2004/09/01 東京内幸町(霞ヶ関)イイノホールで開催されていた「GTF2004 トーキョーシネマショー」のクロージング作品「オールド・ボーイ」の試写を観た。

ごく平凡な生活を送っていた男オ・デス(チェ・ミンシク)は、娘の誕生日の晩、酔っ払った挙句に警察に留め置かれてしまう。一時はジュファン(チ・デハン)に身柄を引き取られるが、ジュファンが電話をかけている最中、オ・デスは何者かに拉致されてしまう。

その後、オ・デスはホテルの一室のような小さな部屋で意識を取り戻したのが、それ以降理由もわからないまま監禁され続け、監禁開始から15年後のある日、オ・デスは突然解放されてしまう。

一体誰が!?何の目的で!?

オ・デスは解放後に偶然出会った若い女性ミド(カン・ヘジョン)の協力を得、自分を監禁した相手を探し出し復讐することを誓う。
そんなオ・デスの前に謎の男イ・ウジン(ユ・ジテ)が現れるのだが・・・・。

監督:パク・チャヌク
出演:チェ・ミンシク、ユ・ジテ、カン・ヘジョン、チ・デハン、ユン・ジンソ

本作「オールド・ボーイ」はご承知のように、2004年カンヌ国際映画祭公式上映後のスタンディング・オベーションは10分間に及び、結果、見事グランプリ(審査員特別大賞)を獲得、審査委員長クエンティン・タランティーノにして『グレイト!最高に素晴らしい! 本当は「オールド・ボーイ」にパルムドールをあげたかった』と言わしめた作品である。

事実本作「オールド・ボーイ」は「カンヌ国際映画祭グランプリ」に恥じない、素晴らしい作品だった。

先ずは、とにかく脚本が素晴らしい。
わたしは寡聞にして原作を読んでいないため、原作と脚本の比較は出来ないが、本作「オールド・ボーイ」の脚本は緻密でいて大胆、縦横に張り巡らされた伏線を生かし、驚きに満ちた素晴らしいプロットに溢れている。

また、要所要所に描写される、「キーとなるモノ」のあっさりした描写が、わかる人にはわかる製作者の目配せ的伏線として機能しているあたりも良い印象を受けた。

本作「オールド・ボーイ」の脚本は、物語の表層部分が面白いのは勿論、物語の奥底に当たる部分も最高に面白い、と言う素晴らしく完成度が高い脚本だと言えるのだ。

キャストは、何と言ってもチェ・ミンシク(オ・デス)が素晴らしい。
観客を笑わすは、泣かすはの大活躍である。
冒頭のシークエンスでのチェ・ミンシクの酔漢振りも良いが、監禁時の鬼気迫る演技も、解放後の冒険や、ウジンとの対決も、何から何まで素晴らしいのだ。
悪い点を強いてあげるとすると、監禁前の姿のほうが、解放後の姿より年を取っているように見えるような気がする位である。

また、物語のキーとなる謎の男イ・ウジンを演じたユ・ジテも同様に素晴らしい。
本作「オールド・ボーイ」では、多くの観客は、理由はともかく15年間も監禁されていたオ・デスに感情移入すると思われ、実際ウジンは敵役を振られている事になるのだが、そんな状況の中で、知的でクールな、それでいて哀愁と喪失感を帯びた、奥深く複雑な敵役像を見せてくれている。

また、解放後のオ・デスをたまたま助けるミドを演じたカン・ヘジョンも素晴らしい。
わたしはミド登場時に、それほど良い印象を受けなかったのであるが、物語が進むに連れカン・ヘジョンは輝きを増し、ついには衝撃的な印象を残してくれる。

そして、端役やエキストラまで、末端まで真摯な態度が行き届いたキャスティングも素晴らしく、全ての役者が与えられた役柄を見事にこなしている。

一方、監禁部屋にしろ、ユジンのペントハウスにしろ、ミドの部屋にしろ、学校にしろ、美容院にしろ、インターネット・カフェにしろ、セットや美術、大小道具も素晴らしく、統一感がありながら、所有者のセンスや性格、感情が感じられる世界観の構築に貢献している。

そして、その素晴らしい世界観を冷徹に切り取り、二次元に定着させるカメラ。
撮影も大変素晴らしく、一度見たら一生忘れられない種類のカットを多数残している。
勿論、これは演出のおかげではあるのだが、妥協しない撮影の力を感じる作風だったのだ。
オ・デス(チェ・ミンシク)やイ・ウジン(ユ・ジテ)、ミド(カン・ヘジョン)等の表情や動きの切り取り方も凄いぞ。
スチール・カメラのような鋭敏さを持ったムービー・カメラなのだ。

ネタバレを避けるあまり、曖昧で抽象的な書きようになってしまっているが、これ以上の事を書くと本当にネタバレになってしまいそうなので、この辺にしておくが、わたしのオススメとしては、出来れば本作「オールド・ボーイ」に関する全ての情報をシャット・アウトした上で、一般のメディアで本作物語の内容が取り上げられる前に、出来るだけ早く観て欲しい。出来れば、チラシも見ない方が良いと思う。

そして、例えば「クライング・ゲーム」や「シックス・センス」の「秘密」を全ての観客が共有した上で「秘密」を守り、決して誰にも言わなかったように、本作「オールド・ボーイ」の「秘密」も観客全てが共有し「秘密」を守る、そんな映画になって欲しいと心から願うのだ。

とにかく、本作「オールド・ボーイ」は、今秋の目玉の作品という事もあるのだが、映画に関心を持っている人全てに観て欲しいとわたしは思う。

本作「オールド・ボーイ」は映画史に燦然と輝く作品になる可能性が高いと思うしね。

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余談

日本の劇画(漫画)を原作として、韓国にこんな素晴らしい作品を創られてしまうとは、日本人として悲しい気持ちで一杯なのだ。
日本のクリエイターの諸氏にも、もう少し頑張って欲しいと思うし、ワールド・ワイドな戦略を立てた、素晴らしい邦画を製作して欲しいと思う。

かつては香港映画に羨望の念を覚え、今は韓国映画に嫉妬の念を禁じえない状況は、果たしていつまで続くのであろうか。

余談だが、本作の脚本は「アンブレイカブル」のような、ラストでカッチリとはまる素晴らしいもので、その関係からか、サミュエル・L・ジャクソンが、ユ・ジテとかぶって見えてくる。

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tkr

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