「ミスティック・リバー」と「華氏911」を考える
2004年8月22日 映画
クリント・イーストウッドと言う俳優がいる。
強いアメリカの象徴的なヒーローを演じ続けてきた俳優である。
彼のキャリアは低予算のホラーやコメディ映画デスタートしたのだが、1959年からスタートしたテレビ・シリーズ「ローハイド」で人気に火がつき、1964年イタリアに招かれて主演した「荒野の用心棒」で一気にスターダムに登り、それ以降しばらくはマカロニ・ウエスタンでヒーロー(アウトロー)を演じ、1972年の「ダーティハリー」では人気は不動のものになり、不透明な時代の中で一本筋が通った無骨で食えない、オールド・アメリカ気質を体現するヒーローやアウトローを一貫して演じると共に、1971年の「恐怖のメロディ」以降は、社会派的観点を持つ様々な映画の監督や製作に携わっている。
1992年の「許されざる者」ではアカデミー賞監督賞を受賞、2003年の「ミスティック・リバー」ではアカデミー賞監督賞にノミネート等、最近は俳優と言うより監督として評価が高い。
また音楽(ジャズ)にも造形が深く、ジャズを題材とした作品も数多く手がけている。
さて「ミスティック・リバー」であるが、とりあえずこちらを読んでいただきたい。
http://diarynote.jp/d/29346/20040613.html
「ミスティック・リバー」を考える上で避けて通れないのは、3人の主要キャラクターや映画の中で起きる事件が何のメタファーなのか、と言う点である。
これらを考えないと、「ミスティック・リバー」は、少年時代の3人の友人のうちの、ひとりが娘を殺害され、ひとりが捜査し、ひとりが容疑者となる、という背景を持つ、平凡なクライム・サスペンスに成り下がってしまうのだ。
しかし、描かれた事件と登場人物が暗喩している事柄を明確にすると、「ミスティック・リバー」は凄い作品に姿を変えてしまうのだ。
※以下、私見です。ネタバレもあります。
ご自身で平衡感覚を失わずにお読みいただいた上で、「ミスティック・リバー」や「華氏911」についてお考えいただければ幸いです。
登場人物のメタファー
1.ジミー・マーカム(ショーン・ペン)
=アメリカ
2.ショーン・ディバイン(ケヴィン・ベーコン)
=国連
3.デイブ・ボイル(ティム・ロビンス)
=イラク
4.殺人犯
=911テロ実行犯/大量破壊兵器開発者
事件のメタファー
5.ケイティ・マーカム(エミー・ロッサム)殺人事件。
=911テロ/大量破壊兵器開発
6.ショーン・ディバインのケイティ殺人事件の捜査。
=国連の大量破壊兵器の捜索(核施設査察、生物化学兵器捜索)
7.デイブ・ボイルが殺人を犯す。
=イラク フセイン政権の独裁的恐怖政治
8.デイブ・ボイル殺人事件。
=国連を無視したアメリカのイラク侵攻
9.ジミー・マーカムを見逃すショーン・ディバイン。
=アメリカを告発できない国連
いかがであろうか、「ミスティック・リバー」の物語が明確に見えてきたであろうか。
わたしの目には「ミスティック・リバー」の物語は、脳内で次のように変換されて見えた訳なのだ。
娘の殺人事件(911テロ/大量破壊兵器開発)で怒り心頭のジミー(アメリカ)は、ショーン(国連)の煮え切らない捜査(大量破壊兵器捜索等)に、自ら娘の殺人事件(911テロ/大量破壊兵器開発)の捜査を開始する。
ショーン(国連)はデイブ(イラク)を参考人として一旦は取調べ(大破壊兵器捜索等)を行うが、決定的な証拠が無く(イラクに大量破壊兵器が存在する証拠は無い)、捜査の対象から外す。
一方ジミー(アメリカ)はショーン(国連)の決定(イラクに大量破壊兵器が存在する証拠は無い)に納得せず、自らデイブ(イラク)を取り調べ、予断の上(自らのシナリオ通りに)娘を殺した犯人だと確信(イラクに大量破壊兵器が存在する)する。
