「カーズ」

2006年6月19日 映画
2006/06/19 東京有楽町「よみうりホール」で「カーズ」の試写を観た。
併映は「One Man Band(短編)」。

ピストン・カップの若き天才レーサー、ライトニング・マックィーン。
レーサーとして絶大な人気を誇っているものの、信頼できる友達はひとりもいなかった・・・・。

ある日、彼はルート66号線沿いの小さな田舎町、”ラジエーター・スプリングス”に迷い込んでしまう。そこで待ち受けていたのは、オンボロ・レッカー車のメーターをはじめ、今まで見たことがない不思議なクルマたち。

しかし、住民たちが家族のように仲良く暮らす、この平和な町には、誰も知らない秘密があった。
・・・・なんとそこは、”地図から消えた町”だったのだ。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:ジョン・ラセター
脚本:ジョン・ラセター、ドン・レイク
音楽:ランディ・ニューマン
声の出演:オーウェン・ウィルソン(ライトニング・マックィーン)、ポール・ニューマン(ドック・ハドソン)、ボニー・ハント(サリー)、ラリー・ザ・ケイブル・ガイ(メーター)、チーチ・マリン(ラモーン)、トニー・シャルーブ(ルイジ)、グイド・クアローニ(グイド)、ジェニファー・ルイス(フロー)、ポール・ドゥーリイ(サージ)、マイケル・ウォリス(シェリフ)、ジョージ・カーリン(フィルモア)、キャサリン・ヘルモンド(リジー)、ジョン・ラッツェンバーガー(マック)、マイケル・キートン(チック・ヒックス)、リチャード・ピティ(キング)、ジェレミー・ピヴェン(ハーヴ)

はっきり言って最高である。

「カーズ」は、外部からブラッド・バードを監督として迎えたピクサー社の前作「Mr.インクレディブル」なんかで喜んでいる場合じゃないと思えるし、かつてのジョン・ラセターの作品群もかすんでしまうほど、素晴らしい作品に仕上がっていた。

まあ、今観てきてすぐの感想なので、あまりあてにはならないと思うが、個人的にはピクサー社の最高傑作になってしまったのではないか、と思えてしまう。(とは言うものの、実際のところは、「モンスターズ・インク」の時も「ファインディング・ニモ」の時も「これこそピクサー社の最高傑作だ!」と思った。もちろん「Mr.インクレディブル」の時は「ふざけるな!」と思ったが。)
  
先ずはオープニング・アクションで泣ける。
ただクルマが走っているだけで、その動きだけで、その映像体験だけで泣けてしまう。涙腺の弱いダメな大人になってしまったようだが、泣けるんだから仕方がない。

これは「グリーン・デスティニー」(2000)のオープニング・アクションで泣けて以来の出来事かも知れない。

ところでだが、本作「カーズ」は、ピクサー・アニメーション・スタジオの20周年記念作品である。
かの「ルクソーJr.」からもう20年かと思うと、感慨も一入である。
お恥ずかしい話だが、わたしは「トイ・ストーリー」を観るまで、「トイ・ストーリー」のピクサー社と「ルクソーJr.」のPIXAR ANIMATION STUDIOが同一の会社だとは知らなかった。
「トイ・ストーリー」の冒頭、ピクサー社のロゴが出てはじめて「トイ・ストーリー」を作った会社と「ルクソーJr.」を作った会社が一緒だったのだ、と気付いたのである。

20周年記念作品と言う事もあり、本作「カーズ」は、ジョン・ラセターの再登板と言う事も含めて、ピクサー社20周年の集大成的な作品に仕上がっている。
かつてのピクサー社の作品のパロディと言うか、オマージュと言うかリスペクトと言うか、まあセルフなので、セルフ・パロディなんだろうが、そんなシーンが顔を出すし、CGIにしても、様々な物質の質感が大変すばらしい。今回は特に風景(美術/背景)が良かったと思う。

と言うのも、今までのピクサー作品が描いてきた世界観の中で、実在の世界にもっとも似ているのが今回の「カーズ」であり、その世界観を構築する背景や美術には全く違和感がなかった、と言うことである。

前作「Mr.インクレディブル」の世界観は、実在の世界と似ているのは似ているのだが、やはり、作り物である、と言う印象が否定できなかった。

が、しかし、本作の背景/美術の出来はすばらしく。実写と遜色がない上に、CGIを使用した実写作品にありがちな、物体の物理的
な動作の違和感が感じられなかった。(物体の重さや、空間の広がりが物理学的に再現されている、と言うこと)

また音楽についてもランディ・ニューマンの再登場と言うこともあり、ピクサー社のある意味の原点に戻りつつ、それでいて最高の品質のものをわれわれ観客に提供しているような印象を受けた。

