「ULTRAMAN」
2004年12月7日 映画
2004/12/07 東京神保町「日本教育会館一ツ橋ホール」で「ULTRAMAN」の試写を観た。
太平洋沖に墜落した未確認飛行物体を調査していた海上自衛隊二尉・有働貴文(大澄賢也)は、突如あらわれた「青い光」に遭遇。その発光体に接触した有働はその光の影響か、体質が変容してしまう。
自衛隊の特殊機関BCST(対バイオテロ研究機関)は秘密裏に有働を拘束し、水原沙羅(遠山景織子)を中心とした科学スタッフが有働の変容の経過観察を続けていた。
しかし、有働は遺伝子レベルの変質を遂げ、他の生物を取り込み、その能力を身に付け、凶悪なビースト「ザ・ワン」に変化し、BCSTの施設から脱走し行方をくらましてしまう。
3ケ月後。
航空自衛隊F15Jパイロットの真木舜一(別所哲也)は、先天性の疾患を持つ一人息子・継夢(広田亮平)と少しでも一緒の時間を持てるように、子供の頃からの夢であった戦闘機パイロットをやめ、自衛官を退官することを決意する。その最後の日、スクランブル出動した真木は「赤い発光体」と空中衝突してしまう。その発光体は・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
監督:小中和哉
監修:円谷一夫
音楽監修:TAK MATSUMOTO(B’z)
撮影・VFXスーパーバイザー:大岡新一
フライングシーケンスディレクター:板野一郎
特技監督:菊地雄一
出演:別所哲也(真木舜一)、遠山景織子(水原沙羅)、大澄賢也(有働貴文)、裕木奈江(真木蓉子)、広田亮平(真木継夢)、永澤俊矢、隆大介、草刈正雄(万城目)
松竹のロゴに続く円谷プロのロゴだけで感涙モノなのだ。
本作「ULTRAMAN」は脚本も演技も凡庸だし、演出も単調でスローモー。物語自体も主要ターゲットである子供たちには難しすぎるだろうし、大人にとっても演技の間を取らせる演出と俳優の演技が上手く機能しておらず、展開がのんびりしているような印象を与える。
しかし、ここには怪獣映画文法に則った、背筋の伸びた素晴らしい怪獣映画が存在していた。
これは、ウルトラマンへの、怪獣への、そして何よりもウルトラマンを愛した多くの観客への熱い思いと愛情に満ちた素晴らしい作品なのだ。
先ずは、「初代ウルトラマン」の基本プロット(逃亡する怪獣を追いかけ、ウルトラマンが地球にやってくる)を踏襲したのが良い判断だったと思う。その単純で力強い運命的なプロットが作品を普遍的で神話的、そして観客の記憶に訴えかける印象的なものに昇華する事に成功している。
そして、最大の英断は、東映の「デビルマン」のように、何から何まで自社内で全部やるのではなく、それぞれ部分部分の製作を優秀な人材に外注している点である。
クレジットによると、航空機のCGIはこの会社、新宿副都心のビル街のCGIはこの会社、と言うように、その分野の技術と高いスキルを持った会社に、部分部分の製作を外注しているようなのだ。
そして何と言っても素晴らしいのは、フライングシーケンスディレクターとして板野一郎が参加している点だろう。
板野一郎と言えば、アニメの世界では、板野サーカスと呼ばれた戦闘機やミサイルが縦横無尽に空を舞う作画テクニックで一世を風靡したのだが、今回はなんと実写作品の製作に板野一郎が協力している訳だ。
ハリウッドでも、かつての手工業的な技術で一世を風靡した特撮クリエイターが後年CGIのクリエイターとして復活することが多々あるのだが、かの板野サーカスを実写で見られるとは、本当に素晴らしい時代になったものだ。
その気になる板野サーカスのシークエンスは、本作「ULTRAMAN」のキャッチ・コピー「高度3万フィート!6.5G!極限の一戦!!」が示すとおり、本作の最大の見せ場となっている。下手をすると映画史に残り、語り継がれるような素晴らしい空中戦に仕上がっているかも知れないのだ。本作の板野一郎をフィーチャーした空中戦は、確実に「平成ガメラ」シリーズを超えた、と思うのだ。
また新宿副都心を舞台にしたアクション・シークエンスも結構納得の行くものになっているし、「ザ・ワン」と「ザ・ネクスト」の着ぐるみ同士の格闘は面白いことに、なんだか「バーチャ・ファイター」の結城晶のような動き(八極拳?)の格闘が楽しめるのだ。
街並みと怪獣の描き方は、従来の手法であるビル街や建物のミニチュアの街並みで怪獣が暴れる、と言う手法から、CGIで作られた街並みや、実際の街並みの実写映像を背景に怪獣が暴れる、と言う手法への転換期が来ているようで、来年公開の「鉄人28号」で実現したような実際の街並みでロボットが大暴れするようなクオリティの高いシークエンスが楽しめる。
