2004/09/13 東京有楽町よみうりホールで「ヘルボーイ」の試写を観た。
第2次大戦末期、スコットランドのトランダム大修道院跡。
妖僧ラスプーチン(カレル・ローデン)は、オカルト結社トゥーレ協会会長カール・クロエネン(ラディスラフ・ベラン)、女将校イルザ(ブリジット・ホドソン)らナチスの小隊と共に「ラグナロク計画」を実行に移そうとしていた。
「ラグナロク計画」とは、独自に開発されたヘル=ホール発生機により、異界の門を開き混沌の7体の神オグドル・ヤハドを召喚しようとする計画。
ラスプーチンが異界の門を開き、オグドル・ヤハドを召喚しようとした瞬間、急襲したアメリカ軍部隊はその計画を阻止、ラスプーチンは異界に呑み込まれ、こちらの世界には真っ赤な小猿のような生き物が残された。
この事件の功労者、超常現象学者ブルーム教授(ジョン・ハート)は、フランクリン・ルーズベルト大統領に認可され、BPRD(超常現象調査/防衛局)を極秘に設立。
「ヘルボーイ」と名づけられた小猿のような生き物は、教授を父と慕い、トップ・エージェントとして極秘裏に魔物退治をすることになった。(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
監督はギレルモ・デル・トロ
出演は ロン・パールマン(ヘルボーイ)、ジョン・ハート(ブルーム教授)、セルマ・ブレア(リズ・シャーマン)、ルパート・エヴァンス(ジョン・マイヤーズ捜査官)、カレル・ローデン(ラスプーチン)、ジェフリー・タンバー(マニング/ジョンの上司)、ラディスラフ・ベラン(クロエネン)、ブリジット・ホドソン(イルザ)、ダグ・ジョーン(エイブ・サピエン/半魚人)
「ヘルボーイ」とは、影と色彩の魔術師と呼ばれるマイク・ミニョーラが生み出したダーク・ヒーローで、同名コミックも1990年代のアメリカン・コミックス界におけるエポック・メイキング的作品となった傑作であり、本作はそのコミックの映画化作品、と言う事になる。
そして本作の物語は、異界の門からわれわれの世界に転げ落ちてきたヘルボーイや半魚人、パイロキネシス(念動発火)能力者らと、彼等が所属する極秘機関BPRD(超常現象調査/防衛局)が、モンスター絡みの超常現象を解決する連作シリーズの1エピソードという形式を持っており、本作で語られるのは、ヘルボーイの出自となるラスプーチンの「ラグナロク計画」の全貌、−−その発端から結末まで−−である。
まず、印象に残ったのは、本作のヒーローであるヘルボーイは異界からわれわれの世界にたまたまやってきた所謂モンスターである、と言うところであろう。
世の中には、人間の味方になった「良い」モンスターが、人間にとって「悪い」モンスターたちを次から次へと退治するような物語はいくつもあるが、本作「ヘルボーイ」はそんな物語のひとつである、と言えるだろう。
例えば、最近公開された「ヴァン・ヘルシング」も同じ骨格を持った作品だと言えるし、「デビルマン」や「フランケンシュタイン」、広義の意味で考えると「ブレードランナー」なんかも同様の骨格を持った作品だと言えるかも知れない。
そしてそれらの物語の背景には、ヒーローたるモンスターのアイデンティティの確立の描写が必須となってくる訳である。
そのモンスターのアイデンティティの確立が上手く描写されている作品に、−−モンスターのモンスターたる所以による悲しみとそこからの脱却と浄化が描かれている作品に−−傑作が多いのではないだろうか。
自分は果たして人間なのか、それともモンスターなのか。
本作「ヘルボーイ」では、その辺りについては、ヘルボーイが人間の女性に恋をすることにより、モンスターの外見を持つ存在として、その女性に相応しくないのではないかと思い悩むヘルボーイが描写されている。
世界を救うスーパーヒーローの個人的な悩みなのである。
これはロン・パールマンの出世作であるテレビ・シリーズ「美女と野獣」にもつながるのだろう。
しかし、ヘルボーイが恋する女性は人間か、と言うとそうでもなく、「キャリー」や「炎の少女チャーリー」のような怪物的能力を持った女性である点が非常にシニカルである。
語弊はあるが、外見はともかく、内面をも考えると、彼らの恋はモンスター同士の恋だと言えると思うのだが、リズは外見ではなく内面をとらえ、ヘルボーイは内面ではなく外見をとらえ、外見を重要視している訳である。
余談だが、パイロキネシス(念動発火能力)能力者リズ(セルマ・ブレア)のセリフに『「ファイアスターター」とは呼ばれたくない』という意味のセリフがあった。
この「ファイアスターター」とは映画「炎の少女チャーリー」の原題で、宮部みゆきの「クロスファイア」に多大なる影響を与えたスティーヴン・キングの原作小説のタイトルである。
こういったモンスターの悲哀とも言える背景を明確に描くことにより、本作「ヘルボーイ」は、一般の娯楽アクション大作と一線を画す作品に仕上がったような気がする。
