2010年12月23日 東京池袋「池袋テアトルダイヤ」で「やぎの冒険」を観た。
今回の試写はマスコミ試写で、上映前に監督の仲村颯悟、プロデューサーの井手裕一の舞台挨拶、上映後にティーチインが行われた。
「やぎの冒険」
2011年1月8日公開:池袋テアトルダイヤ、キネカ大森、ブリリア ショートショート シアター
2月19日公開:テアトル梅田
監督:仲村颯悟
プロデューサー:井手裕一
協力プロデューサー・監督補:月夜見倭建
脚本:山田優樹、岸本司、月夜見倭建
撮影:新田昭仁
編集:森田祥悟
出演:上原宗司(金城裕人)、儀間盛真(大城琉也)、平良進(東江茂)、吉田妙子(東江ヨシ子)、城間やよい(金城裕子)、津波信一(儀間信二)、山城智二(バスの運転手)、仲座健太(東江裕志)、金城博之(良太)
「日本映画史上初、カントクは中学生!!」
冬休み、裕人(上原宗司)はひとりで那覇からバスに乗り、母親(城間やよい)の実家があるヤンバル(沖縄本島北部)・今帰仁村で過ごすことになった。
山と海に囲まれた緑深い集落、赤瓦の家屋、おばぁ(吉田妙子)とおじぃ(平良進)、口の悪い伯父(仲座健太)・・・。
街育ちの裕人だが、同じ歳の従兄弟・琉也(儀間盛真)やその友だちと遊びながら、12歳の感覚をもってぐんぐんとヤンバルの風景の中になじんでいく。
そんなある日、ヤギ小屋にいた2頭の子ヤギのうち1頭がいなくなっていることに気づく・・・。
先ずは本作「やぎの冒険」は大変素晴らしい作品に仕上がっていた。
監督は前述のように現役中学生の仲村颯悟。
わたしは自主制作映画をやっていたので、おそらく多くの人が思うように、本作「やぎの冒険」は、映画制作の実情は、まわりのスタッフが制作を行い、監督が中学生である事を作品の売りとしてプロモーションを行う、言わば監督はお飾り、と言うような作品だと思っていた。
しかしながら、上映後のティーチインでの質疑応答に伴う監督としての語り、そしてティーチイン後、気になった事を監督に直接ぶつけた監督の対応を聞いて驚いたのだが、仲村颯悟は恐るべき中学生だった。
その辺の映画監督でさえ、物語やテーマを恥ずかしげもなくセリフで語らせる時代なのに、それをせずに、婉曲な表現や暗喩で作品のテーマや物語を語る、と言う事を本作でやってのけているのだ。
仲村颯悟恐るべし。
しかし、それを成し遂げたのは、仲村颯悟だけの力ではなく、--もちろんクリエイターとしての力の話ではなく、大人の事情の話である--、井手裕一をはじめとした製作陣の対応が素晴らしかったのだと思う。
例えば、北野武が「その男、凶暴につき」を制作した際、お笑い業界から映画業界に殴り込みをかけた北野武を現場スタッフはバカにし、当初は北野武の思うように撮影がすすまなかったと聞く、しかし、本作「やぎの冒険」のスタッフは違っていた。
中学生の仲村颯悟を子供だと考えずに一人のクリエイターとして扱っていたのだ。
そして、そんな大人たちの中、脚本にしろ、撮影にしろ、編集にしろ、仲村颯悟が自分の好きなように撮ったのがこの「やぎの冒険」なのだ。
ファーストカットはクレーンを使った非常にクオリティの高い映像だったのだが、--カットのラストのカメラをよけるのはご愛嬌だが--、その後、主人公の裕人(金城裕人)が自分の部屋で目覚め、アパートを出るまでのシークエンスは非常に素人っぽく、正に自主制作テイスト、意味ありげに登場する水槽のカットとかもちょっと長く、あぁやっぱりこの程度のレベルの作品なんだな、とわたしは正直思ったが、主人公がアパートを出たカットの高速道路のトラックで驚愕したのを皮切りに、バスに乗って那覇からヤンバルに向かうシークエンスは正直驚きの連続だった。
こいつできるな、と。
