2005/09/01 東京板橋「ワーナー・マイカル・シネマズ板橋」で「亡国のイージス」を観た。
東京湾沖で訓練航海を予定している海上自衛隊イージス艦《いそかぜ》に、FTG・溝口哲也3等海佐(中井貴一)率いる14名の自衛官が訓練航海の視察のため乗艦して来た。
訓練中に事故死した《いそかぜ》2等海士・菊政克美(森岡龍)の遺体をそのままにし、訓練を続行しようとする《いそかぜ》副長・宮津弘隆2等海佐(寺尾聰)に、《いそかぜ》先任伍長・仙石恒史(真田広之)は死人が出ているのに何故訓練を続行しようとするのかと詰め寄る。
副長ではらちがあかず、艦長・衣笠秀明1等海佐(橋爪淳)に直談判しようとする仙石に副長は告げる。「艦長は既に殺されている」と。
監督:阪本順治
原作:福井晴敏 『亡国のイージス』(講談社刊)
脚本:長谷川康夫、飯田健三郎
編集:ウィリアム・アンダーソン
音楽:トレヴァー・ジョーンズ
出演:真田広之(《いそかぜ》先任伍長・仙石恒史)、寺尾聰(《いそかぜ》副長・宮津弘隆2等海佐)、佐藤浩市(DAIS内事本部長・渥美大輔)、中井貴一(FTG・溝口哲也3等海佐)、勝地涼(《いそかぜ》1等海士・如月 行)、チェ・ミンソ(ジョンヒ)、吉田栄作(《いそかぜ》船務長・竹中 勇3等海佐)、谷原章介(《いそかぜ》水雷士・風間雄大3等海尉)、豊原功補(《いそかぜ》砲雷長・杉浦丈司3等海佐)、光石研(《いそかぜ》掌帆長・若狭祥司、森岡龍(《いそかぜ》2等海士・菊政克美)、中沢青六(《いそかぜ》機関長・酒井宏之3等海佐)、中村育二(《いそかぜ》航海長・横田利一1等海尉)、橋爪淳(《いそかぜ》艦長・衣笠秀明1等海佐)、安藤政信(FTG・山崎謙二2等海尉)、真木蔵人(第204飛行隊・宗像良昭1等空尉)、松岡俊介(DAIS局員・小林政彦)、池内万作(DAIS局員・服部 駿)、矢島健一(《うらかぜ》艦長・阿久津徹男2等海佐)、佐々木勝彦(防衛庁長官・佐伯秀一)、天田俊明(統合幕僚会議議長・木島祐孝)、鹿内孝(海上幕僚長・湊本仁志)、平泉成(警察庁長官・明石智司)、岸部一徳(内閣情報官・瀬戸和馬)、原田美枝子(宮津芳恵)、原田芳雄(内閣総理大臣・梶本幸一郎)
本作「亡国のイージス」は、「ローレライ」「戦国自衛隊1549」に続く福井晴敏原作の映画化作品である。
「ローレライ」に激怒し「戦国自衛隊1549」にあきれたわたしにとって本作は、最後の砦的起死回生の期待の作品だった訳だ。
しかしながら、わたしは再度激怒することになる。
本作「亡国のイージス」と言う作品は、防衛庁、海上自衛隊、航空自衛隊の全面協力を得、日本映画史に残るであろう豪華キャストを揃え、その上海外からもスタッフを集め、満を持して製作された日本映画界期待の星なのだ。
キャストも豪華、勿論彼等俳優たちの演技合戦も楽しいし、昨今の日本映画での不安要素であるVFXも特に問題はない、物語にリアリティを醸し出す世界観を構築する美術や衣装も良い仕事をしているし、演出も編集も順当、更には音楽にも問題はない。
しかしながら、なんと言っても脚本とキャラクター設定がひどいのだ。
特にひどいのは寺尾聰演じる《いそかぜ》副長・宮津弘隆2等海佐と、彼の部下である上級士官たちのキャラクター設定と後半部分の脚本である。
副長・宮津は国を憂いて大義の下、謀反を企てる人物、−−言わば革命家−−、だと言うのに、脚本上にしてもキャラクター設定上にしても全く説得力がない。
そして更にそのキャラクターの行動原理には一貫性が無く、明確な意志が感じられない。
