2004/09/23 東京新宿「テアトル新宿」で「オーバードライヴ」の試写を観た。

 当日は主演の柏原収史と津軽三味線音楽監督の高橋脩市郎の津軽三味線のライヴと、監督の筒井武文、出演の柏原収史、鈴木蘭々、賀集利樹、杏さゆり、阿井莉沙、新田昌弘、高橋脩市郎らの舞台挨拶があった。

 人気絶頂のユニット「ゼロデシベル」の(自称)天才ギタリスト麻田弦(柏原収史)は、記者会見の席上、ヴォーカルの美潮(鈴木蘭々)に突然クビを宣告される。おまけにひょんなことから津軽三味線の後継者探しをしている謎のジジィ五十嵐五郎(ミッキー・カーチス)に拉致され、まるで不思議の国のごとき青森の人里離れた屋敷で地獄の三味線修行を強いられる!
 あまりのハードさに一旦は逃亡を計画するも、ジジィのかわいい孫娘五十嵐晶(杏さゆり)に一目惚れをしてしまった弦は、ふらふらと思いとどまることに。やがて晶に思いを寄せる見目麗しき三味線界のプリンス大石聖一郎(新田昌弘)の登場に、ライバル心を燃やす一方で、津軽三味線という楽器の奏でる音の奥深さに気づき始めた弦は、次第にその才能を開花させるのだった。
(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)

監督は筒井武文
出演は柏原収史、鈴木蘭々、杏さゆり、賀集利樹、ミッキー・カーチス、小倉一郎、阿井莉沙、諏訪太郎、石橋蓮司、新田弘志、新田昌弘、木下伸市、高橋脩市郎
 
 
 この秋オススメの青春音楽コメディ映画である。
 音楽コメディと言えば最近なにかと話題の「スウィングガールズ」があるが、「スウィングガールズ」は本来描くべき演奏シーンが少ない反面、枝葉部分に尺を割き、音楽映画としては残念な仕上がりだったのだが、本作「オーバードライヴ」では津軽三味線の演奏シーンを充分堪能できる見事な音楽映画に仕上がっている。
 その津軽三味線の演奏シーンだが、カット割で誤魔化して見せるような手法ではなく、引いたカメラでワンカットで演奏を見せるような手法を用い、ライヴ感や緊張感溢れる手法で描写されており好感が持てた。
 今回津軽三味線に挑戦する柏原収史は、元々ギターを弾いていたこともあるのだろうが、演奏自体も堂に入っており、試写前にステージ上で行われた高橋脩市郎との津軽三味線セッションもロック・スピリット溢れる見事な演奏だった。

 ところで脚本の基本プロットは「津軽三味線の後継者を探す人物が主人公に目を付け拉致の上、無理矢理津軽三味線の特訓を始める。最初はやる気がなかった主人公が様々なモチベーションの下、本気で練習を始め、大きな成果をあげ、人間的にも成長する」と言う、ベタでお約束なものなのだが、個々の細かいプロットが非常に楽しく、漫才的、漫画的脚本に仕上がっている。

 また、要所要所(物語の展開時)に挿入される阿井莉沙(歌姫)の和風ヒップホップ&ラップ調による物語進行や主人公の心象風景や、柏原収史の心の声をアニメーションで表現したりするところが大変興味深い。
 特に柏原収史の心の声については、天使と悪魔の声の対比が面白かった。

 そして物語の根底にあるのは「技術ではなく魂」である、と言うもの。このあたりはブルース・リーの「燃えよドラゴン」の”Don’t think, Feeeeeeel!”が重要なモチーフになっており、「燃えよドラゴン」の影響下にある(と一部で言われている)「スター・ウォーズ/新たなる希望」の引用らしきもの(ダーク・サイドやライト・セイバーと津軽三味線の対比)も登場する。

 キャストはなんと言っても柏原収史(麻田弦)であろう。髪型を含め顔が大きく頭身が若干低めである柏原収史の外見は、ある意味麻田弦と言う漫画的キャラクターの成立に貢献しているのではないだろうか。そして彼はコミカルな演技からシリアスな演技までをソツなくこなしているのだ。勿論津軽三味線の演奏も素晴らしく、ラストの津軽三味線バトルの選曲には若干問題を感じるものの「クロスロード」やなんかのギター・バトルのシークエンスに匹敵する津軽三味線バトルが楽しい。

 ミッキー・カーチス(五十嵐五郎)や小倉一郎(五郎の息子で晶の父)、石橋蓮司(大石派代表)は世界観の構築について大きな貢献を果たし、良い味を出している。彼等のような名バイプレイヤーの重要性を感じる瞬間である。
 彼等を生かす脚本も良い出来で、ミッキー・カーチスの津軽三味線に関する天丼的セリフや、キャラクターを生かしたマイペース小倉一郎や、いいかげん石橋蓮司が楽しませてくれる。

 新田親子(新田弘志(倉内宗之助)、新田昌弘(大石聖一郎))は親子津軽三味線奏者として国内外で活躍しているのだが、本作では二人の役柄が失敗すると映画自体が危うい状況になってしまうほどの大きな役柄だったのだが、彼等は演技初挑戦にしては上手くこなしているようである。下手をすると賀集利樹(ジン)より俳優的な演技を行っているような印象を受ける。
 特に新田弘志(倉内宗之助)は存在感が素晴らしい。

 ヒロイン役の杏さゆり(五十嵐晶)は、キャラクターが良く構築されており、非常に魅力的に見えた。これにより主人公麻田弦(柏原収史)が恋愛感情を抱く、という説得力の付与に貢献している。
 また彼女の役柄が物語の根底となる「技術ではなく魂(”Don’t think, Feeeeeeel!”)」を体現するキャラクターという、重要な役柄であるだけに、キャラクターの背景に観客が感情移入しやすい役柄になっている。

 また「ゼロデシベル」のヴォーカル美潮を演じた鈴木蘭々は、なんと言ってもラストのライヴ・シーンが圧巻である。
 勿論他のシークエンスでも充分な印象を観客に与えているのだが、下北半島の作りこまれた世界観に対比して、東京の世界観に若干見劣りするため、東京のシークエンスでは強烈な印象とならない、ということである。
 その点前述のライヴ・シーンは、「ゼロデシベル」のヴォーカリストとしての抜群の存在感と圧倒的なカリスマ性を見せてくれている。

 また物語の進行役的役柄(狂言回し)歌姫を演じた阿井莉沙も非常に音楽性が高く魅力的な印象を受けた。
 ラストカットは蛇足だが・・・・。

 美術や衣装は前述のように下北半島の素晴らしい世界観の構築に貢献し、大変素晴らしい。ハリボテ感満載の五十嵐邸も逆説的に素晴らしく、リアリティが無いところが、逆に漫画的リアリティの付与に成功しているのではないだろうか。

 とにかく本作「オーバードライヴ」は、津軽三味線が最高に格好良く、音楽作品としても十分楽しめる青春コメディ映画で、この秋「スウィングガールズ」以上に楽しめる音楽映画とも言えるのだ。

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tkr

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