「パプリカ」

2006年12月21日 映画
2006/10/21 東京六本木「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」で開催されていた「第19回東京国際映画祭」で「パプリカ」を観た。

千葉敦子(林原めぐみ)は精神医療総合研究所に勤める若きサイコ・セラピスト。彼女が携わっているのは、最先端のテクノロジーを精神医療の臨床に応用する研究だ。クールな美貌と鋭い知性を兼ね備えた彼女は、セラピストとしての腕も優秀で、所長の島寅太郎(堀勝之祐)も彼女には厚い信頼を寄せている。

敦子は時折、島所長から極秘の依頼を受け、開発されたサイコセラピー機器を用いてクライアントの治療を行うことがある。そんな時、敦子は普段とは外見も性格もまったく別人のような少女”パプリカ”としてクライアントの夢の中に具象化する。それは他人の夢の中に入り込み、心の秘密を探り出す「夢探偵」のコードネームだ。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督・脚本:今敏
原作:筒井康隆
アニメーション制作:マッドハウス
声の出演:林原めぐみ(パプリカ/千葉敦子)、古谷徹(時田浩作)、江守徹(乾精次郎)、堀勝之祐(島寅太郎)、大塚明夫(粉川利美)、山寺宏一(小山内守雄)、田中秀幸(あいつ)、こおろぎさとみ(日本人形)、阪口大助(氷室啓)、岩田光央(津村保志)、愛河里花子(柿本信枝)、太田真一郎(レポーター)、ふくまつ進紗(奇術師)、川瀬晶子(ウェイトレス)、泉久実子(アナウンス)、勝杏里(研究員)、宮下栄治(所員)、三戸耕三(ピエロ)、筒井康隆(玖珂)

先ず、本作「パプリカ」は大変すばらしい作品に仕上がっていた。

微に入り細に入りきめ細かくきちんと演出されているアニメーション作品を観るのは大変気持ちがよく、かつ非常に有意義で、非常に感動的な経験である。

本編が描いている物語の内容ではなく、アニメーション作品が持つ、その特有の「動き」だけで、その「躍動感」だけで、その圧倒的な映像体験だけで泣けてしまう。

先ずは、冒頭からオープニング・クレジットにかけての演出と躍動感だけで泣けてしまう。

オープニング・クレジット、街並みの中を様々な媒体を利用して駆け抜けるパプリカ、その実体と虚像は街路に存在する様々な物体を巧みに利用し、その物体から物体へと渡り歩く姿にわたしは圧倒されてしまう。

その圧倒的なイメージの奔流に、わたしはなすすべがない。

ところで余談だが、今敏は結構不遇なアニメーション作家だと思う。
と言うのも、今敏は「PERFECT BLUE」(1998)、「千年女優」(2001)、「東京ゴッドファーザーズ」(2003)と、圧倒的なクオリティで全くハズレがない、言わばエポック・メイキング的な作品群をコンスタントに製作し続けているアニメーション作家なのだが、残念ながら一般の認知度は低いような印象を受ける。

今敏と言う映像作家は、もっともっと評価されるべき映像作家だと思うぞ。

彼の作品はアニメーション作品ならではの圧倒的な躍動感、緻密なレイアウト、すばらしい脚本、的確でいながら大胆かつ細心の意識が注ぎ込まれた強烈な演出が楽しめる。

そして、誤解を恐れず言うならば、彼の作品は、「アニメーション映画」と言うカテゴリーではなく、「映画」と言うカテゴリーで語るべきクオリティを持った作品だといえる、と思う。

巨大メディアとコラボレーションしたようなつまらないアニメーション作品なんかを見ている場合ではない、と言わざるを得ないのだ。

さて本作の物語だが、複雑なプロットと圧倒的な描写を取り除くと非常にシンプルで、働き過ぎでやり手のキャリア・ウーマンが本来の自分を取り戻すと言う非常にシンプルな物語である。

そしてその本来の自分を取り戻す女性が望んでいたものは、外見や周りの目に左右されない根本的、本質的なものなのだ。

言わば本作は中年女性を主人公としたラブ・ストーリーみたいなものだと言えるのではないだろうか。

そして物語の根本にあるコンセプトは「他人と一緒に同じ夢を観る」ことへの圧倒的な憧憬なのだ。そのピュアでたいした理由のない漠然とした思いは大変すばらしく、たとえるならば「カイロの紫のバラ」(1985)でウディ・アレンが描いた物語のような、寂寞とした憧憬のようなものが感じられる。

また、敦子(林原めぐみ)に治療を受ける粉川刑事(大塚明夫)の失われた過去の記憶、青年時代のひっかかり、が映画ファンとしてまた嬉しい。

そしてメインのプロットは、他人の夢の中に入ることが出来るサイコセラピー機器が盗まれてしまうことによるサスペンス仕立てでいながら、ちょっと個性的な人々の夢の中の圧倒的な描写と、過去の出来事によるなんらかのひっかかりと、抑制されてしまっている自我の解放を見事に描いている。

圧倒的な夢の中の描写のビジュアル・イメージは大友克洋の借用気味な部分があるが、その他は非常にすばらしく、日本アニメーション映画の2006年のトリを飾る作品だと、少しの間思っていた。

と言うのも「パプリカ」を観たのが2006/10/21(「第19回東京国際映画祭」)で、その後わたしは、2006/10/24に「鉄コン筋クリート」を観てしまっているのだ。

「パプリカ」は、正に三日天下だったのだ。
もちろん個人的にだけど。

とは言いながら、「パプリカ」は、最高にすばらしい日本映画の一本である。是非劇場で観て、体験していただきたい。

☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

当日は、監督:今敏、原作:筒井康隆、声の出演:古谷徹を迎えたジャパン・プレミアだった。
客席には、アニメーション作家の伊藤有壱が居た。

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