2007/06/12 東京有楽町「よみうりホール」で「ゾディアック」の試写を観た。
監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ロバート・グレイスミス
脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト
撮影:ハリス・サヴィデス
プロダクションデザイン:ドナルド・グレアム・バート
衣装デザイン:ケイシー・ストーム
編集:アンガス・ウォール
音楽:デヴィッド・シャイア
出演:ジェイク・ギレンホール(ロバート・グレイスミス)、マーク・ラファロ(デイブ・トースキー刑事)、ロバート・ダウニー・Jr(ポール・エイブリー)、アンソニー・エドワーズ(ウィリアム・アームストロング刑事)、ブライアン・コックス(ベルビン・ベリー)、イライアス・コティーズ(ジャック・マラナックス巡査部長)、クロエ・セヴィニー(メラニー)、ドナル・ローグ(ケン・ナーロウ)、ジョン・キャロル・リンチ(アーサー・リー・アレン)、ダーモット・マローニー(マーティ・リー)
先ずは本作「ゾディアック」は大変面白い作品に仕上がっていた、と言える。
本作は、157分と言う長尺にも関わらず、全く長さを感じさせずに、観客の緊張感を持続させる演出・描写・演技・美術・音楽はすばらしいものだった。
個人的な印象で恐縮だが、本作の監督は「セブン」(1995)や「ファイト・クラブ」(1999)のデヴィッド・フィンチャーと言うこともあり、わたしは彼独特の映像スタイルや過激なバイオレンス描写に期待をしていた部分があったのだが、実際のところ本作は、過去の出来事や事実を過度な演出を避け、淡々と描くことに終始し、その作品としてのスタンスは、感覚的にはオリバー・ストーンの作品、特に「ドアーズ」(1991)と似ているような印象を受ける。
と言うのは、もしかすると、シーンの区切り毎に挿入される時と場所のテロップがそうさせているのかもしれないし、また1960年代後半を再現した衣装や美術が観客に与える印象が、オリバー・ストーンの1960年代を舞台とした作品群と似ているからなのか知らないが、そんな印象を受けた訳だ。
全米初の劇場型連続殺人事件と呼ばれるゾディアック事件については、既に各方面が伝えているので、割愛するが、本作は、ゾディアック事件の言わば渦中の人物であった風刺漫画家ロバート・グレイスミスが書いたノンフィクション小説を基にしている。
殺人事件の渦中の人物が書いた小説の映画化と言うと、前述のオリバー・ストーンが映画化した「JFK」(1991)が思い出される。
脚本はあくまでも控えめで、奇をてらったところがなく、淡々と事実を物語っていく。
演出も同様、抑制が利いた、地味ではあるが着実な演出が心地よい。
また音楽は、前半部分は60年代ポップスを基調とした朗らかで明るい感じの音楽が、物語が進むにつれ、陰鬱で沈鬱な音楽へと様変わりしていく。
美術や衣装は、かつてのアメリカを十二分に再現しており、撮影と照明は、夜のシーンが多い本作だが、統一された色彩感が感じられる良い仕事をしていた。
特に夜とか、雨のような暗い映像が、本作の物語と相まって、趣を醸し出していた。
美術、衣装、撮影、照明と相まって、ゾディアック事件の背景となる見事な世界観の構築に成功している。
ところで、脚本的に興味深かったのは、警察機構の縄張り意識とか、状況証拠とか物証に対する考え方が面白かった。
余談だが、本作「ゾディアック」の製作は、ワーナーとパラマウントの共同製作になっている。
経緯は知らないが、「タワーリング・インフェルノ」(1974)かと思った。
予算が足りなかったのだろうか。
キャストは、先ずはジェイク・ギレンホール(ロバート・グレイスミス役)だが、後半に向けてゾディアック事件に取り付かれ段々と周りを省みない状況になっていく姿が興味深く、後半部分では、以前の同僚であるロバート・ダウニー・Jr(ポール・エイブリー役)のルックスに似てくる始末である。
件のロバート・ダウニー・Jr(ポール・エイブリー役)は切れ者の記者から、メディアに取り付かれ落ちぶれていくまでを好演している。
そして、もうひとりの主役マーク・ラファロ(デイブ・トースキー刑事役)がこれまた良い。
また、有力な容疑者役のキャラクター設定も良かった。
ゾディアック事件は、サイコ・キラーのはしりであり、またプロファイリングのはしりでもあり、様々な映画や小説に影響を与えていることもあるのだが、その有力容疑者の現実味を帯びたキャラクター設定が楽しい。
有力容疑者は、例えばハンニバル・レクターのような極端で異常なキャラクターではなく、わたし達の身の回りによく居る人物として描かれているのだ。
人物だけではなく、登場人物の生活や生活環境が描かれており、キャククターの造形に深みを与えている。
バイオレンス描写は比較的控えめだが、その中でもタメがない突然のショック・シーンが何度も描かれ、ゾディアックの犯人像にひとつの印象を与えている。
とにかく本作「ゾディアック」は157分と言う長尺だが、劇場で観ていただきたいすばらしい作品に仕上がっている。
是非劇場へ足を運んでいただきたい。
☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
余談だが、字幕の翻訳に若干気になる点があった。
「サン・フランシスコ・クロニクル」を「クロニクル新聞社」と訳していたり、あと忘れてしまったが、何点かおかしな訳があったような気がする。
