「カナリア」

2004年11月23日 映画
2004/11/20 東京有楽町「朝日ホール」
「第5回東京フィルメックス」オープニング作品/特別招待作品
「カナリア」を観た。
 
 
12歳の少年、岩瀬光一(石田法嗣)は、母親、岩瀬道子(甲田益也子)がカルト教団「ニルヴァーナ」に入信したため、妹と共に否応無く入信させられた上、母親とは別の教団施設で、他の少年信者たちと共に共同生活を営んでいた。光一は教団信者、伊沢彰 (西島秀俊)らの下、教団の教えに反発しつつも、いつしか教団の教えに染まっていった。

教団のテロ事件後、関西の児童相談所に預けられた光一だったが、祖父は妹だけを引き取り、光一の引取りを拒否する。
一方教団幹部としてテロの実行に関わっていた母親、道子は他の幹部とともに逃走し、全国指名手配までされていた。

一人残された光一は児童相談所を脱走、妹を取り戻すため東京の祖父母の家に向かう。
東京への旅の途中、偶然光一は、援助交際を持ちかけた男から逃げ出そうとした同い年の少女、由希(谷村美月)を助ける。光一がほとんど金を持っていないことを知った由希は、助けてもらったお礼に、光一の旅を助けることを決意する。
かくして、二人の旅が始まる・・・・。
(「第5回東京フィルメックス」公式カタログよりほぼ引用)

監督:塩田明彦
出演:石田法嗣、谷村美月、西島秀俊、甲田益也子、りょう、つぐみ、水橋研二、戸田昌宏、井上雪子
 
 
塩田明彦監督作品と言えば最近では「黄泉がえり」のヒットが記憶に新しいが、本作「カナリア」は、どちらかと言えばヒット作「黄泉がえり」のような一般大衆に支持される作品ではなく、「月光の囁き」「ギプス」「害虫」等のテイストを引き継ぐ、歪んだ愛を描いた作品のような傾向を持つ。おそらく本作は、塩田明彦特有の嗜好が色濃く出た作品のような気がする。

そもそも本作「カナリア」の物語は、母親が入信したカルト教団の施設で共同生活を行っていた光一(石田法嗣)が、教団が起こしたテロ事件の後、収容された児童相談所を脱走、妹を祖父の下から連れ戻すという目的で、ある意味自分探しの旅を行う物語で、一言で言えば所謂ロード・ムービーの様相を呈している。
その光一の自分探しの旅の道連れは、家庭が崩壊し、援助交際を続ける小学生由希(谷村美月)なのだ。

物語の中で光一は、無口で余計なことは何も語らない。一方、由希は、非常に感じやすく、そして雄弁なキャラクターとして描かれている。本作は、旅をする光一に感情移入し、由希の発する言葉や疑問を聴きながら、光一と共に物事を考える、という構図になっているのだ。その場合、光一の無口なキャラクター設定が、観客が物語世界の出来事について、いろいろ考えるための非常に有効な設定となっている。

そしてそんな由希の発する言葉や疑問は、理想論であり、現状の甘受でもあり、モラルであり、インモラルでもあるのだ。由希は観客が感じるであろう疑問を光一に投げかける重要なキャラクターとして設定されている。由希のキャラクターは、脚本的には、矛盾を含み複雑で、峻厳で辛辣な印象を観客に与えている。

そして、何よりそれらを演じる彼等二人、石田法嗣と谷村美月の演技が素晴らしい。二人とも1990年生まれの14歳。高々14の俳優たちに泣かされるのもなんだが、子役俳優の上手さに舌を巻く。
監督の塩田明彦は上映後のQ&A(ティーチ・イン)で、子役俳優について「子供たちは僕らが考えるよりもはるかに理解力と表現力を持っている。自意識が芝居の邪魔をする大人よりも、子供に芝居をさせるほうがはるかに楽だ」と語っていた。

正に塩田明彦の言う通りである。これは、多くの神童たちが成長するに連れ、只の凡庸な大人の俳優になってしまう所以であるのかも知れない。

ところで本作「カナリア」のタイトルは、1995年地下鉄サリン事件後のオウム真理教教団施設に対する強制捜査の際、先頭の警官隊が掲げていた「かごの中のカナリア」から取られたもので、最前線に立つ存在として「かごの中のカナリア」は「かごの中の少年」を暗喩しているのだ。

そして本作は、親がカルト教団に入信したため、否応無く入信させられてしまった少年たちのカルト教団崩壊後の姿を見事に描いている。
大人の信者は教団を離れ一般社会に溶け込んでいく一方、学校という社会に入ることも拒まれ、地域にも住民として居住することに反発を受ける、そんな身近で大きな問題の最前線に立つ少年たちを描いているのだ。
その手法は非常にリアルで、本当に起こった出来事を映画化しているような印象を受ける。事実、海外のプレスは、「これは本当にあった事なのか?」的な質問を上映後のQ&Aで発していた。

ところで「東京フィルメックス」のコピーは「今、ここに映画の天使がいる」と言うものなのだが、本作には、昭和30年代の松竹蒲田の美少女スターで、今回68年ぶりに映画に出演した89歳の女優、井上雪子が出演している。
本作「カナリア」の中では、彼女は正に映画の天使だった。なんと素敵な一瞬であろう。「東京フィルメックス」のコピーは、この映画のため、彼女のために在ったのか、と思う瞬間である。

撮影は、最近「誰も知らない」で評価を受けている山崎裕。本作でも「誰も知らない」と同様の手持ちカメラの長回しを多用したドキュメンタリー的な手法が楽しめる。その長回しの緊張感とリアリティが、本作の格を一段と高めている印象を受ける。

音楽は打楽器をフィーチャーしつつ、「銀色の道」や「君の瞳は100万ボルト」等の楽曲を俳優たちが実際に劇中歌として唄い、独特の雰囲気と効果をあげている。その楽曲の詩を噛み締めて欲しいのだ。
特に「銀色の道」を唄う谷村美月が素晴らしい。しかし、3度目の「銀色の道」はサントラとして浜田真理子のヴォーカルががぶるのだが、これは完全に興ざめである。物語に没頭している観客の意識を、現実に引き戻してしまっている。魔法がとける瞬間である。
2005年3月の公開までまだしばらく時間があるので、出来れば、「銀色の道」の楽曲をサントラとして使用するのを止め、由希の母親役の女優が「銀色の道」を子守唄のように唄うような雰囲気で入れていただきたい、と切に願うのだ。

美術は、教団施設(サティアン)内部が最高である。
本物のサティアンでロケを行ったような質感に驚かされる。

とにかく、本作「カナリア」は、題材が題材なだけに、全国拡大ロードショーにはならないと思うし、観客もそれほど入らないと思う。しかしながら、機会があれば是非観ていただきたい素晴らしい作品だと思うし、オウム真理教の過去と現在を考える上でも、社会派好きの方は是非観ておくべき作品だと思う。

また、石田法嗣と谷村美月という、二人の子役俳優の、今後のキャリアを語る場合、絶対に外せない作品となっている。おそらく本作は、彼等が大人の俳優になったとしても、代表作に数えられる作品に仕上がっているのだ。

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舞台挨拶は、監督の塩田明彦、キャストの石田法嗣、谷村美月、西島秀俊、甲田益也子、井上雪子。
上映後、監督、塩田明彦を迎えてのQ&A(ティーチ・イン)では、観客席には撮影を担当した山崎裕もいた。

やはり上映後のティーチ・インは非常に有意義である。物語の表層ではなく、内面を理解する上で、素晴らしい効果が感じられる。

☆☆☆★(☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)

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