「恋の門」

2004年12月5日 映画
2004/12/04 東京池袋「シネ・リーブル池袋」で「恋の門」を観た。

新しいアルバイト先「ウレシー商事」に向かう、蒼木門(あおきもん/松田龍平)は、道端で見つけたハート型の石を拾おうとした手を、証恋乃(あかしこいの/酒井若菜)に踏まれてしまう。会社に急ぐ恋乃は門に詫び、パンを門に渡し、行ってしまう。

そんな門は、石で漫画を描く自称「漫画芸術家」。石の漫画など当然売れる訳もなく、当然の如くアルバイトで生活費を稼いでいた。おまけに、ハタチを過ぎても門は童貞だった。

踏まれた手を手当し「ウレシー商事」に到着する門は、初日から遅刻するとは何事だ、と幹部(尾美としのり)に叱られる。なんとそこには恋乃も勤めていたのだ。

そんな恋乃は、昼は普通のOLだが帰宅後はコスプレを楽しみ、同人誌の売れっ子漫画家だった。

その夜、門は自分の歓迎会の最中、先輩社員と喧嘩しギタギタにされてしまう。引きずられるように恋乃の部屋に向かった門は、一晩を過ごしてしまう。
互いに惹かれ合う二人。だが「芸術」と「オタク」という、相反する感性同志がぶつかり合い、惹かれ合うと同時に二人は反発しあっていた。お互いを知るためにと、恋乃はある旅行の提案をする。それはアニメソング界の人気者・安部セイキ(皆川猿時)様のファンの集い一泊旅行だった。

お金が無い門は、ウインドウに飾られた石に惹かれ入った「漫画バー・ペン」でアルバイトをすることになる。バーのオーナー毬藻田(松尾スズキ)は、かつての売れっ子漫画家だった。そして・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督・脚本:松尾スズキ
原作:羽生生純 『恋の門』(エンターブレイン刊)
出演:松田龍平(蒼木門)、酒井若菜(証恋乃)、松尾スズキ(毬藻田)、忌野清志郎(浴衣)、小島聖(園決理/メジナ)、塚本晋也(野呂)、尾美としのり(「ウレシー商会」幹部)、大竹まこと(門の父)、筒井真理子(門の母)、平泉成(恋乃のパパ/証圭一郎)、大竹しのぶ(恋乃のママ/証泰子)、三池崇史(イメクラ店長)、庵野秀明(旅館の親父)、安野モヨコ(旅館の女将)、高橋征也(キンゴ)
 
 
本作「恋の門」はとっても楽しいコメディ映画に仕上がっている。一見、CMやPV業界あがりの監督作品に見られるような、展開が早くガチャガチャした印象の作品ではあるが、舞台あがりの監督の作品という事もあり、微妙な間と勿論演出が楽しめる、舞台テイストを含んだ作品だと言える。

先ずは脚本が面白い。
尤もセリフは、舞台のセリフのように、理屈っぽくて早口、噛みそうで噛まない、まるで登場人物同士のバトルのようなセリフの応酬なのだ。しかもそのセリフは「オタク文化」特有の、暗喩や婉曲話法に満ちた難解なセリフなのだ。

また一つの長セリフの中に、そのセリフのテンションやキャラクターの感情に変化を持たせた起伏あるセリフが印象的である。
まるで舞台の独白のようなセリフの中、登場人物はいきなり激昂し、または失意のどん底に叩き落され、それに対し他の登場人物が、突っ込んでいるのだ。これは口から出てしまった「心の声」に対し登場人物が反応、さらに反応しあっている、と言う感じなのだ。

つまり、物語内部にいる自分と、自らの行動を冷静に観察している自分が共に存在し、自らが自らの行動や言動にツッコミを入れているような印象を受けるように脚本が構成されているのだ。

これは「オタク文化」への批判的精神に因るものかも知れないし、自らを含んだ「オタク文化」に対する自虐的なスタンスに因るものなのかも知れない。

そして、そのあたりは「コスプレ」という仮面(ペルソナ)を物語の導入した点も興味深い。
「コスプレ」をすることにより恋乃は別の人格を創造しているのだ。恋乃の中には、「コスプレ」を演じる自分と、それを眺める素の自分が共存しているのだ。

また登場人物の多くが恋乃同様、二面性を持ったキャラクターとして設定されているのも興味深い。つまり、恋乃の「コスプレ」は、他のキャラクターの二面性を解りやすく表現するための一つの手法として機能しているのだ。
また「コスプレ」好きのキャククターを登場させる事は、他の二面性を持つキャラクターに対する観客の理解を助ける事に役立っている。

キャストだが、先ずは酒井若菜の熱演であろう。所謂巨乳アイドルの枠にくくれない、何か(something)の存在を感じるのだ。
濡れ場は濡れ場として考えると物足りない感は否めないが、現役アイドルにしては濃厚なキス・シーンが多く、結構頑張った、と評価したい。

松田龍平は、まあ良いのだが、浅野忠信の演技スタイルにどんどん似てくる印象が否定できない。セリフのボソボソ感は浅野にそっくりではないだろうか。

出番は少ないが大竹しのぶはやはり凄い。彼女の周りの空気が違う。あんな役柄(失礼)でも、周りを十分に感動させる力を見せてくれている。

また、豪華なキャストが一癖もふた癖もあるような人物を嬉々として演じているのが楽しい。わたしは従来からカメオを不必要だとするスタンスを取っているが、本作「恋の門」では、物語の進行を止め、観客を現実世界に戻してしまうようなカメオはなかった。全ての役者が与えられた役目を見事に果たしているのである。

結局のところ、本作「恋の門」は、ただ単にガチャガチャしたジェット・コースター・ムービーに留まらず、結構奥が深い作品に仕上がった松尾スズキの意欲作であり、是非多くの人に観ていただきたい作品だと思う。

酒井若菜は所謂体当り演技です。

=+=+=+=+=

今回わたしは「恋の門」を「シネ・リーブル池袋」のレイトで観たのだが、「恋の門」のプリントの状態が悪かった。もしかしたら映写機の光量の問題かもしれないが。

「シネ・リーブル池袋」に確認したところ、「恋の門」はデジタル上映ではなくフィルムで上映している、という事なので、おそらくキネコの時点でプリントが綺麗に仕上がっていないのだと思う。
症状としては画面が著しく暗く、コントラストが不足している。勿論映写機の光量や光量に対するスクリーン・サイズの問題もあるかも知れないのだが、実際問題として、本編中の非常に重要なシークエンスのひとつである漫画を描くシーンなのだが、ペン入れしているカットはともかく、鉛筆で絵を描くカットが、何を描いているのか判別できないのだ。これはこの作品の致命的な所だと思うぞ。

=+=+=+=+=

余談だが、本作で沢山登場した漫画「同人誌」についてだが、今回気付いたのは、「同人誌」と言うものは、インディーズ作品だという事である。
あたり前だと言われればそれまでなのだが、「同人誌」とは、例えばインディーズ・バンドのデモCDや、自主制作映像作品みたいなものなのだ、と言うことである。

「同人誌」を読んで喜んでいるのは、我々映画ファンが嬉々として、自主制作映像作品を観たり、新人映像作家の作品を観て、今後の可能性を論評したりしているのと、同じ事なのだと言う事である。わたしの中で、「同人誌」と言うものに対する理解が深まった瞬間である。
 
 
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