2006/11/25 東京新宿「新宿ミラノ1」で開催されていた「東京国際シネシティフェスティバル2006」の企画「映画における表現の自由を考える夕べ」において「スキャナー・ダークリー」を観た。

カリフォルニア州オレンジ郡郊外。
近未来。

アメリカの終わることのない不毛な麻薬戦争は、テロへの戦いと似た様相を帯びてきた。覆面麻薬捜査官のボブ・アークター(キアヌ・リーヴス)は、「物質D」と呼ばれる強力なドラッグの供給源を探るため、自らジャンキーとなり潜入捜査を行っていた。

そんな中、ジャンキーとしてのボブが密告され、自分と友人のジム・バリス(ロバート・ダウニーJr.)、エリン・ルックマン(ウディ・ハレルソン)、ドナ・ホーソーン(ウィノナ・ライダー)そしてチャールズ・フレック(ロリー・コクレイン)の捜査を余儀なくされるが・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督・脚本:リチャード・リンクレイター
原作:フィリップ・K・ディック 「暗闇のスキャナー」(東京創元社刊)
アニメーション:ボブ・サビストン
出演:キアヌ・リーヴス(ボブ・アークター)、ロバート・ダウニー・Jr(ジム・バリス)、ウディ・ハレルソン(アーニー・ラックマン)、ウィノナ・ライダー(ドナ・ホーソーン)、ロリー・コクレイン(チャールズ・フレック)

本作「スキャナー・ダークリー」は、フィリップ・K・ディック の「暗闇のスキャナー」をリチャード・リンクレイターが「ウェイキング・ライフ」(2001)で試みたデジタル・ペインティング手法を用いて映像化した作品。

この手法は、実際に俳優が演じた映像データを基に、アニメーターがデジタル・ペインティングを行い、見た目の感覚はアニメーション作品のようなものでありながら、実際は実写感もある、と言う摩訶不思議な印象を受ける。

このため非現実的な描写も、全体的な世界観が擬似アニメーションのように見えるため、物理的に不可能な動向についても非常にリアリティ溢れる印象を観客に与えることに成功している。

とは言うものの、その感覚は既に「ウェイキング・ライフ」で体験済みなので、その斬新な手法に対する驚きはそれほど感じられないのだが、その手法は「ウェイキング・ライフ」と比較して本作の方が題材と手法がマッチしているような印象を受けた。

物語は、誰にも、−上司にさえ−、顔と名前が知られていない潜入捜査官の潜入捜査により、強力なドラッグ「物質D」の供給源に迫る物語なのだが、実は物語の方向性と異なる、鮮烈な感動がラストに隠されていた。

わたしは、本作「スキャナー・ダークリー」の終映後、と言うかラストのセリフ(モノローグ)を聴いた瞬間、鳥肌が立つほどの強烈な感動がわたしに向かって押し寄せてくるのを感じた。

しかし、何故あれほど感動したのかがよくわからなかった。
が、あれから2週間、わたしは「スキャナー・ダークリー」が、一体何だったのか、についてふと気が付いてしまった。

つまり、「スキャナー・ダークリー(暗闇のスキャナー)」は、PKディックにとっての「アルジャーノンに花束を」だったのだ。

ところで、ダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」と言う小説は、ご承知の通り、文学史に燦然と輝く強力な涙腺破壊兵器とも言える小説である。

そして、PKディックの自伝的な、そしてメロウなハードボイルド小説でもある「暗闇のスキャナー」は、正に「アルジャーノンに花束を」のラストのセリフ(モノローグ)に対する明確なアンサーとなっている、−ようにわたしには思えてならない−、のだ。

とは言うものの、公開直後の作品である本作「スキャナー・ダークリー」のラストに触れる訳には行かないので明確な事をお話できないが、「スキャナー・ダークリー」を観る前に、「アルジャーノンに花束を」を読んでおくと、非常に興味深い体験が出来る、とわたしは確信している。

余談だが、コチラで、PKディックの「暗闇のスキャナー」の山形浩生訳が読める。
http://cruel.org/books/scanner/scanner.pdf
あとがき(作者付記)が強烈に感動的である。

とにかく、本作「スキャナー・ダークリー」は、是非、劇場で観て欲しい傑作であり、見方を変えると強烈な感動作として観客を打ちのめす作品とも言えるのだ。

文学ファンにもオススメなのだ。

☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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