2006/09/07 東京内幸町「イイノホール」で「手紙」の試写を観た。

川崎のリサイクル工場への送迎バス。最後部座席に、野球帽を目深に被った青年の姿がある。

武島直貴(山田孝之)、20歳。
誰とも打ち解けない、暗い目をしたこの青年には、人目を避ける理由があった。

兄・剛志(玉山鉄二)が、直貴を大学にやるための学費欲しさに盗みに入った邸宅で、誤って人を殺してしまったのだ。

人殺しの弟。近所の人々の差別や嫌がらせにあった直貴は、数度にわたる引越しと転職で、川崎のリサイクル工場にたどり着くが・・・・。
(ちらしからほぼ引用)

監督:生野慈朗
原作:東野圭吾 「手紙」(毎日新聞社刊/文春文庫近刊)
出演:山田孝之(武島直貴)、玉山鉄二(武島剛志)、沢尻エリカ(白石由美子)、吹石一恵(中条朝美)、尾上寛之(寺尾祐輔)、吹越満(緒方忠夫/被害者の息子)、風間杜夫(朝美の父)、杉浦直樹(平野/電器会社会長)

新たな涙腺破壊兵器の誕生である。

本作「手紙」は非常にエモーショナルな、と言うか、観客の感情を無遠慮に鷲掴みでぐいぐいと揺り動かす、そんな感じの作品だった。

物語の大きなテーマは、差別の是非である。

武島直貴(山田孝之)は、強盗殺人の罪で服役中の兄・剛志(玉山鉄二)の弟であるがために、差別・迫害を受け、アパートを、そして職場を追われ、転居に転職を重ねることを余儀なくされている。

当然ながら、弟・直貴に感情移入した観客は、直貴に対する様々な差別、迫害に怒りを覚える訳だ。

しかし、ここで考えなければならないのは、直貴を差別し迫害しているのは、誰か、と言うこと。
言うまでも無く、それはもちろんわれわれ一般大衆のメタファーなのだ。

つまり、観客の怒りの矛先は、回りまわって自分たちに向いている、ということなのだ。

そんな中、電器会社の会長・平野(杉浦直樹)が吐くセリフが全くもってすばらしい。

「差別は当然だ、犯罪者やそれに近い人間を排除し、遠ざけようとするのは、当然の行為なんだ」

平野はこんなセリフを吐きながらも、実は直貴に限りない愛情を持って接している。
わたし達はあまりにも正直な、良識やモラルではなく真実を語る平野に泣かされてしまうのだ。

キャストはなんだか知らないが、旬の俳優が顔を揃え、豪華な印象を受ける。

非常に印象的だったのは、剛志に殺された老女の息子・緒方忠夫(吹越満)がラストの直前に、激昂している感情を抑え込み、深々と深呼吸をしながら平然と語る姿がすばらしかった。

憔悴しきった表情の中、激昂している姿を、見せないようにする、自分の感情を隠そうとする姿に感動してしまう。

弟・直貴を演じた山田孝之はやはり上手いと思う。
山田孝之は本作で尾上寛之(寺尾祐輔役)と漫才コンビを組むのだが、脚本(ネタ)が良いのか、漫才シークエンスは結構楽しめた。何しろ普通に面白いのだ。

そして普段の直貴の姿と、ステージ上のはじけた直貴の姿のギャップ、また、由美子の前で激昂する姿と、平野の前でしなだれる姿のギャップも演技としては多面性を持ったキャラクターを見事に演じていると思う。

ステージ上の笑顔は最高である。

そして、後半部分の漫才シークエンスの山田孝之は、冗談抜きに絶品だと思う。

また、直貴を支える由美子を演じた沢尻エリカは、現在最も売れている女優のひとりだと思うし、2006年は映画だけで5本も出演作品があり、それらが全て主演・助演レベルだと言うのは凄いと思う。

本作では、テレビ・シリーズ「タイヨウのうた」(2006)に続く山田孝之との共演ということもあるのか、良いコンビネーションが楽しめた。

彼女の陶器のようなルックスが様々な表情を見せる非常に多感な表現はすばらしいと思う。

余談だが、後半部分、ちょっとした老け役が良かったと思う。

玉山鉄二(武島剛志役)は、残念ながら地味な役柄だったが、後半部分の見せ場には泣かされた。
イケメン俳優とは思えぬ、ある仕草に役者魂を感じた。

更に、若手の頑張りに、曲者の中高年の役者たち、−−吹越満(緒方忠夫/被害者の息子)、風間杜夫(朝美の父)、杉浦直樹(平野/電器会社会長)−−、 が格調を与えているという感じだろうか。

監督の生野慈朗はテレビあがりの演出家なのだが、奇をてらわない演出は順当で素直。物語の邪魔をしない素直な部分に好感を覚えた。

ただ、回想のシークエンスではビデオの粗い映像が使われているのだが、効果よりは、物語から観客の目をそらす、あまりよくない効果が出ているような気がした。
映像が粗すぎるのだ。

本作の公開は2006年11月と、まだ少し先だが、是非劇場で堪能して欲しいすばらしい作品だと思う。

☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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コメント

nophoto
抹茶
2006年9月7日23:42

はじめまして。山田孝之サイトです。手紙レビュー紹介させてください。よろしくお願いします。ランキングもポチ★しました。

tkr
tkr
2006年9月8日21:18

抹茶さんこんにちは。
コメントありがとうございます。

昨日からカウンターがたくさん回っているようだな、と思っていたのですが、どうやら山田孝之効果だったようですね。

「手紙」は、おそらく普通の映画ファンにも支持される作品だと思います。まだ公開までしばらく時間がありますが、楽しみにするだけのことはある作品だと思います。
tkr

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