2006/12/16 東京有楽町「有楽座」で「犬神家の一族」を観た。
信州の犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛(仲代達矢)が永眠した。
遺言状を管理する法律事務所の若林(嶋田豪)は、残された遺言状が一族の不吉な争いの元凶となることを予期し、私立探偵・金田一耕助(石坂浩二)に調査を依頼。しかし若林は、金田一と会う直前に、何者かに殺されてしまうが・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
監督:市川崑
プロデューサー:一瀬隆重
原作:横溝正史「犬神家の一族」(角川文庫刊)
脚本:市川崑、日高真也、長田紀生
音楽:谷川賢作
テーマ曲:大野雄二
出演:石坂浩二(金田一耕助)、松嶋菜々子(野々宮珠世)、尾上菊之助(犬神佐清)、富司純子(犬神松子)、松坂慶子(犬神竹子)、萬田久子(犬神梅子)、葛山信吾(犬神佐武)、池内万作(犬神佐智)、螢雪次朗(犬神幸吉)、永澤俊矢(猿蔵)、石倉三郎(藤崎鑑識課員)、尾藤イサオ(仙波刑事)、嶋田豪(若林久男)、三條美紀(お園)、松本美奈子(青沼菊乃)、林家木久蔵(柏屋の九平)、三谷幸喜(那須ホテルの主人)、深田恭子(はる)、奥菜恵(犬神小夜子)、岸部一徳(犬神寅之助)、大滝秀治(大山神官)、草笛光子(琴の師匠)、中村玉緒(柏屋の女房)、加藤武(等々力署長)、中村敦夫(古館弁護士)、仲代達矢(犬神佐兵衛)
本作「犬神家の一族」は言わずと知れた、市川崑の1976年版「犬神家の一族」のリメイクである。
リメイクと言ってもそんじょそこらのリメイクではなく、脚本もほぼ76年版と同じだし、カット割やアングルまで76年版を踏襲している。
噂では、市川崑は76年版のビデオをモニターでみながら演出していたと言う話だが、その辺の事情を仮に本当だとしたら、若干の疑問を感じてしまう。
と考えた場合、果たして本当にリメイクの必要性があったのか?
と言う大きな疑問が湧いてくる。
どうせなら、市川崑が昔からやりたがっていたと言う噂がある「本陣殺人事件」あたりを映画化して欲しかった、と言うのは贅沢だろうか。
とは言うものの、本作「犬神家の一族」は普通に面白い作品に仕上がっている。
しかし、作品として考えた場合、残念ながら76年版に及ばない、と言わざるを得ない。
石坂浩二の金田一耕助については、誰もが見たいと思っていただけに、若干の老け顔に目をつぶるとしても、松子役の富司純子は残念ながら力不足だと言わざるを得ない。
良い役者さんだけに、非常に残念である。
松子のキャラクターの持つ、異様でいて美しい「華」が感じられないのだ。
本作において、結果的に草笛光子をキャスティングすることができるのであれば、76年版で梅子を演じた草笛光子を松子にキャスティングしても面白かったのではないか、と思えてならない。
その場合、琴の師匠は岸田今日子でお願いします。
話は戻るが、76年版の高峰三枝子はあまりにも偉大だったのだ。
と言うのも、珠世役の松嶋菜々子や、はる役の深田恭子らは好演していると思うのだが、肝心の三姉妹の女優陣が貧弱に思えてならない、と言う印象を受ける。
俳優陣も概ね問題ないと思うのだが、76年版のあおい輝彦と比較して尾上菊之助はやはり微妙な印象を受ける。
ところで、本作のテーマ曲は大野雄二、音楽は谷川賢作なのだが、あいかわらず「ルパン三世」指数が高かった。
と言うか、実際には「犬神家の一族」の方が先で、「ルパン三世」が後なのだが、ジャ〜ンとか言う驚いたときのSEとか、サントラのアレンジが「ルパン三世」に酷似しているのだ。
そのせいなのかどうか、「犬神家の一族」はなんと「カリオストロの城」(1979)に見えてきてしまうのだ。
事実わたしは、金田一が去った後、等々力警部が珠世に「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」とか言うんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてしまった。
あと気になったのは、過去の因縁が76年版と比較して若干薄めに感じられた。そのため仲代達矢の出番が少なかったのではないか、と思った。折角のキャスティングなので、非常にもったいないと思った。まあ仲代の年齢的な問題もあるのかも知れないがね。
