2004/12/19 東京神保町「岩波ホール」で「酔画仙」を観た。
酒に酔い、女を愛し、興が乗ると神業のような筆使いで見事な絵を描き上げたという伝説の天才画家・張承業(チャン・スンオプ)。彼はその破天荒で謎の多い人生から「酔画仙」と呼ばれた。
朝鮮時代末期、開明派の学者であるキム・ビョンムン(アン・ソンギ[安聖基])は、街で子供達に殴られている貧しい子供チャン・スンオプ[張承業](チェ・ジョンソン/子役)を助ける。
数年後二人は再会し、スンオプ(チェ・ミンシク[崔岷植])の絵の才能に驚いたキムは彼を通訳官イ・ウンホン(ハン・ミョング)の家へ預けた。スンオプは、イ・ウンホンの家で下働きとして働きながら、スンオプは絵の修行を積むことになる。そんな中、スンオプはイ・ウンホンの妹ソウン(ソン・イェジン[孫芸珍])に一目惚れするが、ソウンはまもなく結婚してしまう。
通訳官の家で働きながら、絵の修行をつみ、スンオプは絵の非凡なる実力を発揮し始めた。酒に酔って興がわいたときにスンオプがとる筆からは神業のような絵が生まれ、スンオプは画家として名をなすようになった。
しかし周りの人々は彼の絵を名誉のために利用しようとするだけで、スンオプの心は満たされることは無かった。そんな彼を支えたのが没落貴族・両班(ヤンパン)の娘で妓生(キーセン)となったメヒャン(ユ・ホジョン[柳好貞])だった。
しかし時代の流れに翻弄され二人は何度もの別れと再会を強いられた。
ついに彼は宮廷画家にまでのぼりつめたが、生来の性癖を改めることなく束縛を嫌い、酒に酩酊し、女を愛し、逃亡と放浪を繰り返していた。
そんな彼にキムは「本物の芸術家になれ」と厳しく諭すのだった。スンオプの本当の苦悩の旅が始まった・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
「2002年カンヌ国際映画祭監督賞受賞」
監督:イム・グォンテク
出演:チェ・ミンシク[崔岷植](チャン・スンオプ[張承業])、アン・ソンギ[安聖基](キム・ビョンムン)、ユ・ホジョン[柳好貞](メヒャン)、ソン・イェジン[孫芸珍](ソウン)、キム・ヨジン[金汝眞](ジノン)
こういった時代考証的に美術や衣装がしっかりしたリアリティ溢れる映画を観ると、アジアと日本との文化(映画)の描き方の差異に愕然としてしまう。
あぁ、日本の時代劇はなんてリアリティが無いのだろう、と。
そもそも日本の時代劇の根本には、多くの日本文化、例えば歌舞伎や俳句がそうであるように省略と見立て、そして様式美にあふれている。
そして、その様式美を重視した世界観の下構築された所謂時代劇と言うものでは、全ての登場人物は買ったばかりのような綺麗な衣装を身に着けているし、武士の月代(さかやき)は今朝剃ったばかりのように青々としているのだ。
そう、日本の時代劇はリアリティを重視した作品ではなく、様式美を楽しむファンタジーなのである。
尤も、黒澤明の時代劇や、最近では山田洋次の「隠し剣 鬼の爪」のような作品の美術や衣装には生活観があふており、武士や農民そして市井の人々の生活に、生活感あふれる見事なリアリティを付与している。
一方アジアの巨匠チャン・イーモウの「HERO/英雄」あたりでは、日本の時代劇同様の様式美に力点を置き、リアリティとかけ離れたファンタジックな世界を描いているのだ。
わたしは使い込まれた衣装や道具、生活感溢れる舞台背景が描かれた作品が観たいのだ。
「HERO/英雄」なんかより「酔画仙」の世界観に、使い込まれた道具や衣装が醸し出すリアルな生活感溢れる作品に惹かれるのである。
例えばこれは「サンダーバード」の油で汚れた救助メカや、徹夜をすると顎が青くなる人形に、「スター・ウォーズ」のオンボロ宇宙船に、そしてそれらの使い込まれた生活感あふれる様々な道具が醸し出す圧倒的な世界観に惹かれてしまうのである。
なんだか前置きが長くなってしまったが、本作「酔画仙」は一言で言うと、大変素晴らしい作品である。
その物語は、大日本帝国と清国とが朝鮮半島の利権をめぐる争いを続ける中、「酔画仙」と呼ばれた伝説の天才画家・張承業(チャン・スンオプ)の生涯を描いたもので、波乱に満ちた歴史背景を縦軸に、張承業と絵、そして張承業を巡る女達や男達のドラマを横軸に織り成す、歴史絵巻物なのである。
最近の作品で言うと物語の構成上は「血と骨」に似た作品かもしれない。
