「スウィングガールズ」
2004年8月5日 映画
2004/08/04 東京霞ヶ関イイノホールで行われた「スウィングガールズ」の試写会に行ってきた。監督は「ウォーターボーイズ」の矢口史靖(ヤグチシノブ)。
舞台は東北の片田舎の高校。
夏休み返上で補習を受けている女子生徒たちが、サボりの口実としてビックバンドを始める。
当然のごとくやる気はゼロでサボる気満々。
しかし、楽器からすこしずつ音がでてくるにつれジャズの魅力にひきこまれ、ついには自分達だけでバンド結成を決意!
とはいえ楽器はないし、お金もない。バイトをすれば大失敗。
なんとか楽器を手に入れて、いざ練習!と思いきや、今度は練習場所もなく、ついにはバンド解散の危機!?
しかし、音楽への熱い思いがはちゃめちゃパワーとあいまって、紆余曲折を吹き飛ばし、感動のラストまで一直線!!
(オフィシャル・サイトより引用)
わたしは中学生時代に吹奏楽部に所属していた。
その吹奏楽部の経験から譜面や音楽理論を覚え、ギターやキーボードの演奏に派生し、ステージは勿論、デモテープを作ったり、DTMを行ったり、といった音楽経験をわたしは持っている。わたしはそんな中で「スウィングガールズ」を観た訳である。
本作「スウィングガールズ」の第一印象は、音楽を題材にした平凡な青春映画である。と言うもの。
つまらない訳ではないし、そこそこ面白いし笑える。また後半部分のライヴ・シーンには感動や興奮すらする。
しかし、なんだか退屈で盛り上がりに欠けるのである。
これは本来描くべき音楽シーンが少ないことに拠るのかも知れないし、単純明快で捻りの無い脚本に拠るものなのかも知れない。
何故か本作「スウィングガールズ」は、バンド結成のための資金集めから楽器調達といった枝葉部分を丹念に描く事に重点を置き、肝心要の楽器演奏シーンが少ない、と言う本末転倒的な作品構成を持っているのだ。
勿論、音楽初心者が苦労して資金を集め楽器を調達しバンドを結成するまでの紆余曲折は、一見キャッチーだし身近で面白い題材なんだろうとは思うのだが、そういった部分より、楽器に手を触れ、音が出て、演奏が楽しくなり、メンバーと曲を合わせていく喜びが感じられ、演奏スキルが向上、メンバーとの一体感が生まれ演奏が板につく、という登場人物の成長を描く部分に本来は多くの尺を割くべきだったのではなかろうか、と思うのである。
事実、楽器スキルの向上の演出が希薄である為、5人編成のバンドから17人編成のビッグ・バンドになるシークエンスは、本来ならば観客を感動させるシークエンスであるべきなのだが、練習もしていない、譜面も知らないはずのメンバーがライヴに突然乱入する、という脚本にはリアリティが無く、ともすれば楽器の演奏なんて簡単なんだ、という印象さえ観客に与えかねないものになっている。
下手をすると、後半部分の演奏シーンの感動を減衰する方向性さえ感じられるのだ。
また楽器の取扱いに対する無神経さも気になった。
楽器は演奏家にとってどういう存在なのかを、少しは考えた上で演出して欲しいと思ったのだ。
これは、冒頭部分の楽器をオモチャにするシーンに顕著なのだが、スライドを落すのはお約束だが、トランペットでシャボン玉を作り始めるのにいたっては、エスカレートしすぎたお粗末なギャグにはリアリティのかけらすら無いし、勿論面白くも無いし、楽器を演奏している人達にとって、非常に不愉快なシーンに仕上がっている、と言わざるを得ないのだ。
ところで、キャストだが、主演は「ジョゼと虎と魚たち」でジョゼに意地悪をした女子大生を演じた上野樹里(鈴木友子/テナーサックス)が田舎の純朴な女子高生を好演している。
余談だが上野樹里のスカートやセーラー服の丈が微妙であった。
上野樹里ではピンで客を呼べるほどの格はまだまだ感じられないが、今後が楽しみな女優の一人である。残念ながらイメージ的には竹内結子とかぶるので、なんらかの転機が必要だと思う。
唯一の男性メンバー平岡祐太(中村拓雄/ピアノ)は、もう少し一本通った所を見せて欲しかった。
お金持ちのぼんぼんの役、ということもあるのだが、もう少し格好良いところを見せて欲しかった。
貫地谷しほり(斉藤良江/トランペット)、本仮屋ユイカ(関口香織/トロンボーン)、豊島由佳梨(田中直美/ドラム)等はオーディションで出てきたらしいのだが、非常に存在感があり、若手の名脇役として今後に期待が持てるし、下手をすると映画やテレビに引っ張りだこになるのではないか、とさえも思った。
貫地谷しほりと本仮屋ユイカはそれぞれ2〜3作目のようだが、豊島由佳梨は演技初体験なのだが、自然で落ち着いた、周りを食ってしまう演技に好感と期待が持てた。
余談だが、それと比較すると、キャリアがあるはずの上野樹里のファーストカットはあくびをするカットだったのだが、演技丸出しの不自然なあくびには辟易した。中盤付近のくしゃみの演技もイマイチだったことを考えると上野樹里は生理現象の演技は苦手なのかもしれない。
