2004/10/16 東京新宿「新宿ミラノ座」
 「東京国際ファンタスティック映画祭2004」で上映された、『東京ファンタ20周年記念上映「鉄人28号 インターナショナル・ヴァージョン」』を観た。
 今回の上映は、監督:冨樫森、出演:池松壮亮(金田正太郎)、蒼井優(立花真美)、視覚効果:松本肇を迎えたワールド・プレミアだった。
 
 
 首都東京で突然サイバーテロが発生した。さらに巨大ロボット「ブラックオックス」が飛来、街を次々と破壊していく。首謀者「ゼロ」の目的は自らが開発したバイオコンピュータで理想郷をつくりあげることだった。

 金田正太郎(池松壮亮)は、母陽子(薬師丸ひろ子)と二人暮しの小学生。そんな正太郎の元に謎の老人綾部達蔵(中村嘉葎雄)から一本の電話が入る。「あなたのお父さんのことでお話があります」それは亡き父正一郎(阿部寛)が遺した「鉄人28号」の話だった。

 綾部は正一郎の遺言と正太郎のロボット操縦適正を説き、鉄人28号を操縦しブラックオックスと戦うよう正太郎を説く。正太郎はとまどいながらもリモコンを手に、ブラックオックスに立ち向かうが・・・・。
(「東京ファンタ」オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
 
スタッフ 
監督:冨樫森
原作:横山光輝
脚本:斉藤ひろし、山田耕大
音楽:千住明
撮影:山本英夫
照明:小野晃
視覚効果:松本肇

キャスト
金田正太郎:池松壮亮
立花真美:蒼井優
金田陽子:薬師丸ひろ子(友情出演)
宅見零児:香川照之
貴島レイラ・ニールソン:川原亜矢子
江島香奈:中澤裕子
村雨研二:高岡蒼佑
田浦慶太郎:伊武雅刀
金田正一郎:阿部寛
大塚雄之助:柄本明
綾部達蔵:中村嘉葎雄
 
 
 最近流行の漫画の実写化作品のとりを飾るのは、企画や撮影は比較的早かったのだが、CGI等ポスト・プロダクションに多くの年月を費やして完成した「鉄人28号」だった。

 全てのロボットはシルエット等間接的な手法で描かれ、一切画面には登場しない、と言う噂が流れていた「鉄人28号」だったのだが、蓋を開けてみると、画面狭しとCGIの鉄人やブラック・オックスが大暴れする作品に仕上がっていた。

 とは言うものの、監督は冨樫森である。
 映画の冒頭部分で、金田正太郎少年(池松壮亮)の境遇を丹念に描いていく。描写のスタンスは、母子家庭の少年の生活を描いた一般的な映画のそれであって、ロボット映画のそれではない。
 そしてその描写は、正太郎少年の境遇を、嗜好を、特技を、間接的に或いは直接的に丹念に描いていく。
 更にその背景となる街並みは平凡でノスタルジックな、どこにでもある街並みを見事に切り取っている。

 その中で、正太郎の母陽子を演じた薬師丸ひろ子が特に素晴らしかった。彼女が登場する食卓のシークエンスにしろ、病院のシークエンスにしろ抜群の存在感と演技が楽しめるのである。
 セリフは勿論、女優が表情や仕草、身体の動きで心象を表現する様は見ていて楽しいものがある。特に病院で正太郎の背中を押した後の長回しの表情と仕草は絶品である。

 いつになったらロボットが出て来るんだよ、と観客がしびれを切らし始めた瞬間、ブラック・オックスが首都東京に襲来する。

 ワックスをかけた自動車のような、ロボットの表面処理に賛否はあろうが、ブラック・オックス襲来のシークエンスは圧巻である。
 特にブラック・オックスが東京タワーをナニするシークエンスは、構図や背景は勿論、東京タワーの質感や動きを含めて大変素晴らしいシークエンスに仕上がっている。本作をロボット大活劇と捉えた場合、このシークエンスが本作最大の見せ場だと言っても差支えないだろう。
 また増上寺の境内に降りたブラック・オックスに対するカラスの演出が憎い。

