2007/06/20 東京新橋「ヤクルトホール」で「吉祥天女」の試写を観た。
当日は、監督:及川中、キャスト:鈴木杏、本仮屋ユイカ、勝地涼の舞台挨拶が行われた。
昭和45年春、金沢。
春日高校「能楽クラブ」に所属する、快活な女子高生、麻井由似子(本仮屋ユイカ)のクラスに、不思議な魅力を持つ転校生がやってくる。その少女の名は、叶小夜子(鈴木杏)。
5歳の頃に親戚の家に預けられて以来、この地を離れて暮らしていたが、12年ぶりに実家に戻ってきたのだ。
監督・脚本:及川中
原作:吉田秋生
撮影:柳田裕男
美術:中川理仁
編集:阿部亙英
照明:松隈信一
出演:鈴木杏(叶小夜子)、本仮屋ユイカ(麻井由似子)、勝地涼(遠野涼)、市川実日子(麻井鷹子)、深水元基(遠野暁)、津田寛治(小川雪政)、三谷昇(三木)、小倉一郎(叶和憲)、青山知可子(叶鈴子)、国分佐智子(叶浮子)、嶋田久作(遠野一郎)、江波杏子(叶あき)
わたしは吉田秋生の「吉祥天女」をリアルタイムで読んでいたくちであり、おそらく実家には現在でも「吉祥天女」が全巻初版で残っているはずだ。
とは言うものの、最初にお断りしたいのは、吉田秋生の原作がどうで、映画化された作品とここが違うとか、ここがおかしいとか言うつもりはあまりない。
漫画を原作とする映画、特に熱心なファンが多い漫画の映画化作品には、原作と違うとか、キャラクターのイメージが違う、と言った批判が出てくるのが当然だ。
そんなわたしは、原作と映画化作品の相違点をあげつらい批判することは、全くくだらないことだと思うし、映画と言うものは、原作とは一線を画し、単体の作品として評価すべきものだと思うのだ。
さて、本作「吉祥天女」についてだが、先ずは本作が、所謂アイドル映画のような方向性を持った作品ではなくく、俳優たちがきちんと演技をして作品について真摯に取り組んだ作品に仕上がっていることに喜びを感じた。
言ってるそばから原作との比較になってしまうが、鈴木杏が叶小夜子を演じる時点で、これはヤバイんじゃないの感が多々あったのだが、原作の小夜子のイメージとのギャップはともかく、鈴木杏による新たな叶小夜子というキャラクターの創出がされていた。
あとちょっとした余談だが、キャラクターの外見で興味深かったのは、勝地涼のルックスが、吉田秋生が描く遠野涼のルックスに酷似している点である。これは良いキャスティングをしたと思った。
監督の及川中は舞台挨拶の中で、遠野涼役として勝地涼のキャスティングが決まった際、「ラッキー!」とガッツポーズをしたとか言う話をしていたが、その辺は、原作と映画の小夜子のキャラクターの相違を帳消にするほど、遠野涼と勝地涼のルックスが似ていた、と言うことなのではないか、と思った。
キャストとしては、先ずは雪政を演じた津田寛治が最高だった。
津田寛治と言えば、最近では「模倣犯」(2002)での中居正広の相棒を演じた際の印象が強いため、「小さき勇者たち 〜ガメラ〜」(2006)で主人公の少年の父親を演っている津田寛治が、良い父親に見えるが、きっと悪い父親に違いない、と思わせる雰囲気が楽しかった。
今回の雪政役は、小夜子の腹黒い下僕と言う感じで、一応は叶家の書生と言う設定なのだが、小夜子の崇拝者と言うか、ボディガードと言うか、これまた圧倒的にすばらしいキャラクター設定がされていた。
悪いお姫様に仕える腹黒い騎士と言う感じだろうか。
または「犬神家の一族」(1976/2006)の珠世に対する猿蔵と言う感じ。
また、叶あきを演じた江波杏子がすばらしかった。
江波杏子は、東京電力・TEPCOの「オール電化」シリーズのCF(CM)で、鈴木京香の義母役で大人気だが、病弱なあき(小夜子の祖母)を見事に演じていた。
特に、病弱なあきのメイクがある意味尋常ではなく、女優とは思えぬ程、老い、やせ細ったスッピン振りが大変すばらしかった。
このメイクを見ても、本作「吉祥天女」のスタッフの真摯な態度が見えてくるし、江波杏子の役者魂が感じられる大変すばらしいシークエンスだった。
主演の鈴木杏は、丸々とした顔の健康そうな新たな小夜子像を創り上げている。
丸々とした顔は、おそらく能面のメタファーとして機能していると思うのだが、いかがだろうか。
また、前半部分の鈴木杏のアクション・シークエンスは良かったと思う。
髪振り乱しのアクションは、若干ハリウッド・テイストのカットでごまかす感じのアクションだったが、非常に楽しかった。