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監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ロバート・グレイスミス
脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト
撮影:ハリス・サヴィデス
プロダクションデザイン:ドナルド・グレアム・バート
衣装デザイン:ケイシー・ストーム
編集:アンガス・ウォール
音楽:デヴィッド・シャイア
出演:ジェイク・ギレンホール(ロバート・グレイスミス)、マーク・ラファロ(デイブ・トースキー刑事)、ロバート・ダウニー・Jr(ポール・エイブリー)、アンソニー・エドワーズ(ウィリアム・アームストロング刑事)、ブライアン・コックス(ベルビン・ベリー)、イライアス・コティーズ(ジャック・マラナックス巡査部長)、クロエ・セヴィニー(メラニー)、ドナル・ローグ(ケン・ナーロウ)、ジョン・キャロル・リンチ(アーサー・リー・アレン)、ダーモット・マローニー(マーティ・リー)
先ずは本作「ゾディアック」は大変面白い作品に仕上がっていた、と言える。
本作は、157分と言う長尺にも関わらず、全く長さを感じさせずに、観客の緊張感を持続させる演出・描写・演技・美術・音楽はすばらしいものだった。
個人的な印象で恐縮だが、本作の監督は「セブン」(1995)や「ファイト・クラブ」(1999)のデヴィッド・フィンチャーと言うこともあり、わたしは彼独特の映像スタイルや過激なバイオレンス描写に期待をしていた部分があったのだが、実際のところ本作は、過去の出来事や事実を過度な演出を避け、淡々と描くことに終始し、その作品としてのスタンスは、感覚的にはオリバー・ストーンの作品、特に「ドアーズ」(1991)と似ているような印象を受ける。
と言うのは、もしかすると、シーンの区切り毎に挿入される時と場所のテロップがそうさせているのかもしれないし、また1960年代後半を再現した衣装や美術が観客に与える印象が、オリバー・ストーンの1960年代を舞台とした作品群と似ているからなのか知らないが、そんな印象を受けた訳だ。
全米初の劇場型連続殺人事件と呼ばれるゾディアック事件については、既に各方面が伝えているので、割愛するが、本作は、ゾディアック事件の言わば渦中の人物であった風刺漫画家ロバート・グレイスミスが書いたノンフィクション小説を基にしている。
殺人事件の渦中の人物が書いた小説の映画化と言うと、前述のオリバー・ストーンが映画化した「JFK」(1991)が思い出される。
脚本はあくまでも控えめで、奇をてらったところがなく、淡々と事実を物語っていく。
演出も同様、抑制が利いた、地味ではあるが着実な演出が心地よい。
また音楽は、前半部分は60年代ポップスを基調とした朗らかで明るい感じの音楽が、物語が進むにつれ、陰鬱で沈鬱な音楽へと様変わりしていく。
美術や衣装は、かつてのアメリカを十二分に再現しており、撮影と照明は、夜のシーンが多い本作だが、統一された色彩感が感じられる良い仕事をしていた。
特に夜とか、雨のような暗い映像が、本作の物語と相まって、趣を醸し出していた。
美術、衣装、撮影、照明と相まって、ゾディアック事件の背景となる見事な世界観の構築に成功している。
ところで、脚本的に興味深かったのは、警察機構の縄張り意識とか、状況証拠とか物証に対する考え方が面白かった。
余談だが、本作「ゾディアック」の製作は、ワーナーとパラマウントの共同製作になっている。
経緯は知らないが、「タワーリング・インフェルノ」(1974)かと思った。
予算が足りなかったのだろうか。
キャストは、先ずはジェイク・ギレンホール(ロバート・グレイスミス役)だが、後半に向けてゾディアック事件に取り付かれ段々と周りを省みない状況になっていく姿が興味深く、後半部分では、以前の同僚であるロバート・ダウニー・Jr(ポール・エイブリー役)のルックスに似てくる始末である。
件のロバート・ダウニー・Jr(ポール・エイブリー役)は切れ者の記者から、メディアに取り付かれ落ちぶれていくまでを好演している。
そして、もうひとりの主役マーク・ラファロ(デイブ・トースキー刑事役)がこれまた良い。
また、有力な容疑者役のキャラクター設定も良かった。
ゾディアック事件は、サイコ・キラーのはしりであり、またプロファイリングのはしりでもあり、様々な映画や小説に影響を与えていることもあるのだが、その有力容疑者の現実味を帯びたキャラクター設定が楽しい。
有力容疑者は、例えばハンニバル・レクターのような極端で異常なキャラクターではなく、わたし達の身の回りによく居る人物として描かれているのだ。
人物だけではなく、登場人物の生活や生活環境が描かれており、キャククターの造形に深みを与えている。
バイオレンス描写は比較的控えめだが、その中でもタメがない突然のショック・シーンが何度も描かれ、ゾディアックの犯人像にひとつの印象を与えている。
とにかく本作「ゾディアック」は157分と言う長尺だが、劇場で観ていただきたいすばらしい作品に仕上がっている。
是非劇場へ足を運んでいただきたい。
☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
余談だが、字幕の翻訳に若干気になる点があった。
「サン・フランシスコ・クロニクル」を「クロニクル新聞社」と訳していたり、あと忘れてしまったが、何点かおかしな訳があったような気がする。
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