2004/09/28 東京恵比寿「恵比寿ガーデンシネマ」で「モーターサイクル・ダイアリーズ」の試写を観た。

 「モーターサイクル・ダイアリーズ」は、2004年に日本公開となる作品の中で、わたし的に観たくて観たくて仕方が無かった作品のひとつである。
 過度な期待のため、わたしの中では本作の予告編映像が美化され膨張し、既に傑作としての風格と記憶を持った素晴らしい作品になってしまっていた。
 わたしはそんな中で本作「モーターサイクル・ダイアリーズ」を観た訳である。
 
 
 1952年1月、南米アルゼンチン。
 喘息もちなくせに恐れを知らない23歳の医学生エルネスト(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、親友の生化学者アルベルト(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)とともにアルベルトのおんぼろバイク(ノートン500/ポデローサ号)を駆って南米大陸を縦断する冒険の旅に出る。
 それは金も、泊まるあてもなく、好奇心のままに10,000キロを走破する無鉄砲な計画だった。

 冒険心、情熱的な魂、旅を愛する心でつながれた二人のゆるぎない友情。
 心をふれあったすべての人に、惜しみない愛を捧げた、エルネストの瞳に映る南米大陸の様々な風景。その記憶が彼の未来を変えた。

 のちに親しみを込めて「チェ」と呼ばれ、世界中から愛される20世紀最大の美しきイコンとなった青年の真実の物語。
 (オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

製作総指揮:ロバート・レッドフォード、ポール・ウェブスター、レベッカ・イェルダム
監督:ウォルター・サレス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル(エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ)、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ(アルベルト・グラナード)、ミア・マエストロ(チチナ・フェレイラ)
 
 
 本作「モーターサイクル・ダイアリーズ」は、エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナが著した「モーターサイクル南米旅行日記」(現代企画室刊)とアルベルト・グラナードが著した「Con el Che por America Latina」を基に、ホセ・リベラが脚本を執筆したもので、おそらく誇張はあるものの基本的には真実の物語である、と言えよう。

 本作の作風は、−−勿論日記を原作としている事もあるのだろうが−−、散文的で脈絡が無く、一歩間違えると長大な物語のダイジェスト版的な印象を観客に与えてしまうきらいが否定できない。
 これは例えば、先のシークエンスでは体調を崩していたエルネストが次のシークエンスでは元気にバイクに跨っていたり、二人が雪山で途方にくれている次のシークエンスでは、二人が陽光溢れる通りを走っていたり、バイクで転倒してズボンの裾をめくり傷を確認したが、その伏線の回収がされない、といったような部分に顕著に表われている。

 この辺りは、物語を描く上で、事象の「発端」と「経過」と「結末」を重視する観客にとっては、違和感があるところだと思うし、伏線となるべき映像を見せておきながら、その伏線を全く回収しないのは、全く持ってけしからん、という印象を観客に与えてしまう可能性もある。
 しかし本作は、舞台やシークエンスが変わる度に、日時と場所と走行キロ数を画面に表示させるだけで、事象の「結末」を描かないし、伏線を回収せず、宙ぶらりんの状態で物語を紡ぎ続ける、と言うスタイルを確信犯的に貫いている。

 このように物語の中で起きる事象の「結末」を突き放し、観客に事象の「結末」を想像させる手法は、物語の行間を観客に読ませ、物語が描いている登場人物が直面している事象について、登場人物と一緒に考えさせる、と言った素晴らしい効果を内包しているのではないか、と思えるのだ。

 また本作は、最早神格化されてしまい、20世紀最大のイコンとなってしまっている美しい革命家チェ・ゲバラが、単なる医学生から革命家に成長する要因やその背景を若々しく描いた作品であり、その散文的で脈絡のない描写手法と相まって、わたしたちがゲバラに対して抱いている先入観や、様々な伝説とが、物語を補完し脳内で最良の「ゲバラの青春時代」を再構築する、という構図をも持っているのだ。

 そして本作は、ゲバラが神格化されてしまったが故の、世界中の人々を敵に回してしまうような取扱い注意の題材を題材としてしまった作品にもなっているのだが、本作がたおやかに指し示すのは、大らかで爽やかで、弱者に対する溢れんばかりの愛と、強者に対する漠然とした疑問に満ちた、孤高で素朴な視線なのだ。
 ゲバラの事を知っている人も知らない人も十分に明確なゲバラ像を脳内に構築できる懐の大きな作品に仕上がっている。
 
 
 とにかく、わたし的には、政治的思想的背景をおざなりにし、チェ・ゲバラをファッションのひとつとしか捉えていないような日本の若者に是非観ていただきたい作品である、と思うし、この作品を観て、911同時多発テロからのイラクへの動き、郵政民営化問題やプロ野球の再編問題、物事の大小にかかわらず、このような弱者と強者が対峙する構図を持つ様々な問題について、自分の事として、自分の頭で考えていただきたいと思う訳なのだ。

10月4日に再度「モーターサイクル・ダイアリーズ」を観る予定なので、今日のところはこんなところで失礼します。

「モーターサイクル・ダイアリーズ」その2
http://diarynote.jp/d/29346/20041004.html

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