2004/08/29 東京内幸町(霞ヶ関)イイノホールで開催されていた「GTF2004 トーキョーシネマショー」で「マイ・ボディガード」の試写を観た。

16年間アメリカ海軍の対テロ特殊部隊に所属していたクリーシー(デンゼル・ワシントン)は飲酒で身を持ち崩していた。

それを見かねた、かつての盟友で現在メキシコに居を構えるレイバーン(クリストファー・ウォーケン)は、クリーシーにメキシコの実業家夫妻(サミュエル/マーク・アンソニー、リサ/ラダ・ミッチェル)の娘ピタ(ダコタ・ファニング)のボディガードの職を斡旋する。

メキシコでは、実業家や富豪の子供たちを組織的に営利誘拐する集団が存在し、裕福な家庭では子供のためにボディガードを雇う事は一般的な事だった。

当初クリーシーは、ビジネスに徹しピタに冷たく当たっていたのだが、ピタの水泳コーチを引き受けた頃から、ピタと打ち解け初め、クリーシーとピタの間には、ビジネスを越えたある種の絆が生まれてきた。

そんなある日、クリーシーはピタを学校に送り迎えする際、同じ自動車を何度も見かけることに気付いたが・・・・。

監督:トニー・スコット
脚本:ブライアン・ヘルゲランド
原作:A・J・クィネル(「燃える男」/”MAN ON FIRE”)
出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、ラダ・ミッチェル、マーク・アンソニー、ジャンカルロ・ジャンニーニ、レイチェル・ティコティン、ミッキー・ローク

トニー・スコットと言えば、当初は「トップガン」や「ビバリーヒルズ・コップ2」、「デイズ・オブ・サンダー」等、面白いが底が浅い娯楽作を監督していたが、「トゥルー・ロマンス」や「クリムゾン・タイド」以降、娯楽作でありながら、奥底に何かを感じられる作品を監督し始め、最近では「スパイ・ゲーム」で最早押しも押されぬ実力派監督の名を欲しいままにしている。

一方、脚本のブライアン・ヘルゲランドは、なんと言っても「L.A.コンフィデンシャル」で頭角を顕し、最近では「ミスティック・リバー」でも大いに評価されている名脚本家である。

そんな二人が組んだ上に、デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、クリストファー・ウォーケン、ジャンカルロ・ジャンニーニ等が出演となれば、否応もなく期待は高まる訳であり、そんな環境下でわたしは本作「マイ・ボディガード」を観たのである。

本作「マイ・ボディガード」は、一言で言うと大傑作であった。

トニー・スコットの作品を手放しで誉めちぎるのは、なんともしゃくだが、良い作品は仕方ないが良い作品なのだ。

先ず脚本だが、メインのプロットは、「かつてのエリートが落ちぶれ、片手間仕事に就くが、一時はその仕事に失敗するのだが、自分でその失敗のけじめをつける」というありがちなものだが、そこに到る過程が、微にいり細にいり完璧で、まるで美しいモザイク模様の工芸品を見ているような出来栄えの脚本なのである。

そしてその工芸品のような脚本に乗った演出も素晴らしく、数々の詳細な伏線が、画面の端々から観客に訴えかけてくる、そういった観点からすると、内容はともかく楽しい映画に仕上がっている。

そして、その物語を演じる役者たちだが、デンゼル・ワシントンやダコタ・ファニングはさておき、クリストファー・ウォーケンが素晴らしい。
最近情けない作品が多いウォーケンだが、本作では、かつてはエリートだった老兵を情緒たっぷりに演じており、また「戦争の犬たち」を髣髴とさせる映画的記憶を利用した素晴らしい役柄を演じている。久方振りに格好良いウォーケンを見たのだ。

また、名優ジャンカルロ・ジャンニーニ(マンザーノ連邦捜査官)とレイチェル・ティコティン(マリーナ/新聞記者)の正義派・社会派コンビも素晴らしい印象を観客に与えている。
ラストのレイチェル・ティコティンの決断と、ジャンカルロ・ジャンニーニの行動に拍手を贈りたいほどである。

ミッキー・ロークはわたし的には一時はどうなることかと思ったのだが、脚本上はキャスト・ミスになるところをギリギリで踏ん張った感があるが、面白い役所を演じている。

さて、主演のデンゼル・ワシントンだが、はっきり言って素晴らしい。役柄的には知的なだけではなく非常にタフな所があり、従来のワシントンのイメージを超えた素晴らしいクリーシー像を見せてくれている。

一方、ダコタ・ファニングは、観客に対してある意味凶悪で、最早ルール違反だと言っても差支えが無いのでは無いだろうか。
あんなに愛らしく天使のような少女が、悪人の手にかかったとなれば、デンゼル・ワシントンどころか、すべての観客が怒り心頭、怒髪天を衝く状態で、その意味で言えば、ダコタ・ファニングは観客を見事に一体化してしまう手腕を持っている、と言えるのだ。

画面は、おそらく撮影時の素材をデジタル処理し、セリフや動きのタイミングに合わせて、細かなズームやパン、ティルトを多用し、下手をすると乗り物酔いに似た症状を観客に与えかねない映像スタイルを取っていた。
その画面と舞台背景からは、スタイル的にスティーヴン・ソダーバーグの「トラフィック」のような印象をも受ける。

また、セリフの中での印象的な言葉を、スーパー・インポーズしていたのが印象的である。
この手法はスタイリッシュな反面、蛇足的印象を観客に与えてしまう点も、否定できない。

本作「マイ・ボディガード」は、復讐を描いたアクション映画だが、それを超越した、叙情的でもあり、社会派的でもあり、若干ハード過ぎるきらいもあるが、文句なしの大傑作である。

この秋、アクション映画を見るのならば、オススメの一本だし、アクションが苦手な社会派系の人にも、観ていただきたい素晴らしい作品なのだ。

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余談だが、「スタートレック」的には、「キル・ビル(国際版)」の冒頭で引用された、クリンゴンのことわざ、

”Revenge is a dish best served cold.”

がデンゼル・ワシントンのセリフとして出てきた。
(実際は、爆発の音とかぶって正確には聞き取れなかった)
もしかすると、「クリムゾン・タイド」同様、クエンティン・タランティーノが脚本にノン・クレジットで一枚噛んでいるのかも知れない、と思った。

因みに日本公開された「キル・ビル Vol.1」では、”Revenge is a dish best served cold.”のタイトル・カードは、「深作欣二に捧ぐ」と言うカードに差し替えられていた。

このクリンゴンの古いことわざである”Revenge is a dish best served cold.”は、「キル・ビル Vol.1」と「キル・ビル Vol.2」を続けて観て、初めて意味が通じるひとつの伏線となっているのだが、日本では「深作欣二に捧ぐ」と言うカードに差し替えられていたため、その伏線があまり生きていなかった。

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