また、本仮屋ユイカ(麻井由似子役)が搭乗するシークエンスでは、作品のトーンが明らかに異なっている。
深刻で暗い物語の息抜きとして、またはコメディ・リリーフとしての役柄を担っているのだろう。
そして、由似子の姉・鷹子を演じた市川実日子は、物語の構成上は、探偵役を振られ、金田一耕助同様、蔵や図書館で、古文書や文献、新聞記事等を調べ、いろいろ推理したりしているのが非常に楽しかった。
小夜子との対決シークエンスでは、若干セリフ回しに問題を感じたが、個人的には市川実日子好きなので、非常に楽しめた。
ところで、元来「吉祥天女」と言う物語は一体何をしたかった物語だったのか、と言うと、おそらく少女漫画における昭和40年代を舞台とした横溝正史だったのではないか、と思える。
と言うのも、「吉祥天女」の物語は、昭和40年代の石川県金沢市を舞台に、二つの家(叶家と遠野家)の古くからの言い伝えや因習に満ちた、金と欲をめぐる愛憎劇なのだ。
と言う事もあり、本作「吉祥天女」は、市川崑の金田一耕助シリーズっぽい楽しみ方も出来る訳だ。
猿蔵(雪政)もいるしね。
そんな中、監督の及川中の演出は正統で、美術や背景から醸し出される世界観と、俳優達の頑張りに相まって、非常に良質の作品のような印象を観客に与えることに成功している。
事実、娯楽作品としては、わたしは大変楽しい時間を過ごすことが出来た。
しかしながら、「吉祥天女」と言うか、小夜子の行動の根底にある部分が希薄であり、若干の消化不良を感じてしまった。
とにかく「吉祥天女」は、所謂アイドル映画の枠を超えた、昭和40年代を舞台とした金田一耕助シリーズのようなテイストの作品である。
若干踏み込みが弱い気がするが、娯楽作品としては及第点をあげられる作品に仕上がっている。
関心があれば、是非劇場へ、と言う感じである。
☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
余談だが、小夜子役に栗山千明と言う選択肢はなかったのだろうか、と思った。
■人気blogランキング
当blog「徒然雑草」は「人気blogランキング」に登録しています。
参考になったら、クリック!(現在のランキングがわかります)
http://blog.with2.net/link.php?29604
当日は、監督:及川中、キャスト:鈴木杏、本仮屋ユイカ、勝地涼の舞台挨拶が行われた。
昭和45年春、金沢。
春日高校「能楽クラブ」に所属する、快活な女子高生、麻井由似子(本仮屋ユイカ)のクラスに、不思議な魅力を持つ転校生がやってくる。その少女の名は、叶小夜子(鈴木杏)。
5歳の頃に親戚の家に預けられて以来、この地を離れて暮らしていたが、12年ぶりに実家に戻ってきたのだ。
監督・脚本:及川中
原作:吉田秋生
撮影:柳田裕男
美術:中川理仁
編集:阿部亙英
照明:松隈信一
出演:鈴木杏(叶小夜子)、本仮屋ユイカ(麻井由似子)、勝地涼(遠野涼)、市川実日子(麻井鷹子)、深水元基(遠野暁)、津田寛治(小川雪政)、三谷昇(三木)、小倉一郎(叶和憲)、青山知可子(叶鈴子)、国分佐智子(叶浮子)、嶋田久作(遠野一郎)、江波杏子(叶あき)
わたしは吉田秋生の「吉祥天女」をリアルタイムで読んでいたくちであり、おそらく実家には現在でも「吉祥天女」が全巻初版で残っているはずだ。
とは言うものの、最初にお断りしたいのは、吉田秋生の原作がどうで、映画化された作品とここが違うとか、ここがおかしいとか言うつもりはあまりない。
漫画を原作とする映画、特に熱心なファンが多い漫画の映画化作品には、原作と違うとか、キャラクターのイメージが違う、と言った批判が出てくるのが当然だ。
そんなわたしは、原作と映画化作品の相違点をあげつらい批判することは、全くくだらないことだと思うし、映画と言うものは、原作とは一線を画し、単体の作品として評価すべきものだと思うのだ。
さて、本作「吉祥天女」についてだが、先ずは本作が、所謂アイドル映画のような方向性を持った作品ではなくく、俳優たちがきちんと演技をして作品について真摯に取り組んだ作品に仕上がっていることに喜びを感じた。
言ってるそばから原作との比較になってしまうが、鈴木杏が叶小夜子を演じる時点で、これはヤバイんじゃないの感が多々あったのだが、原作の小夜子のイメージとのギャップはともかく、鈴木杏による新たな叶小夜子というキャラクターの創出がされていた。