特に普天間基地や、基地誘致を公約にする政治家が登場するあたりについては、製作サイドは中学生の撮った作品だと考えると、外すべきではないか、と考えたらしいのだが、そのシーンも普段の沖縄を描きたい、と言う仲村颯悟の意向で残されたそうだ。
更に驚く事に、普天間基地前をバスが通る際、バスの中で主人公の裕人が眠っている、と言う演出まで意図的にしているのだ。
おそらく、本作はほとんどシーン順に撮影していると思うのだが、冒頭の裕人が目覚めるシークエンスから、どんどん巧くなっていくのが、わかるのが気持ちいい。
あぁ、本当に仲村颯悟が演出をしているのだ、と。
映像作家として、良い経験をしているのだな、と。
物語は、前述のように、那覇と言う都会からヤンバルの村に遊びに来た少年が、自分が世話をしたヤギを食べる文化に触れて・・・・、と言う物語である。
あらすじを一読すると、前田哲の「ブタがいた教室」のような傾向の作品かな、と思ったのだが、個人的な感覚としてはロブ・ライナーの「スタンド・バイ・ミー」のような印象を受けた。
命の尊さを問うのではなく、少年の成長を描いているのだろう、と。
それは特に、裕人と琉也と2人の少年、都合4人の少年たちが遊んでいる姿だとか、ヤギを追い、裕人と琉也が焚き火の側で一晩過ごすシークエンスから、そんな印象を受けたのだと思う。
物語はそれほど複雑な物語ではなく、ありきたりで当たり前の物語なのだが、驚くべきほどの暗喩に満ちた作品である。
つまり、行間がめちゃくちゃ多く、行間を楽しめる観客にとっては、--監督の意図を探ろうとする観客に取っては--、めちゃくちゃ楽しめる作品なのだ。
例えば、上映後のティーチインで、ファーストカットとラストカットの意味がわからなかった観客から質問が出た際の演出意図を明示した驚くべき回答や、ティーチイン後の立ち話の際の水槽の暗喩の軽い説明、--しかし彼は決して全てを語ってはいない--、そして普天間基地を通る際、意図的に眠っている裕人。
ちょっと余談だが、脚本で最初に驚いたのは、裕人の母親は朝食はおにぎりを食べなさい、としつこく言うのだが、なんと裕人はパンを食べるのである。
やるな、仲村颯悟。
と思って、笑いがこぼれた。
また余談だが、井手裕一(プロデューサー)は東京の観客のために沖縄の方言に字幕をつけるべきではないか、と進言したそうなのだが、仲村颯悟はそれを退けた。
曰く、「字幕をつけて字幕に集中したら、内容がわからなくなるでしょ」。
なんとも恐ろしい中学生だ。
実際のところ、わたしは沖縄の方言がほとんどわからないので、全編にかけて沖縄の方言、特に興奮したキャラクターが喋る言葉はほとんど何を言っているのか理解できなかった。
でも、伝わるのである。
セリフに頼らない作品は素晴らしいと思う。
もしかしたら、優秀な作品は登場人物が話している言葉を全く知らなくても観客に伝わるんじゃないかな、とも思った。
セリフでテーマを語る凡百の無能な監督に見せてやりたい。
来年1月の公開なので、これ以上は内容に触れないが、本作「やぎの冒険」は、その辺のテレビ局が製作に名を連ねている作品より全然面白い作品に仕上がっている。
恥ずかし気もなく自局でガンガンプロモーションを行い、つまらない映画なのにも関わらず、大傑作だとか大人気上映中とか言って、観客を騙して劇場に呼んでいる作品と比べると雲泥の差を感じる。
このような良質な作品は、きちんとプロモーションを行い、確実にヒットさせなければならない。
それはわたしたち映画を愛する人々の義務である。
映画の未来のために。
☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
