2005/05/17 東京神保町「一ツ橋ホール」で「炎のメモリアル」の試写を観た。

ジャック・モリソン(ホアキン・フェニックス)は、ボルティモアの消防署に勤務するベテランの消防士。ポンプ隊が放水を開始する前に燃えさかる建物に飛び込み、生存者を救出する事が、ラダー隊(ハシゴ車隊)に所属する彼の仕事だ。

穀物倉庫で発生した大規模な火災の現場に駆けつけたジャックは、12階に取り残された一人の男性を窓からロープで脱出させた直後、爆発に巻き込まれ、数階下のフロアに落下し、けがを負ってしまう。もはや自力での脱出は不可能。仲間の救援を待つあいだ、ジャックの脳裏には、人命救助の熱い志を抱いて消防の仕事に就いた、懐かしい日々の思い出が蘇ってきた。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:ジェイ・ラッセル
脚本:ルイス・コリック
出演:ホアキン・フェニックス(ジャック・モリソン)、ジョン・トラヴォルタ(マイク・ケネディ)、ジャシンダ・バレット(リンダ・モリソン)、ロバート・パトリック(レニー・リクター)、モリス・チェスナット(トミー・ドレイク)、ビリー・バーク(デニス・ゲクイン)、バルサザール・ゲティ(レイ・ゲクイン)、ジェイ・ヘルナンデス(キース・ペレス)

本作「炎のメモリアル」は消防士と言うヒーローを描いた作品ではなく、消防士と言う職業を選んだ普通の男たちと、そして消防士を夫としてしまった女たちを描いた物語なのだ。
登場する全ての消防士は、ハリウッド映画にありがちの常軌を逸した活躍をするヒーローではなく、我々と全く同じ、ただの人間として描かれている点が大変素晴らしい。

この一点で本作「炎のメモリアル」は、「バックドラフト」を凌ぎ「タワーリング・インフェルノ」の高みに近づいた作品だと言えるだろう。

勿論、ハリウッド的大活劇を望む多くの一般大衆にとっては、本作はその点で物足りない地味な印象を与えるのかも知れないが、本作で描かれる消防士は、あくまでも我々と同じように現実社会の中で生活する等身大の人間でしかないのだ。
超人的に大活躍するヒーローではなく、我々の周りにいる普通の人間を描くことが、「911同時多発テロ」以降のアメリカに必要だった訳なのだ。

この辺りは、監督を務めたジェイ・ラッセルのドキュメンタリー作品でのキャリアが活きたのではないか、と思える。
梶のシークエンスでの演出はあくまでもリアリティを追及し、余計な過剰演出は皆無、抑制の効いた孤高な演出が光っている。
普通の消防士が火災に対し普通に対処をしている姿が潔い。

そして、その消防士の後ろには、我々同様家族があるのである。
絶対に死なないヒーロー消防士ではなく、我々同様些細な原因で死んでしまう普通の消防士、そしてその消防士を支える家族。
普通の家族の普通の葛藤が素晴らしい効果をあげているのだ。

また、火災のシークエンスに対し、家庭や消防士の日常を描いたシークエンスの方が尺が長いと思うのだが、その事が人間を描き、観客にジャックの思い出を植え付ける事に成功している。
ジャック(ホアキン・フェニックス)の配属から、リンダ(ジャシンダ・バレット)との出会い、結婚、消防士仲間との楽しい日常、葛藤、そして仲間の死と、ジャックの生涯を描く事により、既に我々観客はジャックの同僚としての記憶を植えつけられてしまっているのだ。

些細な出来事や思い出の数々が、我々観客にカタルシスを感じさせる訳なのだ。

キャストは何と言ってもジョン・トラヴォルタ(マイク・ケネディ)だろう。消防士と言う殉職者が比較的多い職場であるから、葬式のシーンがいくつかあるのだが、後半の葬式シーンは、おそらく映画史に残る素晴らしい葬式シーンになっていると思うのだが、そのシークエンスでのトラヴォルタは最高である。
勿論、冒頭から中盤へとトラヴォルタの見せ場は多いのだが、前述の葬式シーンのトラヴォルタの姿は凄すぎる。

一方ホアキン・フェニックス(ジャック・モリソン)はヒーローではなく、普通の消防士が悩みながらも理想を貫く姿が潔かった。地味な風貌がより効果的だった、と言えるだろう。

あとは、ムード・メイカーであるビリー・バーク(デニス・ゲクイン)や、ある意味ヒール役となるロバート・パトリック(レニー・リクター)も良かったし、発電所で事故に遭うモリス・チェスナット(トミー・ドレイク)も良かった。

そしてジャックの妻を演じたジャシンダ・バレット(リンダ・モリソン)である。消防士の妻と言う、心労が絶えないであろう役柄を静かに、そして激しく演じている。彼女の好演が本作の成功の一因となっているだろう。

余談だが、本作「炎のメモリアル」の消防士の描き方のスタンスは「ライト・スタッフ」の宇宙飛行士の描き方に近い印象を受けた。
そう考えると、「炎のメモリアル」と「バックドラフト」は、「ライト・スタッフ」と「スペースカウボーイ」程の差があると思った。

とにかく本作「炎のメモリアル」は、等身大の消防士を真摯に描いた傑作である。
大活劇を期待する人には期待外れかも知れないが、人生の機微に感じ入る人には絶対のオススメ作品である。

観ろ! そして泣け! なのだ。

☆☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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