2006/10/02 東京有楽町「よみうりホール」で「ただ、君を愛してる」の試写を観た。

本作「ただ、君を愛してる」の作品自体は大変良かった。
でも作品自体の成り立ちに、若干釈然としないものを感じてしまうのだ。

と言うのも、そもそも本作の原作は映画「恋愛寫眞」(2003)を題材としてオマージュ的な発想で書かれた小説「恋愛写真―もうひとつの物語」(市川拓司著)を基にしているのだ。
 
 
「恋愛寫眞 Collage of Our Life」(2003)
監督:堤幸彦
脚本:緒川薫
出演:広末涼子(里中静流)、松田龍平(瀬川誠人)

「ただ、君を愛してる」(2006)
監督:新城毅彦
原作:市川拓司 「恋愛寫眞 もうひとつの物語」(小学館)
脚本:坂東賢治
出演:玉木宏(瀬川誠人)、宮崎あおい(里中静流)

ところで、わたしは、本作「ただ、君を愛してる」と言う作品は、そもそも市川拓司の「恋愛寫眞 もうひとつの物語」と言うタイトルの小説を原作としている作品であることは知っていたので、そのタイトル(「もうひとつの物語」)から、おそらく「恋愛寫眞 Collage of Our Life」で描かれた物語の隙間を埋める物語なのだろうと思っていた。

つまり、「恋愛寫眞 Collage of Our Life」で描かれた物語は存在することとして、そのサイドストーリー的な作品だと思い込んでいたのだ。

例えば「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)と「ポセイドン・アドベンチャー2」(1979)のような関係の作品だと思っていたのだ。

具体的には、「恋愛寫眞」で描かれた静流(広末)と雅人(松田)の過去の物語(出会う前の物語)だったり、静流と雅人とは違う男(玉木)との関わりを描いた物語(静流/広末と雅人/松田の関係と同様に、静流と関係がある男/玉木が居た)だったり、静流の名を引き継いだ男(松田)のその後と過去が描かれる物語だと思っていた。

しか〜し、本作「ただ、君を愛してる」には正直驚かされてしまった。

「ただ、君を愛してる」の物語は、なんと「恋愛寫眞 Collage of Our Life」の二人の主人公の設定と物語の基本プロットをいただいた物語だったのだ。

つまり、本作の物語は、「恋愛寫眞」の基本プロットをそのまま借用し、そのプロットの隙間の枝葉部分を再構築した物語だったのだ。

と言うのも、本作「ただ、君を愛してる」のメインプロットは、

学生時代に知り合った雅人と静流。
静流は雅人の影響で写真をはじめる。
雅人の前から突然姿を消した静流から雅人に一通の手紙が届く。
それはニューヨークで開かれる静流の個展の招待状だった。

と言うものなのだ。

わたしは同工異曲を否定するものではないが、今回のケースはクリエイターとしてやって良いことなのかどうか釈然としない印象を受ける。

まるで本作の物語は、「恋愛寫眞」のキャラクターと設定を借用した二次創作物
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%AC%A1%E5%89%B5%E4%BD%9C)のようなものなのだ。

素人作家や同人作家が「恋愛寫眞」のキャラクターと設定を借用した二次創作物を制作するのならともかく、市川拓司がやるのはいかがなものかと思う。

もちろん、市川拓司自身のキャリアの冒頭は、インターネット上で自作を発表した事に遡ることが出来、その作品が口コミで広がり注目を浴びた事からテビューを果たした事を考えると、かつての作品のキャラクターと設定を借用することに対しての意識が低いのではないかとも考えられる。

しかしながら、現在押しも押されぬ作家になってしまった市川拓司が行うことではないと言わざるを得ない。
まあ、もちろん、出版社サイド(または映画制作者サイド)からの依頼の元に小説「恋愛寫眞 もうひとつの物語」の執筆を依頼された、という可能性もあるのだが、同時期に原作ではなく、ノベライズでもなく、二次創作物のような作品を出版することは、プロモーション的にも解せないと言わざるを得ない。

まあ、可能性としてはスタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」(1968/04)とアーザ・C・クラークの「2001年宇宙の旅」(1968/07)という例もあるのだが・・・・。

参考)
2003年2月「いま、会いにゆきます」出版
2003年6月「恋愛寫眞 Collage of Our Life」公開
2003年6月「恋愛寫眞 もうひとつの物語」出版

何故、今回の一件に対しわたしがこんなに目くじらを立てているかというと、本作「ただ、君を愛してる」が公開されることにより、後だしじゃんけんのように本作が正当化され、堤幸彦の「恋愛寫眞 Collage of Our Life」の物語が否定されてしまう可能性が否定できないからである。

先人の残した作品のキャラクターや設定を借用し、ついでに先人の作品を否定する結果になる作品をクリエイターとして果たして制作して良いものなのか?
わたしにとっては大きな疑問だった訳である。

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