キャストは何と言っても破天荒な天才画家・張承業を演じたチェ・ミンシク[崔岷植]に尽きる。現在公開中の「オールド・ボーイ」も素晴らしいが、本作でも存在感あふれる素晴らしい演技を見せてくれている。
そして本作の肝である、絵を描く張承業の姿も素晴らしく、本当にチェ・ミンシク[崔岷植]が、あれら素晴らしい絵を描いているかのように思えるのだ。「美しき諍い女」もビックリなのだ。
また、本作がデビュー作となる「ラブ・ストーリー」のヒロイン役ソン・イェジン[孫芸珍]も印象的な輝きを見せている。
開明派の学者キム・ビョンムンを演じたアン・ソンギ[安聖基]は名優の名に恥じない演技を見せ、陰になり日向になり張承業を見守る確固とした人物を創出している。
また、メヒャンを演じたユ・ホジョン[柳好貞]の生き様も非常に印象に残る。
脚本は、長い時代を描いている点を考えると、一般的には焦点がボケた脚本になり易いのだが、本作の時代のうねりをあまり描かずに張承業の生き様を中心に据えた脚本に好感を覚える。
しかし、歴史背景をあまり描かない、と言うことは、観客には19世紀末の朝鮮半島を取り巻く政治的歴史的背景の知識が必要である、ということも言えるのだ。
また撮影は、大草原の中を歩く張承業を、紙と筆になぞらえたようなカットが、正に絵画のように美しく、非常に印象的である。
美術や衣装は前段で書いたように素晴らしく。圧倒的な筆致で素晴らしい世界観を構築している。
美術や衣装は本当に見事である。使い込まれた衣装、薄汚れた衣装、生活感溢れるセットや道具。
映画の魔法から醒めない、素晴らしい効果を感じるのだ。
そして名匠イム・グォンテクの演出は危なげが無く、安心感に溢れている。細かい演出も楽しいしウイットにも富んでいる。
本作「酔画仙」は、物語はスローモーだし、娯楽大作のような大きな出来事は起きないが、一幅の絵画を愛でるように楽しむ作品なのだ。
そして、本作は人には教えたくない、自分だけで楽しみたい種類の作品のような気がするのだ。
☆☆☆★ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
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酒に酔い、女を愛し、興が乗ると神業のような筆使いで見事な絵を描き上げたという伝説の天才画家・張承業(チャン・スンオプ)。彼はその破天荒で謎の多い人生から「酔画仙」と呼ばれた。
朝鮮時代末期、開明派の学者であるキム・ビョンムン(アン・ソンギ[安聖基])は、街で子供達に殴られている貧しい子供チャン・スンオプ[張承業](チェ・ジョンソン/子役)を助ける。
数年後二人は再会し、スンオプ(チェ・ミンシク[崔岷植])の絵の才能に驚いたキムは彼を通訳官イ・ウンホン(ハン・ミョング)の家へ預けた。スンオプは、イ・ウンホンの家で下働きとして働きながら、スンオプは絵の修行を積むことになる。そんな中、スンオプはイ・ウンホンの妹ソウン(ソン・イェジン[孫芸珍])に一目惚れするが、ソウンはまもなく結婚してしまう。
通訳官の家で働きながら、絵の修行をつみ、スンオプは絵の非凡なる実力を発揮し始めた。酒に酔って興がわいたときにスンオプがとる筆からは神業のような絵が生まれ、スンオプは画家として名をなすようになった。
しかし周りの人々は彼の絵を名誉のために利用しようとするだけで、スンオプの心は満たされることは無かった。そんな彼を支えたのが没落貴族・両班(ヤンパン)の娘で妓生(キーセン)となったメヒャン(ユ・ホジョン[柳好貞])だった。
しかし時代の流れに翻弄され二人は何度もの別れと再会を強いられた。
ついに彼は宮廷画家にまでのぼりつめたが、生来の性癖を改めることなく束縛を嫌い、酒に酩酊し、女を愛し、逃亡と放浪を繰り返していた。
そんな彼にキムは「本物の芸術家になれ」と厳しく諭すのだった。スンオプの本当の苦悩の旅が始まった・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
「2002年カンヌ国際映画祭監督賞受賞」
監督:イム・グォンテク
出演:チェ・ミンシク[崔岷植](チャン・スンオプ[張承業])、アン・ソンギ[安聖基](キム・ビョンムン)、ユ・ホジョン[柳好貞](メヒャン)、ソン・イェジン[孫芸珍](ソウン)、キム・ヨジン[金汝眞](ジノン)