副長・宮津は、コロコロと手のひらを返す人物として描かれている。これはまるで「ザ・ロック」のエド・ハリス(フランシス・X・ハメル准将)のように一貫性がない。
その一貫性のない副長・宮津に引き入れられてしまった、《いそかぜ》船務長・竹中 勇3等海佐(吉田栄作)、《いそかぜ》水雷士・風間雄大3等海尉(谷原章介)、《いそかぜ》砲雷長・杉浦丈司3等海佐(豊原功補)、《いそかぜ》掌帆長・若狭祥司(光石研)等は全く浮かばれない。
まるで、フランス語が出来ると言う一点で過去に連れて行かれ、すぐ殺され、その後他の連中は平気で英語を話している「タイムライン」のフランソワ位に浮かばれない。
寺尾聰にしても吉田栄作にしも後半部分のひどい脚本はさておき、十分評価できる仕事をしたと思う。でもいかんせん脚本がひどすぎる、と言う事なのだ。
また、原田美枝子(宮津芳恵)のエピローグもひどい。
セリフもひどいが、やっていることもひどい。
国家を転覆させようとした人物の妻が何のほほんと墓参りしているのだ!
ついでに「今頃、二人で船の話でもしているんじゃないの」とは何事だ!
わたしは、こういったセリフが書ける脚本家の神経を疑うね。
キャストだが、キャストはなんと言っても佐藤浩市(DAIS内事本部長・渥美大輔)と原田芳雄(内閣総理大臣・梶本幸一郎)が素晴らしかった。
こういった作品の肝は、現場とその対策本部の舞台の描き方にかかっており、その対策本部が上手く描かれている作品に傑作が多い。「博士の異常な愛情」しかり「合衆国最後の日」しかりである。
また脚本の話になってしまうが、本作のコンセプトは、ほとんど「合衆国最後の日」と同じであり、犯人側の要求(国家機密の公開)も同じである。(但し「合衆国最後の日」と比較すると本作の国家機密は対岸の火事程度の矮小化された機密である、これも脚本の穴だろう)
その対策本部で気を吐いていたのが、やはり佐藤浩市と原田芳雄である。ピーター・セラーズとジョージ・C・スコット位凄かったのではないだろうか。
また佐藤浩市と岸部一徳(内閣情報官・瀬戸和馬)の絡みも良かった。
余談だが、冗談抜きに佐藤浩市は俳優として凄いと思う。例えば最近の日産のCF(CM)でも全力投球の演技に感涙モノである。
あと演出上なの話なのだが、原田芳雄のネクタイの状態がシーン毎に異なっているのも興味深かった。
実行犯の主犯となる中井貴一は、良いのは良いのだが、コンセプトが得体の知れない人物と言う事なので、演りづらい部分もあるのだと思うが、いまいち鬼気迫る部分が足りなかったと思う。勿論冷静沈着で冷酷な役柄なので仕方が無いのだが、もう少しはじけて欲しかった。「ブラック・レイン」の佐藤(松田優作)位が良かったかな、と思う。
寺尾聰は頑張っているのだが、演技スタイルに弊害が出てきているのではないか、と思った。俳優としてのカラーと言えばそれまでなのだが、「CASSHERN」や最近のダイワハウスのCF(CM)と同様の印象を受ける。
さて、主役の真田広之だが、行動原理の根本には釈然としない部分があるが、元JAC(現JAE)の面目躍如と言うところだろうか。しかしながら、前述の行動原理に浪花節的背景が見て取れ、感覚的には「助太刀屋助六」のような印象を受ける。
本作「亡国のイージス」は素晴らしい俳優を多数キャスティングできた数少ない貴重な機会であったと思うし、防衛庁の協力をはじめとして、日本や海外の優秀なスタッフを一同に介し、日本映画の底力を世に知らしめる素晴らしい機会だったのだと思う。
しかしながら、脚本の出来がそれをさせなかった残念なケースだと言わざるを得ない。
なんとも残念な話である。