 こういったロボット大活躍シークエンスの成功は、首都東京の街並みをロケ撮影した映像を大きな改変を行わずに背景に利用した点が大きいと思う。
 またブラック・オックスや鉄人のサイズも「ビルの谷間でガオー」的に丁度良いサイズだと思った。

 とは言うものの、ロボットのアップの質感に違和感があるのは否めない。尤も引いた画面で背景の中にロボットを溶け込ませることには概ね成功しているので、アップではなく、引いた映像の多用が成功の鍵ではないだろうか。

 しかし、その後本作は「ロボット大活劇」より「少年の成長を描いた人間ドラマ」になっていくあたりは、非常に残念である。

 勿論、鉄人28号とブラック・オックスの戦いの様子は、リアリティがある、と言えば抜群にリアリティがあり、言わば従来のロボット・プロレスものに対するアンチテーゼとして機能するような意欲的な演出である、とも言えるのだが、だとしても多くの観客は納得しないだろう。
 なにしろ本作を「ロボット大活劇」と捉えた場合、何よりも必要なカタルシスが感じられないのだ。

 また鉄人28号の質感に違和感を感じる。
 一応物語では、職人たちの手作業で鉄人が作られた設定になっているのだから、光沢仕様ではなくマットな感じにするとか、リベットをたくさん打つとか、ブラック・オックスとの相違を見せるべきだと思う。
 あれだと同じ技術基盤の上で、両ロボットが開発されたような印象を受ける。

 とは言え、本作を「少年の成長を描いた人間ドラマ」と捉えた場合は、見事な作品に見えてくるから映画と言うものは面白い。

 とにかく、ビルの谷間で大暴れする「リアル」な怪獣(ロボット)を見たい方には、結構おすすめの作品である。もれなく人間ドラマも付いてくるし。

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 キャスト的には、前述の陽子を演じた薬師丸ひろ子が素晴らしい。本作を「人間ドラマ」として考えた場合彼女の存在は必要不可欠である。

 また、トム・クルーズと共演した池松壮亮(金田正太郎)も良かった。何しろ薬師丸ひろ子に負けていない。

 正太郎を引き込む綾部を演じた中村嘉葎雄は、この映画最高のセリフを吐くし、存在感があって良いのだが、テンポが若干のろい。それは勿論俳優としての「間」なんだろうが、他の役者のテンポと比較し違和感を覚える。

 田浦慶太郎の伊武雅刀と大塚雄之助の柄本明は、コメディ・リリーフとは言え、若干オーバー・アクトだと思う。コミカルなシーンなど挿入する必要が無い映画ではないだろうか。

 天才科学者立花真美を演じた蒼井優は、脚本上セリフがあまり良くなかったのだと思うし、残念ながら役不足だと言わざるを得ない。天才科学者をステレオタイプに描くのではなく、普通の人間として描くべきだった。

 宅見零児を演じた香川照之はミス・キャストだろう。彼の役どころとしては、生真面目で泥臭い役柄、丁度「鉄人28号」を作った職人さんにピッタリだと思う。

 金田正一郎を演じた阿部寛はソツなくこなしていたが、阿部寛のインチキ臭い感じが若干残っていた。
 
 二人の刑事、江島香奈(中澤裕子)と村雨研二(高岡蒼佑)については、中澤裕子はまあまあ良かったのだが、高岡蒼佑は脚本上、問題があったような気がする。

 余談だがオープニング・タイトルも泣けるぞ。

 舞台挨拶では、松本肇が「東京ファンタ」への熱い思いを語ったのが印象的であった。かつての「東京ファンタ」を知らない、いとうせいこうは何も言えなかった。

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