2006/04/03 東京竹橋「科学技術館サイエンスホール」で「美しき運命の傷痕」の試写を観た。

現代のパリ。
22年前に父親をある出来事によって失った三姉妹。美しく成長した彼女たちは、いまそれぞれに問題を抱えている。

写真家の夫ピエール(ジャック・ガンブラン)との間に二人の子供がいる長女ソフィ(エマニュエル・ベアール)は36歳。彼女は夫の浮気を確信していた。

三女のアンヌ(マリー・ジラン)は聡明で魅力的な大学生。彼女は大学教授フレデリック(ジャック・ペラン)と不倫関係にあった。

体が不自由で口がきけなくなった母親(キャロル・ブーケ)の世話を一手に引き受けている次女のセリーヌ(カリン・ヴィアール)は32歳。彼女はある日セバスチャン(ギョーム・カネ)という魅力的な男性に声をかけられる。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:ダニス・タノヴィッチ
原案:クシシュトフ・キエシロフスキー、クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
出演:エマニュエル・ベアール(ソフィ)、カリン・ヴィアール(セリーヌ)、マリー・ジラン(アンヌ)、キャロル・ブーケ(母)、ジャック・ペラン(フレデリック)、ジャック・ガンブラン(ピエール)、ジャン・ロシュフォール(ルイ)、ミキ・マノイロヴィッチ(父)、ギョーム・カネ(セバスチャン)、マリアム・ダボ(ジュリー)、ガエル・ボナ(ジョセフィーヌ)、ドミニク・レイモン(ミシェル)

冒頭、タイトルバックが秀逸である。
万華鏡越しのような映像の中、カッコウが他の鳥の巣に卵を産み、いつしかその卵が孵り雛になり、他の卵を巣から落し続ける姿を執拗に映し続ける。

わたしの心は期待で高鳴った。

前半部分。
三姉妹のそれぞれの日常が控えめに丹念に描写される。
明確な出来事が起こらない前半部分は、ともすれば退屈な印象を観客に与えかねない。

物語が動き出す中盤から後半にかけては、非常に面白く、前半部分で語られた出来事が伏線となり、物語は一気に収束し、最後のすばらしいセリフで本作は幕を閉じる訳である。

実際のところ、様々な出来事が起き続けるような作品に慣れ親しんでいる観客の皆さんにとっては前半部分は退屈であり、もしかすると苦痛に感じるかも知れない。
が、終わり良ければすべて良し、苦痛を乗り越えてこそ、すばらしい物語が楽しめるのだ。

ところで、本作「美しき運命の傷痕」は、ポーランドの巨匠クシシュトフ・キエシロフスキがダンテの「神曲」に想を得て構想した三部作「天国」「地獄」「煉獄」のうちの「地獄」に当たる作品で、キエシロフスキの遺稿の映画化、と言うことである。

そう考えた場合、ジャン・ロシュフォールが演じたルイと言うキャラクターと彼の万華鏡が興味深い。

彼は毎日のように、万華鏡を覗き続け、良い絵柄が出来たと言って、母親(キャロル・ブーケ)の世話をするセリーヌ(カリン・ヴィアール)に万華鏡を覗かせる。

ここで製作者が言っているのは、三姉妹にとっての「地獄」とも思える出来事は、神の視点から見ると、万華鏡の中に一瞬だけ構築される絵柄に過ぎない、と言う事である。

ここで冒頭のカッコウのタイトルバックのシークエンスがより深い意味を持つことになってくるのだ。

役者は役者で皆さんすばらしいのだが、特に次女セリーヌを演じたカリン・ヴィアールが良かった。

あとは母親役のキャロル・ブーケである。
彼女のラストのセリフ(?)が大変すばらしい。

とにかく、本作「美しき運命の傷痕」はハリウッド大作映画に毒された観客の感性を正常な状態に戻す、一服の清涼剤、−−シニカルな清涼剤だが−−、のような働きをする作品である。
機会があったら、是非劇場に足を運んでいただきたい。
 
 
余談だけど、今回のポスターもそうなのだが、エマニュエル・ベアールが出演する作品のアートワークには、いつも同じような写真が使われているような気がする。

それは、「裸の肩越しにこちらを見るベアールの顔」である。
なんだか、いつもそんな感じのポスターを制作されているような気がする。

☆☆☆(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

■人気blogランキング
当blog「徒然雑草」は「人気blogランキング」に登録しています。

参考になったら、クリック!(現在のランキングがわかります)
http://blog.with2.net/link.php?29604

コメント

tkr

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索