2004/10/25 東京六本木「VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ SCREEN 6」
「第17回東京国際映画祭」
アジアの風/鳴動フィリピン−最新フィリピン映画フォーカス−
「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」を観た。
 
 
突然変異した蜘蛛を偶然飲み込んでしまったジュニー(ヴォン・ナヴァロ)は、スパイダーマンの能力を持つガガンボーイに変身する。高所とゴキブリが怖く不器用な彼は果敢に善行を積もうとするが、悲惨な結果が伴うため、ヒーローというより厄介者として人から見られていた。

一方、誤って突然変異したゴキブリを口にしたドドイ(ジェイ・マナロ)は、臭くて醜い人間ゴキブリに変身してしまう。イピスマンと名乗り、地元のドンになるという歪んだ夢を実現させようとするドドイの前にその野望を砕こうとするガガンボーイがいた。
(「第17回東京国際映画祭」公式プログラムよりほぼ引用)

監督:エリック・マッティ
出演:ヴォン・ナヴァロ(ジュニー/ガガンボーイ)、ジェン・マナロ(ドドイ/イピスマン)、オーブリー・マイルズ(リアニ)
 
 
特撮はヘボイし、イピスマン(ゴキブリおとこ)の造形は旧「仮面ライダー」の怪人を髣髴とさせる。物語の基本プロットはどう見ても「スパイダーマン」シリーズのそれである。

しかし、これが抜群に面白いのだ。
 
 
物語の方向性とそぐわないのだが、堅いアプローチを試みよう。

1.化学物質に汚染された生物の経口摂取

そもそも化学物質等の汚染が原因で、人間が超能力を得たり、生物が巨大化したり怪人化してしまう作品の例は枚挙に遑がない。例えば「ゴジラ」がそうであったり「悪魔の毒々モンスター」、「ミュータント・タートルズ」あたりもそうだろう。

しかし、本作では、化学物質で汚染された生物を経口摂取し怪人に変身してしまう、という点が興味深い。
従来の作品群では、生物が直接化学物質に汚染し突然変異を起こすケースがほとんどだが、本作では汚染し突然変異してしまった生物を経口摂取し、人体が怪人化してしまうのである。

つまり、従来は化学物質等により人体が直接汚染される事に対する恐怖を暗喩していたのだが、本作は、化学物質等で汚染された食物を摂取することにより、人体が間接的に汚染されてしまう恐怖を暗喩しているのだ。

添加物や環境ホルモン、狂牛病等、現代食生活を危惧するタイムリーでリアリティのある題材だと言えよう。
 
2.ご近所のヒーロー 

また、本作の最大の特徴は、カガンボーイは、極々狭い地域のヒーローとして、言うならばご近所の平和を守るヒーローとして機能している点である。

ガガンボーイの意識には、世界や国を守るという大きな大義はほとんど上らない。
彼の意識には、勿論地域の平和を守る事は考えているのだが、ご近所のマドンナであるリアニ(オーブリー・マイルズ)に好かれたい、既に亡い両親の墓前で自分が元気で頑張っている事を報告したい、という意識に支配されている。

更に、ガガンボーイとイピスマンの確執は、自転車付き屋台でアイスクリーム売りをしていた頃のライバル関係や、ご近所のマドンナであるリアニを巡る三角関係のもつれに端を発しており、この作品は、リアニを取り合うためにクモおとことゴキブリおとこが戦う、という構図を持っているのだ。

3.ヒーローによる破壊工作

また、近所の諸悪を懲らしめる際、近所の塀や家をあまりあるパワーで壊してしまうガガンボーイは、近所の皆さんに怒られ、小言を言われ、ヒーローの癖に厄介者扱いを受けてしまう。
そして彼は、結局は自ら大工仕事をして家や塀を修理してしまう点も目新しい。

従来のヒーローは、怪人を倒した後の後片付けや、破壊した街並みに対する責任を一切放棄しているが、本作は、一般のヒーローを描いた作品が曖昧にしているその辺の問題点も、明確に対処している訳である。
 
4.成功の理由
 
本作「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」の成功の原因は、練りあげられた脚本を真っ当に直球勝負で演出したコメディである。という点だろう。
スタッフにしろキャストにしろ、コメディ作品に対し、真摯な態度で臨んでいる様子がひしひしと感じられる。
観客を楽しませたい、と言う熱い思いが、全てのカットに表われているの訳だ。

5.キャスト

先ず、ヴォン・ナヴァロ(ジュニー/ガガンボーイ)だが、はっきり言って非常に魅力的である。
素直で朴訥、シャイで一途、それでいて一本筋が通ったキャラクターを見事に演じている。何しろ表情が素晴らしい。そしてコミカルな動きや、タメのある動き、そこそこ見れるアクションも相まって素晴らしい印象を受けた。

敵役のジェン・マナロ(ドドイ/イピスマン)は、田舎の不良的な役柄を見事に演じている。
まあステレオタイプと言われればそれまでなのだが、わたしたち観客の期待を裏切らない田舎の不良像を見事に演じている。

ご近所のマドンナで、三角関係の頂点を演じたオーブリー・マイルズ(リアニ)だが、当初はジュニーの気持ちを知ってか知らずか、なんとなく嫌な女に見えたのだが、だんだんと魅力的に見えてくるから不思議である。
素敵でかわいい女優さんである。

ガガンボーイのコスチュームを制作するグロリン洋品店のグロリンを演じた女優(名前わかりません)に強烈な印象を受けた。完全にコメディ・リリーフの役回りで、日本で言うと久本雅美のような感じでした。ルックスから来る印象も久本雅美にそっくりでした。

また、区の長官(?)を演じた俳優(名前わかりません)も言い味を出していた。日本で言うと「トリック」の生瀬勝久のような感じでした。
彼のセリフで「日本にはボルテスVとコンバトラーV、アメリカにはキャプテン・アメリカ、韓国にはF4、そしてフィリピンにはガガンボーイがいる」(詳細は失念)と言うセリフが爆笑を呼んでいた。

6.脚本・演出

冒頭、アイスクリーム屋台のシーンで人間関係と、キャラクターの性格をあっと言う間に観客に理解させる手腕は見事。

続くコミック・ブック風のクレジットにより、クモとゴキブリが化学物質に汚染されてしまうあたりを見せるのが素晴らしい。

非常に細かい演出がされているのが、非常に効果的であり、好感が持てる。

特撮シーンになると、画質が落ちる感が否めないが、ご愛嬌という事で、よしとする。

7.まとめ

全ての観客にオススメできる訳ではありませんが、もし機会があるのなら是非観ていただきたい作品です。
香港、韓国、タイときてこんどはフィリピン映画が面白い。
頑張れ!日本映画なのだ。

=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
本来ならば、本作「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」は「東京国際ファンタスティック映画祭」で公開すべき作品だと思うし、その方がファンにとっては嬉しかったのではないかと思う。
事実「東京ファンタ」の現プログラミング・ディレクター大場渉太は東宝(だったと思うが/もしかしたら東映だったかも)に対し、何度と無く交渉したらしいのだが東宝はうんと言わず、結果的に「東京ファンタ」ではなく「東京国際映画祭」へ出品したらしい。

あと「東京国際映画祭」と言うアジア最大級の映画イベントに、何箇所もフィルムが切れ、ゴミや疵だらけのボロボロのプリントで参加するのは、いろいろ事情があるのだろうか、大きな驚きだった。

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tkr

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