2004/08/29 東京内幸町(霞ヶ関)イイノホールで開催されている「GTF2004 トーキョーシネマショー」で「ニュースの天才」の試写を観た。

1998年、アメリカ大統領専用機エア・フォース・ワンに唯一設置され、米国内で最も権威ある政治雑誌と評される「THE NEW REPUBLIC」の記者スティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン)の執筆記事が捏造であることが発覚。米国メディアに大きな衝撃が走った。

ニュースを報道する側が、自ら報道される「ニュース」な存在になっていく過程をスリリングに描き出すことで浮き彫りになる、究極の「真実」。

ピュリッツァー賞受賞作家バズ・ビッシンジャーが「Vanity Fair」誌に寄稿したスティーブン・グラスの記事捏造事件の記事をもとにトム・クルーズが製作総指揮にあたった「真実探求」の問題作。
(GTF トーキョーシネマショー パンレットよりほぼ引用)

監督・脚本:ビリー・レイ
原案:バズ・ビッシンジャー(ピュリッツァー賞受賞作家)
製作総指揮:トム・クルーズ
出演:ヘイデン・クリステンセン、ピーター・サースガード、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ザーン、ハンク・アザリア、メラニー・リンスキー、ロザリオ・ドーソン
 
社会派系の作品が大好きで、マスコミの報道や発信する情報に対しては常に懐疑的なスタンスをとりながらも、孤高なマスコミの存在を期待するわたしに取って、本作「ニュースの天才」は、大変面白く大変素晴らしい作品だった。

本作「ニュースの天才」の構成は、「THE NEW REPUBLIC」誌の編集室であがくスティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン)と、母校で講演を行うグラスを交互に描くことにより、学生の前で得意げに講演するグラスと、墓穴を掘り首までずっぽりはまってしまっているグラスのギャップが非常に面白い。

余談だが、グラスがあがく様は、ケヴィン・コスナーの「追いつめられて」にも匹敵するかも知れない。

自信に溢れ魅力的なグラスと、落ちぶれて藁にもすがる情けないグラス。
その両方のグラスをヘイデン・クリステンセンは見事に演じている。
「海辺の家」はともかく、「スター・ウォーズ エピソードII クローンの攻撃」でヘイデン・クリステンセンが見せる、口を半分開けたニヤニヤ笑いはなりをひそめ、グラスの両極端な側面を見事に演じ分けている。
本作はもしかするとヘイデン・クリステンセンの今後のキャリアの足がかりになるのではないだろうか、とも思うのだ。

そして前述のように、情けないグラスは、もう最高(最低)に情けなく、言うなればヘイデン・クリステンセンは、ダメ男を見事に演じ切っている、と言う訳なのだ。

最近では「トロイ」でダメ男を見事に演じたオーランド・ブルームがいたが、ヘイデン・クリステンセンのスティーブン・グラスは本当に見事な最高(最低)のダメ男なのだ。

観客がイライラするほど、もういいかげんにしろよ、もうあきらめろよ、と思うほど情けないのだ。

また興味深かったのは、「THE NEW REPUBLIC」誌の前編集長マイケル・ケリー(ハンク・アザリア)と、現編集長チャールズ・”チャック”・レーン(ピーター・サースガード)の編集長としてのスタンスの違い、上司としての部下への対応の違いである。

ケリーは、表で、部下に見えるように部下を守っていた訳だが、チャックは表では部下を厳しく叱責する一方、裏で、部下に見られないように、部下を守っていた訳だ。

どちらが上司として理想的かは諸説あるだろうが、自分の上司や部下に置き換え、その辺をみても面白いと思った。

そういった環境下で、「THE NEW REPUBLIC」誌の編集者たちは、前編集長の人柄に惹かれ、現編集長を否定する、というスタンスを取っているのが面白い。

そして、そんな状況の中、物語の後半は、チャックとグラスの二人芝居の様相を呈するのだが、そんな彼等の演技合戦も楽しい。
特にチャックの怒りのシークエンスが素晴らしい。

そして、その演技合戦に絡むクロエ・セヴィニー(ケイトリン役)も良い味を出している、グラスに同情し目が曇るが・・・・、というところが本当に格好良いのだ。

また、グラスを追いつめる「Forbes Digital Tool」の記者アダム・ベネンバーグ(スティーヴ・ザーン)とアダムの同僚アンディ・フォックス(ロザリオ・ドーソン)のコンビも面白い。
特に、アンディの、記事捏造の告発記事に自分の名前も入れてくれ、というあたりが面白いし、恐ろしくもある。

しかし、なんと言っても、前述のように正義感溢れる「THE NEW REPUBLIC」誌の現編集長チャックを演じたピーター・サースガードが素晴らしい。役柄事態も素晴らしいのだが、編集者に嫌われ、誌の行末に苦悩する孤高な編集長を見事に表現しているのだ。

そして、わたしは前述のように、マスコミに対し懐疑的なスタンスをとっている訳だが、マスコミに完全に失望している訳ではなく、チャックの真摯で孤高な生き様に感涙なのだ。
そして、ケイトリンをはじめとした「THE NEW REPUBLIC」誌の編集者たちの生き様にも感涙なのだ。

マスコミも捨てた物ではないのだね。

本作「ニュースの天才」は、「カンバセーション…盗聴…」や「大統領の陰謀」あたりと比較しても面白いかも知れない。

とにかく、マスコミに対して何らかの意見を持っている人には是非オススメだし、マスコミを目指す人、マスコミで働いている人にも是非観ていただきたい作品なのだ。

余談だが、製作総指揮のトム・クルーズのパロディも面白かった。

本作「ニュースの天才」は、イラクの取材中の事故で亡くなったマイケル・ケリーに捧げられている。
 
 
☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
 
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