しかし、特撮の手法やアクション・シークエンスが良くても、本作の基本プロットや、脚本に沢山出てくる言葉は、怪獣映画の主要ターゲットである子供たちには難しいだろうし、真木一家の物語は「ウルトラマン」の物語の背景として、勿論必要なのは理解できるのだが、実際問題としては物語のスピードを著しく殺ぎ、退屈な印象を子供たちに与えてしまっている。
本作を子供向けの怪獣映画と捉えた場合、劇場に集まった子供等は退屈して、通路を走り回ってしまいそうな印象を受けたのだ。
勿論、子供以外のもうひとつのターゲット層として、かつての「ウルトラマン」に熱狂していた世代の存在は無視できず、製作サイドとしては、子供向けと言うよりは、大人向けとして製作されたような印象が否定できない。
果たして、それは怪獣映画にとって、良いことなのだろうか。
ところで、本作はお金の使い方も良いと思った。
ギャラが高そうなキャストを避け、中堅どころで手堅くまとめたキャストもそうだが、製作サイドが見せたい映像、ファンが見たい映像を具現化するためにのみ、お金を割いているのだ。
また航空自衛隊の協力を得たロケーション効果も素晴らしいし、
新宿副都心を封鎖した(ように見える)個々のカットも頑張っているし、自衛隊の車両や、戦闘機の実機を画面の端に映しているのも、お金をかけずにちょっとした知恵で雰囲気を醸し出す手法に好印象である。
また、広角レンズを多用した撮影も印象的であるし、また夕焼けをバックにして怪獣のシルエットや、対象物のアップ等、実相寺昭雄へのオマージュ的名カットも楽しい。
キャストは、別所哲也にしろ遠山景織子にしろ大澄賢也も裕木奈江も頑張っているのだが、やはりイマイチである。言い過ぎかも知れないが、キャストにはあまり見るべきところは無いと思う。
個人的にはイメージはともかく、役所広司クラスの俳優に「ウルトラマン」を演じて欲しかったと思うのだ。(その場合予算的に他の部分にしわ寄せが出てしまうだろうが・・・・)
とにかく本作「ULTRAMAN」は、東映の「デビルマン」の50倍くらい爽快だし、アクション・シーンも素晴らしい。悪魔的なデザインの「ザ・ワン」との空中戦も素晴らしい。打倒東映の気概が見え隠れする。
脚本や演技は残念ながらしょぼいが、基本プロットと展開、アクションが素晴らしい怪獣映画に仕上がっているのだ。
☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
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太平洋沖に墜落した未確認飛行物体を調査していた海上自衛隊二尉・有働貴文(大澄賢也)は、突如あらわれた「青い光」に遭遇。その発光体に接触した有働はその光の影響か、体質が変容してしまう。
自衛隊の特殊機関BCST(対バイオテロ研究機関)は秘密裏に有働を拘束し、水原沙羅(遠山景織子)を中心とした科学スタッフが有働の変容の経過観察を続けていた。
しかし、有働は遺伝子レベルの変質を遂げ、他の生物を取り込み、その能力を身に付け、凶悪なビースト「ザ・ワン」に変化し、BCSTの施設から脱走し行方をくらましてしまう。
3ケ月後。
航空自衛隊F15Jパイロットの真木舜一(別所哲也)は、先天性の疾患を持つ一人息子・継夢(広田亮平)と少しでも一緒の時間を持てるように、子供の頃からの夢であった戦闘機パイロットをやめ、自衛官を退官することを決意する。その最後の日、スクランブル出動した真木は「赤い発光体」と空中衝突してしまう。その発光体は・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
監督:小中和哉
監修:円谷一夫
音楽監修:TAK MATSUMOTO(B’z)
撮影・VFXスーパーバイザー:大岡新一
フライングシーケンスディレクター:板野一郎
特技監督:菊地雄一
出演:別所哲也(真木舜一)、遠山景織子(水原沙羅)、大澄賢也(有働貴文)、裕木奈江(真木蓉子)、広田亮平(真木継夢)、永澤俊矢、隆大介、草刈正雄(万城目)
松竹のロゴに続く円谷プロのロゴだけで感涙モノなのだ。
本作「ULTRAMAN」は脚本も演技も凡庸だし、演出も単調でスローモー。物語自体も主要ターゲットである子供たちには難しすぎるだろうし、大人にとっても演技の間を取らせる演出と俳優の演技が上手く機能しておらず、展開がのんびりしているような印象を与える。
しかし、ここには怪獣映画文法に則った、背筋の伸びた素晴らしい怪獣映画が存在していた。
これは、ウルトラマンへの、怪獣への、そして何よりもウルトラマンを愛した多くの観客への熱い思いと愛情に満ちた素晴らしい作品なのだ。
先ずは、「初代ウルトラマン」の基本プロット(逃亡する怪獣を追いかけ、ウルトラマンが地球にやってくる)を踏襲したのが良い判断だったと思う。その単純で力強い運命的なプロットが作品を普遍的で神話的、そして観客の記憶に訴えかける印象的なものに昇華する事に成功している。
