2004/11/13 東京九段下「九段会館ホール」で「Mr.インクレディブル」の試写を観た。

スーパー・ヒーローの黄金時代。彼らスーパー・ヒーローたちは世界中で数々の危機を救っていた。しかし、その破壊力に満ちたスーパー・パワーが、一般市民の被害を拡大していると訴えられ「敗訴」。それ以降、スーパー・ヒーローとして活動することを禁じられてしまった。

それから15年後、世界有数のスーパー・ヒーローだったMr.インクレディブルは、保険会社のクレーム担当係として退屈な日々を過ごしていた。
ある日、Mr.インクレディブルに届いた一通の手紙。それはインクレディブル一家にとって、新たな冒険の始まりだった・・・・。(ちらしよりほぼ引用)
 
監督:ブラッド・バード
キャスト:クレイグ・T・ネルソン(ボブ/Mr.インクレディブル)、ホリー・ハンター(ヘレン/イラスティ・ガール)、ジェイソン・リー(シンドローム)、サミュエル・L・ジャクソン(ルシアス/フロゾン)、ミラージュ(エリザベス・ペーニャ)、エドナ(ブラッド・バード)
 
 
「ファインディング・ニモ」に続くピクサー・アニメーション・スタジオの長編作品第6作目。監督は「アイアン・ジャイアント」のブラッド・バード。

本作「Mr.インクレディブル」は、一見すると誰にでもオススメ出来る素晴らしい娯楽作品に見える。確かに面白いし、キャラクターも立っているし、手に汗握るアクション・シーンが続くし、コミカルなシーンでは笑えるし、統一された世界観も素晴らしいし、小粋なセリフや演出に満ちた楽しい映画に仕上がっている。
しかし、前作「ファインディング・ニモ」までのピクサー作品と比較すると、何かが足りないような気がする。

完全な娯楽作品で良いのか?
と言う気がするのだ。

また、本作「Mr.インクレディブル」をブラッド・バード監督作品として考えた場合、残念ながら「アイアン・ジャイアント」を監督した監督の作品だと思えないような気がする。泣きどころに乏しい、楽しいだけの映画になっているのである。

確かに「Mr.インクレディブル」は面白いよ。娯楽作品としては素晴らしいよ。でもね、ピクサー社が今まで制作してきた作品と比較すると何だか物足りない、と言う気がするのよ。今回はわざわざ外部から監督を招いている訳なのに、なんだかそれが裏目に出てしまっているような気がしちゃうのだ。

そんな脚本は単純明快。大きなひねりも無く、誰もが思いつくような順当なシーンが続く。ある意味普遍的で予定調和的な脚本だとも言える。
脚本と共に、キャラクターの描き方は、Mr.インクレディブル、インクレディブル夫人(イラスティ・ガール)、フロゾン、ミラージュ、シンドローム等の大人のキャラは充分描きこまれているのだが、ヴァイオレット(サラ・ヴォウェル)、ダッシュ(スペンサー・フォックス)、ジャック・ジャックあたりの子供のキャラクターの描き込みが若干不足しているような気がする。
勿論、本作の主役は子供たちではなく、大人たちである事はわかっているのだが、それにしても子供たちの描き方が足りないような気がした。
とは言うものの、前述のように本作は、子供たちを脇に配し、大人キャラを主役にしている点は、ある意味英断だし成功のひとつの理由だと思う。
例えば「サンダーバード」では大人を脇役にし、子供を主役に配し、失敗しているだけに、本作は良い選択を行ったのではないか、と思う訳だ。

ところで、本作「Mr.インクレディブル」のテイストだが、個人的な印象としては、スーパー・ヒーローものと言うより、「007」シリーズ(特にロジャー・ムーアの時代の作品)のような印象を受けた。例えば悪の秘密基地のビジュアルは「007」シリーズや「オースティン・パワーズ」シリーズのそれを髣髴とさせるし、飽くの組織が実行する荒唐無稽なファンタジックで雄大な作戦がなんとも楽しいのだ。音楽も「007」テイストの再現に力を入れているようだし。

CGIについては文句の付け所が無い程のクオリティで作品全体が構築されている。
 
 
とにかく、本作「Mr.インクレディブル」は誰にでも自信を持ってオススメ出来る最高に楽しめる娯楽作品に仕上がっているのは間違いない。

しかし、個人的にはそれで良いのかどうかは、また別の話だと思う。今後のピクサー社の事を考えた場合、面白いだけで中身が無い作品が次々と製作されるようになってしまうのは、残念でならない訳だ。

因みに、同時上映の「Boundin’(短編/原題)」の方が、よっぽど中身が詰まっているような気がするし、製作者が何を訴えたいのかが明確である。本作「Mr.インクレディブル」で製作者が何を言いたかったのかを考えた時、わたしは釈然としない気分になってしまうのだ。

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ピクサー社の次回作は「Cars(原題)」である。従来のピクサー社のテイストを期待するむきには、ジョン・ラセター自らが監督を務める「Cars(原題)」に期待するのが正しいのかも知れない。
因みに「Cars(原題)」はピクサー製作/ディズニー配給体制の最後の作品で、実は「Mr.インクレディブル」より前に製作が始まった作品だったのずが、途中で公開順序が入替わってしまったようである。

余談だが、本作「Mr.インクレディブル」には、「Cars(原題)」への言及がされていた。
「ファインディング・ニモ」に当時の次回作「Mr.インクレディブル」の絵本が登場したり、「モンスターズ・インク」に当時の次回作「ファインディング・ニモ」のキャラクターが登場したり、と言う時系列的には逆説的なセルフ・オマージュとなっているのだ。(完成していない作品へのオマージュと言うのもおかしな話ではあるが・・・・)

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かつてのスーパー・ヒーローが、スーパー・パワーを封じられてしまい、来るべき復活の日を願っている、と言う構図は、クリストファー・リーヴが陥っていた境遇のメタファーと考えられる。
わたしは、本作「Mr.インクレディブル」は、そういった意味も込めて、クリストファー・リーヴに捧げられるのではないか、と思っていたのだが、残念ながらそうではなかったようである。
とは言うものの、出来ることならば、クリストファー・リーヴにこそ観て欲しい作品だと思うのだ。

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