「プリンセス・トヨトミ」
万城目学の「プリンセス・トヨトミ」を読んだ。

帯には、
はっきりいって、万城目学の最高傑作でしょう。ちょっと、うなってしまった。---金原瑞人
と書いてあるのだが、いかがなものであろうか。

読後思ったのは、中盤までは非常に面白かったのだが、クライマックス部分の荒唐無稽さ、そしてラスト界隈の説明口調はいただけない。
読者の行間を読む能力を過小評価した説明は、はっきり言って興ざめであり、本来必要な読後の余韻すら感じさせない。
説明しないことを選ぶ、読者に行間を遊ばせる英断を期待したいと思う。

特に女性たちに関する部分は、p494の「当たり前やんか〜」ではじまるセリフ一個で、多くの読者は理解してくれると思う。
余談だけど、紹介したセリフは、本編中で最高の一言のひとつだと思う。

で、先ほど引用した金原瑞人の帯の惹句を考えると、万城目学の他の作品が「プリンセス・トヨトミ」より面白くない、と言う事になってしまうので、万城目学の他の作品のプロモーション的にはマイナスになってしまう印象を受けた。

余談だけど、つまらない映画を素晴らしい作品である、と言って大々的にプロモーションを行い、普段映画を劇場で観ない観客を劇場に呼び、「あんなに宣伝しているのにたいしたことなかったね、これだったら宣伝していない映画はもっとつまらないんだろうね」と観客が思ってしまうのと似ていると思った。

万城目学はこれからの作家なので、このようなプロモーション手法は避けていただければ幸いである。

さて、物語だが、根底に流れているのはフィリップ・マーロウもびっくりの「お笑いの街をゆく高潔な騎士たち」の物語である。
タイトルが「プリンセス・トヨトミ」なのでナイトの物語だとは思っていたのだが、ここまで徹底されるとは、と言うか、ナイトがうじゃうじゃ出て来たのには驚いてしまった。

とは言うものの、ワン・アイディアに頼ったメイン・プロットは若干リアリティに欠け、わたし的には非常に残念に思った。もう少し論理的な武装が欲しかったところである。
小さな嘘を積み重ね、ラストに大きな嘘をつくのならば、読者を最後まで騙して欲しいものであった。

一方、キャラクターの描き込みは圧倒的で、すべての登場人物が非常に魅力的である。

物語には否定てきな事を書いてしまったが、この物語の発想には驚くべきものがあり、楽しめる小説であることは否定できない。

機会があれば是非読んでいただき、今後の万城目学を応援していただきたいと思う。

コメント

tkr

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索