2006/04/16 東京神保町「一ツ橋ホール」で「小さき勇者たち〜GAMERA〜」の試写を観た。

1973年伊勢志摩。
突如現われたギャオスの襲撃に人類はなすすべがなかった。
唯一ギャオスに対抗できるガメラはギャオスに対し捨て身の攻撃に出た。ガメラの攻撃で救われた人々は歓喜に沸いた。
しかし、その人々の中に、釈然としない表情の少年がいた。

2006年。
美しい海辺が広がる伊勢志摩地方。
事故で母を失った相沢透(富岡涼)は、食堂を経営する父・孝介(津田寛治)と二人暮らし。
隣の真珠店の娘・西尾麻衣(夏帆)は、母親を亡くした透の面倒を見たりしていた。

そんなある日、透は浜辺で赤い石の上に乗った小さな卵を見つける。手に取った瞬間、卵にヒビが入り、中から小さな亀が誕生した。透は、その亀を「トト」と名づけてかわいがり、母のいない寂しさを紛らわせていた。

その頃、伊勢湾では、海難事故が続発していたが・・・・
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:田崎竜太
脚本:龍居由佳里
特撮演出:金子功
出演:富岡涼(相沢透)、津田寛治(相沢孝介)、夏帆(西尾麻衣)、寺島進(西尾治)、奥貫薫(西尾晴美)、田口トモロヲ(一ツ木義光)、石丸謙二郎(雨宮宗一郎)

はっきり言って、わたしは「小さき勇者たち〜GAMERA〜」にあまり期待していなかった。
子供向け作品として誕生した昭和のガメラシリーズから、現在のような大人の鑑賞に堪えうる平成ガメラシリーズへと昇華していったシリーズを、再度子供向けの作品へと変貌させようとしているのではないか、と勘ぐっていたからである。

しかし、
冒頭の1973年のシークエンス。
暗闇の中、飛び交うギャオスの群に、わたしは劇場の座席に正座せんばかりに興奮した。

こりゃ、大化けかもよ。
眠たかったわたしの意識は見事に覚醒してしまった。

結果、本作「小さき勇者たち〜GAMERA〜」は、若干問題はあるものの、大変素晴らしい作品に仕上がっていた。
興行はともかく、特撮映画としては、「HINOKIO/ヒノキオ」以来の傑作の予感を感じてしまう。

先ずは脚本が面白い。
勿論、作品としてのメインのターゲットが子供たちと言う事もあり、複雑なもの(例えば自衛隊の介入やそこから派生する問題、またガメラは善か悪か、人の生き死にに対する問題提起等)はないし、非常にわかりやすいベタな構成を取っている。
大人の鑑賞に堪えうるか、と考えた場合、その辺に若干問題を感じるが、不問にする。

そして、1973年のギャオス襲来事件を物語世界の中の事実として脚本に盛り込んでいる点が非常に良かった。
もちろん脚本にふくらみが出てくるし、運命的なプロットの導入にも成功している、と言えよう。

そんな作品世界の中のキャラクターは、比較的類型的で、俳優たちは見た目通りのキャラクターを観客が想像する通りに演じ、わかりやすい印象を受けた。

例えば、マヌケな政治家を田口トモロヲが好演すれば、寺島進は役者人生の中で初めてではないかと思えるような好人物を楽しげに演じている。

そして一番驚いたのは美術が大変素晴らしかったことである。
透の生家「あいざわ食堂」の外見は、やりすぎの感は否めないが、透の部屋や秘密基地の造形は素晴らしいし、また特筆すべき点は、市街地を廃墟にしたセットは近年稀に見る素晴らしいものだった。
ラスト近辺でコンクリートの塊が風に煽られ揺れたカットがあったが、例えばわざわざ海外で渋谷の廃墟のセットを組んだ「ドラゴン・ヘッド」なんかと比較できないほどの素晴らしい廃墟感(怪獣に襲われた街としての)が出ていた。
怪獣の襲撃が全て昼間であることも良かったと思う。
誰が何をやっているかわからない夜間の襲撃ではなく、昼間の襲撃を物語のメインに持ってきたあたりに好感が持てる。

ただ、最大の問題点はガメラのデザインだと思う。
かわいい顔の怪獣では、怪獣映画としては失格だと思う。
かわいくない、恐ろしい姿のガメラに少年たちが愛情を注ぐところが、物語のキモであり、それがカタルシスを生むと思うのだ。わたしはそんなガメラが見たかった、と思う。
本作はある意味、異形と人間の感情の交流の物語なのだから、感情移入を拒む姿が必要だと思うのだ。

本作「小さき勇者たち〜GAMERA〜」のガメラの造形が平成ガメラの系譜を継ぐものだったら、どんなに素晴らしかっただろうか・・・・

余談だが、美しい海辺が広がり、坂が多い伊勢志摩地方をロケ地に選び、また美術に凝った画面作りをしている、また少年少女を描いていることから、あたかも大林宣彦の作品を見ているような印象をも受けた。

特撮作品あがりの監督である田崎竜太にしては、怪獣のシークエンスはともかく、文芸作品並みの演出には驚かされた。
もしかしたら、今後が楽しみな監督かもしれない。

とにかく、本作「小さき勇者たち〜GAMERA〜」は、全ての映画ファンに、観て欲しいと思った。
ダマされたと思って、是非劇場に足を運んで欲しい。

☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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コメント

nophoto
もか
2006年4月29日23:45

本日、映画を見に行きまして、検索で初めてたどり着きました。
>「あいざわ食堂」の外見は、やりすぎの感
とありますが、あの外観は、現物のままなんですよ〜
(店の中はガラリと変えてます)

tkr
tkr
2006年4月30日9:44

もかさま
コメントありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

さて、「あいざわ食堂」の外見のお話ですが、わたしの言葉が足りなかったようですね。

建物自体はそのままということですが、わたしが気になったのは「あいざわ食堂」の看板まわりの美術です。あの看板のウェザリング(汚し)の仕事が、作り物染みていてリアリティを削いでいる、と思ったのです。

ともかく、ガメラの顔以外は素晴らしい作品だったと思います。
tkr

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