さて、竹中直人であるが、コメディ作品に登場する竹中の演技スタイルには既に飽きがきている事を自覚し、現行の演技スタイルからの脱却を図って欲しいし、または他の俳優との入れ替えも考えていい時期だと思う。
白石美帆は当初思っていたより大きな役で、登場シーンも多かった。つかみ所の無いキャラクターを好演している。
脚本は前述のように単純明快で捻りも無いのだが、演出は面白い。
例えば、バンド結成のための資金調達のエピソード中の「松茸狩から猪退治」へのシークエンスは秀逸である。
特にショットガン撮影を模した猪退治のシーンは、使用されている楽曲"What A Wounderful World"と相まって素晴らしい効果を出している。
また、冒頭の「弁当運び」のシークエンスや、「学校の屋上のビデオ撮影からの雪合戦」等ロケーション効果を生かした画面と演出が印象的である。
また、なんと言ってもラストの演奏シーンだが、「チューニングから演奏開始」あたりも印象的である。
そして驚くべき事は何と言っても、本編で使われている音は全て自分たちの演奏である、という点だろう。
音を出すだけで大変な管楽器を、少なくても観客を感動させるレベルまで習熟している点、演奏だけではなく、スタンドプレイまでこなせるレベルまで達している点に驚きなのだ。
また、映画のプロモーションの一環としてだが「スウィングガールズ」としてライヴ演奏するイベントまで行ってしまうところに驚きを禁じえない。
これはつまりワンカットずつの演奏ではなく、楽曲を通して演奏できるスキルを持っている、という事なのである。
勿論譜面が読めるのか、暗譜しているかわからないが、どちらにしても凄い。こいつら凄すぎなのだ。
しかし逆説的に言うと、楽器に初めて触れるシークエンスあたりが様になりすぎている、という弱点もあるのだが・・・・。
これはアラン・パーカーの「ザ・コミットメンツ」あたりも俳優たちが自分たちで演奏しているのだが、ライヴ感やリアリティのため、非常に素晴らしい事である。
楽器経験者としては、多分非常に楽しい撮影だったのではないかな、と思うのだ。
結果的には、音楽好きの人や楽器を演奏しているような人ではなく、音楽に関心が無い、または楽器を演奏した事の無い人にぜひともオススメの作品なのかもしれないのだ。
音楽をやっている人は激怒かも。
☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
■人気blogランキング
当blog「徒然雑草」は「人気blogランキング」に登録しています。
参考になったらクリック!http://blog.with2.net/link.php/29604
舞台は東北の片田舎の高校。
夏休み返上で補習を受けている女子生徒たちが、サボりの口実としてビックバンドを始める。
当然のごとくやる気はゼロでサボる気満々。
しかし、楽器からすこしずつ音がでてくるにつれジャズの魅力にひきこまれ、ついには自分達だけでバンド結成を決意!
とはいえ楽器はないし、お金もない。バイトをすれば大失敗。
なんとか楽器を手に入れて、いざ練習!と思いきや、今度は練習場所もなく、ついにはバンド解散の危機!?
しかし、音楽への熱い思いがはちゃめちゃパワーとあいまって、紆余曲折を吹き飛ばし、感動のラストまで一直線!!
(オフィシャル・サイトより引用)
わたしは中学生時代に吹奏楽部に所属していた。
その吹奏楽部の経験から譜面や音楽理論を覚え、ギターやキーボードの演奏に派生し、ステージは勿論、デモテープを作ったり、DTMを行ったり、といった音楽経験をわたしは持っている。わたしはそんな中で「スウィングガールズ」を観た訳である。
本作「スウィングガールズ」の第一印象は、音楽を題材にした平凡な青春映画である。と言うもの。
つまらない訳ではないし、そこそこ面白いし笑える。また後半部分のライヴ・シーンには感動や興奮すらする。
しかし、なんだか退屈で盛り上がりに欠けるのである。
これは本来描くべき音楽シーンが少ないことに拠るのかも知れないし、単純明快で捻りの無い脚本に拠るものなのかも知れない。
何故か本作「スウィングガールズ」は、バンド結成のための資金集めから楽器調達といった枝葉部分を丹念に描く事に重点を置き、肝心要の楽器演奏シーンが少ない、と言う本末転倒的な作品構成を持っているのだ。
勿論、音楽初心者が苦労して資金を集め楽器を調達しバンドを結成するまでの紆余曲折は、一見キャッチーだし身近で面白い題材なんだろうとは思うのだが、そういった部分より、楽器に手を触れ、音が出て、演奏が楽しくなり、メンバーと曲を合わせていく喜びが感じられ、演奏スキルが向上、メンバーとの一体感が生まれ演奏が板につく、という登場人物の成長を描く部分に本来は多くの尺を割くべきだったのではなかろうか、と思うのである。
