2006/10/23 東京六本木「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」で開催されていた「第19回東京国際映画祭」の特別招待作品「虹の女神/Rainbow Song」を観た。

当日は、監督:熊澤尚人、製作:岩井俊二、出演:市原隼人、主題歌:種ともこ等の舞台挨拶及び種ともこのミニ・ライヴ付きの上映だった。

どこにでもいる普通の大学生、岸田智也(市原隼人)と佐藤あおい(上野樹里)。
その出会いは奇妙な縁だった。智也は、あおいの友達をストーカーのように追いかけまわしていたのだ。素直で、どこか憎めない智也を、あおいは自分が監督をする自主映画の制作に迎え入れるが・・・・。(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:熊澤尚人
製作:岩井俊二
原案・脚本:桜井亜美
出演:市原隼人(岸田智也)、上野樹里(佐藤あおい)、蒼井優(佐藤かな)、佐々木蔵之介(樋口慎祐)、相田翔子(森川千鶴)、酒井若菜(麻倉今日子)、小日向文世(佐藤安二郎)、鈴木亜美(久保サユミ)、尾上寛之(服部次郎)、田中圭(尾形学人)

先ずは本作「虹の女神/Rainbow Song」は大変すばらしい作品に仕上がっていた。
出来ることならば、本作のような良質の作品こそ、きちんとプロモーションを行い、きちんとヒットさせなければならないと切実に思う。

脚本は、生きているキャラクターを見事に描いていた。
登場人物の現在を詳細に描くことにより、その登場人物の過去を観客に感じさせることに成功しているのだ。

もちろん脚本は、智也(市原隼人)やあおい(上野樹里)の学生時代(過去)を描いてもいるのだが、例えば現在の時制にしか登場しない人物でさえ、過去を持った、生きたキャラクターとして描かれている。

それらの生きたキャラクターで物語を構築した時点で、彼等の過去の出来事はわたし達観客の共通の思い出として昇華されており、登場人物同様のエモーショナルな体験を、スクリーンを通してではあるが、感じることが出来るのだ。

本作の物語上の構成は、先ずある出来事が起き、その出来事の関係者の過去と現在をゆっくりと、まるでらせんを描くように描写しながら最終的には、そのらせんが狭まり、スピードを増すように、物語の核心に迫っていく、と言う構成を取っている。

その言わば散文的な些細なエピソードの積み重ねが、観客の脳内に断片的ではあるが、確固とした思い出を再構築させ、智也(市原隼人)とあおい(上野樹里)のエモーショナルな物語を描くことにより、ひとつのカタルシスを感じさせることに成功しているのだ。

キャストはなんと言っても上野樹里(あおい)が最高にすばらしい。キャリアとしてはまだまだの彼女だが、既に代表作と言っても良いような作品が出来てしまっている訳だ。

彼女が演じたあおいと言うキャラクターは何しろ血が通っており、非常に魅力的な人物だと思える。
その魅力的ですばらしいキャラクターを失うのは、圧倒的に悲しい。

また、あおいの妹:かなを演じた蒼井優も良かった。
あおいとかなの姉妹のやり取りが感動的である。

ところで、本作について考えなければならないのは、岩井俊二監督作品「花とアリス」(2004)と相似している点である。
脚本の問題なのか、製作の意向なのが釈然としない部分はあるが、本作「虹の女神/Rainbow Song」は、「花とアリス」で描かれた出来事を違う出来事に置き換えたような印象を受けるのだ。

だからどうだ、と言う話ではないのだが、本作はすばらしい、として監督である熊澤尚人を評価している以上、「花とアリス」との相似性は解せないのである。
果たして本作は本当に熊澤尚人の作品なのか、それとも岩井俊二の作品なのかと・・・・。

とは言うものの、作品の背景はともかく、本作「虹の女神/Rainbow Song」を独立した作品だと捉えた場合、最高にすばらしい作品に仕上がっていることは事実なので、作品の背景なんか知ったことではないのだ。

また、本作中で語られる、スーパーがどうだとかシングルがどうだとか色合いがどうだとか言う8mmフィルムに対する拘りや、8mmカメラ(ZC1000)に関する拘り、また8mm映画には金が掛かる、と言う部分は8mmフィルムで自主制作を行っている、または行っていた人々にとっては非常にノスタルジックで、かつリアリティに溢れる部分なのだが、一般の観客にとっては、理解しがたい部分かも知れないと思った。

更に、あおいが行っている8mm映画の自主制作の現場は、現代とは思えず、なんだか20年程前の自主制作の現場のような印象をも受けてしまう。

とにかく、「手紙」とか「ただ、君を愛してる」とか、感動系の日本映画がたくさん公開されている今、わたし的に是非観て欲しい一番のオススメは本作「虹の女神/Rainbow Song」である、という事である。その次は「手紙」ね。

☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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コメント

underhand54
underhand38
2006年11月15日0:10

この映画は鑑賞後に尾を引くというか余韻が残りますね。
物凄く良い話なのでもう少しヒットしてほしいような気
もするんですが、そうじゃないところがいかにも岩井俊二
絡みの映画らしいともいえますね。

tkr
tkr
2006年11月18日17:34

仰るとおり、岩井俊二の良質な作品でありながら、ちょっとマイナーで、知っている人だけが知っているという、特徴を併せ持っていますね。この作品は。
tkr

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