今回の試写はマスコミ試写で、上映前に監督の仲村颯悟、プロデューサーの井手裕一の舞台挨拶、上映後にティーチインが行われた。
「やぎの冒険」
2011年1月8日公開:池袋テアトルダイヤ、キネカ大森、ブリリア ショートショート シアター
2月19日公開:テアトル梅田
監督:仲村颯悟
プロデューサー:井手裕一
協力プロデューサー・監督補:月夜見倭建
脚本:山田優樹、岸本司、月夜見倭建
撮影:新田昭仁
編集:森田祥悟
出演:上原宗司(金城裕人)、儀間盛真(大城琉也)、平良進(東江茂)、吉田妙子(東江ヨシ子)、城間やよい(金城裕子)、津波信一(儀間信二)、山城智二(バスの運転手)、仲座健太(東江裕志)、金城博之(良太)
「日本映画史上初、カントクは中学生!!」
冬休み、裕人(上原宗司)はひとりで那覇からバスに乗り、母親(城間やよい)の実家があるヤンバル(沖縄本島北部)・今帰仁村で過ごすことになった。
山と海に囲まれた緑深い集落、赤瓦の家屋、おばぁ(吉田妙子)とおじぃ(平良進)、口の悪い伯父(仲座健太)・・・。
街育ちの裕人だが、同じ歳の従兄弟・琉也(儀間盛真)やその友だちと遊びながら、12歳の感覚をもってぐんぐんとヤンバルの風景の中になじんでいく。
そんなある日、ヤギ小屋にいた2頭の子ヤギのうち1頭がいなくなっていることに気づく・・・。
先ずは本作「やぎの冒険」は大変素晴らしい作品に仕上がっていた。
監督は前述のように現役中学生の仲村颯悟。
わたしは自主制作映画をやっていたので、おそらく多くの人が思うように、本作「やぎの冒険」は、映画制作の実情は、まわりのスタッフが制作を行い、監督が中学生である事を作品の売りとしてプロモーションを行う、言わば監督はお飾り、と言うような作品だと思っていた。
しかしながら、上映後のティーチインでの質疑応答に伴う監督としての語り、そしてティーチイン後、気になった事を監督に直接ぶつけた監督の対応を聞いて驚いたのだが、仲村颯悟は恐るべき中学生だった。
その辺の映画監督でさえ、物語やテーマを恥ずかしげもなくセリフで語らせる時代なのに、それをせずに、婉曲な表現や暗喩で作品のテーマや物語を語る、と言う事を本作でやってのけているのだ。
仲村颯悟恐るべし。
しかし、それを成し遂げたのは、仲村颯悟だけの力ではなく、--もちろんクリエイターとしての力の話ではなく、大人の事情の話である--、井手裕一をはじめとした製作陣の対応が素晴らしかったのだと思う。
例えば、北野武が「その男、凶暴につき」を制作した際、お笑い業界から映画業界に殴り込みをかけた北野武を現場スタッフはバカにし、当初は北野武の思うように撮影がすすまなかったと聞く、しかし、本作「やぎの冒険」のスタッフは違っていた。
中学生の仲村颯悟を子供だと考えずに一人のクリエイターとして扱っていたのだ。
そして、そんな大人たちの中、脚本にしろ、撮影にしろ、編集にしろ、仲村颯悟が自分の好きなように撮ったのがこの「やぎの冒険」なのだ。
ファーストカットはクレーンを使った非常にクオリティの高い映像だったのだが、--カットのラストのカメラをよけるのはご愛嬌だが--、その後、主人公の裕人(金城裕人)が自分の部屋で目覚め、アパートを出るまでのシークエンスは非常に素人っぽく、正に自主制作テイスト、意味ありげに登場する水槽のカットとかもちょっと長く、あぁやっぱりこの程度のレベルの作品なんだな、とわたしは正直思ったが、主人公がアパートを出たカットの高速道路のトラックで驚愕したのを皮切りに、バスに乗って那覇からヤンバルに向かうシークエンスは正直驚きの連続だった。
こいつできるな、と。
