「ターミナル」に隠された意図 その3
2004年12月28日 映画
引き続き「ターミナル」に隠されたスティーヴン・スルバーグの意図を探ってみよう。
=+=+=+=+=
先ずは、こちらを読んでいただきたい。
「ターミナル」☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
http://diarynote.jp/d/29346/20041209.html
「ターミナル」に隠された意図 その1
■「JFK国際空港」が意味すること
http://diarynote.jp/d/29346/20041223.html
「ターミナル」に隠された意図 その2
■「スタートレック」引用の理由
http://diarynote.jp/d/29346/20041224.html
=+=+=+=+=
それでは、
「ターミナル」に隠された意図 その3
をお送りします。
■「罪」を犯す人々
御幣はあるが、「ターミナル」の主要登場人物は、一部の例外を除いて「ルール」や「法規」を能動的に守らない人物、大なり小なり罪を犯している人物として描かれている。
例えば、アメリア(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は不倫をしているし、ジョー(チー・マクブライド)、エンリケ(ディエゴ・ルナ)、グプタ(クマール・パラーナ)は空港内の遺失物を横領の上、私益に供している。更にエンリケは立入禁止区域にビクター(トム・ハンクス)を招じた上、食料の横流しをしている。グプタの過去の罪については言うまでもないだろう。
また、フランク(スタンリー・トゥッチ)はビクターに対し何度も空港からの違法退去を教唆(きょうさ)しているし、レイ(バリー・シャバカ・ヘンリー)は犯罪行為を看過した上、フランクの業務命令に服従しない。
ここまで徹底しているとなると、ほとんどの登場人物を広義の意味での犯罪者として描くスピルバーグには、なんらかの意図があると考えて差支えないだろう。
さて、我等が主人公ビクター(トム・ハンクス)はどうだろう。果たして何か罪を犯しているのだろうか。
答えは否である。
勿論、ビクターは空港内の一角を不当占拠しているし、トランプ賭博で遺失物を私益に供する片棒を担いでいる。
また、建設業者に対し、自らを語らない事により間接的に虚偽の申請をしているし、更に建設業者の物品を私益に供している。
しかしこれは能動的な犯罪行為ではなく、善意から派生する受動的な行為、現状を甘受する行為として描かれており、情状酌量の余地が多々ある行為と言える。
そして、上記のような受動的な罪を除けば、ビクターは「ルール」や「法規」を遵守する、はっきり言って莫迦正直な人物として描かれているのである。
例えば、前述のようにフランクから幾度となく、空港を退去するよう仄めかされても(犯罪教唆)、ビクターは定められた「ルール」を遵守する行動に終始する。
いくばくかの迷いを見せる事はあるものの、ビクターは不正を行わない心を持ち合わせているのだ。
これは、キリストが荒れ地で受けた悪魔の誘惑になぞらえているのかも知れない。
40日の間、食事をしなかったキリストと、飢えるビクターが重なって見えるし、フランクの誘惑(犯罪教唆)に打ち勝つあたりも、キリストの受難説を肯定しているかも知れない。
こんなエピソードもある。
カートの原状復帰を行うことにより、小銭を得ることに気付いたビクターは、空港内のカートを集め始める。
それを見たフランクは、空港内の整理を目的とした職員を雇用する事を決断する。
多くの観客は「あぁ、フランクはビクターを雇うつもりだな、ビクターの生活も少しは楽になるのかな」と胸を撫で下ろすとともに、「フランクもなんだかんだ言っても良い奴だな」と思った瞬間、新たに雇用された白人男性がビクターの前に登場する訳である。
その瞬間、ほとんどの人は、少なくても現在集めて運んでいるカート位は、自分で戻すことを主張し、いくらかの小銭をせしめる事を要求するだろう。わたしもそうするだろうし、あなたも多分そうするだろう。
しかし、ビクターはそうせず、理不尽な現状を甘受し、自らの集めたカートを後にするのである。
(※ このシークエンスは、白人の雇用を守るために、マイノリティの仕事を取り上げている事を暗喩しています。後日、後述するかもしれません。)
このシークエンスからもビクターは、仮に理不尽な命令であろうとも、「ルール」や「法規」に準じていれば、それに従う人物である事が見て取れるのだ。
また、ビクターがよく食べていたクラッカーのケチャップ・サンドやマスタード・サンド。
飢えを満たすまでには行かないものの、あのクラッカーやケチャップ、マスタードはおそらくバーやラウンジで無料(フリー)で
配られているものだろう。
この辺りからも、飢えを満たすために窃盗を行うのではなく、「ルール」や「法規」に莫迦正直に従うキャラクターとして設定されているのだ。
これは、「ターミナル」における「空港」が「都市」や「世界」を象徴していることから、現代社会の中で広義の犯罪を犯し続けているわれわれの中にも、莫迦正直に「ルール」や「法規」を遵守しつづける、ピュアでイノセントな人物が存在する、というある種の「希望」や「理想」を描いているのではないだろうか。
そして、その人物が、英語を解さない、東欧の小国クラコウジア出身のビクターであるところが、いかにも象徴的である。
本作「ターミナル」では、とかくアメリカ社会では迫害され差別される感が否めないマイノリティが、人類の「理想」であり「希望」の象徴として描かれている訳なのだ。
犯罪にまみれた大衆の中の唯一の希望、それがビクターなのである。
そしてこれについても、ユダヤ人としてのスティーヴン・スピルバーグの「意図」が見え隠れしているのではないだろうか。
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どうでしょう?
