2004/10/23 東京六本木「VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ SCREEN 7」
 「第17回東京国際映画祭」特別招待作品 オープニング・スクリーニング 「隠し剣 鬼の爪」を観た。

 「東京国際映画祭」のレッド・カーペット、そしてオープニング・セレモニーのあとに行われた舞台挨拶は、山田洋次、永瀬正敏、松たか子、光本幸子、小澤征悦、司会は襟川クロ。
 
 
時は幕末。
 東北の小藩である海坂藩の平侍、片桐宗蔵(永瀬正敏)は、母吟(倍賞千恵子)の生前に奉公に来ていた百姓の娘きえ(松たか子)と、3年ぶりに町で偶然再会する。宗蔵は、伊勢屋という大きな油問屋に嫁いで幸せに暮らしているとばかり思っていたきえの、痩せて寂しげな姿に胸を痛める。

 それから数ヵ月後、きえが病で伏せっていると友人島田左門(吉岡秀隆)に嫁いだ妹志乃(田畑智子)に聞いた宗蔵は伊勢屋に乗り込み、強引にきえを連れ帰る。

 平侍である宗蔵の貧しい暮らしが、回復したきえの笑顔で明るい毎日に戻った時、藩を揺るがす大事件が起きる。海坂藩江戸屋敷で謀反が発覚したのだ。

 首謀者の一人である狭間弥市郎(小澤征悦)と宗蔵は、かつて藩の剣術指南役だった戸田寛斎(田中泯)の門下生だった。戸田はなぜか、一番腕の立つ弥市郎ではなく、宗蔵に秘剣『鬼の爪』を伝授していた。まもなく弥市郎は脱走、宗蔵は家老堀将監(緒形拳)から弥市郎を斬るように命じられるのだが・・・・。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督:山田洋次
原作:藤沢周平
音楽:冨田勲

出演:永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、田畑智子、高島礼子、光本幸子、田中邦衛、倍賞千恵子、田中泯、小林稔侍、緒形拳
 
 
 本作「隠し剣 鬼の爪」は、米アカデミー賞ノミネート作品「たそがれ清兵衛」に続く、山田洋次監督×藤沢周平原作の第二弾であり、多くの人々にオススメできる素敵な人情時代劇に仕上がっている。
 また本作「隠し剣 鬼の爪」は、ハリウッド製時代劇「ラスト サムライ」に対するアンチテーゼとして機能する、反骨精神溢れる意欲的な作品とも言えるだろう。
 そして本作が「ラスト サムライ」に対するアンチテーゼとして機能していると言うことは、「ラスト サムライ」を手放しで評価する『サムライの遺伝子を持った日本人』(実際のところ、大多数の日本人は農民の遺伝子を持つのだが)に対する批判的精神が根底に見え隠れしているような気がする。

 趣向を削ぐので詳細解説は割愛するが、本作「隠し剣 鬼の爪」は「ラスト サムライ」とは、時には同様の、時には正反対のベクトルを持つ作品なのである。

 この辺りは、狭間弥市郎(小澤征悦)に対する片桐宗蔵(永瀬正敏)の最後のセリフ、松田洋治の役柄、そして戸田寛斎(田中泯)の生き様、家老堀将監(緒形拳)の描き方、そしてなんと言っても片桐宗蔵(永瀬正敏)ときえ(松たか子)の行く末がそれを如実に物語っている。
 勿論、舞台挨拶の中でも、監督である山田洋次が間接的にではあるが、この作品の背景とテーマを語っていた。
 
 さて脚本だが、本作は、従来の山田洋次作品に比較的あるようなのだが、シーン同士の関連性が薄いような印象を受けた。
 それぞれのシーン毎の脚本の完成度は高いものの、映画全体として考えた場合、そのシーンが全体に絡んでこない、と言う印象なのだ。
 これは、本作が藤沢周平の「隠し剣 鬼ノ爪」と「雪明かり」と言う二作品を原作としている点がひとつの原因と考えられる訳なのだが、それにしてもシーン間の脚本の乖離が感じられ、下手をすると提示された伏線らしきものが回収されていない、と言うような印象を与えてしまう感が否めない。

 これは例えば、きえの姑を演じた光本幸子が1シーンのみの登場で、他のシークエンスには全く絡まないような点に顕著だと言える。

 勿論、これは「男はつらいよ」の初代マドンナを演じた光本幸子としてのカメオと捉える事もできる。
 そうした場合、従来のフジテレビ系作品に多く見られる、物語の進行を止め、観客を夢の世界から現実世界に引き戻す力を行使する、不必要なカメオと比較すると、大変素晴らしいカメオに仕上がっている。
 このように、演技派俳優(女優)が物語の中できちんと機能する役柄を演じるカメオは大歓迎なのだ。
 
 しかし、だとしても光本幸子には他のシーンでも物語に絡んで欲しいと思うのだ。
 
 ところで、キャストについては、全てのキャストが与えられた役柄を見事にこなしている。
 これは、衣裳や美術、セットやロケの醸し出す世界観、そして細かいところまで手が届く演出と相まって、非常にリアリティのあるキャラクターの醸成と世界観の創出に成功している。

 どのキャストがどうこう、と言う事ではなく全てのキャストが素晴らしいのである。
 
 本作は「侍と言っても、刀を手入れする時以外は滅多に刀を抜かない」というコンセプトにそっており、一般の痛快時代劇と比較して殺陣がおとなしく、所謂チャンバラファンにとっては満足がいく作品ではないと思う。
 が、その辺にも山田洋次の確固とした考えが色濃く出ているような気がする。

 とにかく、映画に対して真摯に向かった、映画の良心とも言える作品であり、出来る事ならば、多くの観客に観ていただきたい作品だと思う訳だ。

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 舞台挨拶及び上映は、レッド・カーペットの時点で既にスケジュールがおしていたのだが、オープニング・セレモニー中に起きた新潟中越地震のため、エレベータが故障し、司会の襟川クロ等が、40F付近で45分ほどエレベータの閉じ込められ、60分ほど遅れた状況で始まった。

 因みに「VIRSIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ」では大きな揺れが3度ほど感じられた。
 大きな揺れは、角川歴彦映画祭ゼネラルプロデューサーによる開会宣言の際と小泉純一郎内閣総理大臣の祝辞の際に感じられた。
 最初の揺れは、わたしは席を後ろからガンガン思いっきり蹴られているのかと思う位の揺れで、わたしの頭上にぶら下がっていた照明が大いに揺れ、不安と恐怖を醸し出していた。
 驚いたのは、角川歴彦映画祭ゼネラルプロデューサーだが、もしかしたら極度の緊張のせいかも知れないが、全く地震に動じていなかったようである。
 小泉純一郎内閣総理大臣は、本来は「隠し剣 鬼の爪」の鑑賞を予定したいたらしいのだが、オープニング・セレモニー中に足早に開場を後にした。

 舞台挨拶は開催が遅れ、司会の襟川クロが45分ほどエレベータの閉じ込められた直後だったこともあり、極度の緊張のためか司会の不手際があったが、永瀬正敏の地震を、映画祭の開催を地球もこのように喜んでいる、と言うような発言(※)や、小澤征悦等の同時通訳をネタにしたウィットにとんだ舞台挨拶が楽しめた。

※ この時点では、新潟中越地震の情報は皆無であり、仮に情報が発信されていたとしても、会場内でその情報を入手できない情報であったことを申し添えさせていただきます。
 被災地の方々には、つつしんでお見舞いを申し上げます。

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