この辺については、本作のエピローグ部分に映画ファン驚愕の強烈なカメオの山(とセルフ・パロディ)があるのだが、本当に信じられない程凄い。

これは実のところ、簡単に出来そうなことなのだが、なかなかあんなことは出来ないことなのだ。

例えば、パート1で死んだキャラクターを演じた俳優をパート2の回想シークエンスで起用するようなことは、実はハリウッド映画ではいろいろな障害があり、困難なのだ。

例えば、「スパイダーマン」(2000)と「スパイダーマン2」(2002)で、クリフ・ロバートソンとウィレム・デフォーが同じ役でキャスティングされているが、ハリウッド映画では、こんなことは稀なのだ。

話は戻るが、そのエピローグ部分を楽しむには、出来れば字幕版で観る事をオススメする。日本語吹替版では、オリジナル・キャストの再現は難しいのではないか、と思えるからである。

そのエピローグは、わずか数秒のカットの羅列なのだが、その超えの出演のギャランティを考えるとゾッとする。
(おそらく全ての俳優についてはノン・クレジットのノー・ギャラなのだと思うが、「カーズ」はそんなことが出来てしまう、ただでも良いから「カーズ」に参加したいと思わせる作品なのだ、という事である。)
 
 
物語は、自信過剰で他人のことはお構いなしの主人公ライトニング・マックィーンが、ラジエーター・スプリングスのクルマたちと触れ合うことにより、なんらかの成長を果たす、と言うベタと言えばベタなものなのだが、逆に言うとそれが普遍的で神話的、全ての民族に受け入れられる物語となっているのである。

またもう一つのコンセプトとして、人生をバイパスする、と言うものもある。
で、凄いのは、マックィーンが最後にする選択が凄い。
平凡な監督だったら、マックィーンはああ言う選択をしなかったのではないか、と思える。

余談だが、「ラスト・サムライ」(2003)を受けて日本国内では、「侍と言う莫迦げた生き方を捨てる物語」が何本か製作された。例えば、山田洋次の「隠し剣 鬼の爪」(2004)とか、行定勲の「北の零年」(2004)が有名どころだと思う。
日本の2大巨匠が「ラスト・サムライ」に怒ったのか、「ラスト・サムライ」に騙された日本人に怒ったのか、日本映画界の興味深い反応であった。

その辺りを考えると「カーズ」におけるマックィーンの最後の選択も凄いと思う。
 
 
キャストはなんと言ってもポール・ニューマンの起用が非常に嬉しい。ニューマンの映画的記憶を上手に利用した素晴らしいキャスティングである。例えるならば、作品の質はともかく「ドリヴン」(2001)で車椅子に乗っていたバート・レイノルズみたいなキャスティングだった、またはリメイク版「ロンゲスト・ヤード」(2005)にオリジナル版「ロンゲスト・ヤード」(1974)の主演のバート・レイノルズが出ているような感じ、と言うことである。

出来れば「カーズ」にもレーサー繋がりで、バート・レイノルズに出て欲しかったと思うね。「ストローカーエース」(1983)なんて、ある意味「カーズ」のモトネタみたいな作品だと思うし、両作の題材自体も同じストックカー・レーシングだし。

書きたいことはたくさんあるんだけど、既に4000文字近くなっているので、この辺で・・・・

とにかく、「カーズ」は大変すばらしい作品だ、という事は間違いないので、すぐ劇場に行っていただきたいと思う。

☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
 
 
・マックィーンのナンバー95は「トイ・ストーリー」公開の年。(元々はラセターの生年57の予定だった。)
・Goodyearならぬ、Light-yearはもちろん、バズの名前。
・ライトニング・マックィーンとポール・ニューマンということで「タワーリング・インフェルノ」以来のマックィーン+ニューマンの共演かと思われていたが、マックィーンは、2002年に亡くなったピクサー社のアニメーター、グレン・マックィーンの名から取られている。
・日本車唯一の登場と言われているクルマは、Mazda MX-5 Miataのファースト・モデル。双子のキャラクターの名前は、"Mia"と"Tia"。結構出番は多いです。

余談だけど、「カーズ」は、(日本のアニメーション作品を除けば)アニメーション映画のランニング・タイムとしては非常に長めの2時間1分。(北米版は116分)
「カーズ」は実際のところ子ども向け、と言うよりは大人向けなのだと思う。
事実、試写会に来ていた子ども等は、しびれを切らしていた。
まあ、字幕版はムリでしょう。字幕版の試写に子どもを連れてきた親の問題でしょうな。

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