また、デイブ(イラク)は過去の忌まわしい事件から、変質者を殺害(イラク フセイン政権の独裁的恐怖政治)してしまう。
※ もしかしたらデイブ(イラク)は、継続的に変質者を殺害(フセイン政権の恐怖政治)し続けていたのかもしれない。
ジミー(アメリカ)は自らの確信(イラクに大量破壊兵器が存在する)を信じ、デイブを殺害(国連を無視したアメリカのイラク侵攻)してしまう。
ショーン(国連)はジミー(アメリカ)がデイブ(イラク)を殺害(イラク侵攻)した事を知っているが、告発できない。
娘の殺人事件(911テロ/大量破壊兵器開発)はデイブ(イラク)とは一切関係が無かった。
いかがであろう、こう考えると「ミスティック・リバー」は「華氏911」と同じような政治的、思想的バックボーンの下にアメリカの恥部をえぐり白日の下に曝し出すべく製作された映画だったのではないだろうか。
そして、気になるのは二本の映画の対照的な待遇である。
「ミスティック・リバー」は、アメリカ国内で拡大ロードショー公開された上に、多くの賞を受賞する一方「華氏911」はアメリカ国内での配給で大もめ、公開された後もマスコミに叩かれ続けている、という点も興味深く思えるのだ。
そしてアメリカの孤高なヒーロー像の象徴でもあるクリント・イーストウッドが、このようなアメリカをある意味批判する作品を製作した事も興味深い。
もしかすると、イーストウッドは古き良きフロンティア・スピリット溢れるオールド・アメリカを懐かしみ、現代のアメリカに憂慮しているのかも知れない。
「華氏911」
http://diarynote.jp/d/29346/20040816.html
「独裁者」と「華氏911」を考える
http://diarynote.jp/d/29346/20040819.html
「ミスティック・リバー」と「華氏911」を考える
http://diarynote.jp/d/29346/20040822.html
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強いアメリカの象徴的なヒーローを演じ続けてきた俳優である。
彼のキャリアは低予算のホラーやコメディ映画デスタートしたのだが、1959年からスタートしたテレビ・シリーズ「ローハイド」で人気に火がつき、1964年イタリアに招かれて主演した「荒野の用心棒」で一気にスターダムに登り、それ以降しばらくはマカロニ・ウエスタンでヒーロー(アウトロー)を演じ、1972年の「ダーティハリー」では人気は不動のものになり、不透明な時代の中で一本筋が通った無骨で食えない、オールド・アメリカ気質を体現するヒーローやアウトローを一貫して演じると共に、1971年の「恐怖のメロディ」以降は、社会派的観点を持つ様々な映画の監督や製作に携わっている。
1992年の「許されざる者」ではアカデミー賞監督賞を受賞、2003年の「ミスティック・リバー」ではアカデミー賞監督賞にノミネート等、最近は俳優と言うより監督として評価が高い。
また音楽(ジャズ)にも造形が深く、ジャズを題材とした作品も数多く手がけている。
さて「ミスティック・リバー」であるが、とりあえずこちらを読んでいただきたい。
http://diarynote.jp/d/29346/20040613.html
「ミスティック・リバー」を考える上で避けて通れないのは、3人の主要キャラクターや映画の中で起きる事件が何のメタファーなのか、と言う点である。
これらを考えないと、「ミスティック・リバー」は、少年時代の3人の友人のうちの、ひとりが娘を殺害され、ひとりが捜査し、ひとりが容疑者となる、という背景を持つ、平凡なクライム・サスペンスに成り下がってしまうのだ。
しかし、描かれた事件と登場人物が暗喩している事柄を明確にすると、「ミスティック・リバー」は凄い作品に姿を変えてしまうのだ。
※以下、私見です。ネタバレもあります。
