「Ray/レイ」

2005年1月26日 映画
2005/01/24 東京九段下「九段会館」で「Ray/レイ」の試写を観た。

監督:テイラー・ハックフォード
出演:ジェイミー・フォックス(レイ・チャールズ)、ケリー・ワシントン(デラ・ビー・ロビンソン)、クリフトン・パウエル(ジェフ・ブラウン)、ハリー・レニックス(ジョー・アダムス)、リチャード・シフ(ジェリー・ウェクスラー)、アーンジャニュー・エリス(メアリー・アン・フィッシャー)、シャロン・ウォーレン(アレサ・ロビンソン)、カーティス・アームストロング(アーメット・アーティガン)、レジーナ・キング(マージー・ヘンドリックス)
 
 
本作「Ray/レイ」は、2004年急逝した実在のミュージシャンであるレイ・チャールズの所謂伝記映画である。
実在のミュージシャンを描いた伝記映画は何本もあるが、わたし的にはオリバー・ストーンの「ドアーズ」にも匹敵する素晴らしい音楽映画に仕上がっている、と感じた。

先ずは、レイ・チャールズを演じたジェイミー・フォックスのそっくりさ加減に驚きである。まるで若き日のレイ・チャールズがそのまま演じているかのような印象を受ける。
前述の「ドアーズ」でジム・モリソンを演じたヴァル・キルマーのそっくり加減にも驚いたが、本作のジェイミー・フォックスのレイ・チャールズは、ヴァル・キルマーに勝るとも劣らない素晴らしい出来である。

わたしは、映画に関する情報を出来るだけシャットアウトした状態で映画を観るようにしているし、パンフレット等も買わないし読まないので、ジェイミー・フォックスが実際に演奏したり歌っているかどうかは知らないのだが、エンド・クレジットを読む限り、ジェイミー・フォックス自身が演奏し、歌っている曲が何曲もあったようである。
この辺も含めてヴァル・キルマーも吃驚と言える所以であろう。

また、音楽映画ならば当然といえば当然なのだが、本作に挿入される珠玉の名曲も言うまでも無く素晴らしく、印象的な楽曲をモチーフとしたシークエンスの目白押しである。
例えばファースト・カットならぬファースト・ノートひとつでわたし達音楽ファンは、唸らされてしまうと同時に、映画にのめり込んでしまうし、レイ・チャールズとマージー・ヘンドリックス(レジーナ・キング)がヴォーカルの応酬をする「ヒット・ザ・ロード・ジャック」なんかは感涙ものである。
また、「ホワッド・アイ・セイ」が生まれる歴史的瞬間にも立ち会える。これは「ドアーズ」で描かれた「ハートに火をつけて」が生まれる瞬間を描いたシークエンスをも髣髴とさせる。

本作はなんと、152分と言う長尺の作品だが、レイ・チャールズの音楽を聴き、そしてレイ・チャールズの波乱に満ちた人生を再体験しているだけで、あっと言う間に時が過ぎてしまう印象を受け、長尺も気にならない作品に仕上がっている点も素晴らしい。

ところで、伝記的音楽映画の弱点は、その時代毎のエピソードを語る際、必然的に散文的にならざるを得ない、と言う点が挙げられる。

例えば、
「19XX年 地名」
と言う字幕の登場頻度が高ければ、作品はより散文的になり、否応無く観客は、夢の世界から現実世界へと近づいてしまう。
本作でもやはり、特に駆け足で語られる後半部分にその傾向が強く、残念な印象を受けた。

とは言うものの、レイ・チャールズの現在と過去(少年時代)を行き来する本作の構成は見事で、過去のある事件が現在のレイ・チャールズの人格形成に大きな影響を与えてる点が非常に興味深かった。
また、レイ・チャールズの波乱に満ちた生涯を良い所も悪い所も等しく描くスタンスに好感を感じる。

ジェイミー・フォックス以外のキャストとしては、女優陣の活躍に目を瞠るものがある。

レイ・チャールズの母アレサ・ロビンソンを演じたシャロン・ウォーレンは恐ろしく強靭で厳しい、ある意味理想的な母親像を厳格に演じている。
彼女はレイ・チャールズがミュージシャンとして成功する根本を創った存在として描かれている。彼女の教育方針がなければレイ・チャールズは生まれなかったのだ。

レイ・チャールズの妻デラ・ビー・ロビンソンを演じたケリー・ワシントンも良かった。
豪奢な暮らしではなく、レイとその子供たちと暮らしたい、と言う小さな、そして難しい望みを体現するキャラクターで、非常に大きく包容力がある女性を見事に演じている。
ケリー・ワシントンはシャロン・ウォーレンと同様、本作の良心的役割を担っているのだ。

レイのバンドの初代女性コーラスを担当したメアリー・アン・フィッシャーを演じたアーンジャニュー・エリスも素晴らしく、当時のショウ・ビジネス界の有体を見事に体現している。

またレイの女性コーラス・ユニット「レイ・レッツ」のトップをつとめるマージー・ヘンドリックスを演じたレジーナ・キングも前述通り凄い。演技も凄いがヴォーカルも凄い。
彼女もアーンジャニュー・エリス同様、レイを暗黒面に引き込む役柄を振られているのだが、彼女等とケリー・ワシントン(デラ・ビー)との対比が非常に興味深い。

脚本は前述の通り散文的なきらいが否定できないが、レイの少年時代のシークエンスを現代のレイのシークエンスに挟み込む事で、行間が感じられ含みがある脚本に仕上がっている。
また挿入される楽曲のイメージにあったシークエンスの描写につとめた脚本は、楽曲のイメージを最大限抽出し、観客に伝える事に成功している。

また音楽映画の肝である演奏シーンは全く言う事がない程の素晴らしい出来である。
音楽映画史上に残る素晴らしい演奏シーンの釣瓶打ちなのだ。

とにかく、本作「Ray/レイ」は音楽ファン必見の作品だと思うし、ジェイミー・フォックスの演技を見ると、「コラテラル」なんかを見て喜んでいる場合ではない、と思える作品なのだ。

様々な賞を受賞しているのも頷ける、素晴らしい作品なのだ。

☆☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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