話題の「東京ゴッドファーザーズ」を観た。
はっきり言って傑作だった。

もし、この時期、アニメーション繋がりで、「ファインディング・ニモ」を観ようと思っているのならば、出来れば「東京ゴッドファーザーズ」を観ろ!なのだ。

何故かというと、どうせ「ファインディング・ニモ」クラスだったらDVDでまた観る事になるし、何度も観る機会は訪れると思う、それだったら、今後おそらく観る機会が乏しいと思われるこの「東京ゴッドファーザーズ」を劇場で観て欲しい、と思うのだ。

舞台は東京新宿。
自称元競輪選手のギンちゃん、元ドラッグ・クイーンのハナちゃん、家出少女のミユキのホームレス3人組は、クリスマスの夜、ゴミ置き場の中で赤ん坊を見つける。
ギンちゃんは、警察に届けるべきだと主張するが、赤ん坊を欲しがっていたオカマのハナちゃんは、赤ん坊に「清子」と勝手に命名する。
そして、3人は自分たちで清子の親探しをすることにする・・・・。

まず、美術(背景)が素晴らしい。
近年の所謂ジャパニメーションの特徴としては、背景の描き込みが常軌を逸している程凄い事が多々あるのだが、キャラクターをその背景に乗せてみるとなんとなく微妙な違和感を感じる事が多い。
背景やキャラクターの描き方としてはそれぞれ良い仕事をしているのだが、残念ながら背景とキャラクターの有機的な融合が果たされていないのだ。
もしかしたら背景やキャラクター等各部門の製作上のベクトルの統一が上手く行っていないのではないだろうか。
または色彩設定や、物理法則を踏まえていない動画の問題かもしれない。

しかし本作「東京ゴッドファーザーズ」は、実写と言って良いほどの写実的な背景と、時に写実的、時にマンガチックなキャラクターとの乖離が全くと言って言いほど感じられないのである。
本作「東京ゴッドファーザーズ」はある種、アニメーション作品の表現手法のひとつの完成形と言っても言いのではなかろうか。
そして、もうひとつ言えるのは、東京は美しい街なのかも知れない。ということである。

そしてレイアウト。
本作では、背景だけでもう美術作品となりうる質感を持っているのだ。
まるで東京の風景写真展の写真を背景にしているような印象を受ける。
例えばリドリー・スコットが現実世界から切り取る画のような美しい背景が全てのカットに存在しているのである。
何しろ街並みが美しく、一枚の画として感じられるのである。

余談だが、最近予告編をよく見る押井守の「イノセンス」も背景とキャラクター、CGIに違和感バリバリなのが興味深い。特にコンビニの商品が銃撃により飛び散る様が酷いですね。

その点スタジオジブリの作品は背景とキャラクターが見事に融和している。
ここは色彩設計がしっかりしているせいかもしれない。

そしてキャラクターである。
先ほどお話したように本作のキャラクターは写実的でありながら、従来のマンガ的な表現を共存させている。
そして彼等はセリフだけではなく、身体全体で演技をしているのだ。
その全身を使った演技を観るだけでも楽しいのである。
特に後半部分のハナちゃんの長台詞は、アニメ史上に残るワンカットなのかも知れない。
同時に、アニメの手法としてあたりまえのクチパク等の繰り返しが全くと言って良いほど無い作画も凄いのだ。時に冒頭付近の赤ちゃんの不規則な動きの再現も凄い。
その辺の動画や、声優達の演技合戦、そして脚本の冴えもあり、そんなキャラクター達が見事に魅力的に見えるのだ。

脚本は若干都合が良いとも言える。
しかしながら、そもそも本作は「ファンタジー映画」と割り切っているせいもあり、また偶然や奇跡を描く映画でもあるため、都合の良さはそれほど気にならない。
というか、宗教的なニュアンスから、ある意味予定調和的な普遍的な印象さえ観客に与えるのである。

何しろ本作「東京ゴッドファーザーズ」の最大のモチーフはタイトルも示しており、また冒頭のシークエンスでも明らかなように、イエス・キリストの誕生を発見した東方の3博士の物語なのであるから。


あと気になった点を何点か。

1.ギンちゃんの口の中には十字架がある。
  上下の真中の歯が無いので、口を軽く開くと十字架に見える。
  また、ラストの病院のロング・ショットの中央部分にも勿論十字架がある。

2.12/25
  タクシーのナンバープレートは「12−25」
  タクシー料金は「12,250円」
  廃屋で止まったデジタル時計は「12:25」
  転居先の住所は「1−2−25」


おまけ「パーフェクトブルー」
・1998年の1月頃だったか、渋谷で「大友克洋とデジタル展」みたいなタイトルの展覧会に行った。その際に、鳴り物入りで宣伝していたのが、この「パーフェクトブルー」と「スチーム・ボーイ」である。大友が絡んでいる。というだけで見たくなってしまう私だが、この映画を見るのに、1年程の時間を要してしまった。しかも、はじめて見るのにLDである。この映画を劇場で見なかったことを猛烈に後悔してしまう結果になった。
・内容は、アイドル・グループを卒業した主人公:未麻がその後、出演したサイコホラーもののテレビドラマの関係者に起こる連続殺人事件とストーカー行為。現実と虚構と幻想と妄想が入り混じる複雑な「入れ子構造」的な良質のサイコホラーである。一見すると複雑で不可解なストーリーであるが、オチを知ると全てがピタリとはまる素晴らしい脚本であった。若干齟齬はあるものの見事な脚本である。映像も大変素晴らしく、一体感があり、「鏡」的なものへのしつこい程の映り込みの描写や、幻想の描き方、幻想の現実への移行等の効果が素晴らしい。演出的にも非常に素晴らしい印象を受けた。
・日本映画の特徴として、例によって日本国内では特に話題にならなかったが、海外の様々なファンタスティック系の映画祭で高い評価を得た作品である。日本映画界が誇るサイコホラーの傑作であろう。
・「驚異的で、パワフルな作品だ。もし、アルフレッド・ヒッチコックがウォルト・ディズニーと共同で映画を作ったならば、きっとこのような作品ができただろう。」ロジャー・コーマン
・機会があったら是非見て欲しい映画である。言い忘れたがこの映画はアニメーション映画である。アニメーションが嫌いな人に是非見ていただきたいと感じた。全てが演出で作られるアニメーションという手法には無限の可能性があるのだ。
・アニメーションの語源となった「アニメート」という言葉には「命を与える」という意味がある。神でも無いのになんと凄いことだ。

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tkr

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