以前から言われているように、手塚治虫は若い才能に対して嫉妬深い漫画家だった。

 そして手塚治虫が唯一本心から嫉妬し、その才能の豊かさに切歯扼腕したのが、大友克洋その人と彼の作品だったのだ

 批評家にして「手塚治虫の漫画はもう古い」と言わしめた、その原因となった大友克洋でさえ、「メロトポリス」や「スチームボーイ」で手塚治虫をやろうとしたのである。

 そして今、浦沢直樹が手塚治虫をやろうとしているのだ。

 その題材は傑作の呼び声高い「鉄腕アトム/史上最大のロボット」を原案とした「PLUTO / プルートウ」である。
 事実、浦沢直樹の「PLUTO / プルートウ」は、見事に「鉄腕アトム/史上最大のロボット」を遂次継承している。
 しかも、物語の周辺を掘り下げることにより、原作と比較してよりエモーショナルな作品になりつつあるのである。

 あとがきによると浦沢直樹が初めて読んだ漫画は「鉄腕アトム/史上最大のロボット」と「鉄腕アトム/人工太陽球」だと言うことである。
 このあたりは「アイ,ロボット」のレビューでも若干触れているが、その浦沢直樹の漫画の原初体験が今回の「PLUTO / プルートウ」にも色濃く反映されている。
 特に主人公であるゲジヒトのキャラクター造形は「鉄腕アトム/人工太陽球」のシャーロック・ホームスパンの影響が見て取れるのだ。

 とは言うものの、わたしの最大の驚愕ポイントは、手塚治虫の影響ではなく、大友克洋の影響である。

 なんと「PLUTO / プルートウ」は大友克洋の「AKIRA / アキラ」だったのだ。
 特に「PLUTO 01 / プルートウ 01」の構成は「AKIRA 1 / アキラ 1」のそれに酷似している、といわざるを得ない。

 そう考えた場合、キャラクターの対比は、ゲジヒトが大佐で、ブラウ1589がアキラ、アトムが鉄雄ということになる。

 これを端的に描写するシークエンスがある。

 ゲジヒトがブラウ1589を訪問した際、ブラウ1589はゲジヒトにこんな言葉をかける。(このシークエンスは多くの読者に「羊たちの沈黙」のレクター博士を訪問するクラリス捜査官を思い出させるだろう。しかし、これは「AKIRA / アキラ」だったのだ。)

「滑稽なほど必死で作り上げたバリケードだろ?」
「ハイテク機器で厳重に管理していながら・・・・」
「結局、人間は、こうでもしないと恐怖を抑えきれないんだ・・・・」

 一方アキラが眠るデュワー壁を前に大佐は独白する。
「見てみろ・・・・この慌て振りを・・・・」
「怖いのだ・・・・怖くてたまらずに覆い隠したのだ・・・・」
「恥も尊厳も忘れ・・・・築きあげて来た文明も科学もなぐり捨てて・・・・」
「自ら開けた恐怖の穴を慌てて塞いだのだ・・・・」

 更に、第一巻の結末、ゲジヒトはアトムを訪ねる。
「君が・・・・アトム君だね?」
「はい。」

 一方、大佐は鉄雄に手を伸ばす。
「41号・・・・」
「41・・・・号ォ・・・・?」
「そうだ・・・」

おもしろくなってきやがったぜ。

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tkr

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