特に普天間基地や、基地誘致を公約にする政治家が登場するあたりについては、製作サイドは中学生の撮った作品だと考えると、外すべきではないか、と考えたらしいのだが、そのシーンも普段の沖縄を描きたい、と言う仲村颯悟の意向で残されたそうだ。
更に驚く事に、普天間基地前をバスが通る際、バスの中で主人公の裕人が眠っている、と言う演出まで意図的にしているのだ。
おそらく、本作はほとんどシーン順に撮影していると思うのだが、冒頭の裕人が目覚めるシークエンスから、どんどん巧くなっていくのが、わかるのが気持ちいい。
あぁ、本当に仲村颯悟が演出をしているのだ、と。
映像作家として、良い経験をしているのだな、と。
物語は、前述のように、那覇と言う都会からヤンバルの村に遊びに来た少年が、自分が世話をしたヤギを食べる文化に触れて・・・・、と言う物語である。
あらすじを一読すると、前田哲の「ブタがいた教室」のような傾向の作品かな、と思ったのだが、個人的な感覚としてはロブ・ライナーの「スタンド・バイ・ミー」のような印象を受けた。
命の尊さを問うのではなく、少年の成長を描いているのだろう、と。
それは特に、裕人と琉也と2人の少年、都合4人の少年たちが遊んでいる姿だとか、ヤギを追い、裕人と琉也が焚き火の側で一晩過ごすシークエンスから、そんな印象を受けたのだと思う。
物語はそれほど複雑な物語ではなく、ありきたりで当たり前の物語なのだが、驚くべきほどの暗喩に満ちた作品である。
つまり、行間がめちゃくちゃ多く、行間を楽しめる観客にとっては、--監督の意図を探ろうとする観客に取っては--、めちゃくちゃ楽しめる作品なのだ。
例えば、上映後のティーチインで、ファーストカットとラストカットの意味がわからなかった観客から質問が出た際の演出意図を明示した驚くべき回答や、ティーチイン後の立ち話の際の水槽の暗喩の軽い説明、--しかし彼は決して全てを語ってはいない--、そして普天間基地を通る際、意図的に眠っている裕人。
ちょっと余談だが、脚本で最初に驚いたのは、裕人の母親は朝食はおにぎりを食べなさい、としつこく言うのだが、なんと裕人はパンを食べるのである。
やるな、仲村颯悟。
と思って、笑いがこぼれた。
また余談だが、井手裕一(プロデューサー)は東京の観客のために沖縄の方言に字幕をつけるべきではないか、と進言したそうなのだが、仲村颯悟はそれを退けた。
曰く、「字幕をつけて字幕に集中したら、内容がわからなくなるでしょ」。
なんとも恐ろしい中学生だ。
実際のところ、わたしは沖縄の方言がほとんどわからないので、全編にかけて沖縄の方言、特に興奮したキャラクターが喋る言葉はほとんど何を言っているのか理解できなかった。
でも、伝わるのである。
セリフに頼らない作品は素晴らしいと思う。
もしかしたら、優秀な作品は登場人物が話している言葉を全く知らなくても観客に伝わるんじゃないかな、とも思った。
セリフでテーマを語る凡百の無能な監督に見せてやりたい。
来年1月の公開なので、これ以上は内容に触れないが、本作「やぎの冒険」は、その辺のテレビ局が製作に名を連ねている作品より全然面白い作品に仕上がっている。
恥ずかし気もなく自局でガンガンプロモーションを行い、つまらない映画なのにも関わらず、大傑作だとか大人気上映中とか言って、観客を騙して劇場に呼んでいる作品と比べると雲泥の差を感じる。
このような良質な作品は、きちんとプロモーションを行い、確実にヒットさせなければならない。
それはわたしたち映画を愛する人々の義務である。
映画の未来のために。
☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
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