こういった時代考証的に美術や衣装がしっかりしたリアリティ溢れる映画を観ると、アジアと日本との文化(映画)の描き方の差異に愕然としてしまう。
あぁ、日本の時代劇はなんてリアリティが無いのだろう、と。
そもそも日本の時代劇の根本には、多くの日本文化、例えば歌舞伎や俳句がそうであるように省略と見立て、そして様式美にあふれている。
そして、その様式美を重視した世界観の下構築された所謂時代劇と言うものでは、全ての登場人物は買ったばかりのような綺麗な衣装を身に着けているし、武士の月代(さかやき)は今朝剃ったばかりのように青々としているのだ。
そう、日本の時代劇はリアリティを重視した作品ではなく、様式美を楽しむファンタジーなのである。
尤も、黒澤明の時代劇や、最近では山田洋次の「隠し剣 鬼の爪」のような作品の美術や衣装には生活観があふており、武士や農民そして市井の人々の生活に、生活感あふれる見事なリアリティを付与している。
一方アジアの巨匠チャン・イーモウの「HERO/英雄」あたりでは、日本の時代劇同様の様式美に力点を置き、リアリティとかけ離れたファンタジックな世界を描いているのだ。
わたしは使い込まれた衣装や道具、生活感溢れる舞台背景が描かれた作品が観たいのだ。
「HERO/英雄」なんかより「酔画仙」の世界観に、使い込まれた道具や衣装が醸し出すリアルな生活感溢れる作品に惹かれるのである。
例えばこれは「サンダーバード」の油で汚れた救助メカや、徹夜をすると顎が青くなる人形に、「スター・ウォーズ」のオンボロ宇宙船に、そしてそれらの使い込まれた生活感あふれる様々な道具が醸し出す圧倒的な世界観に惹かれてしまうのである。
なんだか前置きが長くなってしまったが、本作「酔画仙」は一言で言うと、大変素晴らしい作品である。
その物語は、大日本帝国と清国とが朝鮮半島の利権をめぐる争いを続ける中、「酔画仙」と呼ばれた伝説の天才画家・張承業(チャン・スンオプ)の生涯を描いたもので、波乱に満ちた歴史背景を縦軸に、張承業と絵、そして張承業を巡る女達や男達のドラマを横軸に織り成す、歴史絵巻物なのである。
最近の作品で言うと物語の構成上は「血と骨」に似た作品かもしれない。
キャストは何と言っても破天荒な天才画家・張承業を演じたチェ・ミンシク[崔岷植]に尽きる。現在公開中の「オールド・ボーイ」も素晴らしいが、本作でも存在感あふれる素晴らしい演技を見せてくれている。
そして本作の肝である、絵を描く張承業の姿も素晴らしく、本当にチェ・ミンシク[崔岷植]が、あれら素晴らしい絵を描いているかのように思えるのだ。「美しき諍い女」もビックリなのだ。
また、本作がデビュー作となる「ラブ・ストーリー」のヒロイン役ソン・イェジン[孫芸珍]も印象的な輝きを見せている。
開明派の学者キム・ビョンムンを演じたアン・ソンギ[安聖基]は名優の名に恥じない演技を見せ、陰になり日向になり張承業を見守る確固とした人物を創出している。
また、メヒャンを演じたユ・ホジョン[柳好貞]の生き様も非常に印象に残る。
脚本は、長い時代を描いている点を考えると、一般的には焦点がボケた脚本になり易いのだが、本作の時代のうねりをあまり描かずに張承業の生き様を中心に据えた脚本に好感を覚える。
しかし、歴史背景をあまり描かない、と言うことは、観客には19世紀末の朝鮮半島を取り巻く政治的歴史的背景の知識が必要である、ということも言えるのだ。
また撮影は、大草原の中を歩く張承業を、紙と筆になぞらえたようなカットが、正に絵画のように美しく、非常に印象的である。
美術や衣装は前段で書いたように素晴らしく。圧倒的な筆致で素晴らしい世界観を構築している。
美術や衣装は本当に見事である。使い込まれた衣装、薄汚れた衣装、生活感溢れるセットや道具。
映画の魔法から醒めない、素晴らしい効果を感じるのだ。
そして名匠イム・グォンテクの演出は危なげが無く、安心感に溢れている。細かい演出も楽しいしウイットにも富んでいる。
本作「酔画仙」は、物語はスローモーだし、娯楽大作のような大きな出来事は起きないが、一幅の絵画を愛でるように楽しむ作品なのだ。
そして、本作は人には教えたくない、自分だけで楽しみたい種類の作品のような気がするのだ。
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