2006/06/05 東京神保町「一ツ橋ホール」で「インサイド・マン」の試写を観た。

私はダルトン・ラッセル。
二度と繰り返さないからよく聞け。
私は銀行を襲う完全犯罪を計画し、そして、実行する・・・・

マンハッタン信託銀行の前に停車したバンからジャンプスーツを着た男たちが降りてくる。やがて彼らは銀行の中へと進み、銀行内にいた従業員と客を人質に取った。
「全員床に伏せろ!これから我々は、この銀行から多額の金を引き出す。」

犯人グループはリーダーのダルトン・ラッセル(クライブ・オーウェン)以外に3人。互いに“スティーブン”、“スティーブO(オー)”、“スティービー”と呼び合い、駆けつけた警官には「ヒトジチトッタ。チカヅイタラ、ヒトジチコロス」と外国なまりで伝えるのだった。

急報を受けたのは、NY市警のフレイジャー(デンゼル・ワシントン)とミッチェル(キウェテル・イジョフォー)。
フレイジャーは以前関った麻薬事件で14万ドルの小切手が紛失するという事態に巻き込まれ、内務調査課から疑いをかけられていた。

強盗人質事件発生の連絡を受けたのは警察だけではなかった。マンハッタン信託銀行の取締役会長アーサー・ケイス(クリストファー・プラマー)は狼狽し、言葉を失っていた。そして彼は警察に事態を確認するよりも先に、ニューヨークでも指折りの有能な弁護士マデリーン・ホワイト(ジョディ・フォスター)を自ら呼び出すのだった。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:スパイク・リー
脚本:ラッセル・ジェウィルス
出演:デンゼル・ワシントン(キース・フレイジャー)、クライヴ・オーウェン(ダルトン・ラッセル)、ジョディ・フォスター(マデリーン・ホワイト)、クリストファー・プラマー(アーサー・ケイス)、ウィレム・デフォー(ジョン・ダリウス)、キウェテル・イジョフォー(ビル・ミッチェル)

本作「インサイド・マン」は非常によく出来たクライム・サスペンスである。

先ずは脚本が面白い。
こんな面白い脚本が、脚本家ラッセル・ジェウィルスのデビュー作だと言うのだから驚きである。

三者三様(ダルトン、フレイジャー、ケイス)のシンプルで力強い設定とプロットが、要所要所で交差し絡まることにより、作品として複雑な網目模様を構築、鑑賞後爽やかな感動とカタルシスが感じられる、すばらしい作品に仕上がっている。
ベクトルは異なるが「L.A.コンフィデンシャル」(1997)の鑑賞後感と似ているような印象を受けた。

物語で語られていることが全てではないぞ。諸君!

キャストは先ずはクリストファー・プラマーが良かった。
最近引っ張りだこのプラマーだが、非常に印象に残るキャラクターを見事に演じていた。このような老獪なキャラクターにはピッタリの風貌になったものだと感心する。
「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ大佐とは全く思えないですわ。

デンゼル・ワシントンはウィットに富んだ交渉人役で、ケヴィン・スペイシー(「交渉人」(1998))とは別の、また新たな交渉人像を見事に創出している。
このあたりも、ケヴィン・スペイシー繋がりで「L.A.コンフィデンシャル」(1997)的な印象を強めているのかもしれない。

デンゼル・ワシントン演じるキース・フレイジャーは、警察特有の泥臭いキャラクターではなく、小粋でやり手でおしゃれな交渉人像が楽しい反面、その描き方からも、実際のフレイジャー像が垣間見られる構造となっている。
スパイク・リーの描きたいフレイジャー像がファッションからも見て取れる、良いキャラクターだったと思う。

で、考えるとキース・フレイジャーのキャラクターは、やはり「L.A.コンフィデンシャル」でケヴィン・スペイシーが演じたキャラクターからの影響と思われる点が多々ある。

クライヴ・オーウェンにとっては非常に美味しい役所だったと思う。ハード・ボイルドでしかもウィットに富んだ役柄を楽しげに演じていたような印象を受ける。プロット上、唯一リスクを負った行動を取る訳だし、ラスト近辺のフレイジャーに対する行動は最高に格好良い。このあたりはジャック・ヒギンズの冒険小説のように格好良い。

物語のメイン・プロットは、銀行強盗の完全犯罪を目論む人々の物語なのだが、終わってしまった銀行強盗事件の取調べのシークエンスと、実際の強盗のシークエンスを並列的に描写する手法が効果的だったと思う。
最近ではトニー・スコットの「ドミノ」と同じ構成なのだが、取調べを受けている人々が、人質なのか犯人なのかわからないところが、非常に興味深かった。

とにかく本作「インサイド・マン」は、非常に脚本が良く出来たすばらしい作品である。この脚本は真実を観客には感じさせないよう、よく配慮されており、多分、映画をあまり観ない人と、映画をたくさん観る人では、解釈がまるっきり異なる作品になってしまうのではないか、と思えた。

繰り返しになるが、物語で語られていることが全てではないぞ。諸君!

余談だけど、「狼たちの午後」(1975)を参照すべきだと思う。

更に余談だけど、ハリウッド映画である以上、犯罪が成功する作品を製作・公開するためには、脚本上なんらかの理由が必要な訳なのだが、そのあたりを非常に上手くプロットに盛り込んでいるところに好感と賞賛を感じる。

スパイク・リーは、自分のやりたいプロットの作品を制作・公開するために、ハリウッド・システムを上手く利用している、と言う印象なのだ。製作サイドには、こうですよ、こんなプロットですよ、と言いながら、実際のプロットは実はこうなっていて、それを製作サイドに明かさずに資金を出させているような印象を受けた。
つまり、スパイク・リーは、ハリウッドを手玉にとって、本作「インサイド・マン」のための資金を調達したような気がするのだ。

☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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