「タイムライン」

2004年1月24日
マイケル・クライトンの作品を比較的多数(おそらく20冊程)読んでおり、本作「タイムライン」翻訳時はクライトンがタイム・トラベルにどんな理論付けをするのかが楽しみであり、映画化決定についても大きな期待をしていたわたしである。

フランス南西部の修道院遺跡の発掘現場で、考古学者ジョンストン教授をリーダーとする発掘調査が進められていた。
ある日、ジョンストン教授が発掘調査のスポンサー企業ITCを訪ねていた際、教授の教え子たちは14世紀の地層から現代の製品と思われるメガネのレンズとジョンストン教授の筆跡で“Help Me”と書かれた不可解な古文書を発見する。
教授の安否を気遣う息子クリスと発掘調査チームは、ITCの社長から、教授はITCが極秘に開発した時空間転送装置で14世紀フランスに転送され、現地で消息を絶ってしまったという事実を告げられた。
つまり、発掘された古文書とメガネのレンズはジョンストン教授から教え子である学生たちへのSOSだったのである。
そこでクリスは、発掘調査チームとITCチームとともに教授の行方を追って中世フランスへと向かうのだった・・・・。

第一印象としては、展開が単調で退屈な映画だ、と言わざるを得ない。

本作「タイムライン」のもともとのプロットや着想は素晴らしいのだが、脚本に魅力が感じられない。

勿論2時間という枠で「タイムライン」を料理しなければならない事は理解しているが、脚本の骨子が弱いのだ。

教授を救出するのは良いのだが、クリスや発掘チームが14世紀フランスへ赴くのであるが、彼らが行かなければならない理由が本編内で、いちいち述べられるのであるが、全くと言って良い程説得力が無い。
彼らが行く位だったら、特殊部隊を中心としたメンバー構成にすべき印象しか与えられない脚本なのである。

クリスや発掘チームが14世紀に行かなければ物語は始まらない訳であるから、それなりの説得力のある理由と、彼らの一層の葛藤を詳細に描くべきだと思うのだ。

例えば、フランス語が堪能なばかりに、殺される為に14世紀に行ったフランソワはこんな脚本では全く浮かばれない。
なにしろフランソワが活躍しなくとも、発掘チームは現地の人々とコミュニケーションできているのだから。

また、尺の問題だと思うが、発掘チームとITCチームのキャラクター背景が乏しく、ドラマに重みが無い。

発掘チームの特技をもうすこし伏線として入れるべきであったと思う。
例えば、マレクが14世紀の武器を扱えるのは伏線で明らかであるが、ケイトがフリー・クライミングを趣味にしているのが描かれていないし、フランソワがフランス語に堪能だ、というのもよくわからないし、発掘チームの専門分野もよくわからない感じである。

また、海兵隊あがりのITCチームの一人も、ハンド・グレネードを現代に持ち込む事だけを目的としてキャラクターが描かれているのも釈然としない。

勿論、こういった娯楽作品に緻密な脚本を求めるのは酷かも知れないが、タイム・トラベルものについては、過去と現在のシンクロニシティが重要な構成要素となるわけであるから、ある程度は細かい点にも心を配って欲しいのだ。

あとは、主人公たちを苦境に立たせるために考えられたと思われる、様々な仕掛けがリアリティを払拭し、逆に興ざめな印象を与る。
例えば制限時間付のマーカーしかり、ITCチームが持ち込んだハンドグレネードしかりなのだ。これらの存在は脚本の論理的な齟齬になっているのだ。

タイム・パラドックス的プロットは良かった。
"It’s me!"というセリフが二度登場するが、二度とも笑えるシークエンスに仕上がっている。

結構厳しい事を言っているが、本作は少なくとも娯楽映画の中では水準的な作品だと言えるし、血沸き肉踊る冒険映画を期待するむきにはオススメの楽しい映画に仕上がっている。

残念ながら、客を呼べるスターがいない、ノン・スター・ムービーであるのは仕方が無いのだがね。

余談だが、音楽について一言。
本作のメイン・タイトルは「ロード・オブ・ザ・リング」三部作のエルフのテーマがジャカジャカ鳴らされているように聞こえるのはわたしだけであろうか。
tkr

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