2006/07/01 東京池袋「シネマ・ロサ」で「花よりもなほ」を観た。

本来ならば「花よりもなほ」のレビューを書くべきところなのだが、今日のエントリーのタイトルは、『「花よりもなほ」をめぐる冒険』サブ・タイトルは、『「ラストサムライ」怒りの系譜』。

ハリウッド映画「ラストサムライ」(2003)及び「ラストサムライ」に騙される愚かな日本人に対する、日本映画界の怒りの系譜を紐解いてみたいと思う。
 
 
■「隠し剣 鬼の爪」(2004/監督:山田洋次)
以下、下記URLより引用
http://diarynote.jp/d/29346/20041024.html

「隠し剣 鬼の爪」は、米アカデミー賞ノミネート作品「たそがれ清兵衛」(2002)に続く、山田洋次監督×藤沢周平原作の第二弾であり、多くの人々にオススメできる素敵な人情時代劇に仕上がっている。

しかし本作「隠し剣 鬼の爪」は、ハリウッド製時代劇「ラスト サムライ」(2003)に対するアンチテーゼとして機能する、反骨精神溢れる意欲的な作品とも言えるだろう。

そして本作が「ラスト サムライ」に対するアンチテーゼとして機能していると言うことは、「ラスト サムライ」を手放しで評価する『サムライの遺伝子を持った日本人』(実際のところ、大多数の日本人は農民の遺伝子を持つのだが)に対する批判的精神が根底に見え隠れしているような気がする。

趣向を削ぐので詳細解説は割愛するが、本作「隠し剣 鬼の爪」は「ラスト サムライ」とは、時には同様の、時には正反対のベクトルを持つ作品なのである。

この辺りは、狭間弥市郎(小澤征悦)に対する片桐宗蔵(永瀬正敏)の最後のセリフ、松田洋治の役柄、そして戸田寛斎(田中泯)の生き様、家老堀将監(緒形拳)の描き方、そしてなんと言っても片桐宗蔵(永瀬正敏)ときえ(松たか子)の行く末がそれを如実に物語っている。
勿論、舞台挨拶の中でも、監督である山田洋次が間接的にではあるが、この作品の背景とテーマを語っていた。
 
 
■「北の零年」(2004/監督:行定勲)
以下、下記URLより引用
http://diarynote.jp/d/29346/20050105.html

「サムライになりたかったアメリカ人」と「滅び行くサムライの美学」を描いた「ラストサムライ(2003)」に日本国民の多くは狂喜し、同時に日本映画界は震撼した。
そして2004年、山田洋次は「ラストサムライ」へのアンチテーゼとして、また「ラストサムライ」に騙されてしまう愚かな日本人に対する批判的精神の下、「隠し剣 鬼の爪」(2004)を製作した。(と、わたしは思っている)
「隠し剣 鬼の爪」は「侍と言う莫迦げた生き方を捨てる日本人」を描いた作品なのだ。
更に2005年、満を持して登場するのは、またもや「侍と言う生き方を捨てる日本人」を描いた「北の零年」(2005)なのだ。

そして本作「北の零年」では「ラストサムライ」で勝元盛次を演じた渡辺謙が、その勝元と正反対の生き様の小松原英明としてキャスティングされているのが素晴らしくも恐ろしい。

このあまりにもシニカルなキャスティングは、行定勲や渡辺謙、そして山田洋次をはじめとする日本映画界が「ラストサムライ」に対して、どういう思いを持っているのかを如実に表しているような気がする。

あの山田洋次に「隠し剣 鬼の爪」を撮らせ、行定勲に「北の零年」を撮らせる「ラストサムライ」。
その多大なる影響力、そして「侍の遺伝子を持つと言われ、散り行く侍の姿に騙されてしまう、実際は農民の遺伝子を持つ日本人」の愚かさを感じる一瞬である。
 
 
■「花よりもなほ」(2006/監督・原案・脚本:是枝裕和)

ハリウッド映画「ラストサムライ」(2003)に対する日本映画界の怒りの系譜は、山田洋次から行定勲へ、そして行定勲からなんと是枝裕和にまで繋がった。

本作「花よりもなほ」の物語は、是枝裕和のオリジナル脚本なのだが、表向きはのほほんとした泰平仇討ちコン・ゲーム的な物語なのだが、その脚本には「ラストサムライ」へのアンチテーゼとも言えるいくつかのプロットが採用されている。

例えば、それは「何も生みださない侍と言う生き方への批判」や「仇討ち制度の不毛さ」そして「生類憐れみの令の理不尽さ」、「武士の生き様と桜の散り様の対比」そして「憎しみではない父親からの形見」である。

これらのプロットの根底には全て「侍文化への批判」が息づいている。
多分映画の表層だけを観ていると気が付かない事だと思うのだが、おそらく是枝裕和がやろうとしていたのは、こう言うことだったのだろう、と思う。

そして長屋の人々は泰平の世を、何にも縛られずに超然とそして図太く生きている。彼らは善悪に縛られない。言わば善悪の彼岸で生きているのだ。

そして、最後に主人公は、侍と言う生き方ではなく、人間としての生き方を選択するのである。
これはやはり「侍としての莫迦げた生き方の否定」を描いていると言わざるを得ない。

つづく・・・・

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