ご自身で平衡感覚を失わずにお読みいただいた上で、「ミスティック・リバー」や「華氏911」についてお考えいただければ幸いです。
登場人物のメタファー
1.ジミー・マーカム(ショーン・ペン)
=アメリカ
2.ショーン・ディバイン(ケヴィン・ベーコン)
=国連
3.デイブ・ボイル(ティム・ロビンス)
=イラク
4.殺人犯
=911テロ実行犯/大量破壊兵器開発者
事件のメタファー
5.ケイティ・マーカム(エミー・ロッサム)殺人事件。
=911テロ/大量破壊兵器開発
6.ショーン・ディバインのケイティ殺人事件の捜査。
=国連の大量破壊兵器の捜索(核施設査察、生物化学兵器捜索)
7.デイブ・ボイルが殺人を犯す。
=イラク フセイン政権の独裁的恐怖政治
8.デイブ・ボイル殺人事件。
=国連を無視したアメリカのイラク侵攻
9.ジミー・マーカムを見逃すショーン・ディバイン。
=アメリカを告発できない国連
いかがであろうか、「ミスティック・リバー」の物語が明確に見えてきたであろうか。
わたしの目には「ミスティック・リバー」の物語は、脳内で次のように変換されて見えた訳なのだ。
娘の殺人事件(911テロ/大量破壊兵器開発)で怒り心頭のジミー(アメリカ)は、ショーン(国連)の煮え切らない捜査(大量破壊兵器捜索等)に、自ら娘の殺人事件(911テロ/大量破壊兵器開発)の捜査を開始する。
ショーン(国連)はデイブ(イラク)を参考人として一旦は取調べ(大破壊兵器捜索等)を行うが、決定的な証拠が無く(イラクに大量破壊兵器が存在する証拠は無い)、捜査の対象から外す。
一方ジミー(アメリカ)はショーン(国連)の決定(イラクに大量破壊兵器が存在する証拠は無い)に納得せず、自らデイブ(イラク)を取り調べ、予断の上(自らのシナリオ通りに)娘を殺した犯人だと確信(イラクに大量破壊兵器が存在する)する。
また、デイブ(イラク)は過去の忌まわしい事件から、変質者を殺害(イラク フセイン政権の独裁的恐怖政治)してしまう。
※ もしかしたらデイブ(イラク)は、継続的に変質者を殺害(フセイン政権の恐怖政治)し続けていたのかもしれない。
ジミー(アメリカ)は自らの確信(イラクに大量破壊兵器が存在する)を信じ、デイブを殺害(国連を無視したアメリカのイラク侵攻)してしまう。
ショーン(国連)はジミー(アメリカ)がデイブ(イラク)を殺害(イラク侵攻)した事を知っているが、告発できない。
娘の殺人事件(911テロ/大量破壊兵器開発)はデイブ(イラク)とは一切関係が無かった。
いかがであろう、こう考えると「ミスティック・リバー」は「華氏911」と同じような政治的、思想的バックボーンの下にアメリカの恥部をえぐり白日の下に曝し出すべく製作された映画だったのではないだろうか。
そして、気になるのは二本の映画の対照的な待遇である。
「ミスティック・リバー」は、アメリカ国内で拡大ロードショー公開された上に、多くの賞を受賞する一方「華氏911」はアメリカ国内での配給で大もめ、公開された後もマスコミに叩かれ続けている、という点も興味深く思えるのだ。
そしてアメリカの孤高なヒーロー像の象徴でもあるクリント・イーストウッドが、このようなアメリカをある意味批判する作品を製作した事も興味深い。
もしかすると、イーストウッドは古き良きフロンティア・スピリット溢れるオールド・アメリカを懐かしみ、現代のアメリカに憂慮しているのかも知れない。
「華氏911」
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「独裁者」と「華氏911」を考える
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「ミスティック・リバー」と「華氏911」を考える
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