2004/11/28 東京九段下「千代田区公会堂」で「ふたりにクギづけ」の試写を観た。

2003年12月に北米で公開されたファレリー兄弟の新作「ふたりにクギづけ」は、日本の映画ファンの中では、その題材(「結合双生児」※を主人公としたコメディ映画)から、日本公開は難しいのではないか、と思われていた作品である。
先ずは北米公開から1年後の公開ではあるが、ファレリー兄弟の新作が日本公開されることを喜びたい。
 
 
ボブ・テナー(マット・デイモン)とウォルト・テナー(グレッグ・キニア)は双子の兄弟。地元の人気者のふたりは「クィッキー・バーガー」と言うハンバーガー・ショップを経営している。地元の舞台俳優で、社交的な性格のウォルトはプレイボーイ。一方、引っ込み思案で奥手のボブは、3年間もメールのやり取りをしているメル友のメイ・フォン(ウェン・ヤン・シー)にさえ兄弟の「秘密」を打ち明ける事が出来ない。生まれてから片時も離れず、ずっと寄り添って生きて来た兄弟の「秘密」。それは、お互いが腰の部分でくっついている結合双生児であること。

そんなふたりは、地元で知り合いだけにちやほやされる舞台俳優ではなく、本物の俳優になりたいというウォルトの夢を叶えるため住み慣れた島を離れ、夢の都ハリウッドへ向かい、滞在先のモーテルで、俳優志願のエイプリル(エヴァ・メンデス)と脚本家志望のモー(テレンス・バーニー・ハインズ)と出会う。

しかしウォルトは、ボブがくっついていることが災いし、なかなか俳優の仕事は見つからずトラブルの連続。一方、ボブもメイに結合双生児であることがバレないよう、その場を取り繕うデートを重ねていた。

そんな中、ひょんな事からウォルトがオスカー女優シェール(シェール)の相手役に抜擢される。突然のビッグ・チャンスに張り切るウォルト。ボブも「お互いの成功を邪魔しない」という誓いを守り、撮影に協力するのだが・・・・。(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:ボビー・ファレリー、ピーター・ファレリー
出演:マット・デイモン、グレッグ・キニア、エヴァ・メンデス、ウェン・ヤン・シー、シェール、セイモア・カッセル、メリル・ストリープ(ノン・クレジット)
 
 
本作を観て、先ず驚いたのは、本作の配給がFOXで、しかもスコープ・サイズで製作されている、と言う事であった。中小の配給会社ではなく、ハリウッド・メジャーが配給を手がけている点、そしてスコープ・サイズで本作が製作・公開されている点から、この作品はファレリー兄弟の作風を好む限られた観客ではなく、多くの一般大衆をターゲットとした作品である訳だ。(国内配給はアートポート)

そんな訳でわたしは、オープニング・クレジットの時点でわたしの本作に対する先入観(「ふたりにクギづけ」は「結合双生児」を笑いものにする、居心地の悪いコメディ映画に違いない)は、杞憂に過ぎない事を悟ったのだ。

その先入観は、ファレリー兄弟の従来の作風、内容はともかく表層的には、子供、老人、障害者、動物といった社会的弱者を笑いものにする手法から発したものであり、本作については前述のようにマット・デイモンとグレッグ・キニアが演じる「結合双生児」を笑いものにする、という先入観を持っていた。
 
 
しかし本作は、いざ蓋を開けてみると、「結合双生児」を主人公としたコメディと言うよりは、中にいる自分から見た、外にいる自分の喪失とその再生を描いた、ある意味外にいる自分探しの物語に昇華されていた。

そして物語の最大のモチーフは「オズの魔法使い」。
自分の欲しい物を求めてハリウッド(エメラルド・シティ)へ旅立つふたりの青年の物語なのだ。
勿論、オズの大魔王的キャラクターであるウォルトのエージェント、モーティー・オライリー(セイモア・カッセル)や、西の魔女的キャラクターのシェール(シェール)、俳優になりたいエイプリル(エヴァ・メンデス)、脚本家になりたいモー(テレンス・バーニー・ハインズ)等も登場し、ラストに一大ミュージカル・シーンを配するあたりは、完全な「オズの魔法使い」へのオマージュと考えられる。

余談だが、わたし的には、二人が旅立つ際のタクシーは出来れば黄色いタクシー(イエロー・キャブ)を使って欲しかった。(イエロー・ブリック・ロードの暗喩)

また、ボブとウォルトが「結合双生児」であることを、または登場する知的障害者を差別し、笑いものにするキャラクターが何人か登場するのだが、それらのキャラクターが「悪」に描かれている点が興味深かった。
従来のファレリー兄弟の作風とは若干異なり、オフビート感と言うより、ハリウッドの作風に染まってしまったような印象を受けたのだ。従来のファレリー兄弟の毒が、本作ではなりを潜め、悪く言うとファレリー兄弟もハリウッドに飼い馴らされてしまったのではないか、と思う訳だ。

脚本は、コメディと言うこともあり、小ネタを散りばめた非常に面白いものに仕上がっているし、物語の根本のプロットも素晴らしいし、「オズの魔法使い」への言及は勿論。「ムーン・リバー」をはじめとした様々な映画的記憶を呼び覚ます名曲の数々をサントラに使った点も良い印象を受けた。

また、ボブとウォルトが地元の名士として育ってきている点も興味深い。少年時代からハイスクール時代、そして現在まで、野球、アイスホッケー、ボクシング等様々なスポーツで活躍し、繁盛するハンバーガー・ショップを経営している点である。
地元の小さな島では、ボブとウォルトは差別されるどころか、隣人として愛されているのだ。
彼らは、日陰の暮らしを余儀なくされているのではなく、日向で愛情溢れる生活をしているのである。

そして、ウォルトが地元の舞台俳優ではなく、本物の俳優を目指してハリウッドに向かうのだが、ハリウッドのシークエンスでは、映画産業の内幕を楽しめる興味深い作品にも仕上がっていた。

キャストは、何と言ってもグレッグ・キニアが良かった。笑い、そして泣かせる役どころを楽しげに演じている。
マット・デイモンは若干内向的なキャラクターを好演している。
この役が、今後のキャリアに影を落すのではないか、と余計な心配をしていたのだが、特に問題なさそうだった。

二人の相手役、エイプリル(4月)とメイ(5月)を演じたエヴァ・メンデスとウェン・ヤン・シーも良かったし、シェールの自虐的なセルフ・パロディにも驚きだし、ノン・クレジットながらもラストで美味しいところを持っていってしまうメリル・ストリープにも驚きなのだ。

結局のところ本作「ふたりにクギづけ」は、「結合双生児」を描いたコメディと言う点から、観客の足を劇場に運ばせるのは難しいと思うのだが、いざ劇場に足を運んでもらえれば、2時間まるまる楽しんだ上、爽やかな気分で劇場を後に出来る良質のコメディ作品に仕上がっているのだ。

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※「結合双生児」
所謂「シャム双生児」。または「接着双生児」。
但し「シャム双生児」を表す英語(Siamese)は、差別的表現であり、「シャム双生児」とも差別的表現です。
 
 
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