「モーターサイクル・ダイアリーズ」その2
2004年10月4日 映画
2004/10/04 日本ヘラルド映画試写室で「モーターサイクル・ダイアリーズ」を観た。
ご参考までに、先日「恵比寿ガーデンシネマ」で観た際のレビューはこちら。
「モーターサイクル・ダイアリーズ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040930.html
今回でわたしは「モーターサイクル・ダイアリーズ」を2回観た訳であるが、個人的な印象としては2回目である今回の方が感涙の度合が高かった。これはゲバラの生涯について若干勉強した上で2回目の上映に望んだ事に起因するのかも知れないし、大きな劇場ではなく小さな試写室で観た事により本作への没頭の度合が高まり、感涙指数をも高めていたのかも知れない。
泣ければそれは良い映画だ、と言うつもりはさらさらないが、この映画は程よく泣ける素晴らしい作品に思えるのである。
今回特に印象に残ったのは前回同様サン・パブロのハンセン病隔離医療施設のシークエンスである。
旅を始めた当初は、エルネスト(ガエル・ガルシア・ベルナル)とアルベルト(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)は、アルベルトのおんぼろバイク「ポデローサ号」の上から南米を眺めており、視線は一段高く、しかもスピードも速い視線、言うならば当事者ではなく部外者の視線で南米全土を見ていた訳なのだ。
しかし、旅の後半、徒歩旅行を余儀なくされた彼等の視線は、より弱者である民衆のそれに近づき、彼等は部外者ではなく当事者の視線で南米が置かれている現状に目を向けるのである。
そしてそんな旅の途中、彼等はリマのペシェ博士(グスターボ・ブエノ)のはからいで、サン・パブロにあるハンセン病の隔離医療施設でボランティア医師として働く事になる。
勿論本作「モーターサイクル・ダイアリーズ」自体が、エルネストとアルベルトの成長物語と捉える事が出来るのだが、その中でも、ハンセン病の隔離医療施設での出来事は、将来の二人の生き様に大きな影響を与える象徴的な出来事に満ちている。
さて、その隔離医療施設だが、施設自体は地元の修道院の隔離方針に則って運営されており、医師等スタッフと重篤な患者たちは、その他大勢の患者たちとアマゾン川を隔てたそれぞれの対岸で暮らしており、医療行為において患者に触れる際は医師にはゴム手袋の着用が義務付けられていた。
修道院長は、エルネストとアルベルトにも施設の医師同様、ゴム手袋の着用を要請するが、彼等はそれを拒否し、素手でハンセン病患者と触れ合うのである。
そしてそれはいつしか施設の医師たちにも広がって行く。
また、隔離医療施設で24歳の誕生日を迎えたエルネストは、誕生パーティのスピーチで南米の現状と将来の理想像に触れ、パーティ開場には微妙な空気が流れるが、その微妙な空気の中、アルベルトはエルネストが変わってしまった事を確信するのである。
更にエルネストは、アマゾン川対岸にいる多くのハンセン病患者たちに、誕生日を祝ってもらう為、ある行動を取る。
その行動に対し、アルベルトを始とした医師等がかける言葉と、ハンセン病患者たちがかける言葉との対比が、エルネストの革命家としての将来を象徴的に表しているのではないだろうか。
この時点で、エルネストは強者側ではなく、弱者側に自分の足で立った訳である。
そんなエルネストが後年20世紀最高のイコン、世界で一番美しい革命家チェ・ゲバラになる訳なのである。
それを思うと、文字通り涙が止まらないのだ。
更にアルベルトがエルネストの志を受け、後年行うある行動にも滂沱なのだ。
何しろ、エルネストが転がした小さな石は、アルベルトの心の中でも転がり続けているだろうし、勿論われわれの心の中でも転がり続けているはずなのだから。
「これは偉業の物語ではない、同じ大志と夢を持った二人の人生がしばし併走した物語なのだ」
とにかく見ろ!