そして、最大の英断は、東映の「デビルマン」のように、何から何まで自社内で全部やるのではなく、それぞれ部分部分の製作を優秀な人材に外注している点である。
クレジットによると、航空機のCGIはこの会社、新宿副都心のビル街のCGIはこの会社、と言うように、その分野の技術と高いスキルを持った会社に、部分部分の製作を外注しているようなのだ。
そして何と言っても素晴らしいのは、フライングシーケンスディレクターとして板野一郎が参加している点だろう。
板野一郎と言えば、アニメの世界では、板野サーカスと呼ばれた戦闘機やミサイルが縦横無尽に空を舞う作画テクニックで一世を風靡したのだが、今回はなんと実写作品の製作に板野一郎が協力している訳だ。
ハリウッドでも、かつての手工業的な技術で一世を風靡した特撮クリエイターが後年CGIのクリエイターとして復活することが多々あるのだが、かの板野サーカスを実写で見られるとは、本当に素晴らしい時代になったものだ。
その気になる板野サーカスのシークエンスは、本作「ULTRAMAN」のキャッチ・コピー「高度3万フィート!6.5G!極限の一戦!!」が示すとおり、本作の最大の見せ場となっている。下手をすると映画史に残り、語り継がれるような素晴らしい空中戦に仕上がっているかも知れないのだ。本作の板野一郎をフィーチャーした空中戦は、確実に「平成ガメラ」シリーズを超えた、と思うのだ。
また新宿副都心を舞台にしたアクション・シークエンスも結構納得の行くものになっているし、「ザ・ワン」と「ザ・ネクスト」の着ぐるみ同士の格闘は面白いことに、なんだか「バーチャ・ファイター」の結城晶のような動き(八極拳?)の格闘が楽しめるのだ。
街並みと怪獣の描き方は、従来の手法であるビル街や建物のミニチュアの街並みで怪獣が暴れる、と言う手法から、CGIで作られた街並みや、実際の街並みの実写映像を背景に怪獣が暴れる、と言う手法への転換期が来ているようで、来年公開の「鉄人28号」で実現したような実際の街並みでロボットが大暴れするようなクオリティの高いシークエンスが楽しめる。
しかし、特撮の手法やアクション・シークエンスが良くても、本作の基本プロットや、脚本に沢山出てくる言葉は、怪獣映画の主要ターゲットである子供たちには難しいだろうし、真木一家の物語は「ウルトラマン」の物語の背景として、勿論必要なのは理解できるのだが、実際問題としては物語のスピードを著しく殺ぎ、退屈な印象を子供たちに与えてしまっている。
本作を子供向けの怪獣映画と捉えた場合、劇場に集まった子供等は退屈して、通路を走り回ってしまいそうな印象を受けたのだ。
勿論、子供以外のもうひとつのターゲット層として、かつての「ウルトラマン」に熱狂していた世代の存在は無視できず、製作サイドとしては、子供向けと言うよりは、大人向けとして製作されたような印象が否定できない。
果たして、それは怪獣映画にとって、良いことなのだろうか。
ところで、本作はお金の使い方も良いと思った。
ギャラが高そうなキャストを避け、中堅どころで手堅くまとめたキャストもそうだが、製作サイドが見せたい映像、ファンが見たい映像を具現化するためにのみ、お金を割いているのだ。
また航空自衛隊の協力を得たロケーション効果も素晴らしいし、
新宿副都心を封鎖した(ように見える)個々のカットも頑張っているし、自衛隊の車両や、戦闘機の実機を画面の端に映しているのも、お金をかけずにちょっとした知恵で雰囲気を醸し出す手法に好印象である。
また、広角レンズを多用した撮影も印象的であるし、また夕焼けをバックにして怪獣のシルエットや、対象物のアップ等、実相寺昭雄へのオマージュ的名カットも楽しい。
キャストは、別所哲也にしろ遠山景織子にしろ大澄賢也も裕木奈江も頑張っているのだが、やはりイマイチである。言い過ぎかも知れないが、キャストにはあまり見るべきところは無いと思う。
個人的にはイメージはともかく、役所広司クラスの俳優に「ウルトラマン」を演じて欲しかったと思うのだ。(その場合予算的に他の部分にしわ寄せが出てしまうだろうが・・・・)
とにかく本作「ULTRAMAN」は、東映の「デビルマン」の50倍くらい爽快だし、アクション・シーンも素晴らしい。悪魔的なデザインの「ザ・ワン」との空中戦も素晴らしい。打倒東映の気概が見え隠れする。
脚本や演技は残念ながらしょぼいが、基本プロットと展開、アクションが素晴らしい怪獣映画に仕上がっているのだ。
☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
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