あとちょっとした余談だが、キャラクターの外見で興味深かったのは、勝地涼のルックスが、吉田秋生が描く遠野涼のルックスに酷似している点である。これは良いキャスティングをしたと思った。
監督の及川中は舞台挨拶の中で、遠野涼役として勝地涼のキャスティングが決まった際、「ラッキー!」とガッツポーズをしたとか言う話をしていたが、その辺は、原作と映画の小夜子のキャラクターの相違を帳消にするほど、遠野涼と勝地涼のルックスが似ていた、と言うことなのではないか、と思った。
キャストとしては、先ずは雪政を演じた津田寛治が最高だった。
津田寛治と言えば、最近では「模倣犯」(2002)での中居正広の相棒を演じた際の印象が強いため、「小さき勇者たち 〜ガメラ〜」(2006)で主人公の少年の父親を演っている津田寛治が、良い父親に見えるが、きっと悪い父親に違いない、と思わせる雰囲気が楽しかった。
今回の雪政役は、小夜子の腹黒い下僕と言う感じで、一応は叶家の書生と言う設定なのだが、小夜子の崇拝者と言うか、ボディガードと言うか、これまた圧倒的にすばらしいキャラクター設定がされていた。
悪いお姫様に仕える腹黒い騎士と言う感じだろうか。
または「犬神家の一族」(1976/2006)の珠世に対する猿蔵と言う感じ。
また、叶あきを演じた江波杏子がすばらしかった。
江波杏子は、東京電力・TEPCOの「オール電化」シリーズのCF(CM)で、鈴木京香の義母役で大人気だが、病弱なあき(小夜子の祖母)を見事に演じていた。
特に、病弱なあきのメイクがある意味尋常ではなく、女優とは思えぬ程、老い、やせ細ったスッピン振りが大変すばらしかった。
このメイクを見ても、本作「吉祥天女」のスタッフの真摯な態度が見えてくるし、江波杏子の役者魂が感じられる大変すばらしいシークエンスだった。
主演の鈴木杏は、丸々とした顔の健康そうな新たな小夜子像を創り上げている。
丸々とした顔は、おそらく能面のメタファーとして機能していると思うのだが、いかがだろうか。
また、前半部分の鈴木杏のアクション・シークエンスは良かったと思う。
髪振り乱しのアクションは、若干ハリウッド・テイストのカットでごまかす感じのアクションだったが、非常に楽しかった。
また、本仮屋ユイカ(麻井由似子役)が搭乗するシークエンスでは、作品のトーンが明らかに異なっている。
深刻で暗い物語の息抜きとして、またはコメディ・リリーフとしての役柄を担っているのだろう。
そして、由似子の姉・鷹子を演じた市川実日子は、物語の構成上は、探偵役を振られ、金田一耕助同様、蔵や図書館で、古文書や文献、新聞記事等を調べ、いろいろ推理したりしているのが非常に楽しかった。
小夜子との対決シークエンスでは、若干セリフ回しに問題を感じたが、個人的には市川実日子好きなので、非常に楽しめた。
ところで、元来「吉祥天女」と言う物語は一体何をしたかった物語だったのか、と言うと、おそらく少女漫画における昭和40年代を舞台とした横溝正史だったのではないか、と思える。
と言うのも、「吉祥天女」の物語は、昭和40年代の石川県金沢市を舞台に、二つの家(叶家と遠野家)の古くからの言い伝えや因習に満ちた、金と欲をめぐる愛憎劇なのだ。
と言う事もあり、本作「吉祥天女」は、市川崑の金田一耕助シリーズっぽい楽しみ方も出来る訳だ。
猿蔵(雪政)もいるしね。
そんな中、監督の及川中の演出は正統で、美術や背景から醸し出される世界観と、俳優達の頑張りに相まって、非常に良質の作品のような印象を観客に与えることに成功している。
事実、娯楽作品としては、わたしは大変楽しい時間を過ごすことが出来た。
しかしながら、「吉祥天女」と言うか、小夜子の行動の根底にある部分が希薄であり、若干の消化不良を感じてしまった。
とにかく「吉祥天女」は、所謂アイドル映画の枠を超えた、昭和40年代を舞台とした金田一耕助シリーズのようなテイストの作品である。
若干踏み込みが弱い気がするが、娯楽作品としては及第点をあげられる作品に仕上がっている。
関心があれば、是非劇場へ、と言う感じである。
☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
余談だが、小夜子役に栗山千明と言う選択肢はなかったのだろうか、と思った。
■人気blogランキング
当blog「徒然雑草」は「人気blogランキング」に登録しています。
参考になったら、クリック!(現在のランキングがわかります)
http://blog.with2.net/link.php?29604
コメント