「SURVIVE STYLE5+」

2004年9月10日 映画
2004/09/10 東宝本社試写室で行われた「SURVIVE STYLE5+」のティーチ・イン試写会に参加した。

 ティーチ・インのゲストは、監督の関口現、企画・原案・脚本の多田琢、キャストのJAI WEST。
 
 
1.殺しても殺しても、なぜかより凶暴になって蘇ってくる妻(橋本麗香)。その妻を殺し続けようとする男・石垣(浅野忠信)。

2.観客に催眠術をかけたまま殺し屋に殺されてしまう人気催眠術師・青山(阿部寛)。その青山の恋人CMプランナー・洋子(小泉今日子)。

3.ショーのステージで催眠術をかけられてしまい、自分を鳥だと思い込んで暮らす小林(岸部一徳)。その姿に戸惑う妻(麻生祐未)と子供たち(長女/貫地谷しほり、長男/神木隆之介)。

4.空き巣をして生活する津田(津田寛治)と森下(森下能幸)とJ(JAI WEST)の3人組。

5.いつも同時通訳(荒川良々)を連れて行動する、ロンドンからやってきた殺し屋(ヴィニー・ジョーンズ)。

 交わるはずのない彼らの運命が時に複雑に、時に微妙に絡み合い、物語は思いもよらないクライマックスを迎える・・・。
(オフィシャル・サイトからほぼ引用)
 
 
 今年の秋、一番オススメの邦画である。
 本作「SURVIVE STYLE5+」は、所謂邦画の枠を飛び越えた、一流の娯楽作品に仕上がった意欲作なのだ。

 正直なところわたしは、本作「SURVIVE STYLE5+」は、CMプランナーとCMディレクターのコンビが製作した映画だと知り「どうせひとりよがりのマスターベーション映画だろう」とか「スタイルだけでどうせ中身がないんだろう」と言うマイナスイメージの先入観を持っていた。
 そしてティーチ・インの場所でも一映画ファンとして、辛辣な意見で攻撃でもしてやろうかな、と思っていた訳である。
 しかし、その目論見は見事に外れ、そのティーチ・インの会場には「SURVIVE STYLE5+」に感動し絶賛してしまっているわたしがいた訳なのである。

 皆さんご承知のように、世の中には、CF(CM)業界やPV業界で評価され、その評価を足がかりに映画業界に進出するクリエイターが少なくない。
 例えばリドリー・スコットや大林宣彦はCF畑出身だし、最近では宇多田ヒカルの夫・紀里谷和明はPV業界での名声を足がかりにして「CASSHERN」を監督したのは記憶に新しい。

 そして、わたしが「SURVIVE STYLE5+」にマイナス・イメージの先入観を持ってしまったのは、勿論、紀里谷和明の「CASSHERN」の失敗が念頭にあった訳なのだ。

 しかし、関口現と多田琢コンビは違っていた。
 勿論、CFあがりという事もあり、美術や衣装、セットやプロップから構築される世界観は素晴らしく、撮影もシンメトリーな構図を生かした印象的なモノであり、スタイルや世界観は思ったとおりのクオリティを持っていた。
 が、「SURVIVE STYLE5+」はそれだけ、−−映像スタイルやビジュアル・イメージだけ−−、ではなかったのだ。

 何しろ脚本が素晴らしい。
 勿論脚本の根底には所謂グランド・ホテル形式が顔を出し、グランド・ホテル形式の傑作「マグノリア」の影は否めない。
 しかし、5本の並行する物語がいちいち面白く、セリフだけではなく観客の読解力を信頼した心象描写を期待する方向性を持った脚本に仕上がっているのだ。

 そして、それをビジュアル化する演出力は、まあ、あたりまえと言えばあたりまえなのだが、CFあがりのクリエイターが持つ、観客への訴求力、−−何を観客に訴え、何を感じさせ、何を観客にさせたいのか、−−が明確に感じられるのだ。このあたりはCFの仕事柄から派生したテクニック感は否めないが、訴求力が明確ではなく、スタイルのみを求めるPVあがりの監督とは一線を画しているのではないだろうか。

 更に共感を覚えたのは、関口現は映画研究会出身であり、映画を愛する一映画ファンだった、と言うことである。
 そして、本作「SURVIVE STYLE5+」は様々な映像作家へのオマージュと言うか、リスペクトと言うか、引用に満ちている。
 その映像作家へのリスペクトの矛先は、スタンリー・キューブリック、ビンセント・ギャロ、ホール・トーマン・アンダーソン、マイク・マイヤーズにはじまり、市川崑や森田芳光に至るのを見るにあたっては、監督である関口現の映画に対する愛情が、付け焼刃的なものではなく、関口現の根源的なものである、と言うことが見て取れるのだ。
 尤も、様々な映像作家の映像スタイルの引用が、果たして作品の演出上良いことなのかどうかは、諸意見あるところだと思うが、わたしは関口現の映画に対する愛情を評価し「SURVIVE STYLE5+」に対し好意的な考えを持った訳なのだ。

 キャストは、浅野忠信にしろ、橋本麗香にしろ、小泉今日子にしろ、阿部寛にしろ、岸部一徳にしろ、麻生祐未にしろ、津田寛治にしろ、森下能幸にしろ、Jai WESTにしろ、荒川良々にしろ、ヴィニー・ジョーンズにしろ全て素晴らしい。

 その中でも最近出ずっぱりの感が否めないが、岸部一徳が素晴らしい。「SURVIVE STYLE5+」の成功は岸部一徳のおかげと言っても過言ではないだろう。こんな素敵なキャラクターを飄々と演じる岸部一徳に感涙ものなのだ。

 また、小泉今日子についてだが、彼女の役柄は若干コミカルなものなのだが、演技はコメディではなく、普通の映画の演技スタイルに近く普通に感動できる演技を見せてくれている。これは相米慎二の遺作「風花」にも通じる素晴らしいものがある。特にタクシーから降りて走るシーンは素晴らしいみずみずしさに満ちている。

 そして荒川良々だが、構築された世界観も相まって素晴らしい印象を観客に与えている。最近引っ張りだこ状態の荒川良々だが、「SURVIVE STYLE5+」は彼にとって、ひとつの代表作になるのではないだろうか。

 あとは、津田寛治、森下能幸、Jai WESTの空き巣トリオが最高に素晴らしい。特に森下能幸とJai WESTのコンビは秀逸である。役柄としては、彼等は本作「SURVIVE STYLE5+」のコメディ・リリーフを担当し、5本のエピソードの中では息抜き部分、−−箸休め的シークエンス−−、となっている訳だが、「お笑い」や「箸休め」ではなく、「何か/サムシング」の存在を感じさせる素晴らしいシークエンスに仕上がっている。
 
 
 つらつらと、硬い事を言っているが、この作品は誰でも素直に楽しめる素晴らしい娯楽作品である。
 何も考えずに素直に楽しんで欲しい一本なのだ。
 日本映画に失望するのは、まだ早いのだ。

前略、関口現さま/公開ファンレター(「SURVIVE STYLE5+」)
http://diarynote.jp/d/29346/20040923.html

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