2004/06/01、東京千代田区「科学技術館サイエンスホール」で行われた「天国の本屋〜恋火」の試写会に行って来た。

完成しなかったピアノ組曲・・・。
2度と上がらなくなった「恋する花火」・・・。
地上と天国が出逢うとき、
結ばれなかった恋人たちに、奇跡がおこる。

自己中心的で協調性がないピアニスト健太(玉山鉄二)は、バイト先の管弦楽団から解雇を言い渡され、ヤケ酒で酔いつぶれてしまう。
目覚めた健太はたくさんの本が並ぶ見知らぬ部屋にいた。そこはヤマキ(原田芳雄)が店長を務める天国にある本屋だという。
健太は死んだ訳でもないのに、天国に連れて来られ、そのヤマキが店長を務める本屋で短期アルバイトをさせられることになってしまったのだ。

ヤマキ曰く、人間の寿命は100年に設定されており、地上で20年生きれば、天国で80年生き、地上で70年生きれば、天国で30年過ごす事になっている、と言うのだ。
そして地上と天国で合計100年経過したら、再び地上に輪廻する、ということらしいのだ。

「天国の本屋」で、健太は翔子(竹内結子/二役)という名の、若くして亡くなった元ピアニストの女性と出会う。翔子は健太が幼い頃に憧れ、ピアニストを志す動機を与えた女性だった。

一方地上では、その翔子の姪香夏子(竹内結子/二役)が伝説の「恋する花火」を復活させようと、長らく途絶えていた地元商店街の花火大会の再開に向け、青年団の幹事として奔走していた。

まず、物語の前提として、天国の設定が興味深い。

1.前述の通り、100年の寿命を地上と天国でシェアしている。
2.天国での外見は、地上で死んだ当時のまま。
3.天国では、地上で親しかった人と会えない。

うがった見方をすると、物語を語る上で、天国で起きると思われる様々な問題をクリアするべく作られた、神の視点を持ったルールのような気がする。

ところで、本作は「天国の本屋」を舞台にした連作小説のうち2作を原作にしているらしく、本作では大きく2つの物語が語られているのだ。

ひとつは、弟を殺してしまったと、思い込んでいる姉の物語で、
もうひとつは、「恋する花火」の花火職人瀧本(香川照之)と、その恋人だった今は亡きピアニスト翔子(竹内結子/二役)、「恋する花火」を復活させたい翔子の姪の香夏子(竹内結子/二役)と、翔子にあこがれてピアニストになった健太(玉山鉄二)が織りなす比較的複雑で、予定調和的な美しい物語である。

因みに「恋する花火」とは「それをみた二人は永遠に結ばれる」と言い伝えられている伝説の花火である。

物語の本筋は勿論後者のピアニストと「恋する花火」をめぐる物語なのであるが、その物語は、神の意思が感じられる予定調和的な物語を、音楽と花火をモチーフに描いている。
大げさに言うと、壮大な伏線が結果的にカチリと決まる種類の脚本で、いくつかの大きな伏線を生かした物語だといえよう。

音楽については、翔子が生前「恋する花火」を見ながら書いていたピアノ曲が良かった。
また、天国で翔子が健太と一緒に作曲をするのだが、その場面の中で、音楽好きの誰もがうなずくシークエンスがひとつあった。
また、ラスト近辺でピアノの音が連弾になっているところも感動的である、と言えよう。

しかし本作の第一印象は、竹内結子効果か「黄泉がえり」の二匹目の泥鰌を狙ったのではないかと勘ぐってしまうような、印象を受けた。

特に、「黄泉がえり」と似通っていると思ったのは、中盤付近の香夏子(竹内結子)と元花火職人の瀧本(香川照之)との画面はロングで長回しによるビンタの応酬、とラスト近辺の花火大会会場の人ごみの中を人を探して駆ける香夏子(竹内結子)。
「黄泉がえり」の映画的記憶を利用した演出がされていたような気がした。

作風は、部分的になんだか編集がきちんと出来ていないような印象を受けた、と言うか編集を前提とした撮影ではなく、中途半端な長回しで、行ける所まで行こう的演技を俳優にさせているような印象を受けた。
そのため、カメラが被写体を微妙に追い、ふらふらした画面が、自主制作映画のような稚拙な撮影と編集を感じさせる。
また俳優のひとつの演技をひとつのカットで表現しようとしていたのかとも思った。
勿論重要なシークエンスではきちんと編集されているのだが、所謂セカンド・ユニットが撮影しているような部分は、前述のような撮影と編集に問題があるような印象を受けた。

例えば相米慎二の長回しのような緊張感や緊迫感が画面から伝わる事も無く、中途半端な長回しのため、間が持たない演技を見せられているような気がした。
間が持たないのなら、細かいカット割で誤魔化した方が、観客に対して良い印象を与えられるのではないだろうか。

キャストについては、なんと言っても、「恋する花火」の花火職人瀧本を演じた香川照之だろう。
過去の出来事を機に自堕落な隠遁生活をおくっている姿が痛々しく、美しい。

脚本は都合が良く、ツッコミどころ満載であるが、まあ、細かいところに目をつぶれば、一般大衆に受け入れられるような普遍的で神話的な物語を現代日本風にアレンジした感動的な物語だと言えると思う。

圧倒的な感動は無いが、ちらっと泣きたい人には、ちょっとオススメの映画かも知れない。
音楽の力が感じられる映画でもある。

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tkr

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