2006/06/17 東京板橋「ワーナー・マイカル・シネマズ板橋」で「嫌われ松子の一生」を観た。

女の子なら誰だって、お姫様みたいな人生に憧れる。
昭和22年・福岡県大野島生まれの川尻松子も、そのひとり。
でも、現実は・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:中島哲也
原作:山田宗樹 「嫌われ松子の一生」(幻冬舎文庫刊)
美術:桑島十和子
音楽:ガブリエル・ロベルト、渋谷毅
出演:中谷美紀(川尻松子)、瑛太(川尻笙)、伊勢谷友介(龍洋一)、香川照之(川尻紀夫)、市川実日子(川尻久美)、黒沢あすか(沢村めぐみ)、柄本明(川尻恒浩)、柴咲コウ(明日香)、ゴリ(大倉修二/ガレッジセール)、マギー(刑事)、竹山隆範(教頭/カンニング)、谷原章介(佐伯俊二)、キムラ緑子(松子の母・川尻多恵)、角野卓造(校長)、宮藤官九郎(八女川徹也)、谷中敦(「白夜」マネージャー・赤木)、劇団ひとり(岡野健夫)、BONNIE PINK(綾乃)、濱田マリ(紀夫の妻)、武田真治(小野寺)、荒川良々(島津賢治)、あき竹城(係官)、嶋田久作(牧師)、奥ノ矢佳奈(子供時代の松子)

正直、非常に面白かった。

当然、中島哲也の前作「下妻物語」(2004)と比較するむきもあると思うし、2004年のSMAPの特番ドラマ「X’smap 〜虎とライオンと五人の男〜」(2004)と比較するむきもあるだろう。(わたしは「X’smap 〜虎とライオンと五人の男〜」を2004年12月にHDDに録画したまま見ていないのだが・・・・)

私見だが、本作「嫌われ松子の一生」を観た現在、「下妻物語」はただのお子様向けのチープなドラマに過ぎなかった、と言わざるを得ない。
これは、別に本作が描いているドラマが、人間のドロドロした部分を描いているから、つまり大人向けのドラマを描いているから、と言うわけではなく、描写が洗練され、ドラマを描くテクニックが「下妻物語」の数段上を行っているような印象を受けたからである。

と言うのも、「下妻物語」で強烈な印象を与えていた、『過去の出来事(桃子の生い立ち)を振り返る部分』の非常にスピーティーで情報過多な演出と描写が、本作「嫌われ松子の一生」ではほぼ全編に顔を出し、そのスピード感と情報過多感と、現代の(笙の)パートの対比が非常に素晴らしい効果を出している。

その効果は、『松子の生涯パート』は完全なるファンタジーとして描かれ、『笙のパート』は現実感溢れるテイストで描かれている。
異世界と現実世界の融和と対比が楽しめるのである。

また非常に印象に残る『松子の生涯』部分のミュージカル部分だが、これは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)と比較する事はたやすいと思うし誰もが思うことだろう。が、それと同時に「ブルース・ブラザース2000」(1998)のとあるシークエンスとの関連性にも思い当たる。特に"Happy Wednesday"のシークエンスは、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の工場のシークエンスと「ブルース・ブラザース2000」のテレクラのさくら(?)のシークエンスの影響もしくはシンクロニシティを感じる。

そしてその演出だが、歌詞と字幕の表現が革新的で、歌詞が英語だと言うのに、字幕も英語で出しちゃうところが凄いと思った。

で、その字幕だが、後で焼いているのではなく、製作時点で字幕がインポーズされているため、従来の字幕のタイミングやフォントの呪縛から完全に解放された、新たな表現手法として字幕が使用されているのが、正に革新的である。

これは冒頭の場所と時制の表現でも同様の印象を受ける。

さて、本題の松子の生涯だが、表層的には当然ながら不幸である、と言う事になるのだろうが、彼女の精神世界では、彼女の感じている世界では、彼女の想像の世界では、彼女の夢の世界では、彼女は充分に精一杯幸せな生涯を送っていると思える。

例えば「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のセルマが現実世界と同様に精神世界でも生きていたように、「未来世界ブラジル」(1985)のサム・ラウリーがラストで素晴らしく幸せな表情をしていたのと同じように、松子もある意味幸せな生涯を送ったのだと思う。

そして彼女の死因だが、表層的には勿論非常に悲惨な出来事だと言わざるを得ないと思うのだが、あの死因だからこそのカタルシスもあると言えばある。と本気で思う。
物語としては非常に美しい死に様だと思う。

ここで印象に上ってくるのは、例えばテレビ・シリーズ「探偵物語」の工藤俊作のラストのシークエンスであったり、また松田優作繋がりで「太陽にほえろ」のジーパンの殉職のシークエンスであったりする。

われわれ観客に取って重要な人物になってしまった存在が、事故としか思えない通り魔的な最後を迎えることは、儚くも美しい。
わたしは、松子のあの死因には、肯定的なスタンスを取っている。

また、キャストは全てが全て良かった。

特に印象に残ったのは、劇団ひとりと、日本映画界の至宝荒川良々が良かった。荒川良々は本当に凄いと思う。
表情で、セリフ一つで充分に泣かせてくれる。

劇団ひとりは、俳優としての将来が非常に楽しみである。

最近発泡酒のCF(CM)で「演技じゃないよ」とか言ってるおバカな脚本家がいるが、本作では破滅的な作家を好演していた。
こっちはきちんと演技していて面白いと思った。

また瑛太は冷めた感じが良かった。
観客の松子に対する感情移入の度合いをいさめる役割を与えられているような印象を受けた。
が、ラストでは、父親に対する軽い怒りを演じ、松子に対する感情移入と思える演技を瑛太は好演していた。

伊勢谷友介は例によってセリフを噛み潰す感じだったのだが、そのセリフ回しは今回のキャラクターにマッチしていたと思う。
「CASSHERN」(2004)や「雪に願うこと」(2005)より似合っていたのではないか、と思えた。

主演の中谷美紀は、本当に頑張りました。
と言うことだと思います。

とにかく、本作「嫌われ松子の一生」はちょっと長いけど、大変素晴らしい、面白い、悲しい、楽しい作品だと言えます。
是非劇場で観て欲しいと思うのだ。

☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

余談だが、松子が新幹線で東京に来る際、その直前のカット、松子が駅の構内を歩くカットの背景に映る時計にJRのロゴが入っていた。(ように見えた)
当時(新幹線開通10周年の頃)はJRではなく、国鉄(JNR)である。
時代考証が上手く機能していないのか、なんらかの意図があるのか不明だが、そのカットでわたしはちょっとだけ醒めてしまった。

あと、一人称と、三人称の語り口の不統一感が、地に足が付いていない様な、微妙な不安定感が出ていて、ちよっとおかしいですね。
この作品。

■人気blogランキング
当blog「徒然雑草」は「人気blogランキング」に登録しています。

参考になったら、クリック!(現在のランキングがわかります)
http://blog.with2.net/link.php?29604

コメント

tkr

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索