また、ヘルボーイの人格形成に大きな影響を与えているブルーム教授(ジョン・ハート)の存在も忘れてはならない。
ブルーム教授とヘルボーイの関係は、愛情溢れる親子関係であり、フランケンシュタイン博士と彼が創造したモンスターの関係のメタファーとなっている。
この辺はかつて、エイリアンを体内で育ててしまったジョン・ハートという役者を使う辺りが興味深いのではないだろうか、またヘルボーイのクリーチャーとしての見世物的側面を考えた場合、ジョン・ハートが演じた「エレファントマン」との対比も面白いのかもしれない。
ブルーム教授とクロエネン(ラディスラフ・ベラン)が対峙するシークエンスで、教授自らがかけていた「We’ll meet again(また会いましょう)」も教授とヘルボーイの関係に感動を付与する効果的な使われ方をしている。
余談だが、「We’ll meet again(また会いましょう)」はスタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情」のラストで素晴らしい使われ方をしている名曲である。
クリーチャーやモンスターの造形は、ラブクラフトのクトゥルフ系と思われ、更にナチス・ドイツのオカルト主義的な背景や、ヒーローが所謂悪魔的な外見を持っているところが本作を印象深い作品に仕上げている。
キャストは何と言ってもロン・パールマンだろう。ワンマンで強いヒーローでありながら、外見に悩む情けないヒーローを楽しげに演じている。これはロン・パールマンのルックスに因るところが大きいと思う。ロン・パールマンなくして「ヘルボーイ」の実写化は考えられないのだ。
そしてジョン・ハートである。フランケンシュタインのモンスターを創造したフランケンシュタイン博士を髣髴とさせる、ヘルボーイへの愛情を色濃く反映させた素晴らしい父親像をクリエイトしている。
脚本は、物語の根幹となる大掛かりなプロットは若干ありがちだが、世界観を構築するちいさなネタの数々が楽しい脚本になっている。
観客を選ぶ作品かも知れないが、この秋是非劇場で観ていただきたい作品なのだ。
個人的には「ヴァン・ヘルシング」を観るなら「ヘルボーイ」だな、と思う訳です。
☆☆☆★ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
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第2次大戦末期、スコットランドのトランダム大修道院跡。
妖僧ラスプーチン(カレル・ローデン)は、オカルト結社トゥーレ協会会長カール・クロエネン(ラディスラフ・ベラン)、女将校イルザ(ブリジット・ホドソン)らナチスの小隊と共に「ラグナロク計画」を実行に移そうとしていた。
「ラグナロク計画」とは、独自に開発されたヘル=ホール発生機により、異界の門を開き混沌の7体の神オグドル・ヤハドを召喚しようとする計画。
ラスプーチンが異界の門を開き、オグドル・ヤハドを召喚しようとした瞬間、急襲したアメリカ軍部隊はその計画を阻止、ラスプーチンは異界に呑み込まれ、こちらの世界には真っ赤な小猿のような生き物が残された。
この事件の功労者、超常現象学者ブルーム教授(ジョン・ハート)は、フランクリン・ルーズベルト大統領に認可され、BPRD(超常現象調査/防衛局)を極秘に設立。
「ヘルボーイ」と名づけられた小猿のような生き物は、教授を父と慕い、トップ・エージェントとして極秘裏に魔物退治をすることになった。(オフィシャル・サイトよりほぼ引用)
監督はギレルモ・デル・トロ
出演は ロン・パールマン(ヘルボーイ)、ジョン・ハート(ブルーム教授)、セルマ・ブレア(リズ・シャーマン)、ルパート・エヴァンス(ジョン・マイヤーズ捜査官)、カレル・ローデン(ラスプーチン)、ジェフリー・タンバー(マニング/ジョンの上司)、ラディスラフ・ベラン(クロエネン)、ブリジット・ホドソン(イルザ)、ダグ・ジョーン(エイブ・サピエン/半魚人)
「ヘルボーイ」とは、影と色彩の魔術師と呼ばれるマイク・ミニョーラが生み出したダーク・ヒーローで、同名コミックも1990年代のアメリカン・コミックス界におけるエポック・メイキング的作品となった傑作であり、本作はそのコミックの映画化作品、と言う事になる。
そして本作の物語は、異界の門からわれわれの世界に転げ落ちてきたヘルボーイや半魚人、パイロキネシス(念動発火)能力者らと、彼等が所属する極秘機関BPRD(超常現象調査/防衛局)が、モンスター絡みの超常現象を解決する連作シリーズの1エピソードという形式を持っており、本作で語られるのは、ヘルボーイの出自となるラスプーチンの「ラグナロク計画」の全貌、−−その発端から結末まで−−である。
