場する村々のイメージや、それをフィルムに収めた画質のテイストと、「マッハ!」や「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」に登場する村々のイメージやフィルムのテイストには類似点が多いことから、おそらくタイ映画の技術力は当時の香港レベルではないかと思っていた訳である。

 しかし「ガルーダ」の技術レベルは、わたしの先入観を遥かに凌ぐものであった。
 そのレベルは日本映画どころではなく、ハリウッド映画をも凌ぐ勢いなのだ。

 私見だが、CGIと人間が同じ画面で戦うような映像のクオリティは、最近作では「バイオ・ハザードII アポカリプス」や「ヴァン・ヘルシング」等の作品をも凌いでいる。

 しかも、本作「ガルーダ」は、モントン・アラヤンクン監督の初監督作品だ、というのにも驚かされた。
 初監督作品で、このような大掛かりな、技術レベルを要求される作品を撮ってしまう、または出資してしまう事に驚きなのだ。

 物語は地下鉄工事現場と言う閉鎖された空間で、CGIで描かれた一体の「ガルーダ」とタイ軍特殊部隊が戦う、と言うもので、わかりやすく言うと「エイリアン」や「ジュラシック・パーク」のような舞台設定とテイストを持つ作品だと言えるのではないだろうか。

 物語は残念ながらありがちなものなのだが、演出もカット割りも構図もソツが無く、なによりCGIキャラクターと人間や背景との融和が素晴らしい。
 私見だが、例えばハリウッド大作「ヴァン・ヘルシング」でさえ、CGIキャラクターと人間や背景との間に違和感や齟齬が感じられると言うのに、「ガルーダ」では、そんな違和感がほとんど気にならないのである。

 しかもガルーダが格好良い。
 余談だが、タイに「デビルマン」の権利を売るのも、ありかも知れない、と個人的に思った。

 わたしがいつも言うように、日本人として香港映画や韓国映画に嫉妬や羨望を感じる昨今だが、それがタイ映画にまで広がってしまった訳なのだ、危うし!日本映画!!
 邦画は一体どうなってしまうのだろうか。

 例えば「マッハ!」や「ボーン・トゥ・ファイト(原題)」のような、語弊はあるが、粗雑だが勢いがあるような作品ではなく、CGIを駆使し、大胆で緻密な娯楽作品を制作することができるタイ映画に羨望と恐怖を禁じえないのだ。

 何しろ本作「ガルーダ」は、普通に鑑賞できる普通の娯楽作品に仕上がっているのだ。
 下手をすると、ハリウッド映画だよ、と言って公開しても誰も気がつかないのではないだろうか。そんなVFXや作品自体のクオリティの高い娯楽作品なのだ。

 タイ映画の実力を測る意味からも、機会があれば、是非観て欲しい作品である。
 観る人が観れば、タイ映画の底力を垣間見ることが出来る、ある意味恐ろしい作品に姿を変えてしまうかもしれない。
 
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 因みにこの作品はタイ初の「怪獣映画」だそうである。
 日本人が考える所謂「怪獣映画」とは異なり、前述したように「エイリアン」や「ジュラシック・パーク」のような作品だと思う。もしかしたらタイでは「エイリアン」のような作品も「怪獣映画」とカテゴライズされるのかな、と思った。

 ポスター等のアートワークを見ると、「デビルマン」ミート「ガッチャマン」的な印象を受けた。

 驚いたのは、監督のモントン・アラヤンクンやプロダクションデザイナーのヴォラウ・ヌンゴンらの舞台挨拶の中で、「東京ファンタ」のスクリーンで、「東京ファンタ」の観客の前で、自分たちの作品が上映される事に対する喜びがひしひしと伝わって来たことである。
 「東京ファンタ」は彼等にとっての「夢の舞台」だった訳である。

 かつて、ホラーやスプラッタ、香港ノワールや初期のワイヤー・アクション、マサラ・ムービーや韓流、タイ映画と、時代に先駆け様々なジャンルの先駆的作品や鬼子のような作品を次々と日本や世界に紹介してきた「東京国際ファンタスティック映画祭」の存在意義とその影響力を再確認した思いがする。

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スタッフ
監督・脚本:モントン・アラヤンクン
美術:ヴォラウ・ヌンゴン

キャスト
ソンラン・テピタック
サラ・レッグ
ダニエル・B・フレイザー
ヤニー・トラモン
チャラニ・ナ・ソンクラ

「ガルーダ」ポスター
http://tokyofanta.com/tfanta_saku/image/m040826223348.jpg

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