皆さんついて来ていますか?
はっきり言って、深読みしすぎの最早「妄想」に近いのかも知れませんが、こんな考え方もある訳です。
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「ターミナル」に隠された意図 その1
■「JFK国際空港」が意味すること
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「ターミナル」に隠された意図 その2
■「スタートレック」引用の理由
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それでは、
「ターミナル」に隠された意図 その3
をお送りします。
■「罪」を犯す人々
御幣はあるが、「ターミナル」の主要登場人物は、一部の例外を除いて「ルール」や「法規」を能動的に守らない人物、大なり小なり罪を犯している人物として描かれている。
例えば、アメリア(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は不倫をしているし、ジョー(チー・マクブライド)、エンリケ(ディエゴ・ルナ)、グプタ(クマール・パラーナ)は空港内の遺失物を横領の上、私益に供している。更にエンリケは立入禁止区域にビクター(トム・ハンクス)を招じた上、食料の横流しをしている。グプタの過去の罪については言うまでもないだろう。
また、フランク(スタンリー・トゥッチ)はビクターに対し何度も空港からの違法退去を教唆(きょうさ)しているし、レイ(バリー・シャバカ・ヘンリー)は犯罪行為を看過した上、フランクの業務命令に服従しない。
ここまで徹底しているとなると、ほとんどの登場人物を広義の意味での犯罪者として描くスピルバーグには、なんらかの意図があると考えて差支えないだろう。
さて、我等が主人公ビクター(トム・ハンクス)はどうだろう。果たして何か罪を犯しているのだろうか。
答えは否である。
勿論、ビクターは空港内の一角を不当占拠しているし、トランプ賭博で遺失物を私益に供する片棒を担いでいる。
また、建設業者に対し、自らを語らない事により間接的に虚偽の申請をしているし、更に建設業者の物品を私益に供している。
しかしこれは能動的な犯罪行為ではなく、善意から派生する受動的な行為、現状を甘受する行為として描かれており、情状酌量の余地が多々ある行為と言える。
そして、上記のような受動的な罪を除けば、ビクターは「ルール」や「法規」を遵守する、はっきり言って莫迦正直な人物として描かれているのである。
例えば、前述のようにフランクから幾度となく、空港を退去するよう仄めかされても(犯罪教唆)、ビクターは定められた「ルール」を遵守する行動に終始する。
いくばくかの迷いを見せる事はあるものの、ビクターは不正を行わない心を持ち合わせているのだ。
これは、キリストが荒れ地で受けた悪魔の誘惑になぞらえているのかも知れない。
40日の間、食事をしなかったキリストと、飢えるビクターが重なって見えるし、フランクの誘惑(犯罪教唆)に打ち勝つあたりも、キリストの受難説を肯定しているかも知れない。
こんなエピソードもある。
カートの原状復帰を行うことにより、小銭を得ることに気付いたビクターは、空港内のカートを集め始める。
それを見たフランクは、空港内の整理を目的とした職員を雇用する事を決断する。
多くの観客は「あぁ、フランクはビクターを雇うつもりだな、ビクターの生活も少しは楽になるのかな」と胸を撫で下ろすとともに、「フランクもなんだかんだ言っても良い奴だな」と思った瞬間、新たに雇用された白人男性がビクターの前に登場する訳である。
その瞬間、ほとんどの人は、少なくても現在集めて運んでいるカート位は、自分で戻すことを主張し、いくらかの小銭をせしめる事を要求するだろう。わたしもそうするだろうし、あなたも多分そうするだろう。
しかし、ビクターはそうせず、理不尽な現状を甘受し、自らの集めたカートを後にするのである。
(※ このシークエンスは、白人の雇用を守るために、マイノリティの仕事を取り上げている事を暗喩しています。後日、後述するかもしれません。)
このシークエンスからもビクターは、仮に理不尽な命令であろうとも、「ルール」や「法規」に準じていれば、それに従う人物である事が見て取れるのだ。
また、ビクターがよく食べていたクラッカーのケチャップ・サンドやマスタード・サンド。
飢えを満たすまでには行かないものの、あのクラッカーやケチャップ、マスタードはおそらくバーやラウンジで無料(フリー)で
配られているものだろう。
この辺りからも、飢えを満たすために窃盗を行うのではなく、「ルール」や「法規」に莫迦正直に従うキャラクターとして設定されているのだ。
これは、「ターミナル」における「空港」が「都市」や「世界」を象徴していることから、現代社会の中で広義の犯罪を犯し続けているわれわれの中にも、莫迦正直に「ルール」や「法規」を遵守しつづける、ピュアでイノセントな人物が存在する、というある種の「希望」や「理想」を描いているのではないだろうか。
そして、その人物が、英語を解さない、東欧の小国クラコウジア出身のビクターであるところが、いかにも象徴的である。
本作「ターミナル」では、とかくアメリカ社会では迫害され差別される感が否めないマイノリティが、人類の「理想」であり「希望」の象徴として描かれている訳なのだ。
犯罪にまみれた大衆の中の唯一の希望、それがビクターなのである。
そしてこれについても、ユダヤ人としてのスティーヴン・スピルバーグの「意図」が見え隠れしているのではないだろうか。
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はっきり言って、深読みしすぎの最早「妄想」に近いのかも知れませんが、こんな考え方もある訳です。
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