2006/05/13 東京池袋「シネ・リーブル池袋」で「間宮兄弟」を観た。初日。

東京、下町のとあるマンション。間宮兄弟はここで一緒に暮らしている。

兄、間宮明信(佐々木蔵之介)は、ビール会社の商品開発研究員。子供のころから色水を作るのが大好きで、いつかその水があまりに気に入り、飲んでしまい下痢が収まらず、病院に運ばれたこともあった。

弟、間宮徹信(塚地武雅)は、小学校の校務員になるため、真っ赤な顔をして汗をかきながら途方もなくたくさんの講習を受けた。そんな彼は、何かとことん落ち込んだり哀しいことがあると必ず新幹線の操作場に行く。彼は新幹線が好きなのだ。

野球観戦、ビデオ鑑賞、休日の昼寝、散歩、餃子じゃんけん、自転車、クロスワード・パズル、紙飛行機・・・・、彼らは自分たちの世界で、楽しく穏やかに何不自由なく暮らしている。

「この部屋でカレーパーティーやろうか」
ある日、徹信が兄に持ちかけるが・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督・脚本:森田芳光
原作:江國香織 『間宮兄弟』(小学館刊)
出演:佐々木蔵之介(間宮明信)、塚地武雅(間宮徹信/ドランクドラゴン)、常盤貴子(葛原依子)、沢尻エリカ(本間直美)、北川景子(本間夕美)、戸田菜穂(大垣さおり)、岩崎ひろみ(安西美代子)、佐藤隆太(浩太)、横田鉄平(玉木)、佐藤恒治(中華料理店のおじちゃん)、桂憲一(犬上先生)、広田レオナ(薬屋のおばちゃん)、加藤治子(お婆ちゃん)、鈴木拓(ビデオショップの店員/ドランクドラゴン)、高嶋政宏(大垣賢太)、中島みゆき(間宮順子)

本作「間宮兄弟」は期待に違わず、大変素晴らしい作品だった。

冒頭「アラビアのロレンス」のファーストカットを模したと思われるファーストカットから始まる新幹線操作場のシークエンスでわたしは既に涙をこぼしていた。

セリフ一つないシークエンスでしかないのに、その情景から、そして兄の些細な仕草から、兄の弟への愛情がひしひしと伝わってくる素晴らしいシークエンスだった。
これはおそらく、メディアに露出している「間宮兄弟」の予告編が既にわたし達観客の頭の中で「間宮兄弟」の仲の良さが、わたし達の「間宮兄弟」の思い出として昇華されている事によるものだと思う。

つまり、映画を観る前から、わたし達観客は愛すべき「間宮兄弟」の虜になっており、本作の予告編が、本編の伏線として機能している、と言う凄い構造の作品になってしまっていた。

本作の脚本・監督は森田芳光なのだが、本作「間宮兄弟」は、森田芳光の初期の作品を髣髴とさせるシーンが頻出していた点が非常に興味深かった。

例えば、兄弟(佐々木蔵之介、塚地武雅)が昼寝をしている時、マンションの外からはヘリコプターが飛ぶ音が聞こえ、そのしばらく後のシークエンスで商店街を兄弟が歩いている時、中華料理屋のおじちゃん(佐藤恒治)が葬式に向かっている途中で兄弟に声をかけている。

これは「家族ゲーム」(1983)のラスト、うたた寝をしている由紀さおり等の映像にヘリコプターの音がかぶる部分へのアンサーとなっているのだ。(そこでは、「家族ゲーム」の中盤に登場する戸川純の祖父がついに亡くなり、祖父の棺桶をヘリコプターでマンションから運び出すことを示していた)

また、新幹線で母(中島みゆき)の実家へ向かう兄弟のシークエンスは、自主制作時代の「水蒸気急行」(1976)を髣髴とさせる。
粒子の粗い映像が8mmフィルムを思わせ、また微妙にずれたアフレコが非常に楽しい雰囲気を醸し出している。
さらにカレーパーティのシークエンスでは「家族ゲーム」を髣髴とさせるカットがいろいろと出てくるし、兄弟が自転車に乗り東京都内を走るシークエンスは「の・ようなもの」そのものであろう。

そう考えた場合、本作「間宮兄弟」は、図らずも巨匠になってしまった森田芳光の原点回帰とも言える作品なのではないか、と思える。

キャストは先ずタイトル・ロールの「間宮兄弟」を演じたふたりが素晴らしい。
佐々木蔵之介(間宮明信)は予想通りだったのだが、塚地武雅(間宮徹信/ドランクドラゴン)が予想以上に素晴らしかった。
と言うのも、お笑い芸人ではなく、きちんと俳優として演技をして、きちんと演出されていたのに好感を感じた。お笑い芸人としてのいやらしい気持ち(美味しいと言うこと)を抑え、アドリブを控え、脚本と演出通りに真っ当に弟役を演じ切っていたような印象を受けた。
前述の冒頭の新幹線操作場のシークエンスで既にわたしは彼ら「間宮兄弟」に骨抜きにされてしまうし、餃子じゃんけんも素晴らしいし、新幹線での旅や自転車に乗るシークエンスの質問合戦や薀蓄大会も素晴らしい。もちろん浴衣の着付けも良いし、昼寝、ベイスターズの応援、ビデオ鑑賞も素晴らしい。
そんな本気で遊ぶふたりの姿が最高に格好良いし、そしてその反省会が凄い、のである。
余談だが、反省会のシークエンスも自主制作作品のような作風を模している。

常盤貴子(葛原依子)は先生を演じている部分と、素の葛原依子を演じている部分とのギャップが良かった。
不登校生徒のメッセージを徹信が読んでいる際、ヘッドホンステレオで曲を聴いている表情が素晴らしかった。
ここは演出の勝利だと思う。不登校生徒のメッセージを読んでいる訳ではない常盤貴子の表情で、そのメッセージの感情を観客に伝える事に見事に成功している。
余談だが、常盤貴子のカレーライスの食べ方は「伊東家の食卓」の、カレー皿を汚さないカレーライスの食べ方であった。

また、沢尻エリカ(本間直美)と北川景子(本間夕美)の本間姉妹も非常にキュートで良かった。
今時のお嬢様方なのだが、その心根の正直さが顕著だった、と思う。
浴衣のシークエンスもシーソーのシークエンスも印象的である。
また、姉妹そろっての「断る!」のセリフや、妹のハグ等印象的なシーンがたくさんある。

ところで、物語は、観客の想像通りの物語が想像通りに展開するのだが、その展開が予定調和的な穏やかで真っ正直な物語が心地良い。

とにかく、本作「間宮兄弟」は、肉親への愛情がふつふつと感じられ、わたし達観客に対しても、普段断絶状態だとしても、自分達の肉親への愛情を思い出させる機能を持った、素晴らしい作品だと言える。

アルファー波、出っぱなしの穏やかで爽やかな作品なのだ。
是非劇場で観て欲しい、と思う。

☆☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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コメント

nophoto
miyukichi
2007年1月9日23:08

 こんばんは♪
 TBどうもありがとうございました。
 こちらからもTBよろしくお願いします。

 読んでいて「へぇ〜」の連続で、
 すごく興味深かったです。
 とくに、森田監督のところは、
 知らないことばかりでした。

 間宮兄弟に癒されました☆

tkr
tkr
2007年1月17日8:44

miyukichiさんこんにちは。

映画は表面だを見ても充分楽しめるものだと思いますが、その背景や暗喩を見ると、ちょっとだけ余計に楽しめるものだと思います。

小説で行間を読む感じで・・・・。

これからもよろしくお願いします。
tkr

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