まず、印象に残ったのは、本作のヒーローであるヘルボーイは異界からわれわれの世界にたまたまやってきた所謂モンスターである、と言うところであろう。
世の中には、人間の味方になった「良い」モンスターが、人間にとって「悪い」モンスターたちを次から次へと退治するような物語はいくつもあるが、本作「ヘルボーイ」はそんな物語のひとつである、と言えるだろう。
例えば、最近公開された「ヴァン・ヘルシング」も同じ骨格を持った作品だと言えるし、「デビルマン」や「フランケンシュタイン」、広義の意味で考えると「ブレードランナー」なんかも同様の骨格を持った作品だと言えるかも知れない。
そしてそれらの物語の背景には、ヒーローたるモンスターのアイデンティティの確立の描写が必須となってくる訳である。
そのモンスターのアイデンティティの確立が上手く描写されている作品に、−−モンスターのモンスターたる所以による悲しみとそこからの脱却と浄化が描かれている作品に−−傑作が多いのではないだろうか。
自分は果たして人間なのか、それともモンスターなのか。
本作「ヘルボーイ」では、その辺りについては、ヘルボーイが人間の女性に恋をすることにより、モンスターの外見を持つ存在として、その女性に相応しくないのではないかと思い悩むヘルボーイが描写されている。
世界を救うスーパーヒーローの個人的な悩みなのである。
これはロン・パールマンの出世作であるテレビ・シリーズ「美女と野獣」にもつながるのだろう。
しかし、ヘルボーイが恋する女性は人間か、と言うとそうでもなく、「キャリー」や「炎の少女チャーリー」のような怪物的能力を持った女性である点が非常にシニカルである。
語弊はあるが、外見はともかく、内面をも考えると、彼らの恋はモンスター同士の恋だと言えると思うのだが、リズは外見ではなく内面をとらえ、ヘルボーイは内面ではなく外見をとらえ、外見を重要視している訳である。
余談だが、パイロキネシス(念動発火能力)能力者リズ(セルマ・ブレア)のセリフに『「ファイアスターター」とは呼ばれたくない』という意味のセリフがあった。
この「ファイアスターター」とは映画「炎の少女チャーリー」の原題で、宮部みゆきの「クロスファイア」に多大なる影響を与えたスティーヴン・キングの原作小説のタイトルである。
こういったモンスターの悲哀とも言える背景を明確に描くことにより、本作「ヘルボーイ」は、一般の娯楽アクション大作と一線を画す作品に仕上がったような気がする。
また、ヘルボーイの人格形成に大きな影響を与えているブルーム教授(ジョン・ハート)の存在も忘れてはならない。
ブルーム教授とヘルボーイの関係は、愛情溢れる親子関係であり、フランケンシュタイン博士と彼が創造したモンスターの関係のメタファーとなっている。
この辺はかつて、エイリアンを体内で育ててしまったジョン・ハートという役者を使う辺りが興味深いのではないだろうか、またヘルボーイのクリーチャーとしての見世物的側面を考えた場合、ジョン・ハートが演じた「エレファントマン」との対比も面白いのかもしれない。
ブルーム教授とクロエネン(ラディスラフ・ベラン)が対峙するシークエンスで、教授自らがかけていた「We’ll meet again(また会いましょう)」も教授とヘルボーイの関係に感動を付与する効果的な使われ方をしている。
余談だが、「We’ll meet again(また会いましょう)」はスタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情」のラストで素晴らしい使われ方をしている名曲である。
クリーチャーやモンスターの造形は、ラブクラフトのクトゥルフ系と思われ、更にナチス・ドイツのオカルト主義的な背景や、ヒーローが所謂悪魔的な外見を持っているところが本作を印象深い作品に仕上げている。
キャストは何と言ってもロン・パールマンだろう。ワンマンで強いヒーローでありながら、外見に悩む情けないヒーローを楽しげに演じている。これはロン・パールマンのルックスに因るところが大きいと思う。ロン・パールマンなくして「ヘルボーイ」の実写化は考えられないのだ。
そしてジョン・ハートである。フランケンシュタインのモンスターを創造したフランケンシュタイン博士を髣髴とさせる、ヘルボーイへの愛情を色濃く反映させた素晴らしい父親像をクリエイトしている。
脚本は、物語の根幹となる大掛かりなプロットは若干ありがちだが、世界観を構築するちいさなネタの数々が楽しい脚本になっている。
観客を選ぶ作品かも知れないが、この秋是非劇場で観ていただきたい作品なのだ。
個人的には「ヴァン・ヘルシング」を観るなら「ヘルボーイ」だな、と思う訳です。
☆☆☆★ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
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