2004/12/09 東京有楽町「シネカノン有楽町」で「戦争のはじめかた」の試写を観た。

ベルリンの壁崩壊を目前にした1989年西ドイツ。
米ソ冷戦の緊張緩和も続き、シュツットガルトの米陸軍基地は平和ボケ状態に陥っていた。

レイ・エルウッド(ホアキン・フェニックス)はバーマン大佐(エド・ハリス)率いる第317補給部隊の事務を一任されていた。

そのバーマン大佐は退役後はワイン農家を営む夢を持ち、その夢を確実なものにするため、妻(エリザベス・マクガヴァン)と共に、ランカスター将軍(ディーン・ストックウェル)に取り入り、退役までになんとか将官になろうとしていた。

一方、頭の切れるエルウッドは、出世の事しか眼中にないバーマン大佐の影で、その立場を利用し、軍の物資を横流しするのは当然、さらにヘロインの精製とその卸にも関わっていた。

そんな中、基地内部の浄化を掲げたリー曹長(スコット・グレン)が新たに着任し、早速エルウッドに目を付け、彼の居室を検分する。リー曹長は二人部屋を一人で優雅に使用していたエルウッドのルーム・メイトとして新兵ノール(ガブリエル・マン)を送り込んできた。
そんなエルウッドは、リー曹長の出方をうかがおうと、娘ロビン(アンナ・パキン)に近づくのだが・・・・。

監督:グレゴール・ジョーダン
原作:ロバート・オコナー 『バッファロー・ソルジャーズ』(ハワカワ文庫刊)
出演:ホアキン・フェニックス、アンナ・パキン、エド・ハリス、スコット・グレン、エリザベス・マクガヴァン、ディーン・ストックウェル、ガブリエル・マン
 
 
本作「戦争のはじめかた」は、2001年9月にカナダの「トロント国際映画祭」でワールド・プレミア上映され絶賛され、ミラマックス社が急遽全米配給権を獲得したのだが、その翌日に911テロ事件が発生、米国内ではナショナリズムが高まり、「戦争のはじめかた」の評価は絶賛から酷評へと急降下、全米公開時期も二転三転し、結局は五度も公開が延期されてしまった、といういわくつきの作品である。

本作「戦争のはじめかた」は、本来規律が支配すべき軍内部、という閉鎖された環境においても、われわれの一般社会同様に、悪が台頭している様を真っ向から描いた作品で、例えば警察が腐敗していたり、学校が荒廃していたりするような作品と同様の方向性を持った作品だと言えよう。

しかしながら、作品のベクトルは同様だとしても、その舞台が軍隊である、という点から、本作の過激さは他の作品と比較して群を抜いているのではないか、と思うのだ。

何しろ、いくら平時とは言え、銃器や兵器が身の回りにごろごろしている環境であるし、また上官に抑圧された兵士は沸騰寸前の状況であり、後は弁を開け沸騰を待つだけの危険な状況下にある訳なのだから。

キャストは、何と言ってもレイ・エルウッドを演じたホアキン・フェニックスだろう。
観客の感情移入を拒む悪漢役をシニカルに、そしてブラックに見事に演じている。また本作は、レイ・エルウッドを主人公としたピカレスク・ロマンの様相も呈している。ホアキン・フェニックスの悪漢振りも楽しめるのだ。
最近大作ついているホアキン・フェニックスだが、こんな小品も良いと思うのだ。

また、リー曹長を演じたスコット・グレンだが、ちよっと前ならクリント・イーストウッドあたりが演じたであろう鬼軍曹(実際は曹長)振りを見事に発揮している。「羊たちの沈黙」のクロフォード主任捜査官だとは思えない圧倒的な存在感を楽しめる。

また名優エド・ハリスは無能な部隊長バーマン大佐をやわに演じており、「ライトスタッフ」で共演したスコット・グレンとの再共演も楽しめるのだが、如何せんエド・ハリス演じるバーマン大佐は情けなさ過ぎで、演技合戦はスコット・グレンに分があったようだ。強いぞスコット・グレン。

また、エルウッドのルーム・メイトのノールを演じたガブリエル・マンも良い味を出している。因みにガブリエル・マンは、「フルメタル・ジャケット」のマシュー・モディーンを髣髴とさせるキャラクターになっている。と言うか多分意識しているだろう。

また、女優陣だが、アンナ・パキンは最近作品に恵まれないようだが、結構印象的なキャラクターであるロビン・リーを見事に演じており、彼女はおそらく本作の良心的な部分を担っているのだろうと思う。
バーマン大佐の妻を演じるエリザベス・マクガヴァンは典型的な悪女を好演している。本当にエド・ハリスがかわいそうに見えてしまう。

本作「戦争のはじめかた」は、五度も全米公開が延期されたいわくつきの話題性だ、と言っても、その話題性だけではヒットは望めないといわざるを得ない。ついでに、ホアキン・フェニックスじゃ充分な観客を呼べないと思うのだ。

社会派的に考えると本作は秀作の部類に入るので、映画を沢山観ている人にとっては、観て損はない作品だと思うのだが、超大作娯楽映画が好きな人、年に30本も映画を観ない人にはオススメできる作品ではない、と思う。

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ところで、本作のオープニング・アクションに相当する前半部分の戦車の暴走のシークエンスは、アクション・ファンには結構オススメできると思う。やっぱ戦車の走破性は凄いぞ。わかっちゃいるけど、あそこまでなかなか描けないと思う。

また、本作のポスター等のアートワークはどう考えても1970年の「M★A★S★H マッシュ」へのオマージュに満ちているのだが、とは言っても実際のところ「M★A★S★H マッシュ」には遠く及ばない、といったところだろうか。 

更に、冒頭のシークエンスはどう見ても「博士の異常な愛情」だと思えるし、その後の国旗の映像は「パットン大戦車軍団」を髣髴とさせるぞ。
 
☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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