「リンガー!替え玉★選手権」
2006/11/25 東京新宿「新宿ミラノ1」で開催されていた「東京国際シネシティフェスティバル2006」のオールナイト企画「映画における表現の自由を考える夕べ」で上映された「リンガー!替え玉★選手権」(上映当時のタイトルは「The Ringer(原題)」)

人のいいスティーヴ・バーカー(ジョニー・ノックスヴィル)はこれまでありふれたデスクワークに甘んじてきたが、ある時ついに意を決して上司に昇進を願い出る。

しかし、彼の昇進と引き換えに、長年管理人として働いてきたスタヴィ(ルイス・アヴァロス)がクビになってしまう。

仕事がなくなったスタヴィを個人的に雇ったスティーヴだったが、スタヴィは芝刈り作業中に指を失う事故に見舞われてしまう。

責任を感じたスティーヴは、スタヴィの指を救うために必要な大金を得る方法を、お調子者の叔父ゲイリー(ブライアン・コックス)に相談すると、彼は想像を絶する卑劣で最低最悪のとてつもなくクレイジーなアイディアを思いつく。

それは、かつて陸上のスターだったスティーヴが、来たるスペシャルオリンピックスの大会に“替え玉”として出場し、五種競技で6度の金メダルに輝く史上最高のチャンピオン、ジミー(レオナード・フラワーズ)をうまく破れば、自分はジミーが敗北する方に賭けているので大儲けができるというものだった。

監督:バリー・W・ブラウスタイン
製作:ボビー・ファレリー、ピーター・ファレリー
脚本:リッキー・ブリット
出演:ジョニー・ノックスヴィル(スティーヴ・バーカー/ジェフィ)、ブライアン・コックス(ゲイリー・バーカー)、キャサリン・ハイグル(リン)、ジェド・リース(グレン)、ビル・コット(トーマス)、エドワード・バーバネル(ビリー)、レナード・アール・ハウズ(マーク)、ジェフリー・エアンド(ウィンストン)、ジョン・テイラー(ルディ)、ルイス・アヴァロス(スタヴィ)、レナード・フラワーズ(ジミー)、ゼン・ゲスナー(デヴィッド)

先ずは『スペシャルオリンピックス』とは何ぞやと言う話だが、『認定NPO法人 スペシャルオリンピックス日本』のオフィシャル・サイトによると、次の通り説明されている。

スペシャルオリンピックス(SO)とは、知的発達障害のある人たちに様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を、年間を通じ提供している国際的なスポーツ組織です。SOは非営利活動で、運営はボランティアと善意の寄付によっておこなわれています。SOでは、これらのスポーツ活動に参加する知的発達障害のある人たちをアスリートと呼んでいます。

『認定NPO法人 スペシャルオリンピックス日本』
http://www.son.or.jp/

そして本作「リンガー!替え玉★選手権」のプロットは、スティーヴ(ジョニー・ノックスヴィル)が、芝刈り作業中に指を切り落としてしまったスタヴィ(ルイス・アヴァロス)の指を救う金を得るため、知的発達障害者になりすまし、『スペシャルオリンピックス』の大会に出場する、と言うとんでもないプロットを採用した作品である。

本作の監督はエディ・マーフィ主演のコメディの脚本を何本か書いているバリー・W・ブラウスタインなのだが、注目すべきは本作の制作に名を連ねるボビー・ファレリーとピーター・ファレリー(ファレリー兄弟)の存在だと言わざるを得ない。

「メリーに首ったけ」(2001)で一躍メジャー監督の仲間入りをしたファレリー兄弟だが、彼等の作品には必ずといって良いほど、障害者、老人、子供、動物等の社会的弱者が登場し、笑いのネタにされている。

最新作の「2番目のキス」(2005)はともかく、前作の「ふたりにクギづけ」(2003)は特に顕著で、なにしろ「ふたりにクギづけ」は腰のところで繋がった結合双生児を題材にしたコメディなのだ。

「ふたりにクギづけ」
http://diarynote.jp/d/29346/20041129.html

そして興味深いのは、彼等ファレリー兄弟の作品で描かれている(例えば)障害者は、ただ単に障害と言う個性を持ったただの人間でしかないのだ。
このあたりも「ふたりにクギづけ」に顕著である。

本作「リンガー!替え玉★選手権」は、知的発達障害者になりすまし『スペシャルオリンピックス』の大会に出場する、と言うプロットを持つ作品なのだが、ファレリー兄弟の視点では、例えば、男性が女性の振りをして『オリンピック』に出場する、と言うようなプロットと何ら変わりはないのである。
または、「トッツィー」(1982)みたいな作品である、と言うような感じ。

そして障害者を題材にするファレリー兄弟のもうひとつの視点は、障害者には当然ながら良い人も居れば悪い人も居る、と言う点であろう。

ところで、現在においても、国内外を問わず多くのメディアは、(例えば)障害者を、良い人として、ピュアで純粋で正直な存在として画一的に描きがちである。
特にフィクションに登場する障害者は、どの作品をみてもピュアで正直な存在としてキャラクター設定がされている。

そのあたりについては、「おそいひと」を参照して下さい。
http://diarynote.jp/d/29346/20041121.html
(障害者を殺人者として描いた作品)

そんな中、本作「リンガー!替え玉★選手権」は、健常者が知的発達障害の振りをして『スペシャルオリンピックス』大会に出場する、と言う一見とんでもないプロットを採用している訳だ。

こんなプロットを持つ作品を企画する方も企画する方だと思うが、出資する方も出資する方である。
なにしろ本作は、一歩間違えば、社会的に大々的な批判を食らってしまうようなリスクを持った作品になりかねないのだ。

と言うのも、本作は、多くの未見の観客にとって、健常者が知的発達障害の振りをして『スペシャルオリンピックス』大会に出場する、と言うプロットを基本プロットとして採用している、と言うことから、居心地の悪い、モラルの低い人向けの作品ではないか、この作品を観に行くことにより、自分がモラルの低い人間だと思われてしまうのではないか、と言う観点から、敬遠されがちな作品だと思う。

しかしながら、本作の作品自体は大変面白く、非常に良心的で誰にでもオススメできる娯楽作品に仕上がっている。

ついでにカタルシスまで観客に与えてしまっているし、障害者を考える契機にもなる、と言う一粒で二度も三度も美味しい作品に仕上がっているのだ。

キャストは、やはりジョニー・ノックスヴィルの怪演がすばらしい。特に知的発達障害者に扮する部分が凄いと思った。

ただ単に知的発達障害者に扮するだけではなく、実は健常者で良心の呵責に耐えていると言う複雑な部分が非常に興味深かった。

おそらく本作「リンガー!替え玉★選手権」は、観客はあまり入らないと思うのだが、出来ることなら、多くの人々に足を運んでいただきたい良質な作品だと思う。

☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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