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東京湾沖で訓練航海を予定している海上自衛隊イージス艦《いそかぜ》に、FTG・溝口哲也3等海佐(中井貴一)率いる14名の自衛官が訓練航海の視察のため乗艦して来た。
訓練中に事故死した《いそかぜ》2等海士・菊政克美(森岡龍)の遺体をそのままにし、訓練を続行しようとする《いそかぜ》副長・宮津弘隆2等海佐(寺尾聰)に、《いそかぜ》先任伍長・仙石恒史(真田広之)は死人が出ているのに何故訓練を続行しようとするのかと詰め寄る。
副長ではらちがあかず、艦長・衣笠秀明1等海佐(橋爪淳)に直談判しようとする仙石に副長は告げる。「艦長は既に殺されている」と。
監督:阪本順治
原作:福井晴敏 『亡国のイージス』(講談社刊)
脚本:長谷川康夫、飯田健三郎
編集:ウィリアム・アンダーソン
音楽:トレヴァー・ジョーンズ
出演:真田広之(《いそかぜ》先任伍長・仙石恒史)、寺尾聰(《いそかぜ》副長・宮津弘隆2等海佐)、佐藤浩市(DAIS内事本部長・渥美大輔)、中井貴一(FTG・溝口哲也3等海佐)、勝地涼(《いそかぜ》1等海士・如月 行)、チェ・ミンソ(ジョンヒ)、吉田栄作(《いそかぜ》船務長・竹中 勇3等海佐)、谷原章介(《いそかぜ》水雷士・風間雄大3等海尉)、豊原功補(《いそかぜ》砲雷長・杉浦丈司3等海佐)、光石研(《いそかぜ》掌帆長・若狭祥司、森岡龍(《いそかぜ》2等海士・菊政克美)、中沢青六(《いそかぜ》機関長・酒井宏之3等海佐)、中村育二(《いそかぜ》航海長・横田利一1等海尉)、橋爪淳(《いそかぜ》艦長・衣笠秀明1等海佐)、安藤政信(FTG・山崎謙二2等海尉)、真木蔵人(第204飛行隊・宗像良昭1等空尉)、松岡俊介(DAIS局員・小林政彦)、池内万作(DAIS局員・服部 駿)、矢島健一(《うらかぜ》艦長・阿久津徹男2等海佐)、佐々木勝彦(防衛庁長官・佐伯秀一)、天田俊明(統合幕僚会議議長・木島祐孝)、鹿内孝(海上幕僚長・湊本仁志)、平泉成(警察庁長官・明石智司)、岸部一徳(内閣情報官・瀬戸和馬)、原田美枝子(宮津芳恵)、原田芳雄(内閣総理大臣・梶本幸一郎)
本作「亡国のイージス」は、「ローレライ」「戦国自衛隊1549」に続く福井晴敏原作の映画化作品である。
「ローレライ」に激怒し「戦国自衛隊1549」にあきれたわたしにとって本作は、最後の砦的起死回生の期待の作品だった訳だ。
しかしながら、わたしは再度激怒することになる。
本作「亡国のイージス」と言う作品は、防衛庁、海上自衛隊、航空自衛隊の全面協力を得、日本映画史に残るであろう豪華キャストを揃え、その上海外からもスタッフを集め、満を持して製作された日本映画界期待の星なのだ。
キャストも豪華、勿論彼等俳優たちの演技合戦も楽しいし、昨今の日本映画での不安要素であるVFXも特に問題はない、物語にリアリティを醸し出す世界観を構築する美術や衣装も良い仕事をしているし、演出も編集も順当、更には音楽にも問題はない。
しかしながら、なんと言っても脚本とキャラクター設定がひどいのだ。
特にひどいのは寺尾聰演じる《いそかぜ》副長・宮津弘隆2等海佐と、彼の部下である上級士官たちのキャラクター設定と後半部分の脚本である。
副長・宮津は国を憂いて大義の下、謀反を企てる人物、−−言わば革命家−−、だと言うのに、脚本上にしてもキャラクター設定上にしても全く説得力がない。
そして更にそのキャラクターの行動原理には一貫性が無く、明確な意志が感じられない。
副長・宮津は、コロコロと手のひらを返す人物として描かれている。これはまるで「ザ・ロック」のエド・ハリス(フランシス・X・ハメル准将)のように一貫性がない。