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
脚本は、先日お話したように散文的で下手をすると伏線を無視した脈絡のないものだと言われかねない。
しかし、編集も繋がりをあまり重視せずに見せたいものを見せたい順序で見せる散文的な手法を取っており、それが観客の記憶にも似た効果をあげている。
腫瘍の告知と、小説の感想を告げるシークエンスも興味深い。
25米ドルの行方と、喘息の薬の行方も興味深い。
音楽は、特にモノクロで南米の底辺で暮らす弱者の人々を映す部分で、居心地が悪く心を逆撫でするような、音楽が印象的であった。
エルネストの怒りを感じるのだ。
ラストの歌モノの局も素晴らしい。
キャストはダメな俳優は全くいない。
完璧である。主要キャストからエキストラまで、自分の仕事を120%こなしている。
ドキュメンタリー的な手法とも相まって、素晴らしい効果を付与している。
また、南米のロケーション効果は素晴らしく、是非劇場で体験して欲しい作品だと思う。
製作総指揮に名を連ねるロバート・レッドフォードだが、彼のキャリアを見渡すと、語弊はあるが「弱者が強者に歯向かう」映画が多いような気がする。本作もレッドフォードが好きそうな題材だと思える。
ご参考までに、先日「恵比寿ガーデンシネマ」で観た際のレビューはこちら。
「モーターサイクル・ダイアリーズ」
http://diarynote.jp/d/29346/20040930.html
今回でわたしは「モーターサイクル・ダイアリーズ」を2回観た訳であるが、個人的な印象としては2回目である今回の方が感涙の度合が高かった。これはゲバラの生涯について若干勉強した上で2回目の上映に望んだ事に起因するのかも知れないし、大きな劇場ではなく小さな試写室で観た事により本作への没頭の度合が高まり、感涙指数をも高めていたのかも知れない。
泣ければそれは良い映画だ、と言うつもりはさらさらないが、この映画は程よく泣ける素晴らしい作品に思えるのである。
今回特に印象に残ったのは前回同様サン・パブロのハンセン病隔離医療施設のシークエンスである。
旅を始めた当初は、エルネスト(ガエル・ガルシア・ベルナル)とアルベルト(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)は、アルベルトのおんぼろバイク「ポデローサ号」の上から南米を眺めており、視線は一段高く、しかもスピードも速い視線、言うならば当事者ではなく部外者の視線で南米全土を見ていた訳なのだ。
しかし、旅の後半、徒歩旅行を余儀なくされた彼等の視線は、より弱者である民衆のそれに近づき、彼等は部外者ではなく当事者の視線で南米が置かれている現状に目を向けるのである。
そしてそんな旅の途中、彼等はリマのペシェ博士(グスターボ・ブエノ)のはからいで、サン・パブロにあるハンセン病の隔離医療施設でボランティア医師として働く事になる。
勿論本作「モーターサイクル・ダイアリーズ」自体が、エルネストとアルベルトの成長物語と捉える事が出来るのだが、その中でも、ハンセン病の隔離医療施設での出来事は、将来の二人の生き様に大きな影響を与える象徴的な出来事に満ちている。
さて、その隔離医療施設だが、施設自体は地元の修道院の隔離方針に則って運営されており、医師等スタッフと重篤な患者たちは、その他大勢の患者たちとアマゾン川を隔てたそれぞれの対岸で暮らしており、医療行為において患者に触れる際は医師にはゴム手袋の着用が義務付けられていた。
修道院長は、エルネストとアルベルトにも施設の医師同様、ゴム手袋の着用を要請するが、彼等はそれを拒否し、素手でハンセン病患者と触れ合うのである。
そしてそれはいつしか施設の医師たちにも広がって行く。
また、隔離医療施設で24歳の誕生日を迎えたエルネストは、誕生パーティのスピーチで南米の現状と将来の理想像に触れ、パーティ開場には微妙な空気が流れるが、その微妙な空気の中、アルベルトはエルネストが変わってしまった事を確信するのである。
更にエルネストは、アマゾン川対岸にいる多くのハンセン病患者たちに、誕生日を祝ってもらう為、ある行動を取る。
その行動に対し、アルベルトを始とした医師等がかける言葉と、ハンセン病患者たちがかける言葉との対比が、エルネストの革命家としての将来を象徴的に表しているのではないだろうか。
この時点で、エルネストは強者側ではなく、弱者側に自分の足で立った訳である。
そんなエルネストが後年20世紀最高のイコン、世界で一番美しい革命家チェ・ゲバラになる訳なのである。
それを思うと、文字通り涙が止まらないのだ。
更にアルベルトがエルネストの志を受け、後年行うある行動にも滂沱なのだ。
何しろ、エルネストが転がした小さな石は、アルベルトの心の中でも転がり続けているだろうし、勿論われわれの心の中でも転がり続けているはずなのだから。
「これは偉業の物語ではない、同じ大志と夢を持った二人の人生がしばし併走した物語なのだ」
とにかく見ろ!
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脚本は、先日お話したように散文的で下手をすると伏線を無視した脈絡のないものだと言われかねない。
しかし、編集も繋がりをあまり重視せずに見せたいものを見せたい順序で見せる散文的な手法を取っており、それが観客の記憶にも似た効果をあげている。
腫瘍の告知と、小説の感想を告げるシークエンスも興味深い。
25米ドルの行方と、喘息の薬の行方も興味深い。
音楽は、特にモノクロで南米の底辺で暮らす弱者の人々を映す部分で、居心地が悪く心を逆撫でするような、音楽が印象的であった。
エルネストの怒りを感じるのだ。
ラストの歌モノの局も素晴らしい。
キャストはダメな俳優は全くいない。
完璧である。主要キャストからエキストラまで、自分の仕事を120%こなしている。
ドキュメンタリー的な手法とも相まって、素晴らしい効果を付与している。
また、南米のロケーション効果は素晴らしく、是非劇場で体験して欲しい作品だと思う。
製作総指揮に名を連ねるロバート・レッドフォードだが、彼のキャリアを見渡すと、語弊はあるが「弱者が強者に歯向かう」映画が多いような気がする。本作もレッドフォードが好きそうな題材だと思える。
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