76年版「犬神家の一族」という作品は、わたしの映画人生の中で、タイトル・デザインのすばらしさと、編集(細かいカット割)の意味や、セリフの途中でカットを切り替える手法、静止画をつなぐ手法等に感動し、お子様ながら、市川崑ってすげえな、と思った作品で、作家性というものをはじめて知った作品の一本だと思う。
当時お子様だったわたしは、監督が誰であろうと、演出がどうだとか、描写がどうだではなく、ただ物語の筋だけを追うお子様だった訳だ。
そんな作品だっただけに、今回のリメイクには非常に期待していたのだが、途中聞こえてくるメイキング上のお話から、良くも悪くも一瀬隆重の意向が大きく影を落としているような印象を否定できない。
また印象的だったのは、俳優全ての台詞回しである。
セリフ回しがはっきりしすぎと言うか、全ての俳優のセリフが舞台調で、明確に発声されている。
あいまいな発声が存在しないのだ。こんな発声だと「獄門島」は撮れないぞ。
そのため、作品のテンポが非常にスローモーに感じてしまう。
雰囲気を出すためと言うよりは、セリフを明瞭に発声することに腐心しているような印象を受けてしまう。
あと撮影(五十畑幸勇)は76年版と比較してフィックスが多く、ハンディカメラのグラグラ映像が激減している。
美術(櫻木晶)は、VFXのせいかも知れないが、良い仕事をしていると思う。
この櫻木晶のフィルモグラフィーは、怪獣映画が多いだけに、若干の不安を感じてしまうのだが、非常に良い世界観の構築に成功している。
なぜか、照明(斉藤薫)も監督補佐(宮村敏正)も怪獣映画ばかりのフィルモグラフィだ。
編集(長田千鶴子)は76年版をはじめとして、多くの金田一作品を編集しているのだが、本作のセリフ回しはともかく、細かいカット割の編集は良かったと思う。
ぐだぐだとお話してしまったが、本作「犬神家の一族」は映画ファン必見の作品ではある。
本作は、本作を市川崑のはじめての作品として観る若い映画ファンにとって、市川崑のすばらしいフィルモグラフィや、かつての角川映画、そしてもちろん石坂浩二の金田一耕助作品への良い道しるべになることを切に願う。
出来ることならば、市川崑に金田一耕助作品の新作を再度監督して欲しいと思う次第なのだ。
☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
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信州の犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛(仲代達矢)が永眠した。
遺言状を管理する法律事務所の若林(嶋田豪)は、残された遺言状が一族の不吉な争いの元凶となることを予期し、私立探偵・金田一耕助(石坂浩二)に調査を依頼。しかし若林は、金田一と会う直前に、何者かに殺されてしまうが・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
監督:市川崑
プロデューサー:一瀬隆重
原作:横溝正史「犬神家の一族」(角川文庫刊)
脚本:市川崑、日高真也、長田紀生
音楽:谷川賢作
テーマ曲:大野雄二
出演:石坂浩二(金田一耕助)、松嶋菜々子(野々宮珠世)、尾上菊之助(犬神佐清)、富司純子(犬神松子)、松坂慶子(犬神竹子)、萬田久子(犬神梅子)、葛山信吾(犬神佐武)、池内万作(犬神佐智)、螢雪次朗(犬神幸吉)、永澤俊矢(猿蔵)、石倉三郎(藤崎鑑識課員)、尾藤イサオ(仙波刑事)、嶋田豪(若林久男)、三條美紀(お園)、松本美奈子(青沼菊乃)、林家木久蔵(柏屋の九平)、三谷幸喜(那須ホテルの主人)、深田恭子(はる)、奥菜恵(犬神小夜子)、岸部一徳(犬神寅之助)、大滝秀治(大山神官)、草笛光子(琴の師匠)、中村玉緒(柏屋の女房)、加藤武(等々力署長)、中村敦夫(古館弁護士)、仲代達矢(犬神佐兵衛)
本作「犬神家の一族」は言わずと知れた、市川崑の1976年版「犬神家の一族」のリメイクである。
リメイクと言ってもそんじょそこらのリメイクではなく、脚本もほぼ76年版と同じだし、カット割やアングルまで76年版を踏襲している。
噂では、市川崑は76年版のビデオをモニターでみながら演出していたと言う話だが、その辺の事情を仮に本当だとしたら、若干の疑問を感じてしまう。
と考えた場合、果たして本当にリメイクの必要性があったのか?