その一貫性のない副長・宮津に引き入れられてしまった、《いそかぜ》船務長・竹中 勇3等海佐(吉田栄作)、《いそかぜ》水雷士・風間雄大3等海尉(谷原章介)、《いそかぜ》砲雷長・杉浦丈司3等海佐(豊原功補)、《いそかぜ》掌帆長・若狭祥司(光石研)等は全く浮かばれない。
まるで、フランス語が出来ると言う一点で過去に連れて行かれ、すぐ殺され、その後他の連中は平気で英語を話している「タイムライン」のフランソワ位に浮かばれない。
寺尾聰にしても吉田栄作にしも後半部分のひどい脚本はさておき、十分評価できる仕事をしたと思う。でもいかんせん脚本がひどすぎる、と言う事なのだ。
また、原田美枝子(宮津芳恵)のエピローグもひどい。
セリフもひどいが、やっていることもひどい。
国家を転覆させようとした人物の妻が何のほほんと墓参りしているのだ!
ついでに「今頃、二人で船の話でもしているんじゃないの」とは何事だ!
わたしは、こういったセリフが書ける脚本家の神経を疑うね。
キャストだが、キャストはなんと言っても佐藤浩市(DAIS内事本部長・渥美大輔)と原田芳雄(内閣総理大臣・梶本幸一郎)が素晴らしかった。
こういった作品の肝は、現場とその対策本部の舞台の描き方にかかっており、その対策本部が上手く描かれている作品に傑作が多い。「博士の異常な愛情」しかり「合衆国最後の日」しかりである。
また脚本の話になってしまうが、本作のコンセプトは、ほとんど「合衆国最後の日」と同じであり、犯人側の要求(国家機密の公開)も同じである。(但し「合衆国最後の日」と比較すると本作の国家機密は対岸の火事程度の矮小化された機密である、これも脚本の穴だろう)
その対策本部で気を吐いていたのが、やはり佐藤浩市と原田芳雄である。ピーター・セラーズとジョージ・C・スコット位凄かったのではないだろうか。
また佐藤浩市と岸部一徳(内閣情報官・瀬戸和馬)の絡みも良かった。
余談だが、冗談抜きに佐藤浩市は俳優として凄いと思う。例えば最近の日産のCF(CM)でも全力投球の演技に感涙モノである。
あと演出上なの話なのだが、原田芳雄のネクタイの状態がシーン毎に異なっているのも興味深かった。
実行犯の主犯となる中井貴一は、良いのは良いのだが、コンセプトが得体の知れない人物と言う事なので、演りづらい部分もあるのだと思うが、いまいち鬼気迫る部分が足りなかったと思う。勿論冷静沈着で冷酷な役柄なので仕方が無いのだが、もう少しはじけて欲しかった。「ブラック・レイン」の佐藤(松田優作)位が良かったかな、と思う。
寺尾聰は頑張っているのだが、演技スタイルに弊害が出てきているのではないか、と思った。俳優としてのカラーと言えばそれまでなのだが、「CASSHERN」や最近のダイワハウスのCF(CM)と同様の印象を受ける。
さて、主役の真田広之だが、行動原理の根本には釈然としない部分があるが、元JAC(現JAE)の面目躍如と言うところだろうか。しかしながら、前述の行動原理に浪花節的背景が見て取れ、感覚的には「助太刀屋助六」のような印象を受ける。
本作「亡国のイージス」は素晴らしい俳優を多数キャスティングできた数少ない貴重な機会であったと思うし、防衛庁の協力をはじめとして、日本や海外の優秀なスタッフを一同に介し、日本映画の底力を世に知らしめる素晴らしい機会だったのだと思う。
しかしながら、脚本の出来がそれをさせなかった残念なケースだと言わざるを得ない。
なんとも残念な話である。
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