事実、楽器スキルの向上の演出が希薄である為、5人編成のバンドから17人編成のビッグ・バンドになるシークエンスは、本来ならば観客を感動させるシークエンスであるべきなのだが、練習もしていない、譜面も知らないはずのメンバーがライヴに突然乱入する、という脚本にはリアリティが無く、ともすれば楽器の演奏なんて簡単なんだ、という印象さえ観客に与えかねないものになっている。
下手をすると、後半部分の演奏シーンの感動を減衰する方向性さえ感じられるのだ。
また楽器の取扱いに対する無神経さも気になった。
楽器は演奏家にとってどういう存在なのかを、少しは考えた上で演出して欲しいと思ったのだ。
これは、冒頭部分の楽器をオモチャにするシーンに顕著なのだが、スライドを落すのはお約束だが、トランペットでシャボン玉を作り始めるのにいたっては、エスカレートしすぎたお粗末なギャグにはリアリティのかけらすら無いし、勿論面白くも無いし、楽器を演奏している人達にとって、非常に不愉快なシーンに仕上がっている、と言わざるを得ないのだ。
ところで、キャストだが、主演は「ジョゼと虎と魚たち」でジョゼに意地悪をした女子大生を演じた上野樹里(鈴木友子/テナーサックス)が田舎の純朴な女子高生を好演している。
余談だが上野樹里のスカートやセーラー服の丈が微妙であった。
上野樹里ではピンで客を呼べるほどの格はまだまだ感じられないが、今後が楽しみな女優の一人である。残念ながらイメージ的には竹内結子とかぶるので、なんらかの転機が必要だと思う。
唯一の男性メンバー平岡祐太(中村拓雄/ピアノ)は、もう少し一本通った所を見せて欲しかった。
お金持ちのぼんぼんの役、ということもあるのだが、もう少し格好良いところを見せて欲しかった。
貫地谷しほり(斉藤良江/トランペット)、本仮屋ユイカ(関口香織/トロンボーン)、豊島由佳梨(田中直美/ドラム)等はオーディションで出てきたらしいのだが、非常に存在感があり、若手の名脇役として今後に期待が持てるし、下手をすると映画やテレビに引っ張りだこになるのではないか、とさえも思った。
貫地谷しほりと本仮屋ユイカはそれぞれ2〜3作目のようだが、豊島由佳梨は演技初体験なのだが、自然で落ち着いた、周りを食ってしまう演技に好感と期待が持てた。
余談だが、それと比較すると、キャリアがあるはずの上野樹里のファーストカットはあくびをするカットだったのだが、演技丸出しの不自然なあくびには辟易した。中盤付近のくしゃみの演技もイマイチだったことを考えると上野樹里は生理現象の演技は苦手なのかもしれない。
さて、竹中直人であるが、コメディ作品に登場する竹中の演技スタイルには既に飽きがきている事を自覚し、現行の演技スタイルからの脱却を図って欲しいし、または他の俳優との入れ替えも考えていい時期だと思う。
白石美帆は当初思っていたより大きな役で、登場シーンも多かった。つかみ所の無いキャラクターを好演している。
脚本は前述のように単純明快で捻りも無いのだが、演出は面白い。
例えば、バンド結成のための資金調達のエピソード中の「松茸狩から猪退治」へのシークエンスは秀逸である。
特にショットガン撮影を模した猪退治のシーンは、使用されている楽曲"What A Wounderful World"と相まって素晴らしい効果を出している。
また、冒頭の「弁当運び」のシークエンスや、「学校の屋上のビデオ撮影からの雪合戦」等ロケーション効果を生かした画面と演出が印象的である。
また、なんと言ってもラストの演奏シーンだが、「チューニングから演奏開始」あたりも印象的である。
そして驚くべき事は何と言っても、本編で使われている音は全て自分たちの演奏である、という点だろう。
音を出すだけで大変な管楽器を、少なくても観客を感動させるレベルまで習熟している点、演奏だけではなく、スタンドプレイまでこなせるレベルまで達している点に驚きなのだ。
また、映画のプロモーションの一環としてだが「スウィングガールズ」としてライヴ演奏するイベントまで行ってしまうところに驚きを禁じえない。
これはつまりワンカットずつの演奏ではなく、楽曲を通して演奏できるスキルを持っている、という事なのである。
勿論譜面が読めるのか、暗譜しているかわからないが、どちらにしても凄い。こいつら凄すぎなのだ。
しかし逆説的に言うと、楽器に初めて触れるシークエンスあたりが様になりすぎている、という弱点もあるのだが・・・・。
これはアラン・パーカーの「ザ・コミットメンツ」あたりも俳優たちが自分たちで演奏しているのだが、ライヴ感やリアリティのため、非常に素晴らしい事である。
楽器経験者としては、多分非常に楽しい撮影だったのではないかな、と思うのだ。
結果的には、音楽好きの人や楽器を演奏しているような人ではなく、音楽に関心が無い、または楽器を演奏した事の無い人にぜひともオススメの作品なのかもしれないのだ。
音楽をやっている人は激怒かも。
☆☆☆ (☆=1.0 ★=0.5 MAX=5.0)
■人気blogランキング
当blog「徒然雑草」は「人気blogランキング」に登録しています。
参考になったらクリック!http://blog.with2.net/link.php/29604
コメント