2007/06/06 東京板橋「ワーナーマイカル・シネマズ板橋」で「大日本人」を観た。

監督:松本人志     
企画:松本人志     
脚本:松本人志、高須光聖     
撮影:山本英夫     
音楽:テイ・トウワ     
出演:松本人志(大佐藤大)、竹内力(獣その二)、UA(小堀マネージャー)、神木隆之介(獣その五)、海原はるか(獣その一)、板尾創路(獣その四)

果たして、本作「大日本人」は松本人志の当初の目論見通りに仕上がっているのだろうか。疑問を感じる。
と言うのも、ラストのシークエンスのテイストがその直前までのテイストとあまりにも異なっているのだ。

そのラストのシークエンスまでの描写は、世襲制の巨大ヒーロー・大佐藤(松本人志)を題材にしたドキュメンタリーそのものである。

そのドキュメンタリー部分が描いているのは、もし本当に巨大ヒーローが存在したら、どうなるのか、を現実的にシミュレートしたものである。

そして、そのドキュメンタリー部分は非常に面白い(interestingの意/興味深いと言う意味)のだ。

と言うのも、本作のドキュメンタリー部分は、大佐藤と言う、現実的な巨大ヒーローの悲哀が見事に表現されているのだ。
これはホラー映画におけるモンスターの悲哀を描いた作品と非常に近しい印象を受ける。

松本人志演じる大佐藤は、他と異なるが故に迫害され疎まれるモンスターそのものなのだ。

電気で巨大化する大佐藤はフランケンシュタインのモンスターのメタファーなのだ。

そして、そのテイストは、ラストのシークエンス直前まで続くのだが、その素晴らしいシークエンスの繋がりにより観客の中に醸成されたなにがしかの情感を、ラストのシークエンスからエンド・クレジットにかけての描写により、見事に裏切ってしまっているのだ。

ラスト直前までの観客のエモーションを安易に裏切ってしまっているのだ。
それが意外性を描写しているのか、それとも意図的な確信犯的な裏切りなのか、疑問は深まる。

はたして、それは意図的な演出だったのか、それともCGIの製作期間の問題や、カンヌ出品や公開時期と言う大人の事情の問題からか、本来の意図とは異なるシークエンスを突貫工事で、取りあえず着地できる姿を模索し、妥協点として考えられる現行のウルトラC的な着地点をもとめたのではないか、と思えてならない。

出来うることならば、ラスト直前のテイストでラストまで描いた作品を観てみたいと思う。

しかしながら、もし仮に本作の現在の姿が、松本人志が真面目に映画と取り組んで出てきた結論だとすると、映画ファンとしては「フザケルな!」と言う気持ちがむくむくと頭をもたげてくる。

と言うのも、本作「大日本人」が大きな予算をかけて製作された、と言うことにより、日本国内において、少なくても一本の作品が、確実に製作されない、つまり予算が集まらず作品として日の目を見ない、と言うことになりかねないのだ。

日本映画界にとって、本作がプラスになるのか、マイナスになるのか、真面目に考えなければならない、とわたしは思った。

こんな作品に金を使うのならば、他の優秀な若手映像作家に金を出してあげて欲しい、とわたしは思う訳だ。
 
 
さて、話は変わり作品についてだが、先ずは前半から中盤、ラスト前までに掛けての美術が良い仕事をしていた。微に入り細に入り作り込まれ、考え尽くされた設定をもとに構築されたセットや、衣装、美術が大変素晴らしい。

また、本当に巨大ヒーローがいたら、どうなるのか、を考え抜いたであろう設定から構築された世界観が素晴らしい。
この方向性でぐいぐい押してきたら、良い作品になったのではないか、と思えてならない。繰り返しになるが、ラストのシークエンスについて、非常に残念な気持ちがする。

また、大佐藤と獣の戦いは、基本的には、CGIで描かれるのだが、先ずは戦いの時間を昼間に設定し、しかもよく見かける名所名跡(街角)で行ったことに、素直に拍手を送りたい。

脚本は、おそらく松本人志に演技スタイルの問題もあり、インタビュー形式と言うか、ドキュメンタリー形式にしたのではないか、と思えるが、非常に効果的で、良い印象を持った。

と言うのも、インタピューに答える部分は良いのだが、普通のセリフ、例えば何度か出てくる「防衛庁の命によって・・・・」と言うセリフがまるでだめなのだ。

まあ、とにかく、本作「大日本人」は観るべきところはあるとは思うが、全ての人に勧められる作品ではないし、熱心な映画ファンにはあまり勧められないと思う。

とは言う物の、話題作なので、観たい人は気にせず観たらどうかと思う。
 
 
あと余談だけど、政治的に観るとラストのシークエンスが興味深いですね。

隣国から日本にやって来た獣(「ヘルボーイ」の子供みたいな奴)を見て逃げ回る大佐藤を尻目に、アメリカからやって来たヒーロー5人組が獣をボコボコにする、と言う日米安全保障条約とか日米地位協定のお話しになっているということですな。

☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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コメント

underhand54
underhand38
2007年6月6日21:21

クレジットに板尾創路の名前がありますね。
「空中庭園」でもそうでしたが、出てきただけで笑いが起きる彼独特の存在感をこの映画でも発揮しているのでしょうか?
好きな芸人だけに気になります。

tkr
tkr
2007年6月8日0:04

「空中庭園」は良かったですね。
「空中庭園」って言わば「バベル」ですよね。

さて、板尾創路ですが、松本人志は出てきただけで笑いが起こるキャストを嫌い、そういったキャストを人間役では使っていません。

板尾さんは、と言う訳で、人間以外の「獣」と言う言わば怪獣役を演じています。
まあいい味出していると思いますが、いつものまんまですよ。
tkr

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