と言う大きな疑問が湧いてくる。
どうせなら、市川崑が昔からやりたがっていたと言う噂がある「本陣殺人事件」あたりを映画化して欲しかった、と言うのは贅沢だろうか。
とは言うものの、本作「犬神家の一族」は普通に面白い作品に仕上がっている。
しかし、作品として考えた場合、残念ながら76年版に及ばない、と言わざるを得ない。
石坂浩二の金田一耕助については、誰もが見たいと思っていただけに、若干の老け顔に目をつぶるとしても、松子役の富司純子は残念ながら力不足だと言わざるを得ない。
良い役者さんだけに、非常に残念である。
松子のキャラクターの持つ、異様でいて美しい「華」が感じられないのだ。
本作において、結果的に草笛光子をキャスティングすることができるのであれば、76年版で梅子を演じた草笛光子を松子にキャスティングしても面白かったのではないか、と思えてならない。
その場合、琴の師匠は岸田今日子でお願いします。
話は戻るが、76年版の高峰三枝子はあまりにも偉大だったのだ。
と言うのも、珠世役の松嶋菜々子や、はる役の深田恭子らは好演していると思うのだが、肝心の三姉妹の女優陣が貧弱に思えてならない、と言う印象を受ける。
俳優陣も概ね問題ないと思うのだが、76年版のあおい輝彦と比較して尾上菊之助はやはり微妙な印象を受ける。
ところで、本作のテーマ曲は大野雄二、音楽は谷川賢作なのだが、あいかわらず「ルパン三世」指数が高かった。
と言うか、実際には「犬神家の一族」の方が先で、「ルパン三世」が後なのだが、ジャ〜ンとか言う驚いたときのSEとか、サントラのアレンジが「ルパン三世」に酷似しているのだ。
そのせいなのかどうか、「犬神家の一族」はなんと「カリオストロの城」(1979)に見えてきてしまうのだ。
事実わたしは、金田一が去った後、等々力警部が珠世に「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」とか言うんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてしまった。
あと気になったのは、過去の因縁が76年版と比較して若干薄めに感じられた。そのため仲代達矢の出番が少なかったのではないか、と思った。折角のキャスティングなので、非常にもったいないと思った。まあ仲代の年齢的な問題もあるのかも知れないがね。
76年版「犬神家の一族」という作品は、わたしの映画人生の中で、タイトル・デザインのすばらしさと、編集(細かいカット割)の意味や、セリフの途中でカットを切り替える手法、静止画をつなぐ手法等に感動し、お子様ながら、市川崑ってすげえな、と思った作品で、作家性というものをはじめて知った作品の一本だと思う。
当時お子様だったわたしは、監督が誰であろうと、演出がどうだとか、描写がどうだではなく、ただ物語の筋だけを追うお子様だった訳だ。
そんな作品だっただけに、今回のリメイクには非常に期待していたのだが、途中聞こえてくるメイキング上のお話から、良くも悪くも一瀬隆重の意向が大きく影を落としているような印象を否定できない。
また印象的だったのは、俳優全ての台詞回しである。
セリフ回しがはっきりしすぎと言うか、全ての俳優のセリフが舞台調で、明確に発声されている。
あいまいな発声が存在しないのだ。こんな発声だと「獄門島」は撮れないぞ。
そのため、作品のテンポが非常にスローモーに感じてしまう。
雰囲気を出すためと言うよりは、セリフを明瞭に発声することに腐心しているような印象を受けてしまう。
あと撮影(五十畑幸勇)は76年版と比較してフィックスが多く、ハンディカメラのグラグラ映像が激減している。
美術(櫻木晶)は、VFXのせいかも知れないが、良い仕事をしていると思う。
この櫻木晶のフィルモグラフィーは、怪獣映画が多いだけに、若干の不安を感じてしまうのだが、非常に良い世界観の構築に成功している。
なぜか、照明(斉藤薫)も監督補佐(宮村敏正)も怪獣映画ばかりのフィルモグラフィだ。
編集(長田千鶴子)は76年版をはじめとして、多くの金田一作品を編集しているのだが、本作のセリフ回しはともかく、細かいカット割の編集は良かったと思う。
ぐだぐだとお話してしまったが、本作「犬神家の一族」は映画ファン必見の作品ではある。
本作は、本作を市川崑のはじめての作品として観る若い映画ファンにとって、市川崑のすばらしいフィルモグラフィや、かつての角川映画、そしてもちろん石坂浩二の金田一耕助作品への良い道しるべになることを切に願う。
出来ることならば、市川崑に金田一耕助作品の新作を再度監督して欲しいと思う次第なのだ。
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コメント
冨司純子は役不足ではなく荷が重いでは ??
取り直す必要性が云々は、ある評論家が
同じような事書いていました、本当だったら嫌だなあ
と思っていましたが、やはりそうなんだ、残念。
早速「力不足」に直しました。
とは言うものの、良い映画ではあると思います。
機械があれば是非観ていただければ、と思います。