2006/07/08 日本公開予定の「M:i:III」(「MISSION:IMPOSSIBLE III」)は、おそらく日本国内においては、初登場1位を取ると思うし、しばらくの間は興収ベストテンに留まる大ヒット作品になるのだと思う。

しかし、わたし的には「M:i:III」はダメな映画だと言わざるを得ないし、トム・クルーズと言うビッグ・ネームが製作・主演している作品なだけに、現在のところのラジー賞の最有力候補でもある、とも言わざるを得ないだろう。

それでは、早速だがどの辺がダメだったのかを考えてみたいと思う。

なお、今回のエントリーは、「impressions and critiques: annex」の「MI:3」(http://imcr.exblog.jp/2606505/)を参考にしている。
 
 
■コンセプトの改変
「M:i:III」は、ご承知のように、テレビ・シリーズ「スパイ大作戦」(1966-1973)の映画化作品であるブライアン・デ・パルマの「ミッション:インポッシブル」(1996)の続編(実際は三作目)である。

そもそも「スパイ大作戦」とは何だったかと言うと、一見不可能とも思えるような作戦を、武器のプロ、爆破のプロ、変装のプロと言った、様々な技術を持ったプロフェッショナル達が、それぞれの技術を活かし、チーム・プレイで攻略、ターゲットをはめ、結果的に自滅させる、というコンセプトを持った物語だったと思う。

同様のコンセプトの作品としては「特攻野郎Aチーム」(1983〜1987)があるよね。

さて、「スパイ大作戦」の映画化についてだが、第一作目、ブライアン・デ・パルマの「ミッション:インポッシブル」は個人的には好きな作品なのだが、残念なことにこの作品の時点で、「スパイ大作戦」のコンセプトと異なるベクトルを持った作品になってきているような気がする。

先ず、チーム・プレイがスタンド・プレイに変更されている。
と言うのも、この作品のメイン・プロットは、はめられたエージェントが、当局の追跡から逃れ、いかにして身の潔白を示すか、と言うエージェントの逃亡と保身がメインのプロットとなった物語だったからだ。

そして、重要なプロットとして導入されたのは「裏切り」である。

エージェントが裏切り者にはめられて、逃亡し保身を図る作品は、スパイ映画の定番とも言えるし、面白い作品も多々ある。
系統は若干異なるのだが、ケヴィン・コスナー主演の「追いつめられて」(1987)なんかは最高に面白い。

また、当局の追跡から逃亡し、身の潔白を示す作品と言えば「逃亡者」(1963〜1967)なんかが有名だし、ロバート・ラドラムの「暗殺者」を原作にする「ボーン・アイデンティティー」(2002)なんかも想起される。

ところで、ブライアン・デ・パルマの「ミッション:インポッシブル」が、裏切られたエージェントが逃亡し、身の潔白を示す、と言うプロットを採用したのは、荒唐無稽なスパイ映画ではなく、リアルな等身大のスパイ映画を目指した事に因ることだと思うし、自らの潔白を証明する手段(メガネをかける)は、十分に「スパイ大作戦」していたと思うし、はめた、はめられた、と言う十分なカタルシスが感じられることだろう。

しかし本作「M:i:III」は、「スパイ大作戦」の映画化、と言う事よりは、今思えば、幾分トリッキーなプロットを採用して映画化された「ミッション:インポッシブル」の、そのトリッキーな部分のみを拡大踏襲して脚本が練られているような印象を受ける。
脚本家はこの作品が「スパイ大作戦」の映画化作品だ、と言うことを忘れてしまっている、と言うような印象を受けた。

■身内を救出するエージェント
いきなりで恐縮だが、テレビ・シリーズ「サンダーバード」(1964〜1966)の映画化作品で、ジョナサン・フレイクス監督作品「サンダーバード」(2004)と言う作品がある。

テレビ・シリーズ「サンダーバード」のコンセプトは謎の大富豪の私設救助隊である国際救助隊が、世界中の災害から一般市民を救出する、と言う物語である。

しかしながら、映画「サンダーバード」のプロットは、悪漢フッド(ベン・キングズレーが好演、今思えばケヴィン・スペイシーでも良かったかな)によって窮地に陥れられたトレイシー一家をトレイシー一家の末っ子が救出する、と言うものであった。

「一般市民ではなく、家族を救出する国際救助隊」
こんなプロットを持つ作品は、最早「サンダーバード」ではない、と言わざるを得ない。

同様に「M:i:III」のプロットは、独断でよけいなことをしてしまったハントに激怒したデイヴィアンが、ハントの婚約者を誘拐、その婚約者を助けるためにハントは公私混同し、チームで救出を図る、と言うとんでもないプロットなのである。

もちろん「ラビット・フット」の売買とか、デイヴィアンの行状とか、ワールド・ワイドな陰謀的伏線は絡むのだが、実際のところの「M:i:III」と言う作品は、ハントの全く個人的な物語だと言わざるを得ない。

例えば、デンゼル・ワシントンとダコタ・ファニングの「マイ・ボディガード」(2004)みたいなプロットなのだ。と言うか非常に似ている、と言わざるを得ない。

例えばこのプロットでトム・クルーズ主演のオリジナル脚本で、映画を撮っちゃえば良いのに、何故「スパイ大作戦」を利用するのか、という事である。

ラロ・シフリンも泣いているぞ。

■IMF内部にカメラが侵入!?
IMFという組織は、謎の組織だったのではないか、と思うのだが、本作ではなんと、カメラがIMFの組織内に侵入してしまっているのだ。

この描写のおかげで、IMFはどこに国にもあるようなただの情報機関の体裁を取っていることが如実に示されてしまっている。

夢もロマンも霧散状態なのだ。

ついでに、ビジターのカードを付けているとは言え、一般市民が謎の組織IMF内で普通に振舞っているとは、正に言語道断なのだ。

■おまけ
「スパイ大作戦」のオープニング・ナレーション

スパイ大作戦
実行不可能な指令を受け
頭脳と体力の限りを尽くしてこれを遂行する
プロフェッショナル達の秘密機関の活躍である

「スパイ大作戦」の指令のセリフ

おはようフェルプス君・・・・

例によって君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。このテープは自動的に消滅する。成功を祈る。
 
 
まあ、結論は、「M:i:III」(「MISSION:IMPOSSIBLE III」)は「スパイ大作戦」の名を借りた、ダメ映画、と言うことだろう。

何故こんな事に対し熱く語っているかと思う方も多々いらっしゃると思うが、一映画ファンとして、かつてのすばらしい作品の根底に流れるスピリッツを無視し、名称や設定だけ、つまり表層部分だけ利用する作品、言わば映画界の共有財産を食い潰す作品には断固とした態度で挑まなければならない、という事である。

何しろ「M:i:III」は「スパイ大作戦」を冒涜しているのだから。
 
 
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