「21グラム」

2004年5月23日 映画
2004/05/21、奇しくも21日、新橋ヤクルトホールで行われた「21グラム」の試写会に行ってきた。
何かと話題の「21グラム」である。

このままでは余命1ケ月だと診断され、心臓移植のドナーを待ち続ける大学教授のポール(ショーン・ペン)。
余命幾許も無い事を知った別居中の妻は、彼が死ぬ前に人工授精を試み、彼の子供が欲しいと提案する。

若い頃からヤクザな生活をしていた前科者のジャック(ベニチオ・デル・トロ)。
今は改心し信仰に篤く、クジで当たったピックアップトラックも神からの授かり物と信じ、貧しくも懸命に働きながら妻と2人の子供を養っている。

かつてドラッグに溺れていたクリスティーナ(ナオミ・ワッツ)。
現在は、ドラッグの依存症もおさまり、夫と2人の娘と共に幸せに暮らしていた。

そんな出会うはずのない3人の運命は、ある事故をきっかけに交わり、思いもよらぬ結末へと導かれていくのだった・・・・。

『人は死んだ時「21グラム」だけ軽くなる』という話をモチーフに、ひとつの心臓と3人の人間模様を織りなす、ヒューマン・ドラマに端を発する物語である。

しかしながら、本作「21グラム」の表現手法(ここでは編集)がトリッキーで、時間軸の分解・再構築と、舞台の転換が著しく、一般のわかりやすい娯楽作品に慣れている方には、ちょっと難しい作品かも知れない。

もしかすると本作は、「メメント」や「Re:プレイ」、「アイデンティティー」、そして「ロスト・ハイウェイ」、「マルホランド・ドライブ」等の一連のデヴィッド・リンチ作品に面白みを感じる人向きの作品かも知れない。

と言っても本作は、デヴィッド・リンチ作品のように特別難解な映画と言う訳ではなく、前述のように時間軸の分解・再構成、舞台の転換が激しく、観客の記憶と、映像に登場する些細な観客に対するヒントを読み取り、この映像は時間軸的に何時の映像かを把握する必要がある、ということである。

因みに、編集は「トラフィック」、「オーシャンズ11」、「コンフェッション」等のスティーヴン・ミリオン。
同一画面構成で別のカットを繋ぐ、と言うようなスティーヴン・ソダーバーグの「トラフィック」などでも使用されている編集手法が本作でも効果的に使われている。

また、撮影は全体的に手持ちカメラ風に揺れ動き被写体を追ってカメラはふらふらする。また被写体を追う都合か、比較的長回しのカットを生かした編集がされている上に、粒子が粗い映像と相まって、物語に対するリアリティの付与に成功している。
色彩を抑えた映像は陰鬱な状況を醸し出している。

音響も素晴らしく、銃器の音や、事故の音等SEの効果は著しい。
音楽があまりかからないことも、その効果を高めているのではないだろうか。

キャストについてだが、、主役3人組は全く素晴らしい。

しかし、ショーン・ペンの演技については、計算しつくされた、詳細に振付けられたような演技、−−特に表情だが、−−にやりすぎ感が見えてしまうような気がする。

一時期、もう俳優はやらない、今後は制作サイドで頑張っていく宣言をしていたショーン・ペンだが、現在俳優としてのキャリアのピークを迎え絶好調状態なのだ。

その当時のショーン・ペン監督作品は「インディアン・ランナー」で、ベニチオ・デル・トロも出ているし、 あとは、デヴィッド・モース、ヴィゴ・モーテンセン、パトリシア・アークエット、チャールズ・ブロンソン、デニス・ホッパー等というとんでもないキャストの作品である。
まあ、俳優が監督をやると往々にしてキャストは凄い連中が集まるのだが。

「マルホランド・ドライブ」、「ザ・リング」の2本でいきなりスターダムにのし上がってきた感のあるナオミ・ワッツは、悲しい女性をそつなくこなしていた。
個人的には「マルホランド・ドライブ」で、ノックアウトされてしまい、その後「ザ・リング」でもやられてしまった訳で、今回も非常に期待していたのであるが、期待にたがわず良い仕事をしていた。好きな女優のひとりなのだ。

そしてなんと言ってもベニチオ・デル・トロである。
最近は「トロさま」と呼ばれ日本国内でも大人気のベニチオ・デル・トロであるが、ご多分に漏れず、わたしも好きな俳優の一人である。
今回の役どころは、ちょっとした汚れ役ではあるが、かつての放蕩時代から、後に信仰に目覚め、そして結局は信仰に裏切られてしまい、結果的には・・・・、というところを熱演している。
このデル・トロのキャラクターは、観客が一番素直に感情移入できる素晴らしいキャラクターだったのではないだろうか。
神の意思による予定調和が体現されているキャラクターなのだ。

前回の「21グラム」の試写会において、監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥとベニチオ・デル・トロの舞台挨拶があった訳だが、その際の舞台挨拶によると、デル・トロは非常にユーモラスでシャイでキュートな人間だった、ということである。
「トラフィック」のラストの球場の雰囲気だろうか。

本作「21グラム」は、2004年6月公開作品の中で、おそらく一番の目玉となる作品であろう。
内容はちよっと重いし、若干わかりづらい部分があるが、是非観ていただきたい素晴らしい作品なのだ。

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tkr

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